「ファーストキャリアは生まれた国と同じぐらい大切」と語る西久保博明さんのファーストキャリアは、意外にもファーストフード店のマネージャーだったそう。その後ITベンチャー企業でエンジニアとしての経験を積み、2014年からケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズで人事としてのキャリアを歩み始めた西久保さん。「人事1年目は型通りのことをただやっていただけだった」と当時を振り返る。学生の意見を取り入れながら現在の採用を作り上げるまでの過程、学生と向き合う上で心がけていることを伺った。
 
 

ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社 西久保博明

ファーストフード店のマネージャーとしてキャリアをスタートし、3年間店長として店舗の運営を行う。その後30名規模のITベンチャーにプログラマーとして入社。SE、事業部長、開発、営業などを幅広く務めた後、2008年にケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社にコンサルタントとして入社。6年間コンサルタントとして活躍、2014年から現職。

地元で就職…のはずが、入社2週間前に東京配属を言い渡される

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―西久保さんのキャリアはファーストフード店の店長からスタートされたと伺いました。そこに至るまでの経緯についてお教えいただけますか。
 
 
私は生まれも育ちも札幌だったので、多くの人がそうするように、社会人になってからも自分はずっと札幌にいるものだと思っていました。なので、学校から勧められたファーストフード店も、「地元で働ける」という理由だけで選びました。

ところが、入社の2週間前に首都圏で展開する別チェーンの店舗に行ってくれと言われ、かなりショックを受けました。
東京なんて自分には一生縁のないところだと思っていましたからね(苦笑)。

しかし直前で断ることもできなかったので、ダンボール2つで東京に行き、何店舗かでマネージャーを経験したのち、店長になりました。
 
 

ファーストキャリアは生まれた国と同じぐらい大事

 
 
その後ファーストフード店では3年間勤務したのですが、結果的にはオーナーシップを培うことができたいい経験だったと思います。
店長という役割を担っている以上、何かあれば自分がすべて責任を負わないといけないですし、人のせいにすることもできません。
人に与えてもらうのではなく、「自分ごととして考える」という癖を20代前半で身につけることができたことは、とてもありがたいことでした。

私の中でファーストキャリアは生まれた国と同じぐらい大事なもので、どこで働くかによってその後の価値観が大きく変わると思っています。
ファーストフード店で培ったオーナーシップという価値観が、まさに今の自分を作ってくれていると感じます。
 
 

20社以上から不採用になった転職活動

 
 
―その後、次のキャリアとして全く違う領域であるITベンチャーを選ばれたのは何故ですか。
 
 
将来の見通しが立っていなかったので、とにかく手に職をつけたかったんです。
特にITに興味があったというわけではありませんでしたが、この領域で手に職をつけることができれば将来安泰かもしれないと思ったんです。
 
しかしながら、当時はITスキルどころかパソコンも持っていなかったので、就職活動をしてもことごとく落とされました。
20社以上は不採用になりましたが、全くの未経験なのでまぁそんなものだろうと思っていました。

結局、あまりに受からないから「プログラミングが趣味です」と嘘をついて(笑)、30人規模のITベンチャーになんとかして内定をもらうことができ、プログラマーとして働き始めました。今でも私を雇ってくれたITベンチャーの社長には感謝しかありません。
 
 

相手にとっての価値を考え、自分の意見をオープンにぶつける

 
 
―全くの未経験からどのようにキャリアを積まれていったのですか。
 
 
入ってみてわかったのですが、とにかく人が辞めていく会社だったので、わからなくても自分がやるしかなかったんです(苦笑)。
プログラマーから半年でPMになったのも、先輩社員が辞めてしまったからです。

ITの知識も全くなかったので、最初は先輩社員が使っている専門用語も全くわかりませんでした。
「SQL(Structured Query Language)ってプロレス技ですか?」というレベルです(笑)。

それらを調べながら顧客のオーダーに対応し、怒られ、また調べて対応し…というのを繰り返しているうちに、だんだんシステム開発のことがわかるようになってきました。
3年目には事業部長になり、自分で作ったシステムパッケージを自分で売る、というようなこともできるようになりました。
 
この経験を通じて学んだことは、“自分の気持ちをオープンにすること”の大切さです。変なプライドを持たずに、わからないことはわからない、できないことはできないと言う。

逆にやったほうがいいと思うことがあれば、その場で提案する。自分の利益や保身に走らず、目の前にいる相手にとっての価値を考え、オープンに自分の意見をぶつける。

この考え方は、人事になった今でも大切にしていることです。社内はつねにカオスな状況でしたが、顧客やパートナー会社の人たちに恵まれた5年間でした。
 
 

「一番大変そう」だったからこそケンブリッジを選んだ

 
 
―その後、現職であるケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズに入られた経緯について教えてください。
 
 
5年間を通じてできることが増えてきたので、もっとハイレベルな環境に身を置き、キャリアの幅を広げたいと思ったことがきっかけです。
幼少期からそうなんですが、私は怠惰な人間なので、選択を迫られたときには大変な方をあえて選ぶようにしているんです。その方が一生懸命働くことができるので。
 
転職活動の結果、ありがたいことに10社以上から内定をいただき、その中でケンブリッジを選びました。
ケンブリッジを選んだ理由は、内定をいただいた会社の中で「一番大変そうだな」と思ったことと、「チームで働く」「オープンで働く」というケンブリッジの価値観と自分の価値観がぴったりフィットしたからです。
 
コンサルタントとして入社し、さまざまな顧客のプロジェクトにハンズオンで関わっていました。
顧客の未来を作るプロジェクトに携われることはとても楽しく、やりがいがありました。チームリーダーやPMを経験後、入社6年で人事に移りました。
 
