今回お話を伺ったあの• •

鈴木聡一郎(すずき・そういちろう)
外務省/経済局政策課/課長補佐

東京大学法学部卒。海外経験がなかったものの、“人”の魅力に惹かれて外務省へ入省。入省後は北米第一課、アメリカの大学院への留学、在米国大使館の広報文化班など一貫して対米国外交に携わり、現在は経済局政策課のサミット班としてG7やG20などの主要国首脳会議(サミット)に関する外交政策を担当している。

幼い頃から、今世界でどんなことが起こっているのかを知りたかった

 
 
―現在の鈴木さんのご活躍を紐解くために、まずはルーツについて教えてください。
 
 
幼い頃から本を読むことが好きだったので、外では友人と遊んで家に帰ってからは大抵本を読んで過ごしていました。その中でも特に歴史の本が好きで、「ローマ人の物語」というローマ帝国の歴史に関する本を小学校高学年ぐらいから読んでいるような、今思えば少し渋い子どもでしたね(笑)。

中学校に入ってからは父と一緒に通学していたのですが、今世界でどんなことが起こっているのかが知りたくて、父の読んでいる新聞を毎日横から読んでいました。

「ローマ人の物語」もそうですが、幼いころから社会や政治、経済において何が起こっているのか知りたいという気持ちが強く、それが自分のルーツになっていると思います。

「社会で何が起こっているのかを知りたい」という気持ちは幼少期から今も変わらない

また私が通っていた中高一貫校では定期的にゲストを招いた講演会を行なっており、そこでさまざまなバックボーンを持つ方のお話を直接聞けたことも印象的な経験でした。

北朝鮮で刑務所に収監されていた脱北者の方、ITの第一線で活躍している卒業生、自身の冤罪を訴えて勝訴した方など、「自分が想像もしていなかった人生を送っている人がこんなにいるのか」と衝撃を受けました。

講演会の他にも、生徒を主体にした予算管理や選挙活動など、自然と世の中の仕組みに関心が持てるような取り組みが導入されており、高校に上がるころにはなんとなく国家公務員や官僚になりたいと思うようになっていました。

でも、今もそうなんですが私は何かを決断するときはかなり慎重になるタイプで…(苦笑)。

本当にその進路が自分に合っているのかを考えるために2〜3ヶ月図書館に通いつめ、国家公務員や官僚についての本を読み漁りました。その結果「やはりこの分野は面白そうだ」という確信を得られたので、受験勉強の末、東京大学の文科一類に入りました。
 

海外経験がないことにコンプレックスを感じながらも、最後には「えいや」で外務省を選んだ

 
 
―大学生活はいかがでしたか。
 
 
将来自分が何をするのかということに関心があったので、法律勉強会という小さなサークルに入りました。

といっても法律を勉強するわけではなく(笑)、いろいろな仕事をしている社会人の方にお会いして話をすることを目的としたサークルで、起業家や裁判官、弁護士、政治家、企業再生のプロの方などさまざまな方とお会いしました。

そのお話をお伺いするうちに政治ではなく法律という選択肢もありなのではないかと思い、大学3年生になってからは法学部に入りました。でも結局いろいろな授業を受けて一番胸が高鳴ったのは政治、外交系の授業でしたね。

特にヨーロッパ政治史をすごく楽しそうに話してくれる先生がいて、私もその授業がすごく好きになりました。幼いころから持っていた「世界で何が起こっているのかを知りたい」という気持ちが、その先生と共鳴しあっているような感覚でしたね。
 
 
―就職活動について教えてください。
 
 
大学の授業での経験から、やはり自分は国家公務員になりたいという想いを持つようになったので、いろいろな官庁の説明会に足を運びました。

ただ、当時の私は留学の経験もなく英語が得意なわけでもなかったので、当時は外務省よりも経済官庁を中心に見ていました。外務省は帰国子女の人や「外交官になりたい!」という人が行くところだというイメージがあり、海外経験がないことにも少しコンプレックスを感じていたので、自分は海外畑ではないなと勝手に決めつけていたんです。

とはいえ他の省庁も見るのであればせっかくなので外務省の話も聞いてみようかなという軽い気持ちで説明会に参加したのですが、世界各国で活躍されてきた職員の方のお話を聞いているうちにだんだん引き込まれるようになり…。

うまく表現できないのですが、その人たちから独特の「すごみ」を感じて、30年後に自分がこんなふうになれているイメージがわかないなと思うぐらい、畏敬の念を抱きました。

そこからは外務省にも魅力を感じるようになったものの、本当に語学力のない自分が通用するのかという不安があり、本当にギリギリまで悩みましたね。正直に言うと、別の省庁の方が居心地も良かったですし、自分がそこで働いているイメージも湧きやすかったんです。

