今回お話を伺ったあの• •

吉住渉(よしずみ・わたる)
共同印刷株式会社/技術開発本部/新素材開発推進部

埼玉大学大学院を卒業後、2009年に共同印刷株式会社へ入社。技術開発本部にてセキュリティ領域の開発をおこない、現在は新素材を活用した新規事業立ち上げを担っている。

野球、化学…好きなものをとことん突きつめた学生時代

 
 
―現在の吉住さんのご活躍を紐解くために、まずはルーツについて教えてください。
 
幼い頃から好き嫌いがはっきりしており、好きなことや興味を持ったことにはとことん熱中するタイプでした。

当時好きだったものは二つで、一つは野球です。小学校から高校までの12年間、とにかく勝つことを目標に練習に明け暮れていました。とはいっても体格や才能に恵まれていたわけではなかったので、中学では補欠でしたが、それでも不思議とやめたいとは思いませんでした。高校でも続ける中で「自分には何ができるか」ということをいつも考えレギュラーになることができました。

もう一つ好きだったものは、数学や理科です。正解がはっきりとしているところが好きで、高校に入ってからは特に化学に興味を持つようになりました。逆に国語や英語はまったくだめでしたが…(苦笑)。

ただ、英語は苦手でも海外には興味を持っていました。中学時代に姉妹都市交流プロジェクトに当選し、10日間サンフランシスコへ行ったことがあったんです。

今も新しい技術や素材を探す中で海外のお客様とやりとりをすることがあるのですが、サンフランシスコでの経験がルーツになっていると感じます。

日々野球に明け暮れる中で、将来について考えはじめたのは高校生の頃からでしょうか。「高校でも野球部に入るなら国立大学へ行きなさい」と親から条件を出されていたので、引退後の高校3年の夏から毎日夜遅くまで勉強していました。

厳しい部活との両立は大変でしたが、なんとか努力が報われ、埼玉大学の工学部へ進学しました。
 

研究に明け暮れた大学院時代。卒業半年前に新素材を発見

 
 
―大学生活はいかがでしたか。
 
高校までは野球にのめりこんでいましたが、大学では飲食店や野球場でのアルバイトや旅行など、いろいろなことをやっていました。自分が一人暮らししていた家は友人の溜まり場にもなっており、自由気ままな大学生活を送っていましたね。

ただ、大学4年生のときに研究室に入ってからはかなり忙しくなり…。朝早くに家を出て、日付が変わる頃に帰ってくるという生活が平日だけでなく土日も続き、大学院に入ってからもその生活は変わりませんでした。

私は応用化学科というところで有機合成をテーマに研究をおこなっており、卒業研究では液体や水を固めるゲル化剤について論文を書きました。その素材を発見したのは大学院卒業の半年前だったので、時間がない中で試行錯誤しながらなんとか発表までこぎつけることができました。

研究は「これを実現したい」という目的はあっても、なかなかそこに辿り着けないという苦労がつきまといます。最後まで粘り強く頑張れたのは、野球部での厳しい練習を乗り越えたという土台があったからこそだと感じています。
 
―就職活動について教えてください。
 
自分が研究してきたことを活かしたいという軸で就活をはじめたものの、なかなかうまくいかず…。そんなときに研究室の先輩が共同印刷に入社したことを知り、「印刷という選択肢もあるのか」と興味を持つようになりました。

ただ、当時は共同印刷で具体的にこれがやりたい!というイメージまでは湧いておらず、入社してから徐々にやりたいことを見つけていったというのが実際のところです。
 

どの山に登るのかで、求められる覚悟や準備が変わってくる

 
 
―入社後はどのような業務に携わられているのですか。
 
技術開発本部に配属され、まだ社内にノウハウが少なかったセキュリティ分野の開発を任されました。社内に知見が少ない分野を開拓していくことになるので、正直なぜ自分がこんなに難しい挑戦をしなければいけないのかと思ったこともありました。

しかし振り返ってみると、若手のうちから社外の方とやりとりし、プロジェクトを前に進めていく経験をたくさん積ませていただけたことは自分の糧になっています。

セキュリティの製品やシステムを導入することは、技術や品質さえよければ必ず売れるというものではありません。ではどんなものをどうやれば売れるのか?という、いわばマーケティングや営業の観点から開発について考えられるようになったのも、この分野に関わったからこその気づきでした。

入社7年目の頃には、上司に命じられて一人でサンフランシスコの学会に参加し、自社の開発内容について発表したこともありました。

当時の私にとっては海外の学会で発表をするなんてまったく想像もつかないことでしたが、やれと言われた以上は実現させなければいけないので、必死に英語やプレゼンを勉強してなんとかクリアすることができました。

今振り返ると、かなりの無茶ぶりだったなと思います(苦笑)。ただ、その経験をきっかけに、チャレンジしなければいけない課題から逆算して自分に必要なスキルを考えられるようになりました。

どの山に登るかで求められる覚悟や準備が変わってくるように、若手のうちから難しい山を指し示してもらえたことは幸運だったと思います。

現在は印刷分野にない素材の開発に携わり、それをもとにした新規事業立ち上げを担っています。

セキュリティ分野での知識や経験をもとに新規事業立ち上げにアサインされ、現在では開発した素材を導入してくださる企業様も少しずつ増えてきているので、手応えを感じつつあります。
 

「自分は●●タイプ」ではなく、「登りたい山」を考える

―今後吉住さんはどのようなキャリアを歩みたいとお考えですか。
 
直近では今携わっている新規事業を拡大し、事業展開をおこなっていきたいです。

長期的なキャリアを見据えても技術や開発に携わっていきたいという気持ちに変わりはないので、今までの経験を活かして新たな事業展開に貢献できればと考えています。

そのために自身の技術を深めていくことも大切ですが、まずは「なんのためになにをやるのか」という方向性を見出していくことが必要です。

方向性が固まれば開発の半分が出来たといっても過言ではないので、自身の方向性を明確にし、覚悟を持ってその分野を切り拓いていきたいです。
 
 
―最後に、これからキャリアを考える人に向けたメッセージをお願いします。
 
私の実体験を含めてお話をすると、就活時の自己分析で無理に自分をカテゴライズする必要はないと思います。

私は社会人になって10年以上経ちますが、いまだに「自分らしさ」というものはわかりません。でも、だからこそいろいろな経験ができたのだと思っています。

自己分析で●●タイプと診断されたから、とキャリアを考えるのも一つの方法ではありますが、まずは自分がどんな山に登りたいかを考えてみることが大切です。

会社の中にはいろいろな仕事があるので、最初から自分を決めつけすぎないことをおすすめします。
 
 
 

インタビュアー:アイルーツ+(プラス)編集部 小笠原寛

1999年上智大学 経済学部 経営学科 卒業。
新卒採用責任者他、様々なHR事業経験を積む中で、本音の大切さを実感。
2012年にirootsに参画し、「学生と企業の本音フィッティング」に従事する。
横浜市生まれ、現在は岐阜県関市に在住し、自然と人との対話に耳を傾ける日々。
 

文・編集:アイルーツ+(プラス)編集部 西村恵

2015年にエン・ジャパンの子会社である人材系ベンチャーに中途入社。
2018年にエン・ジャパンに転籍後、新卒スカウトサービス「iroots」の企画として、
ミートアップやメディアの運営、記事のライティング・編集に携わる。
その傍らで現在は芸大に通い、芸術史やデザインについても学び中。