グローバルな環境での成長を求める学生の中で、短期的な留学だけでなく“海外大学への進学”という選択肢も増えつつあります。
コロナ禍によって国を跨いだ移動の制限が続くものの、就活がオンライン化したことによって海外大生と日本企業の距離はむしろ縮まったと言えます。“海外大学への進学”という大きな決断をした学生は、どんな理由でその選択肢を選び、何を学び、どこを目指すのか。

今回は高知工科大学から中国・安徽省の合肥工業大学大学院へ進学し、2022年に日系大手子会社の上海支社に就職予定の松根愛さんにお話を伺いました。

気になる海外での大学生活や就職事情についても本音・ありのままでお話いただいているので、今まさに海外でチャレンジしている人や、これからチャレンジを考えている人はぜひご覧ください。

「いつかは留学したい」。大学1年生から準備を重ね、大学院進学の切符を手にした

 
 
―最初に自己紹介をお願いします。
 
 
松根愛です。高知工科大学でソフトウェアやマルチメディア技術などを広く学んだ後、中国・安徽省の合肥工業大学大学院に進学しました。2022年6月に大学院を卒業し、近いうちに日系大手子会社の上海支社に入社予定です。
 
 
―高知工科大学で学んだ後、中国の大学院を選んだ理由について教えてください。
 
 
私が研究していたコンピュータビジョンの分野で中国はトップクラスに研究が進んでいる国だったというのが大きな理由です。大学に入学したときから「いつかは留学したい」という思いがあり、大学1年生から積極的に国際交流活動に参加したり、留学生寮に住んで英語を学んだりしていました。徳島県出身で大学も高知県だったので、もっと広い世界を見てみたい、他国の文化や人、技術に触れたい気持ちが大きかったんです。教授・教職員、家族、友人等様々な方々の支援のおかげで大学院進学への切符を手にすることができました。

中国を留学先として選んだ理由は大きく分けて3つあります。

まず、私が研究していたコンピュータビジョンの分野で中国の技術がトップクラスに進んでいたからです。毎年たくさんの論文がトップ国際会議にアクセプトされる背景に興味がありました。両親は反対していましたが、最先端の研究を学びたいという熱意を伝えた結果、了承してもらうことができました。

留学後に参加したコンピュータビジョン分野の学術研究会議

次に、修士課程が日本よりも1年長かったからです。日本の修士課程は2年ですが、中国は3年あります。学部生の頃、先輩から日本の修士課程の様子を伺ったとき、入学して半年で就職活動を始めなければいけないことに驚きました。余分に1年あるため、中国で学んだ方が研究活動と就職活動のどちらにも時間を費やせると考えたんです。

そして、給付型の奨学金制度があり、留学費用も安く抑えられるという点も理由の一つでした。アメリカでも研究は盛んですが、学費や生活費など留学にかかる費用が中国と比べるとかなり高いです。将来きちんとした職に就ける保証が無い状態で、借金を作りたくないと考えていたのでかかる費用が少ない点はとても魅力的でした。
 
 

コロナの影響を受け2年で帰国。徳島からオンラインで研究を続けた

 
 
―中国の大学生活はいかがでしたか。
 
 
活気があって、エネルギーに溢れた国だなというのが第一印象でした。中国に行くまでは、現地の人に対して「声が大きくて怒っているように見えるのかな」というイメージを持っていたのですが、みんな優しくて向上心のある人ばかりでした。

両親は治安について心配していたようですが、普通に暮らしている分には危険な目に遭うこともありませんでしたね。キャンパスはとても広く、寮や飲食店、生活用品店など生活に関わるものがすべて揃っており、大学全体が町のようになっていることに驚きました。

合肥工業大学大学院の研究所

中国に行くまで中国語はまったくできなかったのですが、周りは英語を使える人が多かったので生活面で不自由を感じることがあまりありませんでした。ただ、授業はすべて中国語でしたし、修士論文は中国語で発表しなければいけなかったので、授業の予習をしたり周りの友人に質問したりしながら少しずつ中国語を学んでいきました。

周りの友人を見ていると、修士課程の学生は課外活動をほとんどせず、研究に多くの時間を費やしていたように思います。競争が激しいぶん、成果を出さないといけないという意識が日本よりも強いのかもしれません。

