グローバルな環境での成長を求める学生の中で、短期的な留学だけでなく“海外大学への進学”という選択肢も増えつつあります。
コロナ禍によって国を跨いだ移動の制限が続くものの、就活がオンライン化したことによって海外大生と日本企業の距離はむしろ縮まったと言えます。“海外大学への進学”という大きな決断をした学生は、どんな理由でその選択肢を選び、何を学び、どこを目指すのか。

今回は東京農工大学を経て国立台湾大学の院へ進学し、2022年秋に日系コンサルティングファームへ就職予定の藤本晃士さんにお話を伺いました。

気になる海外での大学生活や就職事情についても本音・ありのままでお話いただいているので、今まさに海外でチャレンジしている人や、これからチャレンジを考えている人はぜひご覧ください。

高校時代の海外経験から、“知らないことを知る”面白さに気づいた

 
 
―最初に自己紹介をお願いします。
 
 
藤本晃士です。東京農工大学で4年間学んだ後、国立台湾大学の院へ進学しました。院では農業経済学を専攻しており、現在は修論の作成に追われています…(苦笑)。2022年の秋に日系コンサルティングファームに就職予定です。
 
 
―大学時代タイにも留学されていたとのことですが、もともと海外に興味があったのですか。
 
 
そうですね。自分の通っていた高校が「将来の起業家を育てる」という目的のもと、留学や国際交流に力を入れている学校でした。そこでアメリカでの研修やマレーシアへの修学旅行を経験し、それぞれの国のスケールや文化の違いに圧倒され、“知らないことを知る”面白さに気づきました。

その経験から「大学に入ったら絶対海外に留学しよう」と決めていたので、大学3年生の後期からタイのカセサート大学の農学部に留学しました。

現地では授業の他に、研究機関でのインターンや農村地域でのボランティア、ムエタイジムでのトレーニングなど、半年の間で濃密な時間を過ごしました。
 

一から大学院を探すのであれば、海外という選択肢があってもいい

 
 
―その後帰国されて、台湾の大学院に進んだ経緯について教えてください。
 
もともと院に行く予定はなかったので、帰国してから就活を始めました。しかし仕事を通じて達成したい明確な目標が定まっていなかったこともあって、納得のいく結果が得られず…。

そこで研究を通じて目標を見つめなおすべく院へ進学しようと思ったのですが、研究室の教授が退職することになってしまいました。そのときにタイでの留学経験を思い出し、「どうせ一から大学院を探すのであれば、海外という選択肢があってもいいのでは」と思い、大学院留学の道を模索し始めました。

その中で、私の研究テーマが「地方創生と人口減少」だったことから、アジア圏・民主主義・人口減少が進んでいるという日本と似た条件を持つ台湾に興味を持ち、「ここであれば日本と似たような条件で研究ができるのではないか」と考えました。
また、話者人口の多い中国語を学んでみたいと思っていたことも決め手となり、国立台湾大学への進学を決めました。
 

英語が通じると思っていたのに…驚きに満ちた台湾での生活

 
 
―台湾での大学生活はいかがでしたか。
 
 
台湾に行って驚いたことが2つあります。一つはすごく暮らしやすいこと。タイでは衛生観念の違いにかなり苦労したのですが、台湾と日本の衛生観念は非常に似ていて、どこへ行っても快適に過ごすことができました。

もう一つ驚いたのは、意外と英語が通じないこと(苦笑)。台湾は英語が通じるから中国語が話せない自分でも何とかなるだろうと思っていたのですが、これが全然違っていて…。授業は英語だったので何とかなっていたものの、普段の生活では中国語を使うことが圧倒的に多かったので、最初のころは四苦八苦しました。

大学院では農業経済学を学びつつ、授業料を稼ぐためにNPOや台湾企業でのインターンやアルバイトなども行っていました。中国語がわからないのに大学の受付アルバイトで電話番を任されて、冷や汗をかきながら「请稍候(待ってください)!」と連発したことも良い思い出です(笑)。

中山間地域でのボランティアの様子

台湾でのインターンを通じて、今の自分の価値は“日本人であることだけ”だと痛感

 
 
