SDGs/ESGへの注目度の高まりや新型コロナウィルスの流行、国際情勢の混乱をきっかけに、国際的・社会的な課題に対する取り組みやソーシャルインパクトの大きい仕事へ興味を持ちはじめたという人もいると思います。国際社会におけるさまざまな課題へアプローチする方法として、民間企業、省庁、NGO/NPOなどさまざまな選択肢が広がっていますが、その中の一つとして、独立行政法人国際協力機構(以下:JICA)を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

では、JICAとその他の選択肢には一体どのような違いがあり、どのようなキャリアが描けるのでしょうか。今回は、新卒でJICAに入構したお二人をゲストにお招きし、今までのご経験やJICAならではの仕事のやりがいについてお伺いました。

「ソーシャルインパクトの大きい仕事に興味は持っているものの、どんな仕事を選べばいいかわからない…」という方は、ぜひ参考にしてみてください。

*本コンテンツは2022年11月に開催されたイベントをもとに構成しています。
 
 
●登壇者紹介

マダガスカル事務所 川越 結さん(入構5年目)
農学系の大学院を卒業後、2018年に新卒でJICAへ入構。農村開発部、国内拠点の研修業務課を経て、2022年からはマダガスカル事務所にて総務から栄養・灌漑開発、研修、本邦外国人材受入制度を活用した人材育成まで幅広い業務を担当している。

ガバナンス・平和構築部 STI・DX室 長野 悠志さん(入構15年目)
法学部を卒業後、2008年に新卒でJICAへ入構。南アジア部(インド担当)、審査部(南アジア・英語圏アフリカのマクロ経済審査)、バングラデシュ事務所、アメリカ留学、民間連携事業部(民間向け投資担当)、国際金融公社(英語圏アフリカのインフラ投資)への出向を経て、現在はSTI・DX室でJICA全体の事業DX推進、デジタル領域の民間共創を担当している。

●クロストーク

iroots 邊見:JICAと聞くと「国際協力」や「社会貢献」といった言葉を思い浮かべる人も多いと思いますが、具体的にはどんなお仕事をされているかご存じでしょうか。今回は、JICA内でさまざまなご経験を積まれているお三方をゲストにお招きし、「世界や日本に貢献できたと実感したエピソード」や「民間企業との違い」についてお話をお伺いしながら、JICAならではの仕事のやりがいについて考えていきます。
 
 
Q1.仕事を通じて世界や日本に貢献できたと実感したエピソードを教えて下さい。

長野:特に印象的なのは、当時世界最貧国といわれていたバングラデシュで、電力・運輸などインフラ整備のプロジェクトに携わった経験です。

当時のバングラデシュはインフラや制度づくりの面でさまざまな課題を抱えており、日本政府としてもそのような状況にある当国への支援は外交戦略における重要な要素でした。このように、バングラデシュと日本のニーズが合致する形で立ち上がったプロジェクトに日本代表として現場に入り、国全体の電力の25%、送電線の45%をJICAが支援するという形で、バングラデシュの人々の生活を根幹から支える国の開発に取り組みました。

このプロジェクトによってバングラデシュへの貢献度を強く感じることができましたし、インフラ整備が進んだことによって、日本の商社やゼネコンがバングラデシュに参入する道筋が作れたことにも大きなやりがいを感じました。プロジェクトを通じて、支援先の国はもちろんのこと、日本の外交戦略や産業界にも貢献できるのだと実感できた経験でした。
 
 
川越:農学専攻の知見を活かして貢献できた二つの経験が特に印象的です。

一つは、JICAの国内拠点である筑波センターで途上国の政府の方々に対する農業や栄養に関する研修を行ったこと。例として農業機械を挙げると、途上国の方々の中には「農業機械さえあれば農業の課題は解決する」と思われている方も多いのですが、農業機械が農業の課題解決に貢献するには、ただ導入するだけではなく、例えば農業機械のメンテナンス体制や水田に入るための道路の整備も合わせて必要なのだと気付きを得てもらえるようにプログラムを考えていました。

研修終了時に帰国後のアクションプランを作ってもらった際に、こうした気付いて欲しかった点が含まれているのをみると、自分の準備した研修を通じて意識や考え方を少しでも変えることができ、「人づくり」という観点で貢献できたのではないかと感じます。

もう一つは、コートジボワールでの稲作プロジェクトでJICAとしても新しいアプローチの提案を行った経験です。それまでの稲作プロジェクトは収穫量を増やすための技術的な支援が多かったのですが、自分なりに課題分析を行った結果、ボトルネックは他にあると仮説を立て、当時は主流ではなかった、農業分野のプロジェクトの柱に金融を据えるという提案を行いました。

