VUCA時代といわれるように、あらゆる環境が複雑化し、未来の予測が非常に困難な現代社会では、求められるキャリア像も日々変化しています。これからの時代に求められるキャリアはスペシャリスト型なのか、ゼネラリスト型なのか。

金融を軸に多角的に事業を展開しているオリックスは、社員の育成方針として、専門領域を持ちつつも個性を生かして働く、オンリーワンのキャリアの実現を掲げています。一人一人が自身の経験に基づきながら自主的にキャリアを選択できるよう、多様な制度が存在し、ほかにはないキャリア形成を実現できる風土がある同社。今回はその取り組みについて、人財開発チーム長の谷川修一氏にエン・ジャパン新卒iroots事業部長の近藤翔太が対談形式でインタビューいたしました。

 

スペシャリストでもゼネラリストでもない、エキスパート・ゼネラリストという新しいキャリアのかたち

 

近藤:入社後の配属先や待遇を明確にして選考を実施する、いわゆるジョブ型雇用を新卒採用でも採り入れる企業が増えてきています。スペシャリストとゼネラリスト、どちらを目指すべきかという質問は、学生からもよく聞かれるテーマではないでしょうか。


谷川
:そうですね。この質問はよく受けますが、50年間働く時代だといわれている今、変化に柔軟に対応できる能力がますます重要になってくるのではないかと考えています。

企業が自社の属する業界の垣根を越えて、さまざまな事業領域に手を広げていくようになり、業界全体の変化も激しい。自分の専門領域が、近い将来には必要とされなくなるかもしれない。

オリックスでは、若手のうちからさまざまな分野での業務を経験するゼネラリスト的な側面と、自分の強みを生かせる分野を見つけ、自身の志向に基づいて専門性を深めていけるスペシャリスト的な側面、ふたつを合わせ持ったキャリアを形成することが理想であると考えています。

 
谷川修一氏:オリックス株式会社 グループ人事部 人財開発チーム長
中央大学卒業後、新卒でオリックス入社。支店での法人営業、不動産向けファイナンス専門部署、大手事業法人を担当する戦略営業部などを経て、2017年より現部署で、新卒採用および人材開発の責任者を務める。

 

近藤:特定の分野で高い専門性を持ちつつ、専門領域だけに捉われず幅広い知見がある人材は、エキスパート・ゼネラリストやT型人材といわれています。変化が激しく何が起こるか分からない時代において、異なる分野での知識を組み合わせ、広く深く考えることができる人材がより必要とされていくのではないかと思います。

一方で、そうしたキャリア形成ができる制度を用意し、実際に運用をしていくためには会社側に大きなコストもかかると思います。実際にオリックスではどれくらいの方が制度を活用して異動されているのでしょうか?


谷川
:多くの社員が何らかの制度を活用してキャリアを磨いているので、事例は社員の数だけあるといっても過言ではないですね。もちろん社員の異動も伴うので、引き継ぎの対応や新たな環境で戦力になるまでにかかる時間など、さまざまなコストが発生する可能性もあります。

ただ、これらのコストは、社員一人一人のキャリアアップのために、またオリックスが事業を発展させる上でも不可欠なものだと考えています。というのも、オリックスの祖業はリースですが、創業以来、事業領域を隣へ隣へと広げることで成長してきた会社です。新たな領域に進出する際には、社内のさまざまな専門性を持った人材をスピーディーにチームにアサインします。

そのとき社員が新しい環境に速やかに適応するためには、柔軟な組織体制と風土が大切なのです。そのため異動は入社年数に関係なく、20代のうちから複数の部署を経験してもらっています。

 

近藤翔太:エン・ジャパン株式会社 新卒iroots事業部 事業部長
新卒でエン・ジャパンに入社。新卒メディア事業のセールスとして、東京と名古屋支社にて企業の新卒採用を支援。子会社出向を経て人財戦略室に異動し新卒採用を担当。2019年より学生向けスカウトサービス「iroots」の責任者を務める。

 

近藤:多くの企業を見てきましたが、制度が存在するだけでなく、積極的に活用される状態にするのは、非常に難しいことだと思います。

エン・ジャパンでは「どこでも活躍できる人材」になるために必要な力をCareerSelectAbility®(キャリア自己選択力)と表現して学生に発信しています。(※)これを高めるためには、「能力」だけではなく、「考え方」と「環境」が重要だと定義しているのですが、オリックスには20代のうちからさまざまな部署を経験できるチャレンジングな「環境」がしっかり用意されていますね。

