はじめに
◆登壇者紹介◆
1990年 香川県生まれ。大学時代は手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ、NPOの設立などを経験。
人間の身体や感覚の拡張をテーマに、ろう者と協働して新しい音知覚装置の研究を行う。2014年度未踏スーパークリエータ。第21回AMD Award 新人賞。2016年度グッドデザイン賞特別賞。Forbes 30 Under 30 Asia 2017。Design Intelligence Award 2017 Excellcence賞。現在は、富士通株式会社マーケティング戦略本部にてOntennaの開発に取り組む。
◆TOPIC◆
・音を256段階の振動に変換する『Ontenna』の正体とは。
・高校時代は、陸上インハイ選手!?本多氏の学生時代を振り返ります。
・「人と機械の間をデザインする。」UIデザイナーとして社会に出る。
・『障がい者と健聴者の差を、テクノロジーによってなくす。』
音を256段階の振動に変換する『Ontenna』の正体とは。
—以下、本多氏
富士通にて『Ontenna』を研究・開発しています本多と申します。今日は、宜しくお願いします!!
皆さん『Ontenna』ってご存知ですか?
『Ontenna』のイメージをしてもらうためにも、まずはこちらの動画をご覧ください。
ろう者の方は、電話が鳴っても、アラームが鳴ってもわからない。動物の鳴き声も聞こえない、そのような状況で生活しています。
私は、デザインやテクノロジーの勉強をしていたので、それらを使って『何か伝えられるのではないか。』と思って研究していました。そこで提案したのが、この『Ontenna』です。『Ontenna』は音の大きさとリズムを振動と光に変換する装置です。
具体的には、30デシベル〜90デシベルという音圧(音の大きさ)を256段階の振動の強さに変換し、ろう者に音を伝えます。音が大きいと大きく振動し、音が小さいと、振動も小さくなる。それと合わせて、リズムやパターンも伝えることができます。
大きな特徴は、この装置を髪の毛に装着するところです。まるで、猫のヒゲが空気の流れを感じることができるように、人間の髪の毛で音を感じることができるようにデザインしました。
プロダクトを作る際、エンジニアやデザイナーが一緒になって作るのは当たり前ですが、僕の場合、こだわっているのが必ずろう者の方も一緒になることです。
『Ontenna』って最初は、直接肌につけるタイプだったんですけど、ろう者の方からは「気持ち悪い、蒸れる、麻痺する」という声をいただいて。今度は服につけてみると、「分かりくい。」となってしまいまいた。こうして色んな部位につけては試しを繰り返すうちに、髪の毛ってちょうどいい!となり、現在の形になりました。
では実際に、皆さんに体験してもらいましょう!
『Ontenna』を実際に手に触る学生たち。会場は『Ontenna』を試すための「あー!」や「おー!!」という声で埋まりました(笑)。僕も、振動の細かな違いや感触にとても驚きました。
ポイントは、ユーザー自身が「この音だったら、この振動なのか」と学習しながら使用することで、音の判別がどんどんクリアになっていくこと。
同時に、機械の方も学習してインターホンだったら一回の振動とか、振動のパターンを特定するようになることなんです。話してみて、触ってみて分かるかと思うんですが音からの反応速度も、ほぼ遅延がないようになってます。
昨年の7月にはろう学校にて、ろう者の方とドラムを演奏するというパフォーマンスを行う機会がありました。ろう者の方って、自分がドラムを演奏している音が聞こえないので、一定のリズムでドラムを叩くことが難しいんです。
でも『Ontenna』を使うことによって、自分が叩いている振動が髪の毛に伝わる、それによって音の強弱やリズムをとることができました。
次も、『Ontenna』を使用した新しいコミュニケーションの事例です。
皆さん、水谷豊さんが初の主演と監督された『TAP』って映画ご存知ですか?
