今回お話を伺ったあの• •

久野 慎弥(ひさの・しんや)
富士通株式会社/グローバルマーケティング本部/CMOマネジメント部

近畿大学卒。新卒で富士通に入社後、金融部署での営業を担当。入社7年目には海外研修でシリコンバレーへ。現地で市場調査などを経験したのち、新規事業の立ち上げを行うグローバルマーケティング本部未来共創センターの立ち上げメンバーとして参画。現在は社内のDX推進プロジェクトを担当。また、社内の300名を超える若手中堅層向けのコミュニティを運営している。

学生のうちから“自立”を求められるアメリカのカルチャーに衝撃を受けた

 
―現在の久野さんのご活躍を紐解くために、まずはルーツについて教えてください。

小、中、高とずっとサッカーをやっていました。
コツコツと努力を積み重ねるのは苦ではなかったですし、点を取ってチームに貢献できたときは何よりも嬉しかったです。
ただ、プロになるのは難しいだろうなと思っていたので、サッカーはあくまでも“熱中できるもの”という位置付けでした。

人生のターニングポイントになったのは、高校2年生で経験したアメリカ留学でした。
私が通っていた高校では10ヶ月間のアメリカ留学制度があったので、高校2年生から3年生まではアメリカの高校に通っていました。

向こうで一番カルチャーショックを受けたのは、学生であっても“自立”を求められることでした。
例えば、向こうの学校では朝礼に出る・出ないは本人の意思で自由に決めていいんです。
でも、出席しないことで必要な情報が得られなかったとしても、それは自己責任であって、「情報が欲しいのであればきちんと自己主張しなさい」というのが向こうのカルチャーでした。

ずっとサッカーをやってきたこともあり、当たり前のように協調性を大事にしていた私からすると、それは衝撃的なことでした。
この経験から、自分の視野がぐっと広がった気がしました。

留学生支援の企画を通じて、はじめて“目的思考”に触れた

 
―大学ではどのように過ごされていましたか。

高校時代の留学経験をきっかけに、高校生の留学支援を行うAFSというボランティア団体に入りました。
自分が留学した際にオリエンテーションを行ってくれた人たちがとてもかっこよく印象に残っていたので、その憧れが大きかったのかもしれません。

これをきっかけに、“熱中できるもの”がサッカーから留学支援に変わりました。

AFSでの主な活動は、高校生を対象にした交換留学の説明会や、高校生と留学生の交流イベントを企画・運営することでした。

ただ語学力を身につけたいのであれば、海外に行かなくても勉強できます。
それでもわざわざ現地に行く理由ってなんだっけ?ということを、説明会やイベントを通じて高校生に考えてもらいたいと思っていました。
しかし、そのためにはまず私たちがそれについて考えておかないといけません。

参加した高校生に、どんなことを感じ、考えてもらいたいか、そのために自分たちは何を提供すべきなのか、ということを徹底的に議論しました。
これが“目的思考”というものにはじめて触れた瞬間でした。

ときにはファミレスで夜通し議論することもあり(苦笑)、精神的にも体力的にも大変なこともたくさんありましたが、イベントを通じて自分たちの意図がしっかりと伝わったときには、何にも変えられない感動とやりがいを感じました。

“学歴フィルター”を意識しすぎて空回り。“手札”が0になってしまった

 
―その後、就職活動を経て富士通に入社された経緯を教えてください。

AFSでの活動を通じて企画の面白さを知ったので、何かを生み出して社会に大きなインパクトを与えられる仕事がしたいと思っていました。

そこで、名前を知っている有名企業に片っ端からエントリーしたのですが、これがなかなかうまくいかず…。

当時の私は就職活動の中で“学歴フィルター”の存在を強く意識していたので、「自分は他大学の学生よりも優秀だとアピールしなければいけない」と気構えすぎていたのかもしれません。
それが悪い方に作用してしまい、いつも最終面接で不合格になっていました。
5月にいわゆる“手札”がすべてなくなってしまったときには、かなり落ち込みました。

富士通であれば、“商品”ではなく“自分”で勝負できる気がした

 
―そこからどのように行動されたのですか。

もう少し視野を広げ、今まであまり見ていなかったBtoB業界も調べるようになりました。
すると次第に、“商品”ではなく“サービス”で勝負するBtoBの世界に興味を持つようになりました。

その中で、当時ソリューションビジネスを通じた経営課題解決を掲げていた富士通に出会い、ここであれば“商品”ではなく“自分”で勝負できるのではないかと思いました。
「学歴ではなく自分を見てほしい」と強く思っていた私には、すごく合っているような気がしたんです。

同じ頃に友人から「気負いすぎず、もっと素直に話せばいい」というアドバイスをもらい、富士通の選考は等身大の自分で臨んだ結果、無事に内定をいただきました。

富士通の同期たちと

当初“金融”のイメージはいまいち。でも、「経済の血液」と呼ばれる理由を知った

 
―富士通に入社後はどのようなことに携わられたのですか。

最初は金融の部署に配属され、クレジットカード業界の営業を担当していました。
正直、就職活動を行っていたころは金融業界のビジネスモデルがあまり好きではありませんでした。

しかし、いざ金融業界のことを勉強してみると、「経済の血液」と呼ばれる通り、金融が世の中のすべてのビジネスを動かす重要な要素になっているのだと実感しました。
入社一年目にそれを学ぶことができたのは大きかったですね。