ちなみに、社員が異動を前向きに捉えられるような考え方や社風は、どのように培ってきたのでしょうか。

 

チャンスをつかむには、現状に満足しないことと、好奇心を持ち続けることが大切

 

谷川:確かに、自分が関わってきた仕事を手放すのは勇気がいることだと思います。ですが、自分がやってきた仕事を気持ちよく手放し、新しい役割に前向きにチャレンジしていくことを、全社で「是」として捉える風土づくりをしてきました。異動によって新しいキャリアをつくっていくことを「かっこいい」と捉えられる企業文化は、オリックスならではだと考えています。

また、「自分がいなくなってしまったら仕事が回らなくなり周りが困ってしまう」という状況を避けるため、業務が属人化しないように、組織にノウハウが蓄積する工夫もしています。会社が新しいポジションを用意したとき、チャレンジしたいと思う人には気兼ねなく飛び込んでもらえる体制を目指しています。

あとは、キャリアは自ら手を挙げてつかみ取ろう、という話はよくしていますね。目の前にきたチャンスをつかめるかどうかは、本人次第です。


近藤
:成長できる環境だけでなく、積極的に手を挙げて自ら学ぶ姿勢が必要ということですね。エン・ジャパンでも、 CareerSelectAbility®(キャリア自己選択力)を高めていくためには7つの「考え方」が大切だと考えています。

例えば、あらゆる仕事でハイパフォーマンスを出すための土台となる「目標必達性」と「自己変革性」。これは現状に満足せず、自ら高い目標を掲げ、それに対する努力を惜しまない、自分自身のアップデートに挑戦するというマインドセットのことを指します。社内異動などでキャリアチェンジに挑戦しようと思った場合でも、このスタンスがなければ周囲からの信頼は勝ち取れません。オリックスが大切にしている「キャリアを自ら手を挙げてつかみ取る」ことを実現するためにも必要な考え方ではないでしょうか。

また、高いパフォーマンスを出すことや、自身のキャリアアップだけを目的にするのではなく、「仕事を通じていかに世の中をよりよく変えていけるか」という視点も、社会で活躍していく上で重要な考え方だと私たちは思っています。ですので、7つの考え方の中には、社会に対して自分なりの正義感や、主義主張を持ち仕事をしていくということを意味する「主観正義性」など独自のマインドセットも盛り込んでいます。

谷川さんはビジネスパーソンとして、「どこでも活躍できる人材」になるために重要なことは何だとお考えですか。


谷川
新しいことへの挑戦を良しとするマインドを持ち続けることだと考えています。また、自分が担当している仕事がうまくいっている、いっていないに関わらず、「この状態のままでよいのか?」と、健全な危機感を持ち続けることも重要です。

ただ、会社として新しいことへの挑戦を良しとする文化がなければ、社員も挑戦したい気持ちを実行に移すことが難しいと考えています。興味のある分野ややりたいことは、時代の変化や、自分自身が仕事を経験する中で常に変わっていきます。

だからこそオリックスは、社員が新たな一歩を踏み出したいときに、その背中を押してあげられるような制度や文化を用意し続け、挑戦できる選択肢を作り出すことを大切にしています。

 

 

近藤:新しいことに挑戦したいという社員の前向きな気持ちを後押しする環境があるということは、オリックスで働くメリットの一つですね。


谷川
:ほかにも、入社当時に想像しなかった機会を会社が提供してくれることによって、自分の視野の範囲でキャリアを選択していたら決して得られなかった知識と経験が身に付くことも、オリックスで働く大きなメリットだと思います。

私自身、入社当時には会社が再生可能エネルギーや空港運営などに携わるとは予想していませんでしたが、そのような新たな領域に挑戦できる機会があることは、社員にとっても成長につながる環境だと考えています。


近藤
:オリックスの場合は事業領域も幅広い分、経験を積める分野も多岐に渡るので、思いがけない配属から、ご自身のキャリアが拡張していくという面白さもあるのかもしれませんね。また、会社自体が新しい領域にチャレンジすることに貪欲だからこそ、社員の成長機会が生まれるという好循環もお話から伝わってきました。

そういった環境を最大限に生かすために、具体的にはどのようなキャリア形成の制度がありますか。


谷川
:例えば「キャリアチャレンジ制度」。新たなキャリアにチャレンジしたい社員が異動を希望する部門へ直接アピールし、双方で合意が成立した場合は異動が実現する制度です。基本的に異動元の部署は本人の意思を尊重するようにしています。

