「ビジネスではなく、“平和”をつくりたい」という想いで外務省へ入省した大西さん。毎年の配属面談で新たなチャレンジを希望していたものの、人事課への配属は予想外だったと言います。未経験ながらたった一人で総合職採用を担うプレッシャーに押しつぶされそうになったと語る大西さんに、人事1年目時代の心境や苦戦したこと、外務省ならではの採用の裏側についてお話を伺いました。
 
 

外務省 大臣官房人事課 課長補佐 大西生吹

2013年に外務省入省。北東アジア課、フランス留学、在フランス日本大使館、国連政策課等での勤務を経て2021年から大臣官房人事課。総合職採用を担当しながら、各種人事業務を担う。

ビジネスではなく、“平和”をつくりたい、という想いで外務省へ

 
―大西さんは2013年に新卒で外務省にご入省されていますが、そこに至るまでの経緯について教えてください。

 
両親ともにクリスチャンという家庭環境で育つうちに、幼い頃から漠然と国際社会の課題解決や平和を守る仕事に興味を持っていました。

そのため大学では法学部の政治学科を選び、基礎体力として語学力を磨きながら国際政治について学びました。

外務省職員と聞くと海外経験豊富な人ばかりが入省するというイメージがあるかもしれませんが、私の海外経験は1ヶ月間のフランス留学のみで、大学時代は主に体育会やゼミ活動に力を注いでいました。

就活では外務省を念頭に置いていたものの、それだけが選択肢だとも思っていなかったので、商社やインフラ、エネルギー業界などを中心に民間企業の選考にも参加していました。

公務員試験の勉強と体育会活動・就活の両立は容易ではなく、一時期は外務省を諦めかけたときもあったのですが、選考の中で出会う職員の方や同じく外務省を目指す同期たちから刺激を受けるうちに、やはり自分はビジネスではなく平和をつくりたいという気持が明確になり、最終的には入省を決めました。
 
 

自分自身をさらけ出し、学生の人生選択と向き合うプレッシャー

 
―入省後、外務省員・外交官としての勤務を経て2021年に人事へご異動されたということですが、それは大西さんのご希望だったのですか。
 
いえ、人事への配属はまったく予想していませんでした。私に限らず、人事課で勤務したいと思って外務省入省を志す人はまずいないと思います(苦笑)。

ただ、配属希望にあたっては毎年、「今までやったことがないことに挑戦したい」と伝えていたので、そういう意味では希望が叶ったともいえますね。

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外務省では伝統的に概ね2年間、1人の職員が総合職の採用担当を務めます。そのため、その年に採用された職員は時に「●●(人事担当や採用担当の名前)チルドレン」と呼ばれることすらあるのです。

したがって、私も同じように、自分自身をさらけ出し、これから日本外交を担おうとしている学生の人生選択と向き合わなければいけないというのはかなり大きなプレッシャーでした。
 
 

学生に伴走し、その笑顔や涙のそれぞれに立ち会う経験

 
―人事に異動後はどのような業務に携わっていましたか。
 
採用担当という肩書きが先走ってしまいますが、単純に採用だけをやっていればいいというわけではなく、外務省に人生を預けてくれた若手職員をどうやって育てていくかというのも一つの重要なミッションでした。

また、採用業務については、数なんて本質ではないとわかりつつも、応募者数や採用人数が過去最低になったらどうしようなどといったプレッシャーとの戦いは想像以上に大変でしたね。

蓋を開けてみると多くの方に挑戦いただけたのでホッとした気持ちはありつつ、やはりどこかで自分の見られ方を意識していたのだなと自覚しました。

選考を通して採用を決めた約30名の方々には心から自信を持っているのですが、採用活動を通じて、単に待っていれば自然と学生が志望してくれるという時代ではなくなりつつあることも実感しました。

あとは外務省を志望してくれた優秀で熱意ある学生たちに対して、人事当局として採用・不採用の判断をしなければいけないことも過酷な経験でした。

出会ってから最終面接まで約一年間伴走してきた学生に対して直接不採用の結果を告げなければいけないのは、人事という立場を超えて一人の人間としてつらいものがありました。

