2018年10月、経団連は採用活動の解禁日などを定めたルールを廃止することを発表した。このルール廃止によって企業の採用活動はどのように変わっていくのか。サイボウズ、外務省、三井化学で新卒採用に携わる3名を迎え、お話を伺った。

※本コンテンツは、2018年12月に開催されたiroots人事ミートアップの内容から構成されたものです。
 
 

サイボウズ株式会社 人事部長 青野誠

2006年早稲田大学理工学部情報学科卒業後、サイボウズ株式会社に新卒で入社。営業やマーケティング、新規事業立ち上げなどを経験後に人事部へ。現在は人事部での採用・育成・制度づくりとチームワーク総研を兼務。

外務省 大臣官房人事課 課長補佐 川口耕一朗

2009年に外務省入省。日韓関係及び北朝鮮情勢を担当する部署を経て、イェール大学大学院国際関係学部に留学。留学中は米上院議員事務所でインターンを経験。2018年6月より人事課で採用や英語通訳業務を担当。

三井化学株式会社 グローバル人材部 副部長 兼 ヘルスケア事業HRビジネス・パートナー 小野真吾

海外営業、マーケティング、事業企画(戦略策定、投資、事業管理など)を経て、人事部にて労政、採用、グローバル人事、HRビジネスパートナー、戦略系人事(M&A責任者、組織開発など)を経験。現在はグローバル人事全般、タレントマネジメントや後継者計画などを手掛ける。

法政大学 教授 田中研之輔

一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめる。 キャリア論を専門とし、法政大学キャリアデザイン学部で教鞭をとる他、企業の取締役、社外顧問を数多く歴任。

目標採用数に対するこだわりは捨ててもいい

 
 
法政大学 田中:今回のテーマは「就活ルールと学生の未来についてもういい加減、本音で話しましょう」というものなのですが、まず最初に各社の新卒採用の現状についてお聞きしたいです。三井化学ではどのような方針で新卒採用を行っているのですか?
 
 
三井化学 小野:弊社では目標採用数を60-100人ほどで設定しているのですが、目標数を気にしすぎると学生が数に見えてしまうので、数にこだわらずにとにかく質のいい人を取ろうよという気持ちでやっています。もし目標数に満たなかったら、既卒生でもいいし、中途採用で補強してもいいですからね。
 

三井化学株式会社 小野真吾氏

法政大学 田中:目標数が100人の場合は、ちょうど100人取ると決めているんですか?
 
 
三井化学 小野: 昔、採用担当をしていたときにすごく疑問に思うことがありました。とてもいい学生がいて、「是非取りましょう」と言ったら「もう定数を採ってしまったからダメだ」と言われたんです。「は?」と思いましたね。良い人がいるのに定数を少しはみ出るから採用しないっておかしいなと。結局、「来年以降の採用数で調整できるだろう」と思い内定を出しました。(笑)

中期的な目で見れば、辞める人も出て来る訳で、良い人が採用できるならいいじゃないかと主張し、「数に対するこだわりを捨て、質を追求する」ということはポイントにしていました。
 
 
法政大学 田中:なぜ数だけを注視してしまうのでしょうか?
 
 
三井化学 小野: 数値管理をしている側の人が数しか見れなくなる時があるのは理解できます。ただ、採用現場に出ている社員からすると、学生さんや候補者を、数としてではなく一人ひとりの個人として見ていて、個々人のキャリアを良く考えてマッチングしようとしています。ここが管理している側との違いです。

数値管理を行っている側の視点を変えるために、候補者個々人の情報や背景を関係者と良く共有し話し合いながら理解を深めれば、もっと質に注目したいい採用ができるのではないでしょうか。
 
 
サイボウズ 青野:サイボウズも同じようなスタンスで採用を行っています。目標採用数は30~40人ほどと決めて、あとはざっくりです。目標数は必達ではないですし、いい学生がいれば採用する、という気持ちでやっています。
 
 

サイボウズならではの「良い学生の採り方」とは?

 
 
参加者:登壇者の方は「いい学生」を採りたいとおっしゃいましたが、いい学生の軸とは何でしょうか。
 
 
外務省 川口:うちの管理職は、グローバルに、時には途上国のような厳しい環境でリーダーシップを発揮することを求められます。10年後20年後に厳しい環境に適応できるかどうか、また地頭以上に「人として信頼されるか」が大きい基準になりますね。
 
 
三井化学 小野:自主自立、多様性、人を巻き込んで動けるか、目標必達などが軸としてあります。ただ、選考が進む学生さんたちはそれらをすでにクリアしている方達なので、最後の決め手は「人として魅力があって、尊敬できるかどうか」になりますね。我々が惹かれる人は、個性をもった人だと考えています。学生さんも同じ様に私達を見ているでしょうし。一緒に働きたいとお互い思えるかが大切です。
 
 
サイボウズ 青野:サイボウズでは「スキル」「共感」「自立」という3つの軸を大事にしています。スキルは地頭などで、共感については「なぜうちなのか」を確認しています。そのためにESでも「なぜサイボウズなのか」という部分をしつこく聞いています。エントリーできなくてめんどくさくてやめる学生も多いのですが、この時点でその学生はいらないという判断ができます。自立は会社に依存せずに活躍できるかということです。入社式では「入社おめでとう。でも早くサイボウズをやめられるようにしよう」とよく言っていますね。
 
 
法政大学 田中:サイボウズさんのESのボリュームは多いんですか?
 
