採用ターゲット、他社との差別化、採用体制、社内の巻き込み方…スタートアップ・ベンチャーが新卒採用を行うにあたって、急成長企業だからこそ抱える悩みや課題もあるのではないだろうか。
今回は、【急成長企業における新卒採用】にフォーカスを当てたテーマで、株式会社ネットプロテクションズの赤木俊介氏と株式会社アカツキの岸田哲宜氏のお二人にお話を伺った。
※本コンテンツは、2021年8月に開催されたiroots人事ミートアップの内容から構成されたものです。
株式会社アカツキ 新卒総合職採用リーダー岸田哲宜
神戸大学工学部卒、2017年新卒入社。入社後は1年目で事業責任者を務めた後、メガヒットタイトルのプロジェクトマネージャー等を歴任。2020年1月より人事チームにjoin。現在は新卒総合職採用のリーダーを務める。
株式会社ネットプロテクションズ 新卒採用リーダー 赤木俊介
2013年株式会社ネットプロテクションズ入社。NP後払いの顧客対応部門のマネージャーに最年少で就任し、顧客体験改善に従事。スマホ決済「atone」の立ち上げに参画し、与信審査システム・顧客対応チームの初期設計を行う。並行して、新卒採用・オフィス移転の責任者として幅広い領域に関与している。
目次
面接で知りたいことは、志望動機ではなく、“ありのままの姿”。
ー最初に、各社の新卒採用について教えてください。
アカツキ 岸田:アカツキでは総合職、ゲームプランナー職、エンジニア職の3つの職種に分けて新卒採用を行なっており、その中で私は総合職の採用を担当しています。
採用人数については、総合職10名、ゲームプランナー職5名、エンジニア職5名の合計20名程度を毎年採用しています。
選考フローは職種によって変わりますが、総合職の場合でお話をさせていただくと、特徴的なところが2つあります。まずひとつはグループディスカッションがないこと。もうひとつは選考の中にジョブが入っているところです。
これらを意図的に行なっている狙いとしては、学生の「素」を見たいというところにあります。用意されてきたものではないお話を聞きたいので、面接の中で志望動機を聞くことはありませんし、事前に対策ができてしまうグループディスカッションも実施していません。最終面接前に2〜3日のジョブを実施しているのも、面接だけで相互理解を深めるのは難しいだろうという考えからきています。“とにかく学生の「素」を見たい”というところにこだわった結果、現在の選考フローにいたりました。
ネットプロテクションズ 赤木:ネットプロテクションズでは毎年20〜30名の新卒採用を行っており、職種を分けずに総合企画職として採用しています。そして半年間の研修を経て、本人の希望を聴取して、各部署の配属希望人数と本人の適性を考慮にいれて配属を決定します。研修中に全メンバーがプログラミングを学ぶので、未経験でもエンジニアの部署に配属することもあります。
選考フローの中で特徴的なのは、一次・二次・最終のすべての面接で90分時間をとっているところかと思います。先ほど岸田さんからもありましたが、弊社でも志望動機を聞くことはありません。自身がどうありたいのか・どうなりたいのか、今の価値観を作るベースとなった経験は何なのか、というところを深く聞き、価値観のすり合わせを行なっています。
当社の価値観に本音で共感していれば、入社後に意思決定権を移譲してもズレにくいと思っているので、90分という長めの時間を使って相互理解の場を作るようにしています。
社内全体を巻き込むことを前提としているから、採用は“兼任”制
ー各社の採用体制について教えてください。
アカツキ 岸田:新卒採用は5名ほどで行なっており、それぞれの職種の責任者と、全職種にまたがるオペレーション担当で構成されています。
私たち採用チームは5名だけなのですが、受け入れ先である事業部メンバーも30名ほど採用に携わっています。
弊社は全部で4回面接を行うのですが、私たち人事が面接を行うのは一次面接だけで、あとの3回はすべて現場のメンバーに任せています。採用に協力してもらう現場メンバーは新卒入社の社員を中心に構成されているのですが、これは新卒採用を行って会社を成長させていくという目的に加えて、新卒採用に関わることで現場メンバーの成長を促したいという狙いもあるからです。
