今回はアジアNo.1と称されている学府、シンガポール国立大学(National University of Singapore)を卒業後、日本で大手小売企業に入社したセティオさんにインタビューしました。インドネシアで生まれ、シンガポール、日本と、3か国での経験を持つセティオさんに、各国の大学生活の違いや、日本に来てからの仕事価値観の変化について語っていただきました。

 

勉強に対する意識が高すぎる(笑)シンガポールの大学生活

―――自己紹介お願いします。

インドネシア出身のセティオ・マハトモと申します。某大手小売企業で新卒入社して、現在4年目です。インドネシアで生まれ、高校卒業後、シンガポール国立大学でコミュニケーション&新メディア学を学んでいました。

 

―――インドネシアご出身なのですね。

はい。父は働いていて、母は主婦という家庭で育ちました。子供の頃からずっと家にお手伝いさんがいて、所謂お坊ちゃんです(笑)。 幼少期は、自分で勉強の計画を立てるのが好きで、成績はトップを維持していました。両親から「こうしなさい!」と言われた記憶はほとんどないですね。勉強以外は水泳、ピアノ、英会話なども習っていました。高校生からはボランティア活動、部活と学校のスポーツチームにも参加していました。

 

―――文武両道だったのですね!シンガポールに留学するきっかけを伺えますか?

インドネシアの大学に入学するつもりは最初からなかったです。せっかくだから母国以外の国に行きたいとずっと思っていました。アメリカを希望していた時期もありましたが両親のことも考え、最終的にはシンガポールに決めました。

もともと美術やデザインがやりたかったので、シンガポール国立大学で、UI/UXを本格的に学べる学部学科があると知って、自分のやりたいことに近いなと思いました。シンガポール国立大学は、合格率が20%くらいといわれていて、外国人の比率は1割にも届きません。入学試験はすごく難しくて、正直落ちるかと(笑)試験の内容は、英語、数学、理科、社会、地理と経済学で、選択問題ではなく、ほとんど記述式でしたね。

 

―――日本の国立大学と比較しても、かなり試験内容が違うのですね。

そうですね。僕の場合は、高校でIB Diploma(国際バカロレア資格)というキャリキュラムで良い点数を取れたのと、美術、音楽、スポーツ、ボランティアなどの課外活動実績の加点がありました。総合的な評価が良かったから入学できたのかな、とも思います。

 

―――学生生活について教えてください。

人文・社会部、社会科学学科、コミュニケーション&新メディア学専攻というところで主にUI/UXデザイン、アプリ開発などについて勉強しました。

1年目はUI/UXに限らず、心理学、外国語(ドイツ語)、政治学、文学など興味ある授業もたくさん受けました。2年目はUX/UIを専門的に勉強して、学説研究が多かったです。

3年目は実習です。大学の中の美術館のアプリを開発研究したり、シンガポールの運輸省とコラボしてシステムのUIを提案したり、情報学部とゲームのデザインをしたり、色んなプロジェクトに参加しました。そして3年で卒業しました。シンガポールの場合は、3年で学士号の取れる普通コースと、もう1年追加して優等学士号の取れる「オナーズ」というコースがあって、このあたりも日本と異なるところですね。

 

―――大学ではかなり専門的な勉強をされていらっしゃったんですね。大変なことはありましたか?

そうですね、勉強に費やした時間が多かったですね。まず、授業や試験がとても難しかったです。周りに頑張らない人はいなかったし、シンガポールの学生は勉強に対しての意識が高すぎると思います(笑)

ピアプレッシャーをすごく感じていました。図書館はいつも混んでいて、外のベンチでも、共有エリアでも夜中に勉強している人もたくさんいました。学校の中24時間カフェがあって、いつも夜中まで勉強していましたよ。キャンパスを見渡す限り、どこにいっても勉強している人がいる。授業中の質疑応答も活発で、非常にアグレッシブです。

 

 

ポジション採用が当たり前の国

―――シンガポールでは、どのようにインターンシップや、就職活動を進めていくのですか?

日本のインターンシップは短期なものが多い印象ですね。今の会社のインターンも1週間でした。シンガポールは基本3ヶ月以上の長期インターンです。大学2年、3年に夏インターンと冬インターンをやって、仕事経験として履歴書に書きます。

また、シンガポールと日本の就職活動はかなり違います。日本は会社説明会などに参加し、情報収集の機会を経てエントリーをするけど、シンガポールは企業のウェブサイトや雑誌掲載から一般公募するのがメジャーです募集内容はポジション採用で、必要スキルに対するジョブディスクリプション(職務記述書)の提出が必要ですね

仕事経験とスキル必須なので、学生時代でインターンを通して経験を積むことが当たり前です。

 

―――セティオさんは、日本で就職活動をされました。シンガポールにいる時の日本の印象について教えてください。

文化が面白い国だと思いました。若者は明るくて、原宿スタイルとか、アニメ・マンガ文化のイメージが強いですが、一方で、日本の会社に対しては、すごく厳しい印象がありました。海外みたいにフレックス(柔軟性のある)な文化がなく、「A」と言われたら「A」で動くといったような。一見相反するイメージの文化が、社会で共存しているというのが不思議でした。

また、実際に日本に来てみて驚いたのは、仕事とプライベートの違いです。例えば仕事は毎日スーツ着て、休みの日はカラフルな服着るのは、黒白の世界が、一気にレインボーになる印象ですね。初めて日本旅行で来た時、朝の通勤ラッシュが衝撃的で、みんなロボットかと思いました(笑)。けど、同じロボットみたいな人が、プライベートで明るい生活しているという不思議な印象です。

 

―――なぜ日本に就職しようと思ったのですか?

