就活の時期を迎えているものの、どのようにこれからのキャリアを考えていいのかわからない。自己分析をしてみても、「やりたいこと」に対して腹落ちする答えが見つからない…。そんな方へのメッセージとして、法政大学キャリアデザイン学部で教授を務める田中研之輔先生(@KennosukeTanaka)に前回に引き続き、「自分らしく輝くためのキャリアの描き方」について執筆していただきました。
 

 
●経営者や人事が注目する「人的資本の最大化」とは?

前回の私からの「手紙」、読んでくれましたか? さて、続きを書いていきますね。

今、有能な経営者や人事担当者が、一生懸命取り組んでいるのは「人的資本の最大化」です。

「人的資本の最大化」とは、ビジネスパーソン一人ひとりが持っているスキルや経験を高め、パフォーマンスを最大化させることです。

よりわかりやすい表現を使うなら、やりがい、働きがい、生きがいを感じながら、ビジネスに取り組む中で生産性や競争力を高め、ビジネスパーソンとしての可能性を最大化させていくことです。そのために、社内での様々な人事制度を組織内キャリアから自律型キャリアへと転換させています。

(*この転換のベースにあるのが、組織内キャリアから自律型キャリアの最新知見であるプロティアンキャリアへの移行です。前回の手紙『あなたらしくを輝かせるための魔法』を参考にしてください。)

自律型キャリアを求める企業の動向と就活で求められる次世代人材への期待やイメージは、連動しています。

少なくともここから10年は、自ら主体的にキャリアを形成する行動習慣やメンタリティを持っている就活生が評価されるといっても過言ではありません。変化に柔軟に適合しながら、自らの主体的に可能性を高めていくことのできる新卒を企業は求めています。

その理由は、社会の変化やテクノロジーの深化が想像以上にはやいからです。変化にしなやかに対応できるのは、モノではなくて、ヒトなのです。

だからこそ、変幻自在に適合しているプロティアン人材が今、求められているのです。

こうした企業や社会の動向を前提として、これからの「就活」で苦労しないためには、ポイントが二つあります。

①大学生から「プレ社会人」へのマインドチェンジ
②プロティアン診断(60秒)で、キャリア資本の把握

順番にみていきましょう。
 
 
①大学生から「プレ社会人」へのマインドチェンジ

キャリア形成に、ごまかしはききません。

大学のレポートをネット上の文章コピーでその場凌ぎをしていた人が、就活時のエントリーシートで、端的な文章で表現できるはずがありません。また、就活時の面接で、やったこともない嘘のエピソードを「盛った」ところでうまくいきません。

キャリア形成とは、あなた自身の歴史です。あなた自身が、まず自分に対して、嘘偽りなく、真摯に向き合うことが出発点です。うまく繕って、単位だけ取得していくもったいない大学生は、今日で「卒業」しましょう。あなたの人生のスイッチは、あなたが入れるのです。

具体的な方法として、大学生からプレ社会人へとマインドチェンジしましょう。プレ社会人とは、社会人としての心構えや作法で、大学生活を送る人を意味します。お金がないからできないとか、スキルや経験が足りないから、できないわけではありません。今日からあなた自身が行動を変えていくのです。

大学の講義は、クライアント先との商談と同じです。オンラインやオフライン、どちらでもあっても、社会人は時間を厳守します。

いろんな言い訳をして、講義の時間に遅れてはいませんか?
コミュニケーションを雑にしていませんか? 

私はLINEのグループには、極力入らないようにしています。グループメンバーが数十名近くになると、「既読スルー」や「未読スルー」が当たり前になりますね。言葉の一つひとつを雑にしないのが社会人です。誰かが発した言葉に対して、丁寧にコミュニケーションしていく。これも優れた能力がいるわけではありません。心がけの問題です。

あと、よくある残念なケースを取り上げておきます。今やSNSで誰にでも「質問」を送ることができます。その行為自体は、積極的に素晴らしいです。私のもとにも就活の質問が寄せられます。基本的には、即座にリプライします。スピードコミュニケーションが社会人としての信頼を生むからです。

驚くのは、「質問」に対するこちら側の「リプライ」を読むまでに、数日ほどかかったり、それに対する「返答」がなかったりするのです。

しばしば問題になるのが、OB/OG訪問をして、自分の必要な時にだけ、社会人に質問をして、その後、就活の進捗や内定先などを連絡しないことです。

ビジネスとは、すべてがコミュニケーションです。

一人で何かを成す人は、どこにもいません。上司、同僚、クライアント先、家族、関わりあう人とのコミュニケーションを大切にしている人が、出世していきます。登壇でご一緒して、名刺交換。その翌朝にメールをくださるのが、一番多忙な社長、ということも頻繁にあります。

誰よりもコミュニケーションを大切にされているからこそ、組織のリーダーなのですね。

でも、それは、私たちにもできることです。

体調不良で欠席します。というお決まりの欠席連絡も、注意が必要です。社会人に求められるのは、持続的なキャリア形成です。本当に体調不良であれば、休みをとるべきですが、「欠席癖」も改善しておくようにしましょう。

今日からあなたは「プレ社会人」!