学生に対して「何故自分がこの会社に入ったのか」「今後この会社で何をやりたいのか」ということを語る中で、アカツキで働くことの意義について再度考えてもらいたいと思っています。
ネットプロテクションズ 赤木:弊社は少し変わった体制になっておりまして、私を含めた採用チーム(4名)の全員が専任ではなく兼任という形で採用に携わっています。
毎年20名規模の新卒採用を、他業務と兼任の採用チームだけで完結するのは難しい。それであれば最初から社内全体を巻き込むことを前提に採用フロー/体制を構築しています。
弊社はバンド制という5段階のグレード制度を導入しており、各グレードに合わせてリクルーターや面談、一次・二次・最終面接の役割を社員に割り振っています。面接工数が個人によって偏らないように調整するのが、私たち採用チームの役割の一つです。現在では社員の7割〜8割が採用に関わっているので、文字通り全社をあげて採用を行なっています。
スター社員を採用したがゆえに、会社の成長が止まってしまった
ー急成長期において起こった出来事や課題について教えてください。
ネットプロテクションズ 赤木:社内のフェーズはおもに3つに分けられると思います。
最初のフェーズは2012〜2013年ごろの「フィンテック」という言葉が国内で登場し始めた頃でした。その頃は、中途採用でハイスペックな「スター人材」が多く入社されました。先見性があり、これからより伸びていく会社で働きたいという志を持った方々が、ネットプロテクションズに振り向いてくれるようになったからです。多くの優秀な仲間を増やすことができましたが、この頃には多くの失敗もありました。
各チームのマネジメントも担ってもらったのですが、一人一人がスターであるがゆえに、各チームに個人の色が出過ぎてしまい、会社としての一貫性を作りづらくなってしまいました。それも原因で会社の規模が50人からなかなか増えない時期が続いたので、もう一度みんなの目線を合わせるために全社合宿を行い、全社員から意見を吸い上げて、出てきた意見を統合して、会社のビジョンを一新しました。
当然ながらみんなのビジョンが綺麗に一致することはなかったので、話し合いの中で「この会社は自分の目指すものと違うな」と感じた人は自然と抜けていきました。ビジョンができたあとは、それをもとにコンピテンシー(大事にしたい行動特性)を作り、能力よりも会社の価値観に合致する人を採用するようになりました。すると自然と定着率も上がり、どんどん人が増え始めたのが2つめのフェーズでした。
そして3つめが現在のフェーズにあたるのですが、社長をはじめとした経営陣が採用の意思決定を手放し、全社員で採用を行うようになりました。現在では毎年新卒・中途あわせて50名ほどの採用を全社で分担して進めるようになり、今まさに人員が急拡大していっているフェーズです。
ただ、このプロセスは正直かなり大変でした。ビジョンの決定には二年弱かかりましたし、ロングミーティングも頻繁に行っていました。採用をうまく進めるために「コンピテンシー」の定義は重要だとは思いますが、やり切る覚悟と余力を持っておかないと、中途半端な成果物は逆効果になるかもしれないので、ぜひやってみてください!とは簡単に言えないですね…(苦笑)。
特定のフィールドではなく、“アカツキ全体”で価値を出せる人材を採用する
ー急成長期において起こった出来事や課題について教えてください。
アカツキ 岸田:弊社の場合も同じように3つのフェーズに分けられると思います。
アカツキが新卒採用を始めたのは創業から4年後の2014年で、私が入社した2017年までは「何でもやります!頑張ります!」という気概を持ったThe・ベンチャー人材をターゲットにしたスタートアップらしい採用を行なっていました。
第2フェーズでは、会社がリアル・デジタルのエンタメ事業を強化していく中で、エンタメプロデューサーに興味がある人材を採用していくようになりました。
3つめのフェーズは2019年以降から現在に至るのですが、事業の変化に伴い、第1フェーズと第2フェーズで採用していた知識集約型人材と創造集約型人材のどちらも併せ持つ人材を採用するようになりました。
難しかったところで言うと、ベンチャーではよくあることなのですが、市場の激しい変化に伴い、事業に紐づいている求める人物像もすぐに変わってしまうところです。「●●事業に配属する人がほしい!」というオーダーを受けて採用を行なっても、その人が入社する頃にはすでにその事業はなくなっている…ということもありました。