ただ、こうした志望学生の笑顔や涙のそれぞれに立ち会うことで、自分自身も志望学生の数だけ就活を体験したかのような気持ちになりましたし、これまでの外務省人生では得られなかった経験を数多く積むことができたので、人間として成長することができた貴重な機会だったと思います。
 
 

“一つのチームとして仕上げる”という視点に気付かされた一年目

 
―人事1年目を振り返って、うまくいったと思うことを教えてください。
 
採用担当者にはアピール、フォロー、ジャッジという三つのスキルが求められると思いますが、フォローについては比較的適切にできたのかなと感じました。

たとえば採用担当者の中には学生への発信力やアピール力が高い方もいらっしゃいますが、私はその点において特別に能力が秀でているとは思っていません。

ただ、個別の学生に寄り添うという点においては自分の気質と合っていた面もあったように感じますし、実際に一度距離を縮めることができた方たちは最後まで離脱することがありませんでした。

自分も就職先を選ぶときには外務省だけがすべてではないと思っていたので、学生にはフラットに接するように心がけていました。

彼らの悩みに対して一方的に答えや解決策を提供するのではなく、何に悩んでいるのか、本当はどうしたいのか、ということについて聞き手に回ることが多く、無理に外務省を推すようなこともしませんでした。

悩みの軸は人それぞれで、自分が歩んだことがない人生を勝手に導くことはできません。もはや就活を超えた人生相談のような内容もありましたが、そういうところにいかに時間を割けるかということが大切だったのではないでしょうか。

私はたまたまこのスタイルが合っていましたが、これは採用担当者によって違う個性なのだろうと思います。
 
―逆に、これは反省点だったと思うことはありますか。
 
細かい失敗はたくさんありました。全ての経験を今後に活かしてブラッシュアップしていく考えです。

その上で、過去1年間の採用関連業務を経て特に気づきが大きかったのは、最終的にどんなチームを作るかという視点です。どの方に入省いただくかを判断するにあたっては、特定の学生個々人のエピソードに引っ張られるのではなく、将来的に同期となる採用者全体を俯瞰する視点も重要ということです。

これは先ほどお話しした個人一人一人のフォローに重点を置くことの裏返しかもしれません。もちろん個人を見ることは前提として大切なのですが、30人の多様性やバランスを踏まえて「一つのチームとして仕上げる」という観点も持っておかなければいけないということを学びました。
 
 

人事にとっては100回目でも、学生にとっては一度きり。その一度を無駄にはしないで

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―人事として、個人として今後チャレンジしていきたいことを教えてください。
 
役所は堅い、敷居が高いというハードルは何もしなければ勝手に上がっていく一方だと思うので、今期以降もステレオタイプを打破していかなければいけません。採用活動を通じて、「外務省をよく知らない」という学生にもありのままの姿を伝えていきたいです。

そして、人事課での勤務を終えた後も、「今までやったことがないことに挑戦したい」という希望は持ち続けると思います。また、採用を通じて人間として学んだことは沢山あるので、まだまだ未熟ではありますが、部下を持つ立場になっても自分自身が範を示せるよう努めていきたいです。
 
―最後に、人事1年目の方へ伝えたいことはなんですか。
 
人事1年目は皆、自分自身の人間的な未熟さとも向き合い、人材確保に苦労すると思います。ただ、採用は長期的な投資活動なので、内定で終わりではないことも忘れてはいけません。

「内定がゴールではない」とは学生によく伝える言葉ですが、我々人事担当者としても肝に銘じるべきだと思います。人事は学生を集めて何人採用できたね、と喜んで終わるのではなく、採用した人たちがその後いきいきと働ける環境づくりにも責任を持たなくてはいけません。

あとは、人事として日々の勉強を怠らないことも大切です。私もやったことのない仕事がまだまだたくさんありますが、学生からはあらゆる質問がなされます。

それに対して知りませんというのは通用しないので、組織の姿や方向性に誰よりも敏感でいられるよう、常にアンテナをはっておく必要があります。

こちらは何百回目の説明でも学生にとっては一度きりかもしれません。自戒の念も込めて申し上げれば、こうした一度かもしれない機会や出会いを無駄にはしないことが大切だと思います。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