企業が学生を採用する際、信頼できるのは「面接」か「適性検査」か。
今回は、「採用学」の著者で知られる服部泰宏氏と、法政大学でキャリアデザイン学を教えている田中研之輔氏をお招きし、「優秀人材の見極め方」というテーマでお話を伺いしました。

※本コンテンツは、2018年10月に開催されたiroots人事ミートアップの内容から構成されたものです。
 
 

神戸大学 大学院 准教授 服部泰宏

2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)取得。滋賀大学専任講師、同准教授、横浜国立大学准教授を経て、2018年4月より現職。日本企業における組織と個人の関わりあいや、ビジネスパーソンの学びと知識の普及に関する研究、人材の採用や評価、育成に関する研究に従事。2010年に第26回組織学会高宮賞、2014年に人材育成学会論文賞、2020年に日本労務学会賞などを受賞。

法政大学 教授 田中研之輔

一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめる。 キャリア論を専門とし、法政大学キャリアデザイン学部で教鞭をとる他、企業の取締役、社外顧問を数多く歴任。

 

採用現場で起きている「優秀さの定義」のズレ

 
服部 泰宏:適性検査の結果や面接の評価などの新卒採用選考における記録が、学生の入社後の業績とどのような関係にあるのかを調べてみたんです。10社を見比べた結果、2つの一貫した傾向が得られました。

神戸大学 大学院 准教授 服部泰宏氏

服部 泰宏:まず1つめに、様々な適性検査やテストの結果は、学生が入社してから三年後の業績に様々な形で関係しているということです。

そして2つめに、面接での評価が高かったからと言って、入社後のパフォーマンスが高いというわけではないということです。面接で見ているのは優秀さではなく人間性だから気にしない、という反論もあるかもしれませんが、入社後の業績に関して言うと面接の評価とはあまり関係がないと言えます。

このような結果が出た企業と話し合う中で、いくつかの可能性が出てきました。

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服部 泰宏:1つめは、本当に今使用している基準でよいのだろうか、そもそも見ようとしていた能力は適正なのかという可能性です。

そして2つめは、見るべき能力が適正だったとして、本当に今の面接のやり方で大丈夫なのかという可能性。ストレス耐性1つとっても、より具体的なエピソードに対して質問していくなどの方法は考えられますよね。

そして最後はヒューマンエラーの可能性です。例えば、実際の面接官が高い評価を付けていても、その後の会議で偉い人への忖度が働く、という経験のある方は多いのではないでしょうか。
 
 

学生のESの実態と効果的な使い方とは?

 
田中 研之輔:何人もの学生のESを見てきましたが、雛形を作ってそれをコピー&ペーストしているケースが大半。ESに真剣に向き合っても損をするだけだと多くの学生が気づいてきているのですね。

30社~50社受けるとなると、フォーマットを作り企業に合わせてカスタマイズするだけ。そもそも、大量にエントリーするというのはおかしな話です。働く身体は一つなのですから。

法政大学 キャリアデザイン学部 教授 田中研之輔氏

服部 泰宏:ESといえば、私のゼミの学生がESの分析をしていました。就活生にどんなエピソードを書いているのかをヒアリングしたところ、9割9分の学生が「V次回復ストーリー」つまり、「壁にぶち当たりました、そこである行動をし、どのように解決しました」というストーリーを書いていたことがわかりました。

しかしよく話を聞くと、そのカフェは日本一の来客数を誇る店舗だそうです。その時に私は「それを書けばいいのに」と思いましたね。この話からわかるように、学生は「ESに何を書くべきで、何を書くべきでないか」を気づいていないんです。ESを選考で使うのであれば、企業側は本当に欲しい情報を拾えるようにアレンジする必要がありそうですね。
 
 
田中 研之輔:アメリカではCV(英文履歴書)を送りますよね。日本でいうESにあたるものはアメリカにはないのでしょうか?
 
 
服部 泰宏:いわゆるESのようなものはありません。その代わりに、ストレス耐性を知りたいときは、エピソードのディティールを聞きまくるという方法を取ります。ESでエピソードを書いてもらい、その後面接で深掘る余地を残しているんです。
 
 

面接の信頼性はそこまで高くない?

