TOPICS
・人材業界に居続けて見えた「就活」の課題
・人事のジレンマ、赤裸々な本音
・「合コン」を考えれば就活が分かる
学生時代に感じた「アレ?」
―――こんにちは。本日は18年に渡り人材業界でご活躍なさっており、irootsの責任者でもある小笠原寛さんにお話を伺います。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
※笑顔でインタビューを受けて下さる小笠原さん
―――早速ですが、就職活動(以下就活)に対するイメージを教えて下さい。
ずばり、ムダなこと。ムダが多いこと、ですね。
―――言いますね!(笑) 学生時代に感じたのでしょうか?
はい。まず、半年しか着ないリクルートスーツを買うお金がもったいない(笑)
それから、それまでずっと遊んでばかりいた友人が急に就活の話を始めるというのがどうもしっくりこなくて、見栄やプライドで大手企業の社名をつらつら並べて薄っぺらい会話しているだけという気がして。
あの個性豊かな友人の姿は何処へ…って勝手に思ってました。
―――友人たちの個性がなくなっていってしまったということですか?
たとえば、ついこの間まで金髪でピアスをしていたような人も、黒染めをしてリクルートスーツに身を包んで、なんとなくうそ臭くて。これをみて、人事は「こいつの何がわかるんだろう」って考えていました。
―――なるほど。自分が就活をすることになって、周りを見てアレ?と感じたのですね。
他にも、何十社と受けて落ちたというような友人の話を聞いたりして、なんか幸薄いなーと思った記憶があります。
採用活動で感じた「ズレ」
―――学生時代に違和感を覚え始めたということですが、実際に人事の立場で採用活動を行っていたご経験があると伺っております。実際に学生を選ぶ立場に立って感じた違和感もあったのでしょうか?
そうですね、当時私は新任の採用担当として自社の会社説明会で話をする機会を頂いたのですが、そのまさにデビュー戦で、学生さんの会社理解の浅さに驚いたことが深く印象に残っています。
もともと私は営業出身だったのですが、その感覚で学生さんと接してしまったのがいけなかったのですね。
―――営業マンの感覚というとどういうことですか?
営業って、新規に営業訪問する時って必ず企業のこと調べるじゃないですか。簡単にでも企業が何をしている会社かとか、競合の会社ってどこかとか、差別化ポイントって何かとか。
そういう下調べをしていない学生さんたちが説明会で目の前に並んでいたんです。驚きました。そんな気持ちで「御社に興味あります」って言うのなら、「みんな嘘つきだから家に帰りなさい」って怒っちゃいました。
―――そこで怒ったらSNSに書かれますよ。
その時に採用のお手伝いをしてくれていたメンバーにも言われました。「それ絶対ダメですよ」って(笑)結局、当社の業務を説明するためには、業界説明からスタートせざるを得なくなりました。
こうして全国津々浦々を飛び回って同じことを何度も何度も説明しているうちに、疲れてしまったというか。録音再生でも問題ないし、自分である必要が感じられなくなっていきました。
―――想像できる気がします。よく分からないまま広範囲にたくさんエントリーするというサービスでは、「ズレ」が生じてしまうのも最もですよね。
このズレは、僕が就活をしたときから時間が経った今でも依然として残っています。いまの学生さんたちにこの話をしても、違和感なく納得してくれることが現状を物語っていますね。
就職活動の「イマ」
―――とはいえ、近年では専門特化した就活情報サイトや口コミサービスなども増えてきたように感じます。
確かに企業側も新しいサービスを導入したり、検討したりしていると思います。僕の時代は存在すらしていなかったですから、そういった意味では改善されつつあるとも言えますね。
―――このような変化はなぜ生まれたのでしょうか?
企業側が隠し事をできない世の中になってきたように思います。インターネットが発達して、学生の情報量も圧倒的に増えました。長期インターンシップなどを通じて学生と社会人との接触も活発になったように感じます。
少しずつですが、人材業界も入社前後のイメージギャップに貢献しているのではと思います。どちらかと言うとそうあって欲しいという強い願望ですかね(笑)
―――なるほど(笑)とはいえ、小笠原さんが感じた就活への違和感は今もなお健在しているとのことでした。1番問題になっているのはどのようなことだとお考えですか?
僕はラベリングに一番の問題意識を持っています。まず企業の分類。大手かベンチャーかといった議論が活発ですが、規模で分けるならば大手か中小かで考えるのが順当です。
そもそも、ベンチャーという言葉は1971年に日本人によって作られた経営学分野における和製英語で、「大企業が進出していない領域で、高度な専門性と創意工夫を凝らして新しい事業を起こす知識集約型の小企業」であって、分類に用いられるべき概念ではありません。
さらに、業界の概念も最早時代遅れと言ってしまっても過言ではないと思います。事業の多様化や職種別採用の導入によって複数の業界にまたがるような企業が増加しています。
これらラベリングの問題は学生の視野を狭める原因になっているのではないかと考えています。
―――ラベリングが諸々の問題を引き起こしているのですね。確かに、大学名によるラベリングもよく問題になっています。
はい。参考としては出身大学もひとつの良い指標になると思います。
しかし、大学というラベルだけではあまりにも振れ幅が大きく、依存してしまうのはリスクが高いと思います。
とはいえ、人事の立場からすると、それ以外に指標となるものがないというのもまた事実です。そこで、企業の選択軸になり得る新たな指標を作りたいと考えています。
―――新たな指標ですか?
具体的には、学生の経験値やバックグランドといった人となりを定性情報として可視化したいと考えています。さらにはその定性的な情報を定量情報に紐付けていくいく作業が求められます。
irootsでいうとプロフィールが定性情報、3E適正テストが定量情報ですね。
「合コン」を考えると就活の課題が解ける
―――ありがとうございます。この変わりつつある環境で就活をしていく学生に対して、どのような心意気で挑めばよいかアドバイスをお願いします!
まずは、背伸びして就活をしないでほしいと思います。定性情報を指標にしていきたいのも、等身大な自分で働いて欲しいから。
例えば、「総合商社かコンサルを目指している」っていう学生さんって多いと感じているのですが。本当にそれが本心で自分が向き合いたいものなの?周りに流されたりしてない?という感じで外から自分を眺めてみてください。
意外に自分が最初に決めた志望って等身大の自分を反映しているものではなく、なんとなく周りの目を意識したらそう言う意見になっていた場合が少なくないんじゃないかと。
有名度や人気度といった他人視点で就活を進めて仮に入社できたとしても、自分が実現したいことと、実際の仕事内容のギャップに悩む人は少なくありません。
―――学生のエントリーが一部の企業に集中していることが、不幸なマッチングを多数生み出しているということですね。
根本的な要因はマッチングの総数が多すぎるという点だと思っています。
このマッチングの問題は合コンに例えると分かりやすいので、仮に「合コン理論」と呼ぶことにしましょう(笑)
―――「合コン理論」ですか。(笑)
例えば、現実的には無理ですけど、合コンを10時間するとします。全員と必ず同じ時間だけ話すとすると、5対5では1人当たり2時間、100対100では1人当たり6分になります。
このとき、カップルが成立する可能性が高いのは前者ですよね。さすがに6分じゃ外見や声以上の事を知るのは難しいと思います。
就活でも同じようなことが起きているのではないかと思うんです。
学生も人事も時間がなくて、相手の外見(=面接時の印象)や肩書き(=属性や所有タイトル)で判断するしかない。質の良い、少数と少数のマッチングで、学生も人事ももっと有意義なことに時間が使えるようになって欲しいと切望しています。
―――ありがとうございました。