中途採用だけでなく、新卒採用にとっても欠かせない手法の一つになっているダイレクトリクルーティング。しかし、導入したのはいいものの、どのようにアプローチをすればいいのかわからない、せっかくスカウトを送っても学生から反応がない…という場合もあるのではないでしょうか。今回は、新卒スカウトサービス「iroots」を通じて1on1にこだわった運用をおこなっている三井化学人事・鳥山さんをゲストにお招きし、学生プロフィールの読み解き方、学生の心を動かす“ラフな”スカウトのコツ、スカウトによって得られた成果についてお伺いしました。
 
 

三井化学株式会社 人事部人材グループ採用チーム 事務系採用担当 鳥山慧

2012年に新卒で三井化学株式会社に入社。工場での総務経験を経て、大手エネルギーメーカーとのジョイントベンチャーに出向し、樹脂の営業・開発・マーケティングに従事。2021年より人事部で新卒採用担当を務める。

DR導入の背景にあったのは、多様性の創出

―最初に、ダイレクトリクルーティング(以下DR)を導入された理由について教えてください。

一番の目的は、多様性のある母集団を作ることです。

化学メーカーという特性上、決まったものを売るのではなく、世の中の課題に対して多様な価値観のもとに事業や製品を作ってきた背景があるので、“多様性”というのは三井化学にとって重要なキーワードです。

ありがたいことに就職活動を通じて自然と三井化学に興味を持ってくださる方もいますが、それだけではどうしてもタイプが均一化されてしまうので、他業界を見ている方にもこちらからアプローチを仕掛けていこうという意図でDRを導入しました。

あとは、三井化学という社名から連想される「堅そう」というイメージを、メッセージのやりとりを通じて和らげられればとも思っています。
 

気になるのは、“喜怒哀楽”が文章に表れている人

―どのような学生にスカウトを送っていますか。

「化学メーカーを志望していない方」というのが唯一の共通項です。それ以外は特に基準のようなものはなく、正直なところプロフィールを見て気になった方にメッセージを送っています。

irootsのプロフィールは『私の履歴書』のように読み応えのあるものばかりですが、特に気になるのは、プロフィールの中に喜怒哀楽や当時の情景が表れている方ですね。

すごい経験をしてきたかというよりも、失敗経験やネガティブな感情を含めて「自分は今までこうして生きてきたんだ」という気持ちが表れている方には、特にシンパシーを感じやすいです。

プロフィールの書き方も人によってさまざまですが、濃い経験を書いている方だけにスカウトを送るとそれはそれで偏りが出てしまうので、さらっと書いている方のプロフィールも必ず読むようにしています。

その中で、気になるポイントがあれば「それってどんなことされていたんですか?」という感じでメッセージを送ることもあります。
 

おすすめのラーメン店をピックアップして送ったことも

―実際にどのようなスカウトを送られていますか。

その方の成功・失敗体験や価値観など、何か一つをピックアップして、自分が気になったり共感したりしたポイントを添えてメッセージを送っています。100人いれば100通りのメッセージを送っているので、当然ながら時間はかかりますが。

私が採用担当になる前から、三井化学の中には「企業と学生は対等である」というスタンスが脈々と受け継がれてきているので、メッセージの中にもそれを反映しています。

地方に住む学生のプロフィールに「ラーメンサークルを作った」と書かれているのが気になったときには、自分がおすすめするラーメン屋のURLを5つほどピックアップして「もし東京に行く際は参考にしてね」と送ったこともあります。

そのメッセージを見た同じチームのメンバーからは「こんなにラフでいいんですか?」と驚かれましたが(苦笑)。

でもこのやりとりってリアルだと普通に生まれる会話ですよね。そうした普通の会話をメッセージにできるだけ反映したいと思っています。ちなみに去年は蕎麦好きの方がいたので、そのときはおすすめのお蕎麦屋さんを送りつけました(笑)。

どうしても財閥系の化学メーカー、しかも人事と聞くとすごく堅物なイメージがあると思うので、せっかく一対一のメッセージでやり取りできるのであれば、フラットなコミュニケーションがとれるよう心がけています。
 

新卒採用のキーワードは、「FUN」と「FAN」

―スカウトに対する学生の反応はいかがですか。
 
「あの部分に着目してくれたのは三井化学だけだったので、ちゃんとプロフィールを読んでくれているんだと思いました」など、おかげさまで比較的好意的な感想をもらうことが多いです。

スカウトを送った方とはインターンや選考で顔を合わせることがありますが、はじめから親近感を持って話すことができるところがスカウトのよさですね。

「鳥山さんってこういう人だったんですね!」といわれることもあれば、「なぜ私にスカウトを送ってくれたんですか?」と聞かれることもあります。学生のみなさんとお会いする前には改めてプロフィールやメッセージのやりとりに目を通しているので、そのときはきちんと答えられるようにしています。

逆に「プロフィールの印象と違うね!」と率直に伝えることもありますよ。いずれにせよ、はじめましての状態であっても会話は生まれやすいですね。

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―DRを活用するうえで心がけていることはなんですか。

DRに限らずですが、まずは自分たちが“楽しむ”ことを心がけています。もちろん採用も楽しいことばかりではありませんが、学生のみなさんが最初に出会う社会人である私たちが嫌々仕事をしていると、がっかりさせてしまいますよね。

今期の採用方針として、自分たちが採用を楽しむ「FUN」と、その姿を見て学生のみなさんに「FAN」になっていただくことをキーワードにしています。

DRにももちろん「FUN」は必要なので、まずは自分が楽しみながらメッセージを送るように心がけています。たとえ画面越しでも、人事が嫌々送っているか楽しんで送っているかは相手にも伝わると思うので、まずは自分たちが「FUN」を見出すことが大切ではないでしょうか。

その姿を見て「FAN」になってもらえれば、たとえそのときにご縁がなかったとしても、その後のお仕事や社会人生活でのご縁が広がっていくのではないかと思っています。
 

「どんな言葉を添えればいいかわからない」。そんなときは?

―最後に、これからスカウト採用をはじめる採用担当者の方へメッセージをお願いします。

一言でスカウトといっても、いろいろありますよね。マス向けに量を送ってリアクションがあった方に追加でアプローチする場合もあれば、私たちのように最初から個にフォーカスしてさらに深掘りしていくという場合もあります。

どちらが正解というのはないので、限られた時間の中でなにを優先するのかを考え、まずは使いながら自社らしいスタイルを探していくのがいいのではないでしょうか。

あとは、個にフォーカスをするといってもどんな言葉を添えればいいかわからない…という方は、ご自身のキャリアを活かしたメッセージを送るのがいいのかなと思います。

私も採用担当になってまだ1年と人事経験は浅いですが、代わりに今までの営業経験を活かし、「●●さんの▲▲という経験は三井化学のこういう部分で活かせますよ」というメッセージを送っています。

また、営業をしていたときに思っていたことですが、結局は人と人だということです。一人の人間として会話するというスタンスは採用においても変わりません。

先ほどもお話しした通り、画面越しのメッセージでも相手に気持ちは伝わるので、まずは気負わずにメッセージを送ってみることをおすすめします。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