 

退職の意思を伝えると、上司から思わぬ提案が

 
 
―人事に移ったのは西久保さんのご希望だったのですか。
 
 
いえ、当初人事という選択肢は考えていませんでした。当時2人目の子どもが生まれたばかりで、もっと家庭に時間を割きたいという理由から退職を検討していました。

それを上司に伝えたところ、「時間の制約がネックなのであれば、人事をやってみないか」と提案されました。
ケンブリッジという会社自体は好きだったので、それであればと引き受けることにしました。
 
 
―新卒採用担当になられて、どのような採用を行われていましたか。
 
 
私が異動したときにはすでにある程度の型ができていたので、最初はその通りにやっていました。
面接でも決められたことを聞くだけだったので、特に楽しいとも思いませんでした。

1年目はただ言われたことをやるだけでしたが、2年目に入って選考プロセスごとに受験者数、合格者数、辞退者数をファネルモデルに見える化してデータ検証を行うようになりました。

すると「不合格出しすぎ」「このチャネルはコストの割に学生が集まらない」など課題が浮き彫りになってきたので、改善のサイクルが回せるようになり、現在に至るまで少しずつ採用をより良いものに変えてきました。

このように言うと私がひとりで採用を変えていったように受け取られるかもしれませんが、そうではありません。
現在ケンブリッジが行なっている採用は、学生のアイデアから生まれたものがほとんどなんです。
 
 
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズで活用しているファネルモデルのイメージ

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「論文エントリー」のアイデアは、学生から生まれた

 
 
―どのようにして学生から採用のアイデアを募っているのですか。
 
 
ケンブリッジのサマーインターンでは、毎年「ケンブリッジの採用を見直し、提言せよ」という課題に取り組んでもらっています。
そうすると学生たちはまずケンブリッジのことを深く調べ、自分ごととして採用課題について考えてくれます。
 
学生の本分は学業であるはずなのに、就職活動によってそこに割く時間が減ることに疑問を感じ、論文を提出する代わりに採用フローを短くする「論文エントリー」という選考方法を提案してくれた学生もいました。これは実際ケンブリッジの選考手法として導入され、今でも有効な手法の一つとして活用しています。
 
昨年も学生の提案を受け、動画の作成や、学生が自由に会社に来られるパスを付与するなどのアイデアを取り入れようとしています。
我々にとっても価値がありますし、学生にも喜んでもらえるいい取り組みだと思っています。
 
 

不合格を伝えた学生からの「ありがとう」

 
 
―西久保さんが学生と向き合う上で意識していることはありますか。
 
 
ケンブリッジのコンサルティングの基本はファシリテーションなので、それは採用にも取り入れています。
その上で私が意識していることは、傾聴すること、深掘りすること、フィードバックすることです。

私は面接が終わると、その場で学生に合否を伝えます。目の前で不合格を伝えられるのは学生にとってもつらいですし、私も最初は難しさを感じました。

しかし、その理由をしっかりと伝えることで、採用を通じて学生に成長してもらいたいと思っているんです。
そのためには、学生の能力と採用要件の乖離を客観的に伝え、その乖離をなくすためには明日からどうすればいいのかというところまでセットで伝えることが大切です。

自分の主観に基づいて人間性を否定するようなフィードバックをしても、学生が自信をなくしてしまうだけなので。
不合格を伝えた学生から、「ありがとうございます」と言ってもらえることを目標にしています。
 
 

目標数字を達成するのは当たり前。その上で採用に自分の意志を込める

 
 
―採用における失敗談や悔しかったエピソードなどあれば教えてください。
 
 
人事になりたての頃は上司の意見や数字を気にするあまり、採用に自分の意志を込められていませんでした。
もっと自分の意志を貫いて採用すればよかった、と思う学生はたくさんいます。

人事をやっている以上、目標数字を達成するのは当たり前だと思っていますが、無理に取り繕うものでもないと思っています。

自分がいいと思う学生を採用したいのであれば、根拠や意志を明確に伝えられるように努力すべきですし、数字を求められるのであれば、それをクリアした上で自分が意志を込められる方法を模索するべきだと思います。
 
 
―西久保さんが今後のキャリアで挑戦していきたいことはなんですか。
 
 
実は私、人事というポジションを離れることになったんです。ある程度採用の素地は作れましたし、長い間やっていると属人化してきますから。

次はセールスになるのですが、40歳を過ぎて新たなミッションに挑戦できるのはありがたいことだなと思います。
どうしても好きなことや得意なことだけを軸にキャリアを選びがちですが、今は人生100年時代ですから。もっと自分の幅を広げていかないといけないですね。
 
 

「スーパー人事」になれなくてもいい。普通の人間として、学生に勇気を与えたい

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―最後に、これから採用に向き合う人へ伝えたいことは何ですか。
 
 
これは自戒の念も含めてお伝えするのですが、人事はもっと現場に入って勉強するべきだと思います。

現場を知らない人が人事をするのは、スポーツで選手経験のない人が監督をするのと同じぐらい無茶なことだと感じます。
口だけの論理ではなく、現場に入って手を動かし、汗をかく。会社でそれをやるのが難しいのであれば、ボランティアでもいいので参加してみるといいです。
 
あとは、世の中のスーパー人事を見て自信をなくさないことです。私も普通の人間で、スーパー人事ではありません。
たとえすごいことができなくても、面接の中で相手の勇気になるようなフィードバックができればいいと思っています。
みんながそれをするだけで、採用全体が変わっていくと思います。

目の前にいる相手にとっての価値を考え、オープンに自分の意見をぶつける。私も普通の人間として、これからもそれをやり続けます。