タップダンスの魅力を伝えるような映画なんですけど、この映画最大の見せ場である最後の24分間、タップダンスだけのシーンがあるんです。映画のセリフ自体はテキストにすることができるのですが、タップダンスの音は全て音符マークになってしまいます。
そこで、そのタップダンスの音を『Ontenna』を使うことで表現することができるんじゃないかということで実験しました。
普段は映画館には行かないという、ろう者の方も来てくださりました。
「『Ontenna』を使って映画を楽しめた。」「ちゃんと、タップ音が感じることができた。」と、とても嬉しい声をいただけた一方で、「他のBGMと一緒に反応してしまう」という厳しい声もいただきました。それらの意見を反映し、これからも外部とのオープンイノベーションに取り組んでいきたいと思います。
高校時代は、陸上インハイ選手!?本多さんの学生時代を振り返ります。
あまり自分の人生を改めて振り返ることってないので、貴重な機会だなと思って、むしろ開催してくれてありがとうございます!今回、親に連絡をして、昔の写真を送ってもらいました(笑)
僕、親が3年に一回くらい転勤をする家で、転勤族だったんです。だから、ずっと同じ友達がいる環境ではなかったですね。その時々で違う環境に飛び込んで新しいコミュニティを作るって習慣はこの時から養われているんだと思います。
なので、ろう者の方と会った時も、自分と違う環境にいる人に対して興味がある感覚で、自然とコミュニケーションをとることができていたように思います。
高校時代には、ずっっと陸上をしていました!
一応ね、インターハイ選手なんですよ(会場どよめき)400メートルハードルの選手でした。なので、当時は本当に陸上ばかりしていました!笑
大学を選ぶときには、あまりこだわりがない状態で。どこでもいいかなって思って、とりあえず国公立かなくらいのつもりだったんです。おじいちゃんが建築士だったので、事務所に建築に関する書籍が沢山ありました。
そこでたまたま目にしたのが、世界的に有名な建築家である山本理顕さんが設計した公立はこだて未来大の写真。「え!!なんだこれ!?大学!!?」って感動してしまって。センター試験が終わって、公立はこだて未来大に行きますって先生に言って受験して、ここにきました。
もし、ここに行かなかったら今の自分はないと思います。
大学では最初、システム情報科学部に所属してまして、システムネットワーク、セキュリティー、あとはプログラミングの勉強をしてました。でも当時からデザインやアートに興味もあったので、インタラクティブデザインの勉強もしていました。
大学院時代には、台湾の国立交通大学という台湾の東工大と言われている大学に交換留学していまして、そこでプロダクトデザインの勉強をしていました。
次に大学三年生の時に作った『シカクカ』というプロダクトについて話したいと思います。これは、脳波を使って新しいコミュニケーションを作ろうというプロジェクトでした。
脳波ってα波、β波、θ波ってあって、それぞれ集中、睡眠、リラックスって分かれているのですが、その3つの脳波をそれぞれ光の色で表していて、集中しているときは赤、リラックスしているときは緑色、眠いときは青色に光るようになっています。
例えば、グループでディスカッションしているときなんかは、最初は赤く光っているんだけど、だんだん緑が増えていくみたいな(笑)
人間の表情ってわかりにくいじゃないですか?
