漠然とした”内定ブルー”、その正体を著書『選択の科学』の理論を用いて紐解いてみる。
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2017年10月04日更新
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漠然とした”内定ブルー”、その正体を著書『選択の科学』の理論を用いて紐解いてみる。

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はじめに

10月の頭には、多くの企業で内定式が行われます。
すでに就活を終えた大学4年生は内定先にて将来の同期と一堂に会したり、研修や社員方との面談など、様々な方法を通して社会人になる準備が行われ始める時期と言えるでしょう。この記事を書いているirootsインターン生も10月2日に内定式を迎えました。意外に小さな内定通知書をもらい、社会人になる大きなプレッシャーを同時に感じている今日この頃です。
この記事を読んでいるあなたの周りにも、内定先にてすでに入社しているかのように走り出している学生もいれば、一方で、まだ走り出すことに躊躇している学生もいるでしょう。

『より納得感を持った意思決定を行い、長期的に活躍してほしい。』

生意気な発言になってしまいますが、そう思って僕はこの記事を書きました。現在自分の進路に迷っている人にはその意思決定の材料に、そして過去に進路に迷っていた人には、過去の意思決定を客観的に振り返るために、この記事を自分なりの目的に合わせて読んでほしいと思います。
それでは、コロンビア大学ビジネススクール教授のシーナ・アイエンガーの著書『選択の科学』をヒントに、就活における選択を紐解いていきましょう。

重大な選択を行うことには、多大な痛みを伴う。

先日BS-TBSの報道番組『Biz Street』にて、中小企業における新卒採用事情について報道されていました。
そこでは、ある学生が内定しているタクシー業界の会社とハウスメーカーの会社のどちらに行こうか悩んでいる様子が取材されていました。その学生は二つの会社のどちらに進もうか悩み、以下のような発言をします。

「もう、俺の就職先、他の誰かが決めてくれないかなー。そしたらパッと決めれるのになー。」

この発言の持つ印象は非常に強く、どうしても「決断力のない大学生」といったイメージが色濃く残りますが、このような悩みを持っている大学生は少なくありません。
就職活動に関する調査を専門としている調査機関によると、2017年9月1日時点での就職内定率は88.4%、前年の同時期と比較すると1.8ポイント上昇しています。また、同調査によると同じ時点での就職活動実施率を見てみると、18.0%の学生が就職活動を行っているとのデータがあります。
つまり、内定している会社がありながらも何らかの理由によって現在も就職活動を続けている学生が一定数いるということです。
自ら選択することが、多大なストレスに伴うことを示した究極的な事例を一つ紹介しましょう。
アメリカとフランスでは、重病な我が子に対する延命治療において、選択の主体が異なっています。この延命治療は、子供に対し重い障害を一生残す可能性を高めるものです。このような延命治療に対して、アメリカでは子供の親が治療の中止を選択し、フランスでは親がはっきりと異議を唱えない限り医師がその選択を行うことになっています。この時、フランスの親たちの多くが「こうするしかなかった。」という確信を口にし、アメリカの親の多くが「こうだったかもしれない。」とフランスの親と比較して、多くの罪悪感や悩みを表したといいます。
これは、同じ辛い経験を経ても、選択の重みがその経験を凌駕するほどの影響を及ぼしていることを示した重要な事例として知られています。

会社選択における”不安感”の正体とは?

話を会社選択に戻しましょう。
自分が就職する企業を選ぶ際、そして選んだ後の不安感(=一般に内定ブルーと言われる)の正体とは何なのでしょうか。その正体や原因を知れば、会社選択の際のスタンスやとるべき行動が見えてくるかもしれません。
この不安感のことを具体的に言い換えると、「特定の一社を選択し、その他の生き方(=企業)を捨てることへの不安感」と言えます。そして、その特定の一社が果たして本当に正しい選択なのか、自分も家族もお世話になった採用担当の社員さんも、誰も分かりません。
この時、選択を行う個人は二つの相反した感情を抱えていると言えるでしょう。すなわち「株式会社○○に行く。」と決意している自分と「株式会社○○が最適解なのか分からない。」と不安感を持つ自分です。
このように、個人が何らかの矛盾した認知を抱えた時に緊張状態に陥り、その緊張状態を回避する心理的過程を、認知的不協和理論と言います。会社選択という重要な意味を持つ選択だからこそ、この時の緊張状態は強いものになることが予測されます。

このような自己矛盾を抱えた時、どのようにして個人は自己矛盾をクリアしていくのか、「選択の科学」では就職活動についても、驚くような実例を紹介しています。
著者が博士課程に在籍している時、大学4年生に対して会社選択の基準を時期に分けて追跡調査を行いました。それぞれの基準は「創造性を発揮する機会」や「高収入」、「昇進の機会」、「意思決定を行う自由」といったものです。すると、就活の初期には「創造性を発揮する機会」や「意思決定を行う自由」といった個人の充足に重きが置かれている一方で、選考が進むなど就活の中期になると「昇進の機会」などの実際面が重視され、最終的に最も優先されたのは「収入」の項目だったといいます。
さらに調査は続き、就職先の決定を行った最終的な時期に、以前の優先していた項目について思い出してもらいました。すると、学生は優先してきた基準が変化していないと誤解しており、自分の過去の思考を積極的に作り変えていたのです。そして自分の選んだ仕事に対する満足度について調査をしてみると、過去の優先順位を正確に思い出せず、積極的に作り変えていた人ほど、選択した仕事への満足度が高かったことが分かりました。
このことについて、著者は自分の過去の言動や思考に一貫性を持たすために、その都度幻想を作り出して自己矛盾を回避していると述べています。人が、自分の行動(=選択)に対してどれだけ一貫性を保ち、認知的不協和を回避したいのか、この実験は赤裸々に描写しているように僕は思います。

自分で決めて、動くための「3つのステップ」とは?

