メガベンチャーDeNAの新卒採用責任者
「メガベンチャーといえば?」と聞かれて真っ先に思い浮かぶ企業の1つであるDeNA。ゲームから球団事業、ヘルスケア事業まで多彩な事業を展開し、現在もその勢いは留まることを知りません。
今回はその新卒採用責任者(※講演当時。現在は人事戦略室に異動。)である常樂寺宏行さんにお越しいただき、自身の半生について語っていただきました。
京都大学時代には化学を研究し、DeNA入社後は営業からエンジニア、人事まで経験した異色のキャリアを持つ常樂寺様が学生に伝えたいこととは。
---以下、常樂寺氏
常樂寺と申します。本日はよろしくお願いします。
私は、2008年にDeNAに新卒として入社しました。2008年だとちょうど10年くらい前ですが、、みなさん、ちなみに今のDeNAはどういうイメージでしょうか?
---プログラミング教育とかですかね。
---ゲームで大きくなったメガベンチャーっていうイメージがあります。
---Mobageとベイスターズとかですかね。
よくご存知ですね。嬉しいです。全部当たっています。
ただ、今挙げていただいたもの中で、私が入社した2008年に存在したのはMobageだけなんですよね。当時は、おそらく500人位だったような気がしますが、ベイスターズやプログラミング教育もやっていなかったですし、ヘルスケア事業やオートモーティブ事業などもまだやっていませんでした。
DeNAに入社して、私が最初に担当したのは広告営業です。当時のMobageは、ガラケーの中で非常に大きなトラフィック(ユーザー数やPV数など)を稼いでいたので、例えば、広告代理店の方々と一緒に「御社の商品の認知を広げるために、Mobageとタイアップするのはいかがですか?」というような提案をしていました。
3年目になるとき、「エンジニアどう?」と声をかけられ、エンジニアに転向しました。そこから2年くらいサーバーサイドのエンジニアとして、MobageやYahoo! Mobageの開発をし、その後、また2年間ほど韓国事業のマネージャーをしていました。
入社当時は自分が海外事業にアサインされるとは思っていませんでしたし、英語もほぼ話せませんでしたが、放り込まれたら意外とボディランゲージとカタコト英語で、大体の意思疎通ができることを学びました(笑)
2014年には人事担当になりました。エンジニアの中途採用や、社内エンジニアのリソース調整、新卒エンジニアの研修などを行う部署のマネージャーになり、2015年からは新卒採用の責任者になり、今に至ります。
さて、今日は自分が学生時代に何をしてきたのか、今何に取り組んでいるのかをお話していきたいと思います。自分の人生を深掘りして人に伝えることは、実は大学の就活以来で、今回はすごくいい機会になりました。
「世の中を変えることができる」遠山正瑛さんとの出会い
まずは僕の人生を大きく変えた遠山正瑛さんについて、お話ししたいと思います。
中学生の時、砂漠の緑化に取り組んでいる鳥取大学の元教授の遠山正瑛さんを特集した番組が放送されていたんです。その番組の中で、インタビュアーの方が「遠山さん、砂漠の緑化はなぜできないんでしょうか?」というような質問をされたんですね。
遠山さんは当時90歳くらいだったと思うのですが、タバコを吸いながら、すごくハキハキとその質問についてこう答えていました。 できないんじゃない。やらないだけ。やればできるから俺はやっているだけ。
砂漠の緑化はなぜできないのだろう?という理由を探すより先に、「やればできる。やらねばできない。」と即座に解答する自信とその姿勢に感動した記憶があります。そこから私は、砂漠の緑化や、環境問題に興味が湧きはじめ、自分なりにそういう情報を集めるようになりました。
没頭を繰り返した学生時代