めっちゃぼーっとしてる人もいれば、めっちゃウンウンって聞いているのに実は全然聞いてない人だとか(笑)。
だから表情では伝わりづらい状態を脳波を使って表現することで新しいコミュニケーションができるんじゃないかなって思って作ったプロダクトです。
「人と機械の間をデザインする。」UIデザイナーとして社会に出る。
僕は『ユーザーインターフェースデザイナー』です。
インタフェースって何かというと、接点とか境界という意味があります。だから僕は、『人間と機械の間』をデザインする、そしてヒューマンエラー(人間がいかに間違いを起こさずに機械を使うことができるのか)を極力なくすようにするのが仕事です。
つまり、使いやすさのデザインをしています。例えば、文字のアイコンを変化させたり動きをつけたりとか、どんな形でどんな動きにしたら使いやすいだろうというのをデザインしています。新卒で入った某大手精密機器メーカーでは、プリンターの画面のUI設計をしていました。
しかしそこで働いている中で、先ほどの『Ontenna』が様々なメディアでも取り上げられるようになってきて、だんだんと「世界中のろう者の方に『Ontenna』を届けたい」という思いが強くなってきました。その気持ちを後押ししてくれたのが、今の富士通という会社でした。
富士通って、障がい者向けのソリューションに力を入れていて、『Live Talk』という音声を文字情報に変換するようなプロダクトを開発したりもしているんです。富士通との出会いのきっかけは、『未踏プロジェクト』というものでした。
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)という組織が主催している、学生に出資をするので社会にインパクトを残すプロダクトを開発するというプロジェクトがありまして、そのプロジェクトで僕のものが採択されて、研究・開発をしていました。
そのきっかけで富士通の執行役員の方を紹介してもらって、その方に「『Ontenna』届けたいです!」って言ったら「よし、わかった。じゃあうちに来い!」と言ってくれて、その場で富士通に行くことが決まりました。
ですので、前職はは8か月で辞めてしまって、2016年6月から富士通にて研究開発をしています。
『障がい者と健聴者の差をテクノロジーによってなくす。』
僕、高校までは障がい者の方に対する支援やボランティアって全然考えたこともなくて、、。先ほど言ったようにずっと陸上しかしてなかったようなタイプだったから、身近に障がいを持った人もいなかったんです。
きっかけは、大学一年生の頃大学の学園祭でクレープ作っていた時ですね。大学一年生ってクレープ作りがちじゃないですか?(会場笑)その時に買いに来てくれた方がろう者の方で、部屋を案内してくれって言われて、案内してあげて。その時に仲良くなって、「今度温泉に行こう」ってなって。
函館ってたくさん温泉があるんですけど、その人と一緒に温泉に行くことになりまして。実はその人が函館のろう者協会の会長さんだったんです。(会場驚)そんで、その人と温泉友達になって週に一回一緒に温泉に行くようになって。それがきっかけで手話面白いってなって、どんどん手話に近づくようになりました。
それからは、手話通訳のボランティアをしたり、手話サークルを立ち上げたり、NPO作ったり、いろんな活動をするようになりました。
最後に、僕が今後何をしていきたいのかについてお話ししたいと思います。
障がい者の方って、確かにろう者は耳が聞こえないんですけど、その分とても表情が豊かだったり、触覚の感覚がとても敏感だったりするんです。だから僕は、障がい者の方が何かマイナスを持っているのではなくて、別の面でのスペシャリストだと思っているんです。
そして今はマイナスだと考えられている障がい者と健聴者の差が、本当にテクノロジーによって無くなると信じています。今後、その流れは絶対に進みます。だからこそ、そんな人たちと今後もプロダクト作りに取り組んでいきたいと思っています。
自分の作ったプロダクトによって障がいを持った人の笑顔が増えること、今まで楽しめなかったものが楽しめるようになること、それが僕にとってはエネルギーになります。今後のそんな笑顔を増やすことができるように頑張っていきたいと思います!
今日は、お話聞いていただきありがとうございました!
◆編集後記◆
今回イベントレポートを作成した、iroots internのkaiです。
会場を明るく照らすような雰囲気でお話をする本多さん、参加した学生からは「羽生結弦のお兄さんですか!?」など、冗談を言われるほどフラットに接していただきました。
僕がお話を聞いていて特に印象に残ったのが、「身近な他人を救うことがいずれ、コミュニケーションの新しい形を作る」ということです。クレープを作った時には目の前のろう者の方を救うため、そしてその気持ちで作られた『Ontenna』は映画や音楽の新しいコミュニケーションの形を提供している。
一人の他人を救いたいという強い気持ちが実は、一番強いエネルギーになって多くの秘めた可能性を持っているのかもしれない、そんな風に感じるお話でした。