成績主義の中国社会における、大学生の時間の使い方
こんにちは。irootsチームに今年の1月からジョインした中国出身の周です。高校まで中国で生活していました。日本で進学、就職をして、十年目になります。
昨今、就職活動もボーダレスになってきていて、グローバルでの競争力が大事になっています。そこで今回は中国出身の私だからこそ知っている中国の大学生の実態をお伝えしていきます。
まず大きくギャップを感じたのは、中国と日本の大学生の「時間の使い方の差」です。私が通った高校は全寮制の進学校で、8人1部屋で生活していました。さらに恋愛も禁止されていて、毎日の勉強時間が16時間です。この勉強スタイルは習慣になり、大学生になっても平均1日6時間が普通です。それに対し、大学経営・政策研究センター「全国大学生調査」の調べによると日本の大学生の平均勉強時間は1日49.6分です。
私は日本の大学を卒業した後、日本の企業に就職していますし、中国の大学出身の友人も、実は日本企業に就職している人が多くいます。例えば、私の友人の一人は北京大学出身ですが、DiDi( ※中国北京に本社を置く中国の大手ライドシェア企業、世界でも最も価値の高いテクノロジー企業の一つとされている。日本でもサービス展開中)で長期インターンをして、現在日本の東証一部上場大手企業に就職しています。
日本人が外資系企業に就職したり、また外国籍の学生が日本企業に就職したり、就職にも国籍が関係ない時代がさらに加速していきます。まずは、同世代の中国の大学生が今何をしているのか?今回は、「インターンシップ」に着目して紹介していきます。
インターンシップは「長期間」が基本。世界基準のプログラム
まずは、以下の表で日本のインターンシップと、中国のインターンシップを比較してみました。
上の図を見ていただければわかる通り、日本と中国のインターンシップの1番大きな差は「期間」だと言えるでしょう。日本は、短期インターンは1日の職場体験型なども多いですが、中国では最低1ヶ月間を要します。長期間で実施するものは、世界でも有名な中国大手企業アリババ(Alibaba)のインターンは1年契約、世界で事業展開しているファーウェイ(HUAWEI)のインターンは6ヵ月以上の契約になっています。
また、アメリカのインターンシップは日本のように短期間のものではなく、3ヶ月以上かけて行われるものが一般的です。中でも採用直結のインターンも多く、新卒でも即戦力が求められます。中国のインターンはアメリカと定義が非常に似ていて、世界基準のインターンシップと言っても過言ではありません。
中国大学生を取り巻く、厳しい就職環境
2019年、中国大学生の卒業者数が834万人という最高記録を更新しました。(卒業者数は、日本の10倍以上)それに対して、直近5年連続就職率が右肩下がりです。背景としては大きく2つの要因が考えられます。
1)中国の新卒採用は、日本のように総合職ではなく、ポジション採用が主流です。例えば、大学で日本語専攻の学生は通訳関連のポジションに付くことになります。しかし、ジョブローテーションなどを通して、大学で学んだこと以外のスキルを会社で身に付けたいと希望する学生も多くいます。企業が求める人材と学生が求める企業のアンマッチが非常に多いため、就職浪人を選ぶ学生も少なくありません。
2)給料に対する期待値の落差です。日本のように新卒時の目安年収というものがなく、企業とポジションによって結構違ってきます。しかし、大学生の初任給に対する不満が多く、なかなか企業とマッチせず入社にいたらないケースが多くあります。
また、終身雇用制度ではない実力主義の会社文化の中で、「スキルや実務経験」というのは、新卒採用や中途採用関係なく極めて重要な採用基準になっています。希望している少ない就職枠に学生が殺到し、かつ採用基準が厳しい中国の就活市場において、「インターンシップに参加しないと、よい条件で就職できない」言われているほど就職活動戦国時代になっています。
※2019大学生实习市场大数据研究报告(2019年大学生インターンシップマーケットデータ研究報告)から一部抜粋。中国の就職率の変化を表しています。
