今回お話を伺ったあの• •

蒔苗 優太(まかない・ゆうた)
東京ガス株式会社/暮らしソリューション改革プロジェクト部

慶應義塾大学卒。在学中は情報政策を学びつつ、広告代理店で主にWEB制作にも携わる。東京ガスのフリースタイル採用第一期生として、2017年に入社。会員サイトの運営やリデザインを担当したのち、現在は暮らしソリューション改革プロジェクト部にて、カスタマーソリューションのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に取り組む。

「あ、これは選択をミスったな」。大学入学後に仮面浪人を決意

 
―現在の蒔苗さんのご活躍を紐解くために、まずはルーツについて教えてください。

周囲を国立公園に囲まれた自然の多い環境で育ちました。小学生の頃はずっと水棲昆虫や川魚を採って遊んでばかりいましたね。
特に魚が好きだったので、希少な特徴のある魚を捕まえては近くの自然史博物館に持って行き、それが博物館の資料に使われたこともありました。

自然と、将来は農学系の大学に入って魚の研究者になりたいと思うようになりました。
しかし、高校の成績はイマイチで、このままだと目指す大学で研究者になることは難しいと悟り始めていました。

幼少期から水棲昆虫や魚が大好きだったという

受験期に入り、水産系の学部を受けてみたものの、結果は不合格。結局、地元にある大学の教育学部に入学しました。
しかし、入学してすぐに「あ、これはキャリアの選択をミスったな」と気付きました。 僕が入学したのが教育学部の理科教育専攻ということもあり、周りの友人は理科教員志望の学生ばかり。
当たり前といえばそうなのですが、まだ自身の将来のことを決めかねていた自分にとってはキャリアの選択肢があまりにも少ない環境でした。

そこで、一度発散できる環境が必要だと考え、一年間仮面浪人をし、両親の理解もあって、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)に入学し直しました。

企業と学生の間に“力関係”が見え隠れする就職活動が苦手だった

 
―SFCでの大学生活はどうでしたか。

大学では環境情報学部に進んで情報政策について学びました。
これは高校時代に学園祭のWEBサイトの制作を担当し、情報領域に興味を持つようになったことがきっかけです。
研究の一環として、デジタルガバメントが進んでいるフィンランドやスウェーデンに足を運んだこともありました。

学びの多様性に富んだ環境で、SFCに入学して本当に良かったと思いました。

また、趣味で始めたカメラに、どっぷりハマってしまいました。そのカメラをきっかけとして色々なコミュニティに参加しながら人間関係を広げていきました。
その中で、知り合いから企業のブランディングを得意とする広告代理店を紹介してもらい、業務委託としてWEB制作に携わっていました。

フィールドワークで訪れたフィンランドにて、撮影した写真を確認する様子

そうしている間に大学三年生になり、周りは就職活動を始めていました。
一方、僕は卒業後に知り合いの仕事を手伝おうと考えていたため、特に何もしていませんでした。

しかし、大学四年生の春にその話が流れてしまい、これにはすごく焦りました。
インターンシップ・WEBテスト・OB訪問など、いわゆる就活の準備は本当に何もしていなかったので。

また、企業と学生の間に“力関係”が見え隠れする就職活動に苦手意識がありました。
企業から内定を獲得するために学生が自分を取り繕うのではなく、もっと企業と学生が同じ目線で対話し理解し合えればいいのに、と。
そんな気持ちを抱えていたので、「今から遅れを挽回しよう!」というほど一生懸命に就職活動をする気にも正直なれませんでした。

「東京ガスに興味がないあなたへ」というコピーを見て、「自分のことだ」と思った

 
そんなときに出会ったのが東京ガスでした。
ある日、SNSを見ていると「東京ガスに興味がないあなたへ」という広告が目に飛び込んできました。
キャッチコピーを見て「これ、自分のことだ」と狙い撃ちされた気がしました。 東京ガスに興味がない人の方が多いはずなので、当たり前と言えば当たり前なのですが(笑)。

就職活動では最初から志望動機を求められる企業が多い中「東京ガスに興味がなくてもいい」という学生のありのままを受け入れようとする東京ガスの姿勢に興味を持ち、応募してみることにしました。

―東京ガスではどのような選考を受けたのですか。

僕が受けたのは「フリースタイル採用」という、プレゼン形式での選考でした。
志望動機を聞かれるわけでもなく、着飾ることなく自分の想いをぶつけることができた選考は僕にとって初めてでした。
選考時に「蒔苗くんのブログ読んだよ」と声をかけてくれる面接担当社員の方もいて、最後まで堅苦しい雰囲気が無かったのを覚えています。

それまで就職先として東京ガスという選択肢を考えたことはありませんでしたが、東京ガスというフィールドで人々の生活を支える仕組みを作れるというのは、もともと情報政策などの公共分野に興味があった自分にとっては面白いかも、と思うようになりました。

