近年、多くの企業において副業をはじめとした社員の「課外活動」が推奨されるようになりました。それは社員の課外活動を支援する側の人事においても例外ではなく、本業以外の場所で「人・組織」を軸にした活動をおこなう方が増えています。本連載では、そんな課外活動に挑戦している人事の方にインタビューし、課外活動をはじめたきっかけやその内容、本業との課外活動の関わり方などについてお話を伺います。

第1回目はソフトバンクの人事部長・杉原倫子さんをゲストにお招きし、2021年からはじめた東北大学のプログラム特任教授(客員)の活動と、そこから得られた気づき、本業に与えた影響についてお伺いしました。
 
 

杉原倫子 ソフトバンク株式会社
コーポレート統括 人事本部 組織人事統括部 人事プロジェクト推進部 部長 兼 インキュベーション事業統括部 事業管理部 部長

1997年 日本テレコム株式会社(現ソフトバンク株式会社)入社。保険代理店業務に従事した後、新規プロダクト開発および営業推進を担当。2003年に人事部門へ異動。人事制度全般の企画・運用や人事システム構築の統括を経て、2016年から人材開発の責任者としてソフトバンクユニバーシティ、ソフトバンクイノベンチャーなど、人材開発領域の各種施策を担う。2019年4月からは採用責任者としてソフトバンクらしい攻めの採用を牽引し、動画面接の評価にAIシステムを導入。現在はHRBP業務や人事横断プロジェクト業務の傍ら、新規事業の事業管理に携わる。

「きっと人違いだろう」。学生からの推薦をきっかけに、東北大学の特任教授(客員)に

 
―課外活動をはじめた時期ときっかけについて教えてください。
 
きっかけは2021年2月に東北大学からご連絡をいただいたことです。

ソフトバンクのWEBサイトに「特任教授(客員)をお願いしたいので、杉原さんとつないでほしい」というお問合せがあったと聞いたときは、きっと(人事本部長の)源田と間違えているのだろうと思いました(笑)。

しかしお話を伺ってみると、新たな特任教授(客員)を探す際に学生から意見を募ったところ、ありがたいことに私の名前があがり、お声がけをいただいたとのことでした。私を推薦してくれた学生は、「人事のリレーメッセージ」を読んで興味を持ってくださったということだったので、そんなところから繋がりが生まれるのかと驚きました。

これは源田の教えでもあるのですが、インタビューやセミナーなど、外部の方からお声がけいただいたときには、基本的に「私でお役に立てることがあれば」というスタンスでお受けするようにしています。ただ、特任教授(客員)という選択肢はさすがに想像しておらず…。

錚々たる方々の中で自分に何ができるのだろうと不安に思いましたが、このような機会なんて滅多にないという気持ちと、当時の本プログラム担当で、東北大学病院 病院長特別補佐の中川先生の熱意に押され、2021年の4月に東北大学が実施する「未来型医療創造卓越大学院プログラム(※)」のプログラム特任教授(客員)に着任しました。

(※)未来の医療をより優れたものへと変革する人材の育成を目指すプログラム。医療系・生命科学系の学部だけでなく工学・経済学・文学・教育学などの学部を修了した学生がプログラムに参加している。
 
 

メンターとして伴走し、学生の研究に貢献したい

 
―現在おこなっている課外活動の内容について教えてください。
 
特任教授(客員)にはセミナーの登壇や学生のメンターなどいくつかの役割があるのですが、まずは学生のメンターからはじめようということになり、現在は博士課程の学生一名と月に一度オンラインでミーティングをおこなっています。

学生から研究についての話を聞くのは面白いですし、大学で研究を続けることの難しさについての理解も深まりました。

研究に関する専門的なことに深く介入することはありませんが、研究が停滞している場合のメンタリングフォローや、先生や他の学生とのコミュニケーションの取り方、学生自身の思考に関する助言をおこなっています。

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(昨年9月に東北大学病院を訪問した際、東北大学病院の未来医療人材育成寄附部門のインターン生の皆さんとの面談を行いました)
 
例えばチーム運営に悩んでいるときには、ソフトバンクを例にリーダーに求められる行動についての話や、他者を巻き込むためには想いだけでなくファクトを集めなくてはいけないということを伝えています。

人事は社内を巻き込んで仕事を進めることが多いので、社会人としてだけでなく、人事ならではの経験も役立っていると感じます。

学生も私が助言した内容に対して素直に「それやってみます!」と言ってくれるので、お互いに気づきの多い時間を過ごせているのではないでしょうか。最初は不安な部分もありましたが、半年間継続しているうちにようやく役に立てているという実感が生まれてきています。