―就活について教えてください。
 
 
台湾企業で日本語を使ったSNSマーケティングのインターンをしていたのですが、そのときに今の自分の価値は“日本人であることだけ”だと痛感しました。将来はグローバルな環境で働きたいという想いはあるものの、それを実現するには専門的知見と経験が必要ですし、「地方創生を推進したい」という目標もあったので日本での就職を決めました。

就活を始めてからは「地方創生のDX化」を軸に、ITやコンサル系企業に15社程度エントリーしました。就活を始めたころには新型コロナウィルスの影響で国外への移動が制限されていたため、選考はすべてオンラインで参加しました。

インターンシップのcertification ceremonyにて
 
―大学時代の就活と比べ、心境の変化などはありましたか。
 
 
将来の目標が明確になったことで、「何故その企業を選んだのか」ということが本音で言えるようになったのが一番大きな変化でしょうか。大学時代はナビサイトに載っている人気企業をただ上から順番に受けていくような就活をしていたため、自分の言葉に想いが乗っていませんでした。面接官の方にもきっとそれが伝わっていたんだと思います。

その経験から2回目の就活は企業研究にかなりの時間をかけ、心から「この企業に入りたい」と思えるところにだけエントリーしました。するととんとん拍子に選考が進むようになり、結果5社から内定をいただくことができました。

その中で地方創生のDXに携わり続けていくキャリアを考えたときに、自分がやりたいことができるリソースがあること、早いうちからその分野に携われること、そしてグローバルに活躍できるフィールドがあることを理由に、日系コンサルティングファームへ入社を決めました。
 

1〜2年回り道してもいい。 今は海外に行けなくても、焦らずやりたいことを模索して

 
 
―海外での経験を振り返って、もっとも大きな収穫はなんでしたか。
 
 
自分との違いを受け入れる受容度はかなり高まったと思います。タイにはさまざまな国の人が集まっていましたし、台湾ではルームメイトがムスリムのインド人だったので、最初のころはストレスを感じることもたくさんありました。大学内で待ち合わせをしている際に突然「今からモスクで祈らないといけない」と言われて「遅刻しちゃうじゃん!」と焦ったことも…。

でもどちらが正しいということではなく、育ってきた環境や文化による違いだということが徐々に理解でき、受け入れられるようになってからはあまり気にならなくなりました。ルームメイトとも当初はかなり色々ありましたが(苦笑)、お互いの価値観を理解しながら上手く線引きして今も一緒に暮らしています。
 
 
―最後に、これから海外でチャレンジしたい学生へメッセージをお願いします。
 
 
「とりあえず海外に行く」のではなく、「自分のやりたいことから逆算して場所を選ぶ」ということを大事にしてほしいです。

海外に行くと選択肢が増える分、中には目的を見失ってしまう人もいます。海外のキラキラしたイメージだけに憧れて意思決定してしまうと、後悔することになるかもしれません。

そして海外でやりたいことがある人は、学生のうちに留学、インターンなど長期で海外に滞在することをおすすめします。今はコロナの影響で行きたくても行けないと焦る人もいるかもしれませんが、例えば休学や大学院という選択肢をとって1〜2年ぐらい回り道をしても焦ることはありません。むしろ日本では得られない一生の宝となる経験が得られること間違いなしです。

私も大学時代に就活を辞めて一度海外を経験するという選択をしましたが、結果自分を見つめなおすかけがえのない期間を得られました。焦らず、長い目でやりたいことを模索し、皆さんにしか歩めない道を見つけられることを祈っています。
 
 
 
 

インタビュアー:アイルーツ+(プラス)編集部 周恬(シュウ テン)

2010年中国で高校卒業後に来日。上智大学卒業後大手小売会社に新卒入社。
社会人3年目にエン・ジャパンに転職。猫とうさぎの三人暮らし。趣味は漫画と映画。最近はピラティスに夢中。
 

文・編集:アイルーツ+(プラス)編集部 西村恵

2015年にエン・ジャパンの子会社である人材系ベンチャーに中途入社。
2018年にエン・ジャパンに転籍後、新卒スカウトサービス「iroots」の企画として、
ミートアップやメディアの運営、記事のライティング・編集に携わる。
趣味は映画鑑賞・美術館めぐり。