パーパス経営、パーパス・ブランディング…ここ数年で「パーパス(社会的意義)」という言葉をよく耳にするという人も多いのではないでしょうか。
気候変動、新型コロナウィルスの感染拡大、ミレニアル世代やZ世代の台頭…このような社会の変化に伴い、企業も「短期的な利益」ではなく「社会における責任」を求められるようになっています。
採用におけるパーパス・ブランディングやESGという考えも広まりつつある今、企業にとってパーパスを掲げないまま事業運営を行うことは今後困難になるでしょう。

そこで本連載では、「パーパス」についてさまざまな取り組みを行なっている企業にインタビューを行い、パーパスを掲げるまでの経緯やその背景にあるもの、そしてパーパスを通じて実現したい姿についてお話を伺います。

第1回目は2021年10月にパーパスを新たに発表したサイバーエージェントで専務執行役員を務める石田裕子氏をゲストに迎えて、組織・採用におけるパーパスの存在意義、そして石田氏個人としてのありたい姿について伺いました。
 
 

株式会社サイバーエージェント 専務執行役員 石田裕子

2004年サイバーエージェント新卒入社。広告事業部門で営業局長・営業統括に就任後、Amebaプロデューサーを経て、2013年及び2014年に2社の100%子会社代表取締役社長に就任。2016年より執行役員、2020年より専務執行役員に就任。人事管轄採用戦略本部長兼任。

取り繕ったものではなく、自分たちらしいパーパスを追求

画像配置 580x300

 
―サイバーエージェントがパーパスを掲げると聞いたとき、石田さんはどのような感想を持ちましたか。
 
 
世界中でパーパス経営というキーワードが注目されていますが、サイバーエージェントも事業がどんどん多角化して多様な人材が働いている中、パーパスについて何かしらの指針を掲げていかなければならないのかな、とは感じてはいました。

しかしその一方で、取り繕ったようなパーパスは会社のカルチャーにも合わないし、意味がないとも感じていました。
新たな言葉を無理に作るのではなく、これまで私たちがやってきたことと未来に向けて一貫性のある、地に足のついたものにしたいという議論が取締役会でなされたのです。
 
 
―「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」というサイバーエージェントのパーパスは、どのような経緯で生まれたのですか。
 
 
今回制定したパーパスは、もともとサイバーエージェントの中で根付いていた価値観を土台にしています。2021年3月ごろから議論を開始し、過去の発信や藤田の言葉の中からいくつか候補を挙げ、議論を重ねました。

サイバーエージェントが創業されて20年以上が経ちますが、絶えず新規事業を立ち上げ、若手を抜擢し、事業を拡大させながら成長してきました。
「閉塞感が漂う日本社会において、若い人が活躍できる社会になってほしい」という藤田の強い意志から出てきたものではないかと、私は解釈しています。

インターネットを使いこなすのは“若い人”に限った話ではなく、“新しいものを使いこなす人”だという意見を踏まえて、最終的に「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」というパーパスが完成しました。
 

解釈の余白があってこそ、共感が生まれる

 
―“新しい力”を発揮する上で、新卒採用も一つのキーワードになるかと思います。パーパスと新卒採用についてはどのような関連性があるとお考えですか。
 
 
面接の時に「パーパスに共感した」と話す学生もとても多く、パーパスが、社員だけでなく会社の周りにいるいろいろな方々との共通言語になってきている実感がありますね。

私たちサイバーエージェントの強みは組織の熱量やチームの一体感にあると考えているので、採用でも能力やスキル以上に“カルチャーマッチ”を重視しています。会社のビジョンやパーパスに共感してくれ、一緒に実現を目指してくれる人材を採用したいと考えています。

入社後においても、個人のパーパスと会社のパーパスの方向性が重なるほどパフォーマンスは高くなると思いますが、ここで私たち人事が気をつけなければいけないのは、会社のパーパスを社員に押し付けようとしないことです。

社員の多様な考え方や視点は、企業の競争力です。私たちも“同質”になることを求めてはいませんし、個人によって、また担当する事業やサービスによって、さまざまな解釈があって良いと考えています。

余白があるからこそ共感しやすくなりますし、多様なアイデアが生まれる。
逆に会社側が最初から“答え”を押し付けてしまうと、社員は思考停止してしまい、事業や組織の競争力は衰えてしまう恐れもあるのではないかと思います。
 

女性活躍、若手抜擢…継続的にチャレンジする機会が、“新しい力”を生む

 
―“新しい力”のもう一つのキーワードとして、“女性活躍”という観点もあるかと思います。石田さんは専務執行役員として女性活躍推進に注力されているとお伺いしましたが、その点についてはどのようにお考えですか。

画像配置 580x300

おっしゃる通り、女性活躍も“新しい力”のひとつです。

女性活躍推進というと、一般的に着目されやすいのが「女性が働きやすい環境づくり」です。
確かに、福利厚生や制度面の充実も大事な要素ではあるのですが、私はそれ以上に「継続的にチャレンジする環境」が必要だと考えています。

性別に関わらず、チャレンジできる機会や環境があるかどうかによって成長角度は大きく変わります。

これと同じ理由で、若手にもチャレンジの機会を積極的に提供しています。
女性や若手など、私たち人事が主体となって継続的にチャレンジする機会や環境を構築していくことで、“新しい力”が生まれ、より強い組織になっていくのだと思います。
 

自分が楽しく働いている姿を見せることで、将来を担っていく子どもたちが感じる“閉塞感”を打破したい

 
―会社と人事採用におけるパーパスについてお伺いしましたが、石田さんご自身のパーパスについてはどのようにお考えですか。
 
 
個人的には、次世代を担う子どもたちが閉塞感を感じることなく、のびのびと生きられる社会を作っていきたいなと思っています。

コロナの影響で自宅からリモートワークを行っていたときに、メンバーと楽しそうにオンラインミーティングをする私を見て、子どもが「仕事って楽しいものなんだね」と言ったことがありました。

この言葉は私にとってすごく励みになりましたし、私たち大人がいきいきと働く姿を見せることが、若い世代が感じている閉塞感を打破することにつながるのではないかと思いました。
 
 
―最後に、パーパスについて考える人事の皆さんに向けたメッセージをお願いします。
 
 
人事の一番の役割は人と組織の側面から事業をドライブさせていくことだと思っています。そのためには、経営者と同じ視点で会社の未来を描いていかないといけません。

パーパスというと難しく聞こえてしまって何から始めればいいのかわからないと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは経営視点に立つこと。

“会社のありたい姿”を自分なりに描くことができれば、その延長線上にはパーパスが見えてくるはずです。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