「人生の7分の5を仕事に費やすのであれば、楽しく働ける組織を作りたい」。そんな想いから、人事という仕事に興味を持ったと語る羽田幸広さん。創業者の井上氏に出会い、「会社を社員にとっても日本一の会社にしたいんだけど、やる気ある?」という言葉をきっかけに、未経験ながら当時急成長中だったLIFULLに人事として入社。CPOを務める傍ら、Well-beingを広げる活動も積極的に行い、採用という枠組みにとらわれず活躍されている羽田さんの軌跡を辿る。
 
 

株式会社LIFULL 執行役員 CPO(Chief People Officer)人事本部長
羽田幸広

上智大学卒業後、人材関連企業を経て2005年6月ネクスト(現LIFULL)入社。人事責任者として人事部を立ち上げ、企業文化、採用、人材育成、人事制度の基礎づくりに尽力。2008年からは社員有志を集めた「日本一働きたい会社プロジェクト」を推進し、2017年「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位を獲得。7年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出(2011年~2017年)、健康経営銘柄選定(2015年度、2016年度)など、企業として高い評価を得るまでに導く。著書に『日本一働きたい会社のつくりかた』(PHP研究所)。

人生の7分の5を仕事に費やすのであれば、楽しく働ける組織を作りたい

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―羽田さんは2005年にネクスト(現:LIFULL)へ中途でご入社されたとのことですが、そこに至るまでの経緯について教えてください。
 
 
大学卒業後、人材関連の会社に入社しましたが、この会社での経験から、人事の仕事がしたいと考えるようになりました。
 
当時のその会社は、社員を大切にしているとは言えない会社で、頑張った社員が報われずに涙を流して退職していく場面を何度も目にしてきました。そんな経験を通して、「人生の7分の5の時間を仕事に使うのであれば、甲子園を目指す高校球児のように、みんなが熱く楽しく働ける組織を作りたい」と思うようになり、人事の仕事に興味を持ちました。
 
その後、IT人材の教育コンサルティングの会社に転職し、人事としての道を歩み始めるはずだったのですが、社内体制の変更などで人事としての仕事がなかなかできない状況が続きました。僕もその頃には28歳になっていたので、このままではいけないと思い、転職活動を始めました。
 
 

社長に「やる気」を買われ、未経験ながらLIFULLの人事に

 
 
―ネクスト(現:LIFULL)のどのようなところにご興味を持たれたのですか。
 
 
当時、多くの企業が「急成長ベンチャー」などの謳い文句で求人を掲載している中、「利他主義」を掲げているネクスト(現:LIFULL)の求人が目に留まりました。

また創業のエピソードも、社長の井上が前職時代に、お客様に合いそうな競合企業の商品をいくつもご紹介して競合の商品を売って上司に大目玉を食らうというもので、数字第一主義の会社で育った僕は「そんなマンガみたいな話ある?」と思いつつ、これが本当ならすごい、社長に会って確かめてみたいと思い応募しました。
 
社長の井上は、それまで出会ったことがないタイプの人でした。想像以上に熱量が高く、オーラがあって、社員想いで、世のため人のために会社が掲げる経営理念を実現したいと思っていることがよく伝わってきました。

そして面接の最後に、「会社を社員にとっても日本一の会社にしたいんだけど、やる気ある?」と聞かれました。
初対面且つ人事未経験の僕に「日本一の会社をつくる気があるか」と本気で問いかけられて軽く驚きつつも、迷わず「はい!」と答え、入社する運びとなりました。

いまも人事未経験だった自分を拾ってくれたことに、とても感謝しています。
井上がチャンスをくれたので成長することができましたし、たくさんの面白い人たちと出会うこともできました。井上に恩返しすることは、常に僕の個人的な目標のひとつです。
 
 

話についていけなくても、視座を学ぶことはできた

 
 
―入社した当初はどのようなことに取り組まれていましたか。
 
 
入社してみると前任者はすでに退職して人事がいない状況で、総務のメンバーが一時的に中途採用を行なってくれていました。未経験にも関わらず、急に人事業務全般を任された僕は、営業に来られる人材会社の方を片っ端から捕まえては話を伺い、人事について学んでいきました。
 
また、井上がリクルート時代の先輩や組織人事関連の大御所の方を多く紹介してくれたので、その方々から経営や組織、採用について学ばせてもらいました。

お恥ずかしい話、僕はネクスト(現:LIFULL)に入社するまでビジネス書を一冊も読んだことがなかったので、彼らの話にまったくついていけないことも多々あったのですが(苦笑)。

ただ、話にはついていけなくても、彼らがいかに高い視座と多角的な視点で物事を考えているのかということはよくわかりました。
「なるほど、いい組織を作るには、こういう視座で物事を考えるんだな」と、すごい方それぞれの考え方や見方を学ぶことができた貴重な経験でした。

また、これらの経験を通じて「これはまずい」と猛烈な危機感を覚え、睡眠中と入浴中以外はずっと本を読んで、集中的に知識を増やしていきました。
 
 
――採用の仕事をする上で心がけていたことはありますか。
 
 
「採用をするのではなく組織をつくる」ということを心がけています。
たとえば、今後会社として育てたい企業文化がある場合、明確な採用基準を定めてそれに合わない人を採用しないことで、企業文化を変えていくことができます。

当社は2006年くらいから、一貫した企業文化を作るために採用基準を明確にして入社の蛇口を絞り、退職を希望する人のうち企業文化にフィットする人だけを慰留するということをはじめました。

