近年、多くの企業において副業をはじめとした社員の「課外活動」が推奨されるようになりました。それは社員の課外活動を支援する側の人事においても例外ではなく、本業以外の場所で「人・組織」を軸にした活動をおこなう方が増えています。本連載では、そんな課外活動に挑戦している人事の方にインタビューし、課外活動をはじめたきっかけやその内容、本業との課外活動の関わり方などについてお話を伺います。

第5回目はデル・テクノロジーズの人事・遠藤 忍さんをゲストにお招きし、学生時代、人事、教員時代と一貫しておこなわれてきた教育に関する課外活動についてお伺いしました。
 
 

遠藤 忍 デル・テクノロジーズ株式会社
障がい者雇用プログラムリード・キャリアサポートセンター東京トレーナー

新卒で入社した株式会社マクロミルにてデータ分析と人事(採用・研修開発)を担当し、2019年より認定NPO法人Teach For Japanの7期フェローとして、福岡県飯塚市の中学校にて3年間講師を務めながら、社会人と中学生がペアになってセッションをおこなう『マイメンター』プログラムを主催。現在は、デル・テクノロジーズ株式会社の人事として、障がい者向けの研修型雇用プログラムの運営に携わる。

学生時代にはじめた子ども向けのワークショップが原点に

 
―課外活動をはじめた時期ときっかけについて教えてください。
 
今まで「若年層の学びにたずさわる」ことをテーマに課外活動をおこなってきましたが、その原点にあるのは2011年からはじめた福島の子どもたちを対象にした宿泊型ワークショップです。

宿泊型ワークショップでは子どもたちを率いる役割も担っていた

はじめた当時は大学院生時代でしたが、社会人になってからも本業と並行しながらその活動を続けていました。

ですので、私の場合は学生時代から課外活動を楽しんでいるうちにここまできたという感覚で、いくつになっても純粋に楽しめる遊びのような存在です。

お客さんとしてお祭りに参加するよりも、スタッフとして誰かの役に立つ方が嬉しいという性分も、長く課外活動を続けてきた理由の一つかもしれません。
 

肩書きのない人間関係は、人事にとっても“学びほぐし”の機会になる

 
―あらためて課外活動の詳しい内容について教えてください。
 
現在は知人の教員が取り組む探究学習の企画サポートをしており、過去には中高生を対象にしたキャリア教育プログラムを主催したり、『青春基地』という高校生の探求学習をサポートするNPOのメンバーとして活動をおこなったりしていました。

自分が過去に主催したキャリア教育プログラムは、社会人と中学生がペアになってセッションをおこなう『マイメンター』というもので、45人の中学生一人ひとりにメンターとして2人ペアの社会人をつけ、年間5回にわたって同じメンターとオンラインでキャリアについて対話するという内容です。

『マイメンター』を発案・開催したのは、新卒で入社したマクロミルを退職し、Teach For JapanというNPO法人のフェローシップ・プログラムを活用して福岡県で中学校の教員をおこなっていた時代でした。

マクロミルでは人事として採用や育成を担当していましたし、大学院時代から続けていたワークショップでも子どもたちと関わっていたので、そういった経験は教員でも活かせるだろうと考えていたのですが、いざ教壇に立つとそれらをもってしても太刀打ちできない問題に直面してしまい…。

人事として大学生や社員に接していたときは、売上や利益、ビジョンなどを共通言語にしてコミュニケーションを取ることができましたし、お互いが利害関係にある大人なので意思疎通もある程度はスムーズでした。

それに対し、勉強に対するモチベーションもばらばらで、なおかつ思春期真っ只中の生徒たちと関係性を築くのは容易なことではなく、生徒との関わり方に苦悩する日々でした。

その中で「肩書きのない人間関係」のあり方について深く考えるようになり、最終的には先生と生徒という肩書きを取り払ったときにこそ、はじめて本当の人間関係が築けるのだと思い至りました。

このような経験から、「肩書きのない人間関係」を経験することは現役の人事にとっても学びほぐしになるし、生徒にとっても人事と対話しながら将来について考えることは貴重な経験になるはずだと思い、『マイメンター』の開催に至りました。
 

生徒の将来に向き合うことで、自分のキャリアを考える人事も

 
―『マイメンター』に参加した人事の方からはどのような意見や感想があげられましたか。
 
会社や人事という肩書きを外してコミュニケーションを取ることの難しさを感じたという感想が多かった一方で、「やっぱり人って成長するんだなと思った」という感想があがっていたのが印象的でした。

人が成長するというのは一見当たり前のように思いますが、最初はなにを質問しても「わからない」ばかりを繰り返していた生徒が、数ヶ月の対話の中で「将来は◯◯になりたい」という夢を見つけ、どんどん積極的になっていく姿を目の当たりにし、改めて人が持つ可能性に気付いたというお話でした。

『マイメンター』で生徒と社会人たちが対話をする様子

また、苦心しながら生徒に問いかけ、考えを引き出し、関係性を作っていく過程の中で「なぜ自分は人のキャリアに関わる人事の仕事をしているのか」と、自身のキャリアを振り返るきっかけになったという感想もいただきました。

一年間という長期にわたって時間を作り、生徒と向き合うことは簡単ではなかったと思いますが、利害関係のない相手の成長と進路実現に向き合うことで、人事のみなさんにとっても気づきの多い経験になったのであれば嬉しい限りです。
 

動機は作り込むものではく、“光を当てて引き出す”もの

 
―課外活動をおこなう前と後で変わったことはありますか。
 
どんな人にも「こうありたい」とイメージする姿があるという前提で相手と対話できるようになりました。

どんな年齢の人であっても本人の中には何かしらのイメージがあり、もやもやしているのはそれがうまく言語化できていないだけなんだと思います。

人事として採用に関わっていたころはよく候補者の方と一緒に動機を作り込んでいましたが、動機は作るものではなく、本人の中にあるものに光を当てて引き出すものであると気づくことができました。

また、『マイメンター』をはじめとした課外活動を通じて、自分は誰かを巻きこんで社会の困り事をときほぐしていきたいんだと気づき、自分自身のキャリアの方向性を見つけることができました。

現在は本業としてデル・テクノロジーズで障がい者雇用に携わりはじめたところですが、このご縁も課外活動で知り合った方がつないでくださったものなので、課外活動がキャリアや本業に与えた影響は非常に大きかったです。
 

越境体験をしたからこそ、新たなキャリアの文脈に辿り着けた

 
―最後に、課外活動を踏まえてこれから描いていきたいキャリアや展望について教えてください。
 
シンプルにいうと、社会課題が存在するところで人の役に立ちたいです。

私のキャリアは一見すると、人事・教員・障がい者支援と一貫性がないように思われるかもしれません。しかし越境体験をしたからこそ、自分の経験と社会課題を混ぜ合わせて、新たな文脈へ辿り着くことができました。

教員時代の最後には、「障がい」をテーマにした授業を実施した

今後は人事として障がいの有無やラベリングに関わらず、お互いに困っていることを慮られる組織づくりに携わっていきたいです。

障がい者の方と共に働き、成果を共有することで、組織に「多様性への寛容さ」が広がり、結果、多様な顧客理解につながると思うので、企業を強くしていくという観点からも意義のあることだと考えています。

それと並行しながら教員や『マイメンター』の活動で得られた知見を活かして教育とビジネスの現場をつなぎ、お互いの叡智を役立てていけるような支援をしていきたいです。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