 
服部 泰宏:ある会社で行った実験で、人事に始業時間から就業時間まで1日中面接をしてもらいました。その結果、朝と夜が一番評価がはっきり◯と✕に分かれるということがわかりました。朝は「これから頑張ろう」、夜は「最後だし、気合いを入れよう」という気持ちが働くのでしょう。
 
 
田中 研之輔:人間だから仕方ないけど、面接官のコンディションは評価に少なからず影響しますよね。
 
 
服部 泰宏:はい、そういったヒューマンエラーをなくすためには「ある能力について知りたい、そのために何を聞いていくか」という部分を細部まで明確にしなければなりません。

一方、適性検査の結果は朝見ても夜見ても同じですし、ESも充実した内容を書くのである程度安定します。全員が全く同じ人に対して評価をした時に一番評価にばらつきが出るのは面接なんです。

さらにアメリカでは、不採用になった求職者が一番納得する理由は、テストの結果です。しかし日本で、評価者が自信を持って不採用と言えるのは面接なんです。実際見た方が優秀かどうかの判断に納得できるのでしょう。
 
 
服部 泰宏:実際、人事のみなさんはどうですか?テストの結果はいまいちだけど、面接で評価が高かった時、自信を持って学生を受からせることができますか?
 
 
参加者:誰と働きたいかを重視する経営者がいますよね。そういった場合であれば面接は大事だと思います。
 
 
服部 泰宏:確かに、目的が人間性を見るということであれば面接はいいツールだと言えますね。しかし、こんな例もあります。

ある企業の選考中の話なのですが、いい評価がついた学生がいたそうです。しかし面接終了後、ある人事部長が「あの学生はうちの会社に合うのか」という疑問を投げかけました。能力と関係のない部分について触れ始めたわけですね。そして、最終的にその学生は不採用という結果になりました。

能力面以外で、その人と働きたいかという人間的な判断をすることはあります。ただアメリカでは、その判断をノイズと呼んでいるんです。いいヤツで、一緒に働きたいという学生をどう評価するのかは本日の論点になりそうですね。
 
 

「変わりやすい力」と「変わりにくい力」を見極める

 
服部 泰宏:これは、能力を変化のしやすさによって分類した図です。現状、約80%の会社が変わりやすい能力ばかり見ています。しかし、本当に見るべきなのは、自社にとって大事であるのに、自社の環境では伸ばしてあげられない能力だったり、変化しやすいが、現状自社に余裕がなく成長させてあげられない能力でしょう。

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田中 研之輔:右側の非常に変わりにくい能力があるかどうかを質問で聞き出すことは可能なのでしょうか?
 
 
服部 泰宏:可能だと思います。エピソードの中でどんな対応をしていたかに現れてきます。

日本の会社で、学生が物事に対してどれほど物事に関心を持って注意深く見ているかを知りたいと思い、こんな質問を投げかけたそうです。それは「あなたが今日ここに来るまでに関わった企業とその関わり方を思いつく限り教えてください。」というものでした。とてもおもしろい質問ですよね!

そこで「JRの電車に乗りました」といった当たり前のものではなく、他の人が気づかないような部分に着目する学生がいれば、かなり注意深く見ているという判断ができます。
 
 

最後に

 
服部 泰宏:当然ながら、選考で見なければならないのは、自社がほしい能力をその学生が持っているかです。ただ、採用はあくまでスタート地点を決めることに過ぎません。
 
そのために意識すべきことが2つあります。

まず1つは、育成をして能力を伸ばしてあげるという視点を持つこと。そして2つ目は、私達が見えていないものの中で、入社後成長するために必要な資質を見極めてやることです。例えば、大学で授業を頑張っている、熱心に読書をしているなどですね。
 
採用は就活で終わり、というわけではありません。就活をスタートとして、そこから伸びてもらうことが大切です。そのために、学生の持つ能力が変わりやすいか変わりにくいかではなく、自社で成長できる環境を与えてあげられるかどうかということを意識していくと良いのではないでしょうか。