また、各部門が新規事業の立ち上げや事業拡大に伴って異動を希望する社員を募集する「社内公募制度」や、希望する部署において1週間業務に従事することができる「社内インターンシップ制度」もあります。

最近では異動を希望する部署での社内インターンシップを経験して、その部署の業務内容や必要な知識などを理解した上で、キャリアチャレンジを行うケースも増えています。特に若手社員はこれらの制度を積極的に活用している印象ですね。これだけ会社の事業が幅広いと、希望する部署で何をやっているのか、本当に自分のやりたい業務ができるのか分からない場合もあるためです。

また、一定のキャリアを積んでからも自らの強みを生かし、新たな分野での活躍を実現してほしいという思いから、ミドルシニア層が応募できる「45歳からのキャリアチャレンジ制度」も用意しています。


近藤
:若手だけではなく、一般的には新しい領域への異動が難しいベテラン層でも、チャレンジできるフィールドがあるのは珍しいですね。制度はありつつも、利用する側は心理的にハードルが高い印象がありますが、いかがでしょうか。

 

 

谷川新しい分野にチャレンジすることは、皆さんが想像するよりも難しいことではないと考えています。専門領域が変わったとしても、仕事でパフォーマンスを出すために共通して必要な「能力」はたくさんあります。

エン・ジャパンでも「どこでも活躍できる人材」になるための能力を定義されていますよね。経験を積み重ねていくことで培ってきた汎用的な「能力」を、新しい領域で専門知識をインプットしながら発揮していく。部署やミッションが、過去取り組んできたものと異なるものだったとしても、これまでの仕事の延長線上にあるわけです。

これによりオリックスの社員は異なる分野の知識を生かして広く深く、かつ柔軟に考えることができるので、結果、会社としてもさまざまな事業領域へ挑戦できていると思います。


近藤
:確かに、分野をまたいで活躍できる人材には、専門性だけではなく、共通して身に付けている汎用的な「能力」がありますよね。オリックスには、キャリアにおけるチャンスを自身でつかみ取るという「考え方」、それを実現する制度という「環境」が根付いているからこそ、社員一人一人が専門知識や経験を蓄積しつつ、どんな分野に携わったとしても活躍できる「能力」を高めることができていると感じました。

就職活動中の皆さんの中には、入社先を選ぶときに「これからの時代に必要なキャリア形成ができる企業」をどのように見極めればよいのか気になっている方も多いと思います。最後に学生へメッセージをお願いできますか。


谷川
企業のことを徹底的に知ることにこだわっていただくことをおすすめしたいです。入社する企業を選ぶことは、難しいですよね。学生の皆さんにとっては想像しづらいことも多いと思いますし、調べれば調べる程分からなくなる気持ちはとてもよく分かります。

だからこそ、自分が知りたいことを、率直に企業の人に聞いてみてください。何を聞けばよいか迷ってしまう人は、もし明日からその企業で働くとしたら何を知っておきたいか、内定をもらっている気持ちで考えてみましょう。相手からの印象を気にして質問することをためらうのではなく、企業の方々と積極的にコミュニケーションをとることで、自分が企業を選ぶ中で優先していることが見えてくると思います。

働くことを長いスパンで考えなくてはいけない時代。その会社の看板で仕事をするのではなく、自分が世の中で通用するスキルを身に付けられそうか、自分自身を高められそうか、見極めてください。考え抜いた先がオリックスであれば、嬉しいです。


近藤
:就職活動を支援する立場からみても、就活時にどれだけ深く企業のことを知ろうとしていたかによって、入社後にギャップを感じる度合いは確かに変わると感じています。限られた時間ではありましたが、この対談での谷川さんのお話から、オリックスの印象が変わったと思われた方も多いのではないかと思います。

会社を支える主力事業の深掘りを得意とする大手企業が多い中で、オリックスには新たな領域への挑戦を良しとする文化がある。これはオリックスが創業時からの事業展開の中で培ってきた最大の強みだと感じました。

変化の激しい社会で個人が成長し続けるには、チャレンジできる環境がある企業を選ぶことが重要ですが、これは人事制度や教育体制が整っているというハード面だけを見て判断できることではありません。

企業は人の集合体です。現場で働く社員一人一人の意識や行動が伴わなければ、せっかくの人事制度も形骸化してしまいます。これからファーストキャリアを選ぶ皆さんには、ぜひこうした企業の内面まで知ることにこだわってほしいと思います。

 

※参考:CareerSelectAbility®(キャリア自己選択力)とは?「これからの時代に必要な入社後活躍力」