東京ガス以外にも内定をいただいた企業はあったのですが、最終的には最も自然体で選考に臨むことができた東京ガスに入社することを決めました。

「選ばれて当たり前」の時代が終わった今、デザインやデジタルの力が必要になる

 
―東京ガスに入社後はどのようなことに携わられたのですか。

最初に配属されたのは、会員サイトを運営するチームでした。
お客さまからのお問い合わせ対応・新機能の拡充・既存機能の改善・キャンペーンの企画・他社とのアライアンスなど、会員サイトに関わることはほとんどすべてが業務範囲でした。
ガス・電力小売の全面自由化によって誰でも自由にガス会社や電力会社を選べる時代になったからこそ、お客さまの声にきちんと応えられる会員サイトを作りたいという気持ちで取り組んでいました。

社内コンペで1位になり、1日だけ部長席で仕事をした日の一枚

その後、入社四年目となった2020年に部署を異動し、現在はカスタマーソリューションの業務改革を行うプロジェクトでDX推進を担当しています。
今まで訪問や電話で行っていたサービスをWEB上でも提供できるようにし、お客さまの利便性向上に繋げることが目的です。

DX推進はこれからの東京ガスのサービスの根幹に深く関わる内容ということもあり、経営層とも近い距離で仕事ができます。
東京ガスという大規模な企業で、僕のような若手社員が社長や役員に直接プレゼンできるというのは意外でしたし、貴重な経験ができていると感じます。

―今後はどのようなことに取り組んでいきたいですか。

公共性の高い領域でデザイン思考やデジタル技術を活用していきたいです。
先ほどお話しした通り、入社して三年間は会員サイトというお客さまの目に触れる「表側」を担当していました。

そして今は、カスタマーサービスのDX推進のために、オペレーションといういわば「裏側」を再構築する仕事をしています。
それらの経験を踏まえた上で、今後は表裏一体となったブランドデザインを行っていきたいと考えています。

「選ばれて当たり前」だった時代がエネルギー自由化によって終わった今、数あるエネルギー会社の中から東京ガスを選んでいただくために必要なものを整えていきたいですね。

正直に言うと、入社当初は五年ぐらいで結果が残せれば、次のキャリアに進むことを考えていました。
ところが、入社当初に思い描いていた結果はまだ出せておらず、また、思った以上に今の仕事にハマってしまい、他社に負けないより良いサービスをお客さまに提供できるように継続して頑張りたいという気持ちが強くなっています。

無理に自分をとり繕わない「愛されるバイキンマン」という役割

 
―最後に、これからのキャリアを考える人に向けたメッセージをお願いします。

どの企業に入るのかということももちろん重要ですが、僕は企業への「入り方」も重要だと考えています。

東京ガスは、フリースタイル採用を通じて「従来の東京ガス社員が持ち合わせていない、魅力的な個を持つ人を採用する」と掲げており、いわば“異質”の人材であってもありのまま受け入れてくれる風土があります。
そのような中で、僕は選考を通じて最も素の自分を出すことができた東京ガスにフリースタイル採用という入口で入社することを決めました。

自分をとり繕ったまま企業に入社していれば、きっと後で苦しい思いをしていたことでしょう。

また、入社後のイメージを持つことも重要だと思います。例えば僕は「愛されるバイキンマン」になることを目標にしています。
組織の一員として日頃のチームワークは大切にしつつも、企業の成長という観点で「違う」と思うことがあれば、会社にとって耳の痛いことでもしっかりと正面から伝える。
例えるなら、ワクチンのように弱い毒を注入する役割です。
いきなり強い毒を注入すると追い出されてしまいますが、弱い毒は企業に免疫をもたらし、外敵から守ってくれます。

これはあくまでも一例ですが、無理に自分をとり繕わずに、ご自身がどのようなキャリアを歩んでいきたいのかを考えてみてはいかがでしょうか。
 
 
 

インタビュアー:アイルーツ+(プラス)編集部 小笠原寛

1999年上智大学 経済学部 経営学科 卒業。
新卒採用責任者他、様々なHR事業経験を積む中で、本音の大切さを実感。
2012年にirootsに参画し、「学生と企業の本音フィッティング」に従事する。
横浜市生まれ、現在は岐阜県関市に在住し、自然と人との対話に耳を傾ける日々。

文・編集:アイルーツ+(プラス)編集部 西村恵

2015年にエン・ジャパンの子会社である人材系ベンチャーに中途入社。
2018年にエン・ジャパンに転籍後、新卒スカウトサービス「iroots」の企画として、
ミートアップやメディアの運営、記事のライティング・編集に携わる。
趣味は映画鑑賞・美術館めぐり。