具体的には、前回の「手紙」でも触れたように、「消費者=受け手」としてではなく、「生産者=創り手」として、生活していくようにしましょう。

私が勤務する法政大学市ヶ谷キャンパスには、二つの「問題」が発生しています。一つは、校舎の1階にあるセブンイレブンのレジ待ち行列です。お昼時のピーク時には、6つの列ができて、各列ともに、10人以上が並びます。

もう一つは、講義への移動エレベーターに50人以上が待つという光景が発生しているのです。この二つの問題の構造は同じです。

「どうしたら、この行列を解決することができるのか」を行列に並びながら、考える学生は、ビジネスシーンで成功していきます。

「問題」に、違和感を感じる人が「創り手」です。未来は与えられるものではなく、誰かが創り出すものです。先人の先輩たちは、社会の一つひとつの問題を解決してきました。解決するための最も効果的でインパクトのある手法がビジネスなのです。

コンビニを増やすとか、エレベーターを増やすというのは、安易な考え方です。もちろん、予算を増やすなどして大型投資して問題を解決することもできます。しかし、すぐにはできないし、少なくとも「プレ社会人」のあなたの「力」で、意思決定できることではないです。

そうであるならば「コンビニには、次に講義があるひとを優先するレーン」を作ったり、「教員に直談判して、講義時間を5分前後させることも有効策」です。

つまり、問題から目をそらさずに、何らかの解決策を考える。そして、アクションしてみる。これを日常の中で繰り返すようにするのです。特に、これからのビジネスは、社会問題への解決策が求められるようになります。
 
 
②プロティアン診断(60秒)で、キャリア資本の把握

「創り手」側にまわることにもつながりますが、毎日、たった3分でいいので、キャリアワークアウトをしていきましょう。まず、次のプロティアンキャリア診断をしてみてください。1分でできます。

(引用:田中研之輔『キャリアワークアウト』日経BP p.95))

何個当てはまりましたか? 12個以上あてはまれば、プロティアン人材です。変化に適合しながら、キャリア形成していくことができます。このまま、今の行動習慣を続けていってください。

11点以下の人は、ひとつでもチェック項目が増えるように行動に移していきましょう。この簡単な質問は、それぞれ次のようなキャリア資本に対応しています。

(引用:田中研之輔『キャリアワークアウト』日経BP p.116))

(引用:田中研之輔『キャリアワークアウト』日経BP p.117))

プレ社会人として大学生活を過ごすときには、ビジネス資本と社会関係資本が蓄積するようにしましょう。内容をみて気がつくのではないでしょうか?大学の講義を活かして、ビジネスリテラシーやビジネスプロダクティビティを高めていけるという点について。

ビジネスで求められていることと大学で学ぶことは関連しないという理解は、間違っています。むしろ、本質的な課題や求めれるリテラシーは同じものです。

ですので、4年間の講義も、積極的にインプットとアウトプットのPDCAをまわして、ビジネス資本を蓄積していくようにしましょう。

社会関係資本については、大学生だけのコミュニティに所属していると、多様な資本が蓄積されていきません。インターンやアルバイトに取り組む中で、日頃から社会人と接していくと、コミュニケーション能力の向上につながるだけでなく、社会関係資本が蓄積されていくのです。

(引用:田中研之輔『キャリアワークアウト』日経BP p.152))

憧れの社会人を一人思い浮かべてください。その方は必ず、ビジネス資本と社会関係資本を構築しています。ビジネス資本と社会関係資本が経済資本に転換されているのです。

キャリア形成を資本の蓄積で捉えていくポイントは、日々の行動によって、自ら後天的に取得可能である点です。

大学でTOEICや英検などの試験を受験しているならば、それによりビジネス資本が形成されています。試験に合格すると、客観的なビジネス資本を取得したことになりますが、試験に向けて日々、取り組んでいる行動自体も、ビジネス資本を蓄積していることになります。

自らの行動によってキャリア資本を獲得していくことができるので、次のように「現状把握」と「目標設定」シートの作成が可能になります。

(引用:田中研之輔『キャリアワークアウト』日経BP p.165))

例は挙げましたが、真似はしなくて良いです。全く違った内容になって良いのです。

あなたらしい人生を築いていく。そのために、どのようなキャリア資本を構築していきたいのか、まずは現状を書き出してみてください。私は20代前半に英語を習得することをキャリア資本蓄積の重要事項にすえました。だからこそ、迷うことなく海外で4年間を過ごすことができました。

他の人と比べていたら、キャリアが遅れてしまうと不安に感じていたのかもしれません。人生100年時代を迎えました。数年は誤差に過ぎません。

しかし、だからと言って無計画にダラダラと過ごしていては、キャリア資本は蓄積されないのです。プロティアンキャリア診断を定期的に行い、日頃の行動習慣をチェックしながら、中長期ではキャリア資本を計画的に蓄積していくようにしましょう。
 
 
●最後に

あなたには、無限の可能性があります。これまでの人生経験では、まだその可能性に気がついていないはずです。

だからこそ、キャリアに悩むのではなく、キャリアを考える。悩んで立ち止まるのではなく、考え行動しながらキャリアをデザインしていく。キャリア形成は、アジャイルでいいのです。

明確な目標とその結果であなた自身をがんじがらめにする必要はありません。あなたらしく働いていくことを大切にするのです。

そのほかのキャリアワークアウトは、この本にまとめてあります。読んでみてください。

就活もキャリア資本の形成機会です。どうせやるなら、前のめりになって、楽しみながら、取り組んでいきましょう。

自己分析、企業分析、業界分析、市場分析。就活で向き合うべき、各種の分析は、社会人になってからも欠かせません。

目の前の行動が、あなたのキャリア資本に!あなたのこれからの輝かしいキャリア成長を心から応援しています。

それでは、また。
 
 
(執筆:田中 研之輔/編集:西村恵)