上記の背景で、中国大学生は常に危機感を持って、大学1、2年からインターン参加する人が年々増加しています。参加方法も多種多様にあり、日本ではなかなか一般的ではないアプローチもあります。
直接企業に電話して「無給でもいいから、インターンシップさせてください!」というアプローチも少なくなく、インターンのチャンスを獲得することは、就職と同じくらい難しいことがわかります。また外資系企業が主催しているビジネスコンテストは、経験を積むことに加えて人脈作りの絶好のチャンスにもなっています。
就活戦国時代を生き抜くには「実務経験」が重要
では、実際、中国の大学生はインターンシップに参加し何を得ているのでしょうか。中国の現役大学生に、参加理由や、そこで得たことをインタビューし、まとめてみました。
- インターンシップを通して実務経験を得られるからです。日本の企業と違って、中国の企業は新卒採用においても即戦力を求める傾向が強いです。インターン経験の有無、インターンでどういう業務に携わって、どういうスキルを身に付けたかが、採用評価基準の中で大きな割合を占めています(清華大学3年/女性)。
- 学生から社会人へのマインドチェンジができます。中国のインターンシップというのは学生のうちに社会生活を体験できる貴重なチャンスです。そして、社会人になる心構えができる期間なる非常に貴重な期間です。(北京大学2年/男性)。
上記のコメントからわかるように、中国ではかなり実践的なインターンシップが行われていることがわかります。実際、中国のインターンシップの主流は、インターンであったとしても社員と同じようにプロジェクトの一員として、責任のある仕事を任されたり、売上に直結するような成果を求められます。社会人としての立ち振る舞い、時間管理、自己管理などをある程度身に付けてから入社すると、会社とのミスマッチが減り、ギャップを感じるリスクも少なくなります。
就活だけのためにインターンシップに参加するのではなく、インターンに参加する価値を見出したときこそ、有意義な経験になります。「今できる失敗をして、失敗から学んで、学んだことを実践で再検証して、成功体験を得る」という意識で、自分自身の実務能力の向上を見据え、インターンシップに取り組んでいるのが多くの中国の大学1~2年生の現状です。
編集後記
企業の海外進出に伴って、就活もグローバル化になりつつあります。就活のライバルは日本学生同士だけでなく、新卒外国人や海外の優秀な人材を積極的に採用する企業は年々増加しています。私も外国人として同世代の日本学生と同じように就活をして新卒入社しました。
周りに母国以外の場所で働いている外国出身の友人はたくさんいます。そういうグローバルな働き方が当たり前のようになっていると日に日に感じます。大学1~2年生のうちに、企業と早い段階で接点を持つことは、自分の視野を広げるチャンスであり、目指す方向を決めるきっかけになると思います。まずいろんなところから情報収集し、気になる企業があれば積極的にインターンシップに参加してみましょう。
日本は住みやすい国で、社会も安定していて平和に暮らしています。だからなおさら危機感が他国と比べて少ないというのは、日本に来てみての私の率直な感想です。日本の将来を担う大学生は現状に満足せず、常に好奇心を持って、貪欲に今しかできない挑戦をいっぱいして欲しいと思います。
■この記事を書いた人
周 恬(シュウ テン)
2010年中国で高校卒業後に来日。上智大学卒業後大手小売会社に新卒入社。社会人3年目にエン・ジャパンに転職。猫とうさぎの三人暮らし。趣味は漫画と映画。最近はピラティスに夢中。
■世界の就職事情シリーズ
次回は、筑波大学で交換留学を経て、北京大学大学院卒業後、日本のグローバルリーディングカンパニーに就職した張さんにお話しを伺います。大学在学中に中国企業5社以上(人民中国出版社/滴滴(ディディ)など)の長期インターンの経歴を持つ彼女に
- インターンでどういう仕事をしてきたのか
- 中国での就活がどういうものだったのか
- なぜ日本に就職したのか
についてお伺いし、よりリアルな中国事情についてお伝えできればと思います。