良い質の国産米を安定的に市場へ供給するために、精米業者や販売業者に良いお米をまとめて買うための資金力を持たせるという内容ですが、新しい取り組みなのでどう転ぶかは正直まだわかりません。

しかし、JICAとして新しいアプローチを提案できたこと、成功すれば長期的に農業へ貢献できることは自分にとって大きな励みになっています。
 
 
Q2.民間企業とJICAの違い、JICAならではの特徴は何ですか。

川越:やはり一番大きな違いは、「組織の目的」ではないでしょうか。一概には言えませんが、一般的に企業の目的として経済的利益を生むことが求められます。

それに対し、JICAは必ずしも経済的利益を優先するわけではなく、社会的利益、国際的利益を生み出すことを主たる目的にしているというのが大きな違いだと思います。短期的に利益が得られるものだけではなく、教育や保健医療、法整備など、長期的視点で国の根幹を支援できるのはJICAの特徴的な立ち位置だと捉えています。

また、JICAは公的機関なので、一般の民間企業では立ち入りにくい領域や政策レベルや制度面のアプローチにも明るく、途上国の政府の方と一緒に国創りに携わる経験ができます。
 
 
長野:私も川越と同意見です。一方で、近年では民間企業と私たちの垣根はほぼ消滅しつつあるように思います。

私は民間企業への投資や開発案件に関わっていたのですが、上場・非上場に関わらず、ポジティブなインパクトの創出に尽力している民間企業の方々にたくさんお会いしました。情けない話ではありますが、中には私たちよりもはるかに深く課題に向き合い、経済的な利益とソーシャルインパクトの両立に向き合っている企業もあります。

だからこそ、私たちも安穏としているのではなく、民間企業とうまくタッグを組んでいかなければならないフェーズにあると感じます。その中でもJICAは開発実績・ノウハウに強みを持っているので、今までの経験を活かして開発インパクト創出機関としての方向性を指し示していければと考えています。
 
 
Q3.JICAで働く人の特徴について教えてください。

川越:バラエティに富んだ組織だと思いますが、根っこの部分で共通しているのは、人にために何かすることを厭わない方が多いところでしょうか。入構1年目は担当する業務の幅広さに驚いたのですが、先輩方からたくさん助けていただいたので、助け合う・育て合うという文化は当たり前にある組織だと考えています。
 
 
長野:単純に言うと、「いい人」が多い組織です。倫理観の水準が高く、利他的な人が揃っているという点ですごくいい組織だと思います。裏を返せば欲がないとも言えますが、組織において全員が「世の中にとっていいことをしよう」という方向を向くのは意外と難しいことであり、私が15年間JICAで働き続けているのもそこが大きな理由になっています。
 
 
Q4.最後に、就活生に向けたメッセージをお願いします。

長野:「就職=箱の中に入ること」ではなく、「箱の上に立つこと」だと捉えてほしいです。

箱に立たなければ手の届かないもの、つまり自分のやりたいことは何だろうと考え、それにレバレッジをかけて大きくするためにはどんな組織がいいのだろう、という観点から、選択してみてください。

その中で、JICAは若手のうちから世界に対して大きなインパクトを創出したいと考える方にとって、もっとも面白い箱の一つだと断言できます。たとえJICAに入構しないとしても、これから社会で活躍するうえで、「箱の上に立つ」という観点を持ってもらえると嬉しいです。
 
 
川越:私が就職活動をおこなっていたときには、「就社」ではなく「就職」という観点を大切にしていました。長野からもあったとおり、自分がやりたいことを達成するためにはどの組織に属するべきかという観点が大切と思います。ぜひいろいろな社会人の方から話を聞いてみてください。

その中で、自分の大切な時間を使って何をやりたいか、何ができそうかを考えていただきたいですし、その先にJICAという選択肢があればとても嬉しいです。就職活動中は悩むことも多いと思いますが、みなさんの就職活動を心から応援しています!
 
 
iroots 邊見:長野さん、川越さん、本日はありがとうございました。今回、長野さんと川越さんにお話をお伺いする中で、JICAを含めさまざまな組織・企業が国際社会における課題解決に取り組んでいることがわかりました。

その中から自分に適した環境を選ぶためには、「組織の目的」と「自分の目指したい方向/価値観」がマッチしているところはどこだろう?という観点が大切なのだと感じました。

将来についてのイメージが漠然としているという方も、ぜひ本日のお話を参考にしてみてください。