グローバルな環境での成長を求める学生の中で、短期的な留学だけでなく“海外大学への進学”という選択肢も増えつつあります。
コロナ禍によって国を跨いだ移動の制限が続くものの、就活がオンライン化したことによって海外大生と日本企業の距離はむしろ縮まったと言えます。“海外大学への進学”という大きな決断をした学生は、どんな理由でその選択肢を選び、何を学び、どこを目指すのか。

今回はマレーシアとオーストラリアの大学で観光学について学び、2023年春に大手小売業界へ就職予定の村嶋美乃里さんにお話を伺いました。

気になる海外での大学生活や就職事情についても本音・ありのままでお話いただいているので、今まさに海外でチャレンジしている人や、これからチャレンジを考えている人はぜひご覧ください。

「グローバルな視点から観光について学びたい」。多国籍・多文化の国、マレーシアへ

 
 
―最初に自己紹介をお願いします。
 
 
村嶋美乃里です。日本の高校を卒業後、マレーシアのヘルプ大学に進学し、2年間観光学について学んでいました。大学3年次からはオーストラリアのグリフィス大学へ編入し、2022年の12月に卒業予定です。日本での就活を経て、2023年の春からは大手小売企業に入社予定です。
 
 
―村嶋さんのルーツについて教えてください。
 
 
「将来に備えて英語が話せる人になってほしい」という両親の教育方針により、2歳から英語を習い始めました。その後、小学校と高校時代にそれぞれ2週間カナダとオーストラリアに留学したこともあったので、幼い頃から海外や英語に触れる機会は多かった方だと思います。
 
 
―日本の高校を卒業後、海外の大学を選んだ理由について教えてください。
 
 
高校で進路を考えるとき、周りの友人たちが明確な目標に向かって歩き出そうとしている一方で、自分の目標が見つかっていないことに焦りを感じていました。しかしこのまま漠然と大学に進学してはいけないと思い、再度自分がやりたいことを考えてみたときに、自分の趣味である旅行や観光についてもっと学びを深めたいと思いました。

そして、国同士で自由に行き来ができる現代においてはグローバルな視点から観光学について学んだ方が良いだろうと考え、海外大学の中でも比較的学費が安く、多国籍・多文化であるマレーシアを進学先として選びました。

幼い頃から英語を習っていたとはいえ、語学力にはまだ不安があったので、入学までの6ヶ月間は大学付属の語学学校に入学し、その後ヘルプ大学に入学しました。

懇意にしてもらった担当教授との1枚

お互いの違いをリスペクトし合っている人々を見て、視野が広がった

 
 
―マレーシアでの大学生活はいかがでしたか。
 
 
それまでマレーシアに関する知識はほとんどなかったので、正直行く前まではシンガポールの上にあるジャングルみたいな場所だと思っていて…(苦笑)。しかしいざ行ってみると都心部は日本の都心と変わらないぐらい発展していて、とても驚きました。

感銘を受けたところでいうと、マレーシアにはイスラム教やヒンドゥー教、キリスト教などさまざまな宗教を信仰する人たちが集まっており、お互いにリスペクトしあっている姿がとても素敵だと思いました。日本ではお互いの宗教について話し合ったり考えたりすることがなかったので、多様な価値観に触れ、自分の視野を広げることができました。

グループプレゼン発表後のクラスメイトと

オーストラリアの大学へ編入…のはずが、“留学してない留学生”に

 
 
大学入学後、最初の1年は統計学やマーケティング、アカウンティングなどビジネスに関わる幅広い領域について学び、2年次からは観光学について学びました。

一方で、いつかは先進国でも学んでみたいという気持ちもあったので、3年次からは観光業が盛んなオーストラリアのゴールドコーストにあるグリフィス大学へ編入することを決めました。

観光学についてもっと学びたいという気持ちが強かったのはもちろんですが、正直なところマレーシアの大学を卒業したというステータスが将来社会でどのような評価を受けるのかわからなくて…。

もともと先を見通して行動を決めたい性格だったので、将来の選択肢を増やすためにもマレーシア以外の国を経験してみようと思い、オーストラリアへの渡航を決めた…はずだったのですが、実はコロナの影響でオーストラリアのキャンパスには一度も通えませんでした。

オーストラリアに編入するまでのブランクの期間は日本に一時帰国していたのですが、コロナによって私が編入学する時点ではオーストラリアが新規ビザを発行しないこと、そして大学が出来うる限りオンラインで授業を進める方針だったため、日本でオンライン授業を受けることにしました。
 
 
―オーストラリアに行けなくなったのはかなり残念だったのではないですか。
 
 
そうですね。確かに現地でしか体験できないことを実現出来なかったことは残念に思う気持ちはあります。実際に私もマレーシアに行く前は、海外での学生生活は華やかな生活と思っていました。しかし、実際にマレーシアに行ってみると生活環境への順応や大学での勉強について行くためには人一倍の努力が必要だと感じました。

また同じような思いをオーストラリアでもしないといけないのか…という気持ちがあったのですが、オーストラリアに渡航しないことが決まったことで、渡航できないことを逆にプラス(前向き)に考えられるようになりました。