高校生のときは、とにかく柔道に熱中していました。勉強はほとんどやらず、成績もイマイチでしたね。
砂漠の緑化や環境問題が学べる大学に行こうと考えていて、高校3年生のとき、高校生向けに環境問題のことを取り扱っている大学が集まるイベントに参加したのですが、そこで京都大学の人たちと出会い、その方々に惹かれ、よくよく調べて見ると遠山正瑛さんの出身大学も京都大学だったので、京都大学に行きたい、と強く思うようになりました。
その時の成績では、京都大学にいけるレベルではなかったので、一年浪人をして京都大学に入学しました。
大学時代は、スキーに没頭していました。私の入っていたスキーサークルでは、大体12月から3月まで雪山に籠ります。スキー場の宿に居候するんです。ちなみに、サークル内ではスキー場から京都に戻ることを「下界に降りる」なんて表現していました(笑)それだけスキーのことしか考えないような環境だったんです。
私は元々大学院に行こうと思っていたこともあり、就活は一切せず3年間スキーにのめり込み、スキーが一段落すると、研究に没頭しはじめました。
没頭の連続が自分を創る
これまでの人生を振り返り、自分の中で過去を言語化する中でわかってきたことがあります。誰かの借り物の言葉ではなく、自分の言葉として「面白い」という気持ちが表現できるか否かの差です。
小学校~中学校時代にかけては、「没頭できていたか?」でいうとYesと言えない状態でした。その場合は、取り組んだことに対して「面白さを伝えてみろ」と言われても、心の底から熱くその面白さをお伝えできる経験が少なかった。
一方、柔道の面白さやスキーの面白さ、研究の面白さはみなさんにお伝えすることができることに気づきました。
そしてまた、自分の中で非連続なキャリアを描く出来事は、何かに没頭している中で、突然出会っていることに気づきました。遠山さんとの出会いもそうでしたし、高校3年生のときのイベントもそうでしたし、会社に入ってからのキャリアもそうです。
没頭している中で、全く想定していなかったことで火を付けられ、また違う方向に没頭する。
僕はそういう人生だったなと思っていますし、それが今の自分を形作っている気がしています。
「挑戦者を惹きつけ、未来を創る」新卒採用への想い
そして現在は新卒採用にめちゃくちゃ没頭しています。皆さん、新卒採用ってどんなことをしているイメージですか?
---セミナーを開催したりとか本選考だったら面接官やったりとかですかね。
そうですね。他はどうでしょう。新卒採用の目的ってなんですか?
---会社がやりたいことを達成するためにその仲間を集めるとかですかね。
いいですね。ほんとその通りだと思います。
資料に「挑戦者を惹きつけ、未来を創る」と書いてありますが、実はこれ、DeNAの新卒採用チームのミッションなんです。
「採用する」とかではないんです。採用するだけが我々の仕事ではなくて、仲間を集めるだけが仕事でもないんです。世の中の、挑戦しようとしている人、現状に甘んじず何か新しい価値を生み出そうとしている人、そういう方々が惹き付けられる会社を創るのも新卒採用の仕事だと思っています。
もしそういう人たちを惹き付けられないような会社であれば、会社自体を変えてしまうのが我々の仕事なんです。
我々がお話しする学生の方々は、DeNAではない会社でファーストキャリアを歩む方がほとんどです。ただ、そういう方々の大事な人生の肥やしになりたい。私の中学生当時に出会った遠山正瑛さんが僕の未来を創ってくださったように、私自身も学生の皆様にとってそういう存在になりたい。
そのために皆さんと色々と腹を割ってお話させていただいたりしています。
---大学時代まで環境問題に取り組んでいたと思うんですけれども、そこからDeNAに入った理由ってなんですか?