でも、ファーストキャリアとして選ぶのであれば自分にとって難易度の高い環境を選んだ方がいいのではないかと思い、最後は「えいや」で決めましたね。本当は石橋を叩いて渡りたいタイプなので(苦笑)、これは本当に悩みに悩んだ決断でした。
 

入省一年目でホワイトハウスからクレームが入り、真っ青になったことも

 
 
―入省後はどのような業務に携わられていますか。
 
 
言語が苦手だからこそ英語に集中できるよう、英語圏の国に関わる課室にしてくださいという希望を出して、北米第一課という対米外交の総合調整を行う課に配属されました。

そこでは日米首脳会談の準備などを行っており、会談を行う場所や移動、食事などの調整をしたり、どんなことを首脳会談で総理から大統領にお話しいただくかなどの資料の作成を行ったりしていました。

特に印象に残っているのは、入省一年目の終わりにミシェル・オバマ大統領夫人が来日する際のプレスを担当したことがあったのですが、日本側とアメリカ側の要望がなかなか一致せず…。まだまだ語学力も足りていませんでしたし、調整の落とし所もわかっていないまま交渉を進めていたので、調整が長引いてしまいました。

その結果、最終的にはホワイトハウス側から外務省の上司にクレームが入ってしまって…。一年目の自分からするととんでもないことをしてしまった、と真っ青になってしまう失敗経験でした。

その後もアメリカの大学院への留学、在米国大使館の広報文化班など一貫して対米国外交に携わってきました。入省6年目ごろにはトランプ大統領訪日の際にプレス担当を任されたのですが、そのころには英語や交渉の経験もある程度積み上がっていたので、一年目の失敗を活かしつつスムーズにクリアすることができました。数年間の努力の方向性は間違っていなかったんだな、と安堵したことを覚えています。

アメリカの大学院修了式での一枚

現在はサミット班としてG7やG20などの主要国首脳会議(サミット)に関する外交政策に携わっています。

安全保障、気候変動、新型コロナウィルスなど世界で起こっているあらゆることについて各国が話し合い、議論をまとめていく中で、私もその交渉現場に立ち会うことがあるので、自分がちゃんと対応しなければ日本にとって不都合な合意内容となってしまうという緊張感を持ち、各国の優秀な外交官の方から日々刺激を受けながら仕事をしています。
 

学生に「肩書き」という色はない。その特権を生かして、いろいろな人に会いにいって

 
 
―今後鈴木さんはどのようなキャリアを歩みたいとお考えですか。
 
 
国を問わずいろいろな人の話を聞き、一人で交渉の場に立たされても国益をきちんと守り、増進していけるように研鑽を積んでいきたいです。サミットの現場にいると、一生学んでも学びきれないぐらい知らないことがたくさんあると感じますし、だからこそいろんな人の知見を借りて相手の話に耳を傾けなければいけないなと感じます。

誰が交渉の場に立つかによって国益に関わる結果が変わってくるので、その責任の重さには身がすくむ思いですが、周りの方からその役割を安心して任せていただけるように学び続けていきたいです。
 

在米国大使館時代の講演の様子
 
―最後に、これからキャリアを考える人に向けたメッセージをお願いします。
 
 
学生時代は自分の人生について考え尽くすことができる貴重な時間なので、自分の可能性を狭めず、多くの人に会って視野を広げることをおすすめします。社会人になるとどうしても肩書きという色がついてしまいますし、時間を取ることも難しくなってしまいます。

学生のうちは無色透明で、誰にでも会える特権があるので、それを大いに活用していろいろな社会人の方に話を聞きに行ってみてください。私もそうだったのですが、お願いすれば意外と多くの方が時間を割いてくれます。

私もまさか海外経験がないのに外務省に入るなんて思ってもいませんでしたが、いろいろな方とお話をする中で視野を広げて今の自分に至りました。「自分は〜〜だから」という先入観にとらわれず、たくさん時間を使って自分の視野を広げていってください。
 
 
 

インタビュアー:アイルーツ+(プラス)編集部 小笠原寛

1999年上智大学 経済学部 経営学科 卒業。
新卒採用責任者他、様々なHR事業経験を積む中で、本音の大切さを実感。
2012年にirootsに参画し、「学生と企業の本音フィッティング」に従事する。
横浜市生まれ、現在は岐阜県関市に在住し、自然と人との対話に耳を傾ける日々。
 

文・編集:アイルーツ+(プラス)編集部 西村恵

2015年にエン・ジャパンの子会社である人材系ベンチャーに中途入社。
2018年にエン・ジャパンに転籍後、新卒スカウトサービス「iroots」の企画として、
ミートアップやメディアの運営、記事のライティング・編集に携わる。
その傍らで現在は芸大に通い、芸術史やデザインについても学び中。