会社選択を行う時の”不安感”とは何なのか、一度振り返りましょう。
そこには、「株式会社○○に行くと決めた自分」と「株式会社○○が最適解なのか分からない自分」の間で認知的不協和が存在すること、そして、学生は一貫性を持った行動を行うことで認知的不協和を解決することが分かりました。
著書の中では一貫性を持った行動をするために二つの方法があると述べています。
一つ目が、先に述べた「その都度幻想を作り出して自己矛盾を回避する」方法です。そして二つ目が、「より高次のレベルでの一貫性を図ること」です。これは、自分にとっての理想や道徳律の追求といった自分の人生の大まかな指針の一貫性を図るものであり、著書では後者の一貫性が長い目で見てより現実的で持続的だと紹介されています。
新卒社員の30%以上が入社して3年間で離職しているという現状、この現状の解決にも後者の一貫性の考え方は参考になる可能性があるように思います。(勿論、個々に事情は存在しているかと思うのでマクロな意味での“現状”です。)
では、具体的にはどのようにして「高次のレベルでの一貫性」を測ればいいのでしょうか。ここでは、実際に僕が行っていた3つのステップを紹介したいと思います。方法は一つではないと思いますが、参考にしてみてください。

自分の意思決定と向き合うために
ステップ1.自分を「過去・現在・未来」に沿って整理する。
ステップ2.内定先の、理想の姿と現実を理解する。
ステップ3.今、出来ることに全力になる。

ステップ1.自分を「過去・現在・未来」に沿って整理する。
「その都度幻想を作り出して自己矛盾を回避する」のは、ステップ1が十分でない時に生じるものだと言えます。現在の就活時点での考えを偏重しすぎるのではなく、自分の過去にも深く目を向けてみましょう。僕の場合ですと、高校時代の部活動や習い事、両親からの影響など、自分の感情が大きく動いた時や価値観が形成されたと考えられる経験を抽出し、自分が何に感動し、怒りを感じ、大事にしようと思ったのか、整理しました。すると、現在の自分の姿がだんだんと形を帯びるようになります。現在の自分が形を帯びてきたら、視点を未来に移してみましょう。「会社にいる自分」ではなく、どんな考え方を大事にしていきたいのか、そして社会に何を還元していきたいのか、大まかな自分の指針を言語化することが重要になります。

ステップ2.内定先の、理想の姿と現実を理解する。
就活時には、説明会や社員との面談や座談会、時にはインターンなど様々な手法で内定先について触れる機会があったと思います。様々な情報がめまぐるしく入っている人も多いのではないでしょうか。僕はこの時、会社の理想の姿と現実の姿に分けて、情報を整理しました。理想の姿とは、会社の掲げている企業理念やこれまでの会社の歴史から推測される姿などです。そして現実の姿とは、実際の現在の事業内容やビジネスモデル、社員一人一人の働いている姿などです。僕の場合、自分が大事にしたい思う価値観や理想像と会社の理想の姿が合致したこと、そしてこれまでの会社の歴史を見ると、その姿が理解できると感じました、しかしながら、会社の現実の姿に目を向けてみると、決して手放しで賛同できるわけではありませんでした。事業モデルや社員一人ひとりの働いている姿などには、確かに理想とのギャップを見て取れたのです。そのギャップを目にした上で、その差分を自分が埋めたらいいんじゃんと思った、この瞬間が会社選択の悩みから吹っ切れた瞬間でした。
もし、このようなステップを経て「自分と内定先との間の違和感」が拭えなかったとしたら、自分の行った選択(内定承諾)をもう一度覆す選択肢(内偵承諾後辞退)を取っても僕はいいと思います。小手先だけで無理に自分の幻想を作る必要もないし、長期的に見れば確実に個人と会社の双方にとってマイナスになるのは間違いないでしょう。『自己決定感=自分の人生を自分でコントロールしていると認知していること』は、たとえ大きなストレス下にいたとしても個人にとっては重要な感情だと著書では科学的に主張しています。

ステップ3.今、出来ることに全力になる。
ステップ1とステップ2によって、地に足のついた選択が見えてきたのではないでしょうか。
そして上記のステップを経て自らの意思決定に納得したら、目の前にあることを行動するのみだと思います。
卒論がハードな人もいるでしょう、留学をして英語を身につけたい人、会計の勉強やプログラミングスキルを身につけたい人、長期インターンに夢中な人もいれば、就職先をもう一度検討している人、自分で決めた行動を全うしてみて下さい。
どんな内容でも良いので、自分の目の前にあることに、すぐに、全力で行動することがこの記事を読んでいるあなたにとっての最適解なのです。

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・シーナ・アイエンガー(2011)『選択の科学』文藝春秋

・【確報版】「2017年9月1日時点 内定状況」就職プロセス調査(2018年卒)|調査結果|新卒学生の就職・採用活動の調査・研究などを行う、リクルートキャリアの「就職みらい研究所http://data.recruitcareer.co.jp/research/2017/09/201791-2018-43c6.html
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