私が担当している学生は歯科医でありながら大学院で研究をおこなっており、ミーティングの際にはいつも話したい内容を事前にまとめてきてくれます。そのぐらい真面目で一生懸命頑張っている学生なので、伴走することで少しでも学生自身の研究に貢献したいですね。

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(写真左が個人メンタリングを行っている東北大学未来型医療創造卓越大学院プログラム3期生笹井真澄さん。写真はプログラムの一環である石巻赤十字病院での研修でチームメンバーと。メンタリングでは研修で気づいた病院内の課題解決提案プレゼンの内容を聞き、アドバイスなども行っています)
 

自分だけでは答えを持ちきれない時代だからこそ、外に出て他者とつながる

 
―課外活動を通じて得られた気づきや、難しいと感じることを教えてください。
 
学生から相談を受けるのは他者とのコミュニケーションに関する内容が多いのですが、それは学生だけでなく他部署や社外の人と関わるときにも生まれる悩みだなと思います。学生に助言をしながら「自分ももっと気をつけなければ」という戒めにもなるので、本業にもいい影響があるのではないかと思っています。

ただ、もっとリアリティをもって伴走をするならば、やはり現地に行って直接会うのが一番なのだろうと感じています。学生が研究している環境を自分の目で見て周りの人と話すことができれば、学生が抱えている課題をもっと自然に理解することができるでしょうし、本人が気づいていないリソースにも目を向けられるかもしれないなと。

メンターという立場を考えると学生と一定の距離を保つ必要もありますが、学生が学ぶ環境をもっとリアルに知ることができれば、よりよい話ができるのではないかなと思っています。
 
 
―課外活動をおこなう前と後で変わったことはありましたか。
 
 
今回のご縁を通じて、もっと社外に出ていかなければと強く思うようになりました。これからは正解のない課題が増えてくると言われていますが、日々仕事をしていると本当にその通りだなと痛感します。それらの課題と向き合うためには、さまざまな経験を積み、人とつながることが大切だと感じます。

ちょうど最近、社内のメンバーからスポーツでの実例を入口に女性活躍推進のワークショップを企画できないかという相談を持ちかけられた際に、以前から繋がりのあったスポーツ関連の一般社団法人の設立メンバーを紹介しました。具体的にどのような取り組みになるかはまだわかりませんが、現在具体的な企画に向けて話を進めています。

このように、正解のない課題に対して自分だけで答えを持ちきることはなかなか難しいですよね。だからこそ人とつながり、その中で誰の力を借りればいいのかわかっている状態になっておけば、すぐに答えは出なくても、自分の経験とかけあわせながら答えを探していくことができると思っています。

東北大学未来型医療創造卓越大学院プログラムだけでなく他の大学でも学生に対して働くことやキャリア観についてお話しをしていますが、今後も何かお誘いをいただいたときには、できる限り「はい」か「イエス」でお話を受けるようにしていきたいです。
 
 

社内と社外、それぞれの経験を循環させていく

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―最後に、課外活動を踏まえてこれから描いていきたいキャリアや展望について教えてください。
 
今現在の正直な気持ちとして、人事としての専門性を高めることに強いこだわりはありません。ただ、ソフトバンクに居続ける限りにおいて、優秀な人材から選ばれる会社にしたい、成長し続ける会社に資する人事をやりたい、そしてソフトバンクの魅力を世の中に伝え続けたいという想いはあります。

昨年は大規模なワクチン職域接種プロジェクトを担当させてもらいましたが、ちょうど先日そのプロジェクトのリーダーとして社長賞をいただいたんです。

社内外問わず多くの方々と連携して未知の課題に挑戦していくことで貴重な経験が積めましたし、一緒にそれをやり切ったメンバーや、一見無茶ともいえるスピード感で大規模な職域接種を決断したソフトバンクという会社をより一層誇りに思うようになりました。

外からのインプットを得るだけでなく、社内での経験を通じて気づいたソフトバンクの魅力も積極的に発信していければと思っています。

ソフトバンクでは、社外での副業制度を整えていますし、2021年には社内副業制度も導入し、社内にいながらも様々な経験を積むことができます。

私も人事と兼任して新規事業の事業管理にも携わっており、社内外問わず経験を積むことを応援している会社なので、その環境を活かすかどうかは社員次第ですね。

社内でしか経験できないこと、逆に社外でしか経験できないことがあると思うので、それを循環させていくことが大切なのではないかと思っています。

今後は身近にいる仲間をもっと外に引っ張り出していこうと目論んでいるところです(笑)。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