出会ってしまったんですよね(笑)
僕は、過去の経験から未来を決めるっていう考え方自体があまりないのですが、とはいえ、就活時にはまずは化学系の会社を検討していました。ただ、しっくりこなかった。
そんな時、改めて遠山正瑛さんの何に僕は惹かれたのか紐解いてみたんですよ。砂漠の緑化をしていることに惹かれたのか、もっと大きく環境問題に取り組んでいることに惹かれたのかよくよく考えてみると、先ほどお話したように、90歳近くのおじいちゃんがタバコをふかしながら自信を持って困難なことに対して取り組んでいるっていうこと自体に僕は惹かれていたんです。
だから砂漠の緑化とか環境問題とか研究していた化学系といった分野に拘らず就活していくことになりました。
就活を進める中で、比較的短い時間で結果が見えるようなスタートアップ系で働きたいと思いはじめ、そうこうして調べていく中でDeNAと出会ったんです。当時はコンサルティング会社も検討しましたし、業界を絞って就活を始めた訳ではなかったですね。就活しながら考えを整理していきました。
---常樂寺さんの生き方って流れに沿っていくっていう感じですよね。
---最近の就活でいうと、将来何をしたいか決まっていて、だから今こういうことをしたい、こういう会社に行きたいみたいな話し方が王道というか、そういう人が多いのかなと思っていて。そういう意味では珍しいタイプなのかなと。その中で今採用という立場にいる訳じゃないですか。そういう考えを持った学生ってどういう風に見えるのかなって。
「王道」も良いと思います。キャリアの歩み方は、完全に向き不向きだと思います。右利き左利きの違いみたいなものだと。どっちの人生の方が成功確率が高いかなんてわからない。少なくとも良い悪いではないと思います。
例えば僕の同期で、今はアカツキの代表をされている塩田さんは明確に「何年後までに、こういうことをやりたい」というキャリアビジョンを持っていました。キャリアビジョンを明確にすることによって、モチベーションがドライブされるタイプだったと思います。
「没頭から未来を創る」という考え方~学生へのメッセージ~
今後取り組んでいきたいことは、やはり、今の仕事に没頭する中で見つかるものかなと考えています。
例えば今僕がこの場所にいることって、2008年に想像できていたかというと想像できていなかった。2008年に見えている将来から逆算してたらこうは歩めなかった気がします。
DeNAがこんな会社になるとも正直思っていなかった(笑)。ベイスターズを買収するという報道が出てきたときも、社内で「嘘だろ!」って話をしていましたし、それくらい想像していない未来が起こるのが現実です。
ひょんな出会いやきっかけで何かに没頭し、そこからまた思いがけない出来事で没頭するものが変わってきたこれまでの自分の人生を僕は後悔していないです。
色々と手を出しつつ中途半端に終わるより、何か一つのことに没頭した経験があったほうがすごく楽しかったかなと振り返って思いますし、その楽しさを皆さんにお伝えすることも出来ると思っています。
繰り返しになりますが、「何年後に○○するから今これをする」と逆算していく考え方、これも全然良いと思います。合う合わないの話です。
皆さんも、自分なりのキャリアを歩んで頂きたいと思いますので、今日この話がまた皆さんの「きっかけ」になればとても嬉しいです。
編集後記
常樂寺さんと学生達
「没頭の連続が未来を創る」この言葉にすごく勇気をもらった学生も多いのではないかと思います。
僕自身、漠然とした将来の目標はありますが、明確なキャリアプランがあるというわけではありません。今この瞬間目の前のことに没頭して取り組むことが凄く楽しいと思いつつ、「このままでいいのかな」と若干の不安を抱えていました。
しかし、常樂寺さんの話を聞き、「このままでいいんだ」と勇気をいただきました。”connecting the dots”のスピーチにもあるように、今熱中して取り組んでいることが将来どう役立つかはわからない。しかし、あるときに振り返ってみて、そのとき熱中して取り組んでよかったと言える日が必ず来ると思っています。
また、そう言えるように、今の一瞬一瞬を大事にして、悔いのないよう目の前のことに全力で取り組んでいきたいですね。
―取材協力―
◎講演者:常樂寺 宏行氏
(株)ディー・エヌ・エー新卒採用責任者(※講演当時。現在は人事戦略室に異動。)。京都大学大学院エネルギー科学研究科を卒業。大学時代はバイオマス由来の材料・エネルギーに関する研究に従事。2008年DeNAに新卒入社後の最初の2年間は、広告営業や広告商品開発を担当。その後、2010年にエンジニアに転向し、コミュニティサービスのプロダクトオーナーなどを務める。2012年には韓国プラットフォーム事業の立ち上げに携わり、マネージャーを経験。2014年、人事に異動し、エンジニアの採用・異動などの責任者を経た後、2015年から新卒採用の責任者に就任。
◎講演イベント:iroots shibuya
iroots shibuyaは、irootsが主催する学生と社会人の交流会。それぞれが自分のルーツを語りあうことで、未来をより良くするためのきっかけにして欲しい。という想いで毎週火曜日@渋谷で開催されている。ゲスト講演30分+懇親会60分の2部構成にて実施中。
―この記事を書いた人―
小林 良輔
iroots インターン
早稲田大学商学部在学中。日系企業・タイ企業のビジネスマッチングサイト、子育てメディアのインターンを経てiroots編集部へ。irootsでは主に企画、マーケティング、記事作成を担当。趣味は散歩。