当時は“キャッシュレス”という考え方が世の中に広がり始めたころで、金融だけでなく流通・小売でもキャッシュレスが取り入れられるようになりました。
それと同時に富士通も新たなキャッシュレスソリューションの開発を始めたので、新たな市場を開拓するべく日々営業を行っていました。

海外研修でシリコンバレーへ。ギブアンドテイクの精神を学んだ

 
金融の部署で6年間営業を経験したのち、入社7年目のときにシリコンバレーでの海外研修に2ヶ月間参加しました。
この研修は将来の駐在員候補を育てることを目的としており、海外での仕事に興味を持っていた私は、上司からの推薦を受けて立候補しました。

向こうでの主な仕事は市場調査で、さまざまなスタートアップを訪問し、その技術を日本に伝えるというものでした。
そしてその中から富士通とうまくシナジーを生み出せそうな企業とパートナーシップを結ぶことが最終的な目的でした。

―シリコンバレーで最も印象的だったことはなんですか。

シリコンバレーの人たちは時間をとても大切にするので、時間に対する感覚は一気に変わりました。

彼らは「この一時間で何ができるのか?」ということをすごく考えているので、「とりあえず会って話しましょう」と連絡をしてもだめなんです。
時間をもらう代わりに、こちらも何かを提供することが必ず求められました。
すべてにおいてギブアンドテイクの精神が大切だということを学ばせてもらいましたし、帰国してからもそれは変わらず意識しています。

シリコンバレーにて。Plug and Playというスタートアップ支援施設から大きくなった企業の一覧

帰国後、新規事業立ち上げ部署へ。富士通の技術に新たなアイデアをプラスする

 
―帰国されてからの歩みについて教えてください。

グローバルマーケティング本部未来共創センターという部署に、立ち上げメンバーとして異動しました。
一言で言えば、新規事業を作る組織です。

今までは営業としてできあがったサービスを販売していたので、そのサービスがどのような工程で作られたのかということはまったく知りませんでした。
なので、市場調査から始める新規事業の立ち上げは、私にとってとても新鮮なものでした。

未来共創センターでは、富士通がすでに持っている技術を生かしつつ、新しいアイデアと組み合わせたソリューションを考える、ということを日々行なっていました。
実際、新しいアイデアから生まれた他の企業とのコラボ商品も発売されました。

未来共創センターの立ち上げチーム

現在はDXプロジェクトを担当しており、社内のマーケティング領域におけるDX推進を支援しています。
DXをどのようにしてマーケティングに取り入れれば、富士通がより成長していくのかということを現場社員と一緒に考えています。

また、本業と並行して社内の300名を超える若手中堅層向けのコミュニティを運営し、イベント企画・交流を行っています。

やりたいことの大半は社内に転がっている。それを知らないまま富士通を去ってほしくない

 
―何故そのコミュニティ運営に携わろうと思ったのですか。

優秀な若手が「やりたいことができない」「目標とする人がいない」という理由で辞めていくことがすごくもったいないと思っていたからです。

実は私も同じように悩んだ時期がありました。
入社して数年経ち、仕事に慣れてくると、「あれ、自分のキャリアってこのままでいいんだっけ」と立ち止まってしまったのです。

そんなときにこのコミュニティに参加し、さまざまな部署の人と話をしたときに、今まで自分が見ていたのは富士通の“ほんの一部”だったことに気づきました。
もっと広い視野で社内を見渡すと、やりたいと思っている仕事の大半は社内に転がっていますし、目標となるようなすごい社員もたくさんいます。
なんせ、国内だけでもおよそ3万人が働いている企業ですから。

ただ、それを知る機会がないだけ。
そこで自分もコミュニティを運営する側として参加し、自分と同じような悩みを持つ社員の手助けができればと思いました。
若手社員が一人で悩み、早々に富士通を去ってしまう前に、このコミュニティを通じて“熱中できること”を見つけてもらえたら嬉しいです。

やりたいことがあれば、とにかく“主張”し続けること。そんなあなたをきっと誰かが見てくれる

 
―最後に、これからキャリアを考える人に向けたメッセージをお願いします。

興味のあることや好きなことは、とにかく“主張”し続けてほしいなと思います。

実際私がシリコンバレーに行けたのも、「海外に行きたい」とことあるごとに言っていたのがきっかけです。
仕事を振り分ける人の立場になってみても、何に興味があるかわからない人より、「◯◯がしたい!」と日頃から主張している人の方がお願いしやすいですしね。

「この環境だからできない」なんて一人で諦めずに、主張し続けていきましょう。
そんなあなたを、きっと誰かが見てくれています。
 
 
 

インタビュアー:アイルーツ+(プラス)編集部 小笠原寛

1999年上智大学 経済学部 経営学科 卒業。
新卒採用責任者他、様々なHR事業経験を積む中で、本音の大切さを実感。
2012年にirootsに参画し、「学生と企業の本音フィッティング」に従事する。
横浜市生まれ、現在は岐阜県関市に在住し、自然と人との対話に耳を傾ける日々。

文・編集:アイルーツ+(プラス)編集部 西村恵

2015年にエン・ジャパンの子会社である人材系ベンチャーに中途入社。
2018年にエン・ジャパンに転籍後、新卒スカウトサービス「iroots」の企画として、
ミートアップやメディアの運営、記事のライティング・編集に携わる。
趣味は映画鑑賞・美術館めぐり。