入社する人数と企業文化に合わなくて退職する人数を試算して、○年後に○%の社員が企業文化にフィットしている状態にしようと目標を立てて仕事をしていました。

このように、採用活動によってどのような組織をつくりたいのか、どのように会社のビジョンやカルチャー、戦略に貢献したいのかを考えることがとても重要だと思います。
 
また、社是に「利他主義」を掲げている会社なので、学生のためになる採用活動をずっと心がけています。もちろん採用計画の達成との両立が前提ですが。

当社の選考プロセスには「アドバイザー」というフェーズがあり、人事が学生に就職活動のアドバイスを行います。
当社にフィットしそうであれば選考を進めますが、フィットしないようであればどれだけ素晴らしい学生でも、その人に合う会社をご紹介します。

手間はかかりますが、お互いにとってよい活動になればと思っています。
 
 

ビジョン、カルチャーよりもスキルフィット重視の採用をしてしまった過去

 
 
―苦労されたこと、失敗談などあれば教えてください。
 
 
ビジョンフィット、カルチャーフィットではなくスキルフィットを重視した採用を行い、苦い経験をしたことがあります。
 
会社が成長期を迎え、もともと社長の井上が担っていた中途採用の最終面接権限を当時の事業部長に渡していった時期がありました。
すると、一部の事業部長が「早く採用したい」という焦りからか、ビジョンフィット、カルチャーフィットではなくスキルフィットを重視した採用をしてしまったんです。
 
スキルが高い人たちは短期的には昇進も早いですから、社内に対する影響度も大きくなる。
しかしビジョン、カルチャーにフィットしていないので、彼らのネガティブな意見に周囲が引きずられてしまうこともありました。

それだけでなく、LIFULLのカルチャーにそぐわない売上偏重の提案も出てきたので、「このままではいけない」と思い、最終面接権限を再び井上と僕に戻すことになりました。そこからは、僕たちと目線が合っていると感じた事業部長へ徐々に権限を渡すという流れにしました。
 
成長中の企業は特に「早く採用したい」という焦りがあると思いますが、ビジョン、カルチャーフィットしていない社員が会社に与える影響は想像以上に大きいものです。
LIFULLグループは現在1,500人規模になりましたが、これからもビジョン、カルチャーフィット重視の採用にこだわりたいです。
 
 

採用の「枠」を超えれば、採用の仕事はもっと面白くなる

 
 
―羽田さんが今後のキャリアにおいて叶えたいことを教えてください。
 
 
今後叶えたいことは3つです。まずはLIFULLを世界最高のチームにすること。そして2つめは僕たちの取り組みを発信し、世の中に最高のチームを増やすこと。
最後に、すべての人がWell-beingを感じられる世界にすることです。

当社は2018年に、国内外のWell-being分野の研究活動に対して助成を行う財団法人Well-being for Planet Earthを設立し、僕はそこの事務局長として活動しています。

現在は研究助成の他にも、日本経済新聞社等と連携し、GDP(国内総生産)では捉えきれていない、国民一人ひとりのWell-beingを測定するための指標であるGDW(国内総充実/Gross Domestic Well-being)の啓発などを行っています。財団の活動を通じて、経済成長と幸福度のバランスが取れた社会づくりを目指していきたいです。
 
 
―最後に、これから採用に向き合う人へ伝えたいことは何ですか。
 
 
僕はいまだに採用の仕事が大好きです。採用した人材が入社後に会社の未来を方向付けるような仕事をしてくれたという経験をいくつもしていますし、いろいろな人と出会えるというのも魅力です。

ということで採用業務自体も大好きなのですが、「採用」という枠を超えるとさらに色々なことができるとても面白い仕事でもあります。

先ほどお話しした「採用をするのではなく組織をつくる」というのも一例です。

他にも、2019年に新卒採用チームにおいて、当社の企業姿勢を示すよい言葉はないかと検討し、「LIFULLはソーシャルエンタープライズ(社会課題解決型企業)である」という表現を選定して、採用活動限定で発信することになりました。

それが2021年から、採用だけでなく全社で公式に使用されることになりました。
採用の仕事を通して全社を高い視座から俯瞰して見ることで、会社の本質的な価値を見いだすことができますし、それを経営陣のスピーチライターとしてストーリーをつくり発信してもらうことで、経営陣の思考を刺激することもできます。

このように、採用の枠を超えて考えて動けば、会社のビジョン、カルチャー、ブランド、戦略などに貢献するすることもできて面白いと思います。

一方で、選考に来てくださる人のなかには、人生を賭けるつもりで来てくれる人もいます。

僕は普段、比較的即断即決するタイプですが、採用の合否についてはうんうん唸りながらしばらく考えることが多いです。
会社の将来と相手の人生に少なからず影響を及ぼす判断ですので、「採用計画未達だから・・・」のような弱い自分に負けて割り切った判断をせず、相手をリスペクトしてお互いにとって最良の決定になるよう努力すべきだと考えています。

ちなみにこのうんうん唸ることは、組織づくりにおいて重要な「人材を見立てる目」を培うことにもつながります。

まとめると、採用という仕事は、戦略性や定量的な分析、担当者の人的魅力や説得力等が必要なとても面白い仕事ですし、会社のビジョン、カルチャー、戦略を踏まえてそれにどう貢献しようかと考え始めると更に面白くなります。

たった1人の人材の入社が会社を変えるということは起こり得ますので、採用は経営戦略の核をなすと言っても過言ではありません。
ぜひ誇りをもって楽しんでもらえればと思います。