また、就職の際に日本では勉強の他にも課外活動などを通じてどんな経験をしてきたのかが重視される傾向にありますが、中国の場合は専攻している学問において何を学んできたかということが重視されるので、その違いもありそうです。

当初は何の疑いもなく卒業まで中国にいるものだと思っていたのですが、留学して約2年が経ったころからコロナが流行しはじめて…。春休みで一時帰国している間に留学生の入国が禁止され、そのまま卒業まで中国に戻ることはできませんでした。  
 
中国に戻れなかったのは残念でしたが、パソコンさえあればどこでも研究を続けられることは幸いでした。そうでなければ休学か退学しか選択肢がなかったと思うので。

オンラインであればチャットで気軽に質問できますし、わからないことがあってもすぐに調べられるので、むしろ成績は中国にいた頃より上がりましたね。
 
 

大量にエントリーして内定は1社。競争率の高い中国の就活事情

 
 
―就職活動について教えてください。
 
 
中国と日本のどちらで就職をするのかまだ決めていなかったので、並行して就活をおこなっていました。

どちらかといえば自分の専門分野における研究が進んでいる中国で就職したいという気持ちが強かったのですが、中国の就活は想像以上に厳しく…。

ほとんどの企業で同じ形式の履歴書を提出できるので、大量の企業にエントリーしましたが、結局内定をいただけたのは1社のみでした。就職の競争率がかなり高いので、日本のように学生の都合に面接日を合わせてくれることもあまりありません。「●月●日に面接に来てください」と突然連絡が来て、その日に都合がつかない場合は不合格扱いになってしまうこともあります。

一方、日本での就活もどの企業に行きたいのかまったく決まっていなかったので、とりあえずirootsに登録してスカウトをいただいた企業の説明会に参加していました。

そうしているうちに就職したい企業の方向性が見えてきたので、それを踏まえて6社にエントリーし、うち4社から内定をいただきました。日本の就活では自分や将来について深く考える機会が多く、今後のキャリアの軸を見つける良いきっかけになりました。

最終的に入社を決めたコンピュータビジョンなどの分野の研究開発をおこなっている日系大手の上海支社には、ビザが発行され次第入社する予定です。

両親は中国で働くことに寂しさを感じているようでしたが、「徳島から東京に行くのも上海に行くのも同じだよ」と言って説得しました(笑)。コロナの影響はまだ心配ですが、上海で多様な文化に触れながら働けることを楽しみにしています。
 
 

きたるチャンスに備えて、今自分ができることを探して

 

 
―最後に、これから海外でチャレンジしたい学生に向けたメッセージをお願いします。
 
 
海外に挑戦することは不安も多いですが、行きたいという気持ちがあるならぜひ行ってみてほしいです。私も中国語が話せないまま留学することに不安はありましたが、まだ若いから失敗しても取り返せるだろうと思っていましたし、もし本当に失敗しても日本に帰って来ればいいや、という心持ちでいました。

ただ、コロナの流行など自分ではどうしようもない問題に直面してしまうこともあるので、他の選択肢を知っておいたり、使えるスキルを増やしたりしておくことが大切です。

私も日本に帰ってきてから、資格を取得したり、他大学のオンライン授業に参加したりしていました。チャンスが来たときに思い切って行動できるよう、今の自分にできる小さな挑戦を積み重ねていってください。
 
 
 
 

インタビュアー:アイルーツ+(プラス)編集部 周恬(シュウ テン)

2010年中国で高校卒業後に来日。上智大学卒業後大手小売会社に新卒入社。
社会人3年目にエン・ジャパンに転職。猫とうさぎの三人暮らし。趣味は漫画と映画。最近はピラティスに夢中。
 

文・編集:アイルーツ+(プラス)編集部 西村恵

2015年にエン・ジャパンの子会社である人材系ベンチャーに中途入社。
2018年にエン・ジャパンに転籍後、新卒スカウトサービス「iroots」の企画として、
ミートアップやメディアの運営、記事のライティング・編集に携わる。
趣味は映画鑑賞・美術館めぐり。