例えば、渡航するとやはり生活環境への順応に対するストレスを感じるところを、実家から授業を受けられるのでストレスを感じずに済むであったり、キャンパスでの授業のために早起きしたりせず、授業直前まで寝ていられるなど(笑)。

日本にいることでより、勉学へと集中できる環境にいれたことは私にとってとても重要でした。

また、“留学していない留学生”というのはあまりいない存在だと思うので、それだけ自分は希少な経験ができたのだ、と今ではポジティブに捉えています。
 
 
―オーストラリアとマレーシアで大学生活にギャップはありましたか。
 
 
一番大きくギャップを感じたのは、英語力です。

マレーシアは英語が第一言語ではないので訛りや話すスピードに関しては聞き取りやすかったのですが、オーストラリアは全然違いましたね…。先生や友人の中には訛りの強い人もいればとんでもなく話すスピードが速い人もいるので(苦笑)、「これがネイティブの国か…!」と衝撃を受けました。

積極的にコミュニケーションは取るようにしていたものの、慣れるまでには数週間かかりました。

あとはグループワークなどの課題に取り組むときは、各々が違う国にいるので時差に悩まされましたね。こちらが連絡しても全然返事がなかったり、逆に寝ているときに連絡が来て起こされたり…。そのぶん自分でスケジュールを引いてメンバーへの呼びかけやリマインドを積極的に行うようになったので、タスクの進行管理スキルは上がったと思います。
 

“長く働く”という視点から考えたときに、海外という選択肢はなかった

 
 
―就職活動について教えてください。
 
 
就活を始めたのは2021年の4月ごろです。海外での就職はまったく考えていなかったため、iroots、ナビサイト、海外大学生向けのイベントフォーラムで就活を行っていました。

海外での就職を考えていなかった理由としては、自分は働く上で何をストレスだと感じるか?と考えたときに、日本に比べて緩やかな時間感覚を持つ海外の環境は自分に合わないだろうなと思ったからです。

先ほどもお話しした通り、私は先のことを見通した上で行動したい性格なので、締め切りや時間がちゃんと守られないとイライラしてしまうことがあって…。なので、長く働くためにはできるだけ自分がストレスのかからない環境で働けた方がいいだろう、という考えから日本での就職を決めました。

他の人はやりたいことから働く場所を決めることが多いのかもしれませんが、私の場合は「これは合わない」ということから逆算して考えた結果が日本でした。
 
 
―就活ではどのような業界を見ていましたか。
 
 
マレーシアで日本人留学生のメンターをやっていた経験から、“人の挑戦をサポートしたい”という軸を持っており、コンサルやホテル、エンタメ業界などを見ていました。コンサルは新しいことに挑戦する企業や個人を応援できますし、ホテルやエンタメは安らぎや喜びを提供することによって、「明日からも頑張ろう」と思える人を増やせると考えていたからです。

その中で内定先である大手小売企業に出会い、留学時代につらかったときも家に帰ればほっとできた気持ちを思い出し、快適な空間を提供することで人の挑戦をサポートできるのではないかと思い、選考を受けた結果、無事内定をいただきました。

海外にも店舗を持っている企業なので、入社後は留学経験を活かして海外店舗で働いたり、商品企画にもチャレンジできればいいなと思っています。

就活を振り返ってみると、就活時は日本にいたもののいつオーストラリアへ渡航するかわからない状況が続いていたので、場所にとらわれずオンラインで就活が完結したことはとてもありがたかったです。

また、空いた時間を活用してさまざまな企業の説明会に参加しやすいのもオンライン就活ならではのメリットだと思いました。
 

やろうという気持ちさえあれば、それをすくいあげてくれる人は必ずいる

 
 
マレーシアでの大切な親友達
 
―最後に、これから海外でチャレンジしたい学生へメッセージをお願いします。
 
 
コロナ禍だからこそ、余計に海外に行きたいという気持ちが先行してしまうかもしれませんが、焦りすぎる必要はないと思います。今はなんでもオンラインでできる時代なので、その利点を大いに活用し、私のように“留学していない留学生”になるのも一つの選択肢ではないでしょうか。

私もオーストラリアに行けなかったときには「このままでは十分な経験が積めないまま学生生活が終わってしまうのではないか」と不安に感じましたが、日本にいながらインターンとしてオンラインで海外の人たちと一緒に働いていました。

もちろん海外に行ってその国の文化に触れることもすごく大事ですが、コロナ禍だからと言って全部を諦めてしまうのはとてももったいないです。やろうという気持ちさえあれば、それをすくいあげてくれる人は必ずいます。失敗を恐れず、できることからチャレンジしてみてください。
 
 
 
 

インタビュアー:アイルーツ+(プラス)編集部 周恬(シュウ テン)

2010年中国で高校卒業後に来日。上智大学卒業後大手小売会社に新卒入社。
社会人3年目にエン・ジャパンに転職。猫とうさぎの三人暮らし。趣味は漫画と映画。最近はピラティスに夢中。
 

文・編集:アイルーツ+(プラス)編集部 西村恵

2015年にエン・ジャパンの子会社である人材系ベンチャーに中途入社。
2018年にエン・ジャパンに転籍後、新卒スカウトサービス「iroots」の企画として、
ミートアップやメディアの運営、記事のライティング・編集に携わる。
趣味は映画鑑賞・美術館めぐり。