その経験も踏まえて、今採用を行う際には、特定の部署を想定した採用は行わないようにしています。特定のフィールドではなく、もう少し抽象的にアカツキ全体で価値を出せる人を要素化し、採用要件に落としこむという取り組みを今まさに行っています。
採用における差別化に奇策はない。日々地道なファンづくりを行うだけ
ー他社との差別化について、どのように考えられていますか。
アカツキ 岸田:ベースとして、私を含め採用に関わっている社員全員が「アカツキっていい会社だよね」と思っています。なので、学生と接するときにも変に自分を大きく見せない、マウントをとらない、ありのままで対話をするということを基本姿勢にしています。
あとは、徹底的にその人の話を聞くということに尽きるのかなと思っています。
アカツキでは、今最終面接を受けても本人がより悩むだけだと判断した場合は、最終面接を先延ばしにして人生で何を大切にしているか、何を為したいのかを腹を割って話すようにしています。こちらのことだけを考えればすぐ最終面接を受けさせて内定承諾期限を切ったほうがいいでしょうが、入社してから仕事が上手くいかなかった時に、モヤモヤが残った状態で意思決定したことを後悔してしまうと思うんですよね。そのため最終面接前のフェーズではこちらも相談に乗り、本人の意思を尊重するようにしています。
加えて、弊社にはゲームに関するお問い合わせ対応に特化したCX(Customer Experience)チームがあるので、ここのナレッジを採用現場にも活用しています。選考においてご縁がなかった場合でも、定型の文章ではなく一人ひとり丁寧なご連絡をすることで、アカツキのファンになってもらうという、アカツキならではの採用のやりかたができていると思います。
他社との差別化というのは難しい課題ですが、このようなアトラクトには奇策がないと思うので、日々地道な努力を重ねています。
「早く成果を出せ」ではなく、「あの子たちを育てよう」という雰囲気を醸成する
ー入社後の受け入れ体制について教えてください。
ネットプロテクションズ 赤木:受け入れが“他人ごと化”すると育成がただのタスクになってしまい、そうなると受け入れる/られる全員がつらいと思います。そのため、“自分ごと化”してもらうことが大切だと考えます。
全部署偏りなくOJTをして顔を知ってもらう機会を作ったり、新卒メンバー1名に対して部署や年次バラバラの4-6名毎のグループを作ってサポートする『ファミリー制度』を用意したり、全社で受け入れる空気づくりはしています。
会社にとって新しい大切な仲間との感情的なつながりを感じてもらうことは、単純なようで重要なことだと考えています。
新卒採用は、PL思考ではなくBS思考で中長期的に捉えることが大事
ー最後に、人事の皆さんにメッセージをお願いします。
アカツキ 岸田:人事・採用の仕事は、社内との調整が多かったり、思ったように周りの人を動かすことができなかったりして「うっ」とつらくなるときもあると思います。そんなとき私は意識的に学生と話すようにしています。
学生のピュアな気持ちに触れると、自分はなぜ採用担当になったのか、何を為したいのかを思い出すことができるんですよね。皆様も、自分だけの「初心を思い返すスイッチ」を持っていると良いのではと思います。
私も人事としてはまだまだなので、今後も会社の垣根を超えて人事の皆さんと繋がりを持ち、学んでいきたいと思います。
ネットプロテクションズ 赤木:誰を採用するかによってその後数年〜数十年の会社の成長が変わってくるので、採用はPL的な思考よりもBS的な思考をしなければいけないなと思っています。
単年で成果を出せる人を採用しろというオーダーがあったとしても、それは聞き流してしまっていいんじゃないかなと(笑)。学生側も単年の成果を期待されて採用されるのはつらいでしょうし。
最初はパフォーマンスが上がらなかったとしても、中長期的な目線で貢献できる人をきちんと採用する。周りの意見に耳を傾けつつも、そういった人事としての本質的な会社貢献の目線を持つことができると、採用はもっと面白くなると思います。
企業・学生がお互いwin-winになるような採用をみなさんと一緒に行なっていきたいです。