長期化する新卒採用において、採用したい学生を魅きつけ続けるために、人事はどのような戦略を練るべきか。
採用したい学生を魅きつけるには、全社を巻き込んだ採用文化を作ることと、採用戦略を徹底的に言語化すること。そう語るのは、日本たばこ産業(JT)と Fringe81で新卒採用に携わる比嘉氏と浦川氏。社風も規模も全く異なる二社の道のりから見えてきた、“優秀人材を魅きつけるメソッド”を紐解く。
※本コンテンツは、2020年7月に開催されたiroots人事ミートアップの内容から構成されたものです。
Fringe81株式会社 人事部 人事部長 浦川雄志
2013年4月にFringe81株式会社に新卒入社。入社1年目よりブランド企業のデジタルマーケティングを支援する新規事業の立ち上げを経験。2017年4月より人事責任者に就任。人事部の立ち上げを行い、採用・人事制度設計といった人事領域全般での企画設計から実行まで幅広く担当。現在はピア・ボーナス制度や定量評価に紐付かないパフォーマンスマネジメントなど、従来とは異なる新たなアプローチで社内活性化に邁進中。
日本たばこ産業株式会社 人事部 比嘉将大
日本たばこ産業株式会社(JT)に新卒で入社後、入社1年目から人事部へ配属。
現在は新卒採用担当として、ピンポイントに学生へアプローチするチームに所属。
目次
学生の顔を見ず、数字だけを追いかけていた過去
―Fringe81さんは毎年開催されているサマーインターンシップが学生の間でも人気ですが、現在に至るまでにどのような道のりがありましたか。
Fringe81 浦川:インターンシップという観点で振り返ると、インターンシップを行っていなかった時期、インターンシップの黎明期、インターンシップが学生のみなさんに評価いただけるようになった時期の3つに分けられると思います。
その中でも、インターンシップの黎明期から学生のみなさんに評価いただけるようになるまでは、多くの失敗を経験しました。
―特に印象深い失敗はなんですか。
Fringe81 浦川:私の中での一番の失敗は、KPIのプランニングです。私自身インターネット広告の現場を経験した後に人事になったという経緯があったので、採用のKPIのプランニングを行う際に、広告運用と同じような考え方をしてしまっていたんです。つまり、内定承諾率30%で30名の学生を採用したいのであれば、100人に内定を出せば目標達成できるでしょ、という考え方です。これって今思うと、学生に対してとてつもなく失礼な話ですよね。
本来30名の学生を採用したいのであれば、30名の学生に内定を出して、30名の学生が内定承諾をしてくれる世界を目指すべきであって。自分が学生の顔ではなく、数字だけを見ていたことに気づきました。
そのような経験も経て、現場の社員を巻き込みながら真摯に学生に向き合ってきた結果が実りつつあるのかなと思います。
―とはいえ、いきなり採用上の数字から脱却することは簡単ではないと思うのですが、そのあたりはどのように考えると良いのでしょうか。
Fringe81 浦川:一見矛盾したように聞こえるかもしれませんが、数字マネジメントから脱却するためには、数字に意志を込めることが大切だと思います。前年と比較してなんとなく歩留まりの数字を出すのではなく、内定承諾率を100%にすると掲げたのであれば、とにかくそれにこだわり、達成できるための施策を考える。こういう風に言うとただの根性論みたいに聞こえますが…(苦笑)。
実際、弊社も過去の内定承諾率は30%程度だったのですが、それをそのまま受け入れるのではなく、残りの70%は本当に適切なリソースの使い方ができていたのか?もっと引き上げることはできないのか?という議論を徹底的に行い、試行錯誤を重ねました。その結果、現在では内定を出した方の70%以上にご入社いただけるようになりました。
社長の戸惑いを押し切り、採用の権限を現場へ
―Fringe81さんは社長を含め、人事以外の方も採用に対してとても熱心に協力される風土があると伺ったのですが、なぜその風土が根付いているのでしょうか。