日本に興味を持ったきっかけは大学時代の日本旅行でした。当時は将来やりたいことが決めてなくて、ただ社会人になったらシンガポールやインドネシア以外の国に行きたいなと漠然としていました。今の会社はシンガポールにも進出していて、ブランドが学生時代から大好きで、ちょうどシンガポールでグローバル採用があると聞いて、応募しました。

日本の会社は、スキルは働いていくうちに身に付くので、それ以外の価値観や考え方に注目してくれるところが、僕にとってはとても良い経験でした。また、仕事経験がない人にも丁寧に教育していく制度について、素晴らしいと思っていて、日本企業のそういうところにも惹かれました。

 

―――日本で就職を決めたときに周りはどういう反応でしたか?

 「絶対面白い経験になる」とよく言われました。周りの外国人も日本に対しては「面白い」「珍しい」「変」「どこにもないデザイン、コンセプト、考え方」という印象が強いので、外国人として日本に暮らすのは絶対に面白くなるといわれましたね。

一方で、仕事に対しては、周囲の友人も「日本は厳しい」という印象を持っていたので、「本当に?」「我慢できるの?」「すぐにやめちゃうよ」と良く言われましたね(笑)。両親は応援してくれました。

 

 

 

「人の役に立つ」日本で就職して気づいた働く意義

―――いまの仕事について教えてください。

 入社3ヶ月前からシンガポールで日本語研修を受けた程度で、東京で社会人1年目を迎えました。右も左もわからいまま会社の研修期間を経て、店舗配属されました。日本語少しずつ覚えて、裏方から接客業務など携われるようになったのが一年後くらいですね(笑)

入社当初は、接客がメインの仕事なのに、言葉の壁でやるせない日々を過ごしました。

ただ、他の会社で働きたいという考えもなかったです。いまの会社のブランドが本当に好きで、もっと頑張ろうといつも自分を励まして働いていました。

現在は、店舗から本部に異動して、海外のグループ会社なども含めた、商品の仕入れ管理、予算管理を任されています。新しいミッションに向き合う日々で、毎日充実しています。仕事自体は楽しいことばかりではないし、むしろ大変なことのほうが多いですが、とても勉強になるので、自分の成長感じられることがやりがいになっているかもしれないですね。今後も今の部署とポジションに限らず、社内でいろんな仕事してみたいと思っています。

 

―――就職前後の仕事観は変わりましたか?

仕事価値観の変化はありますね。大学の時は仕事するなら「好きなことをやりたい」と考えていました。なので、今の会社のブランドが好きなので入社しました。最初はとりあえずお金を稼ぐために仕事をしてましたけど、だんだん仕事の意味、やりがいが見えてきました。

今はお金の為だけじゃなくて、関わる人の役に立つこと、自分の成長のために仕事しています。人の役に立つこと且つ自分も成長できる仕事にやりがいを感じていて、それが自分にとって仕事する意味です。

 

―――シンガポールの同世代と比較して、日本の仕事環境や、日本人の特性など、違いを感じることはありますか?

特徴的だなと思ったことは、まず「仕事の生産性が高い」ということだと思います。オペレーションが細かくて、無駄な時間や作業が削減されています。そしてもう1つは「改善力」です。都度仕事を振り返って、よりよくなるために改善をし続けるのは、日本の素晴らしいところだと思いますね。あとは、「チームワーク」ですね。仕事をしていて感じますが、ゴールに対してチームで徹底的に実行していく、という団結力がすごいと思います。

一方で、シンガポールの良さとしては、色んな国の人が集まっているので、色んな視点での仕事の進め方や働き方があり、選択肢が広いということ。また、シンガポールは小さな国なので国の資源は人しかない。なので、人材育成を重要視しています。教育重視で、レベルが高く、人材の宝庫ですね。

 

―――そうなんですね。セティオさんの将来像について教えてください。

語学力を活かして、今の会社で海外で働けるチャンスがあったら積極的に手を挙げて挑戦したいと思っています。会社独自の考え方やコンセプトに共感できて、人の役に立つ、自分も成長出来る仕事だったら、積極的にチャレンジしていきたいです。

私にとっては生きる事は仕事のためじゃなくて、仕事で色んな経験、視点、知識、人間関係を得て、より豊かな人生にするためのものです。仕事において責任や役割を果たして、キャリアアップやお給料を上げるということも大切ですが、それは結果論でゴールではありません。

このスタンスを大切に生きていきたいと思います。

 

―――最後に、学生にメッセージを一言お願いします。

学生時代でいろんな経験を通して自分を知ってほしいです。自信を持って、ぜひ色んな経験をしてください。まずはやってみる、頑張ってみる。失敗してもその経験から自分の弱み、強みを知り、より良い自分を目指しましょう。

みんなこうだから自分もそうしようじゃなくて、自分には何か良い、自分は何か欲しいを考えて、そこから一歩一歩進めることが大切だと思います。自分を知ることで就職活動のときはどんな状況に置かれても、動揺せず冷静に見据えることができます。

また、海外旅行、留学、インターン、または将来に繋がるようなアルバイトでもいいです。とにかくたくさん経験すれば視野が広がりますし、その経験から発想力と思考力を身につけて、自分のやりたいことを見つけていって欲しいなと思います。

 

―この記事を書いた人―

周 恬(シュウ テン)

2010年中国で高校卒業後に来日。上智大学卒業後大手小売会社に新卒入社。社会人3年目にエン・ジャパンに転職。猫とうさぎの三人暮らし。趣味は漫画と映画。最近はピラティスに夢中。