Fringe81 浦川:採用における目的意識について、全員で共通認識を持てているからだと思います。「採用=会社の成長させる源泉を探す」ことだという認識が社員の中で当たり前にあるので、採用に協力することに対するインセンティブなどがなくても、すごく自然に協力してくれています。
あとは、採用に対する権限を現場に移すことで、主体者意識がより芽生えるようになったと思います。以前は社長が内定のジャッジを行なっていましたが、現在は最終選考までは現場の社員が行い、内定は私が出すというフローに変えました。やはり任されると現場の社員もやる気になってくれますからね。
―逆に社長は内定の権限を現場に移すことに反対されなかったのですか。
Fringe81 浦川:最初は「私が内定を出さなくていいのか?」と戸惑っていましたが、「入社して一緒に働くのは現場なので」と言って最終的には私が押し切りました(苦笑)。
ただ、そういう局面で信頼して任せてもらえるように、SNSで社長がシェアしている内容や、机の上に置いてある本の内容はつねにチェックしていました。経営陣が今どんなことに関心を持っているのかを理解した上でコミュニケーションをとることにより、「この人事責任者は自分と同じレイヤーで物事を考えているんだな」と信頼してもらえるのかなと想像しています。
役員や現場社員にも学生の「顔」が見える工夫を
―JTさんの場合、採用に現場社員や経営陣を巻き込むという点で、今までの風土や社員数を考えるとかなり難易度が高そうですが、工夫されている点などはありますか。
JT 比嘉:まずは私自身が職種や役職の異なる社員とこまめにコミュニケーションを取り、JTの歴史や各部署の仕事について深く学びたいという気持ちは根っこにあります。
私が新卒から人事に配属されたという経緯もあり、社史を読むだけではどうしてもリアルな会社の歴史や社員の考え方に触れることができません。そのため、何かの拍子ですれ違った知り合いなどには「最近どんなもんです?」というような声がけは自分からするようにしています。
それでも当然ながら全員が全員採用に協力的という前提は置けないし、置くべきでもないので、そういう場合は「あなたの部署について理解を深めたいので、勉強会を開催させてください!」とお願いすることもあります。そう言われると誰しも悪い気はしないと思うので。
あとは、採用の中で出会った素敵な学生を早い段階で役職者や社員に会わせるようにしていますね。採用できる・できないに関わらず、「世の中にはこんな素敵な学生がいるのか」と知ってもらうことで採用に対する温度を高めていきたいからです。
先ほど浦川さんがおっしゃっていたことにも通じますが、役員に対しても今年は内定者が何人で、内定承諾者が何人で、という数字だけのコミュニケーションではなく、「この前面談した○○さんは結局どこに決めたの?」「海外の大学院に行くそうです」「やっぱりそうかぁ〜」という会話ができるぐらい、学生の顔が社内の人にも見えるような工夫をすれば、自然と採用に対する温度というのは高まっていくのかなと思います。
“目先の入社”より、“長期的な信頼”を優先する
―この学生とこの社員を会わせてみるといいんじゃないかというのはどのように見極められているのですか。
JT 比嘉:なかなか言語化が難しい部分ですが、とにかく学生の話をちゃんと聞くことに尽きると思います。ちゃんと相手の話を聞くというのは、シンプルですけど本当に難しいことです。聞いているようで、実は自分たちが言いたいことを言っているだけの場合もありますし。
例えば、「今大学で取り組んでいることは〜」というのと、「今大学でやっていることは〜」という表現一つをとっても、その裏に隠されている気持ちというのは微妙に違うはずなんですよね。本当に小さいことですが、それを積み重ねていくことで相手を理解していく。
その上で、もし合いそうな人が社内にいなかった場合には、他社を紹介するというのもひとつの方法だと思います。結果的に弊社に入社することがなくても、素敵な人の周りには素敵な人が集まっているので、そのネットワークの中で長期的な信頼を得ることを優先しています。
魅力づけの第一歩は、徹底的な言語化
―長期化する新卒採用の中で、学生への魅力づけを行うために行なっていらっしゃることはありますか。
Fringe81 浦川:弊社では、出会いから入社までのストーリーを設計したカスタマージャーニーマップを作っています。イベント、選考会、インターン、一次面接、二次面接…というそれぞれの採用フェーズにおいて、理想の状態とそれを実現するための施策をすべて言語化し、社内で共有しています。
これは内定者インターンをしている学生に、弊社との出会いから入社に至るまでの心理状態の変化を徹底的に棚卸してもらい、それをもとに作成しているので、ターゲットとなる人材のリアルな気持ちが反映されているマップになっています。
―このカスタマージャーニーマップを作ったことで、新たな気づきはありましたか。
Fringe81 浦川:今までなんとなく理解していた自社の強みを、因数分解することができたと思います。もともと入社者からはありがたいことに「Fringe81に決めたのはとにかく人が良かったからです」という感想はいただいていたのですが、いつ・どんな出来事を通じてそれを感じたのかということまでは分解できていませんでした。
しかしこのカスタマージャーニーマップを作っていく中で、どの選考フェーズにおいても常に社員がフラットで、採用する側・される側という立ち位置ではなく、個人として向き合い続けるという姿勢が学生から支持されているのだと気づくことができました。
―JTさんはいかがでしょうか。
JT 比嘉:私たちのチームの場合は、「採用とはなにか」ということから今期の採用戦略までをすべてワードに明文化してみました。少なくともチームでは共通の認識が育つ土壌になるといいな、という思いもあります。
あくまで個人的な意見なのですが、私はパワーポイントで社内用の資料を作るということが好きではなくて…(笑)。デザインや見易さを優先するために主語と述語を省略して、本当に伝えたいことを伝えられなかったり、他の人から「この図、ちょっとわかりにくいんじゃない?」という本題とずれたフィードバックをもらったり…。そういうことが起こらないように、自分の考えをすべて言語化できるワードという形式にこだわっています。
この形式にしたことで、チーム内でも認識のズレなく本質的な議論をするための土台にはなったのでは、と感じています。
簡単に伝わらないからこそ、地道にやり続ける
―カスタマージャーニーマップやワードでの明文化など、お二人は徹底的な言語化にこだわっていらっしゃいますが、それでも社内でうまくその意図が伝わらないと感じることはありますか。
JT 比嘉:みなさんそれぞれの考え方を持っているので、最初からこちらの意図がすべて伝わるとは思っていません。「最初はすべて伝わらなくて当たり前」ということを前提に、まずは出会い、時間をともにする。そうすると、結果的に「いい学生に会えたね」という実感を持ってもらうことができ、賛同してくれる人が増えてくると思います。
あとは先ほども申し上げた通り、人事領域以外のこともできる限り勉強し、アウトプットを出し続けることが大切だと思います。
当然ですが、採用は決して私一人でできるものではないので、社内・社外の方達に日々学びながら地道に素敵な出会いを探していければと思います。
Fringe81 浦川:「うまく伝わっていないな」と感じるときには、都度最初の目的に立ち返るようにしています。
例えば、弊社では採用イベントの集客を内定者インターンが担当してくれているのですが、KPIを重要視しすぎるあまり、「とりあえず人数を集めれば大丈夫でしょ」というマインドになってしまっているときがあります。そんな場合でも、「そもそもこのイベントの目的はそこじゃないよね」と軌道修正をしたり、我々が仲間を集めることの大義名分ってなんだっけということを問い続けたりするようにしています。
学生は「雇用される人」ではなく、「一緒に会社を大きくしていく戦友」になる可能性のある人たちなのだということを採用スタンスとして持っているので、それを社内にも社外にも伝え続けていくしかないと思います。
―本日はありがとうございました。