 
サイボウズ 青野:ボリュームが多いわけではないんですが、ハードルが高いです。ESで頻繁に聞かれるような質問ではなく、サイボウズオリジナルの質問を設けています。去年は「1年間のサイボウズに関するニュースを読んで、1番印象に残っているものを選び、400文字程度で論じる」というものでした。
 

サイボウズ株式会社 青野誠氏

法政大学 田中:サイボウズさんのように、攻めの採用ができるようなブランディングができていれば、採用担当者としては楽ですよね。
 
 
サイボウズ 青野:そうですね。各社TwitterやFacebookなどのSNSで就活生向けのアカウントを運用し、情報発信を行っていると思うのですが、サイボウズでは、採用広報担当の社員以外も実名アカウントを作成して情報発信をしています。そのせいか、弊社に来る就活生は「サイボウズの公式採用SNSはつまらない」と言います。(笑) 説明会、インターンの日程などの情報よりも社員同士の関わっている様子などに興味があるようです。
 
 
法政大学 田中:これだけ実名ソーシャルが発達してきて、採用もかなり変わってきている。それにも関わらず、説明会やESなどの形式的なステップを踏襲しすぎていると魅力的には映りません。サイボウズさんの社員がSNSで積極的に情報発信を行っているように、ありのままや本音を見せるのは本当に大事です。学生目線からすると「今から働こうと思っている企業なのに、なんでそんなに距離があるのか全然わからない」と思いますね。
 
 

「就活ルール廃止」により採用プロセスは複雑化する

 
 
ーここで法政大学の田中氏が「就活ルールによって自社の採用が変わるか、変わらないか?」という問いかけをしたところ、参加者の意見は半々になりました。
 

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法政大学 田中:変わらないと思う方、理由を教えてください。
 
 
「変わらない」という意見の参加者:弊社では接客業をしてもらう社員の採用をしています。数の目標がある中で、ある程度決まったスケジュールで動かなけらばならず、変われないですね。大手が落ちた学生が集ってくるので、大手の動きを見て、それに合わせて動かなければならないと思います。
 
 
サイボウズ 青野:やはり大手や学生からの認知度が高い企業の動きは見ますね。先走りすぎてもいけないし、意思決定時期を合わせるのは大事だと思います。
 
 
「変わる」という意見の参加者:弊社には多くの留学生が受けに来てくれていて、秋卒業の学生もいます。その学生たちをどう採用するのかはここ数年悩んでいました。今回のようなルール廃止が出ると頭の硬い上層部の人たちも考えを変えてくれるのでは、と考えています。実際、今までは一括採用でやってたのですが、今年からはなだらかに採用する形式に変えました。
 
 
法政大学 田中:4年生の4月に留学から帰ってくる人がいます。就活スケジュールからは脱落していますが、そこには優秀層もいるんです。実際「もう就活が終わってしまっているのですが、どうしたらいいですか?」という学生が毎年私のところに相談に来ますね。また、4月の合同説明会という社会現象はおかしいと思います。あれこそ一括採用の象徴的な現象でしょう。
 
 
三井化学 小野:学生たちの動きが変わりますね。それに合わせて、採用プロセスは確実に多様化すると思っています。母集団形成はしなければならないが、母集団が様々な時期にちらばります。従って、1,2年生向けのキャリア醸成プログラムを実施したり、様々な時期に合わせた活動をしたりすることも含め、多様な層にアプローチするためのチャネルを設計するのも必要でしょう。採用プロセスの設計においては、チャネルを多様化させる事で、変化に柔軟に対応した母集団が形成できると思います。
 
 
法政大学 田中:うちのゼミ生の話なんですが、今年の就職活動で何が変わったかを振り返ったところ、19卒はESを書かなかった学生が多かったですね。長期インターンからの直接採用や中期インターンからの採用が起きた年でしたね。4,5年前は70社ほど受けていたのに、それが変わってきていますね。
 
 

インターンが上手い企業は「フィードバックが上手い」

 
 
法政大学 田中:各社のインターンについてお聞きしたいです。
 

外務省 川口耕一朗氏

外務省 川口:外務省では、20〜30人ほどの部署で2週間一緒に働いてもらうというインターンを、就活生のみならず全学年向けに実施しています。業務をよりリアルに体験し、学生に外務省を選んでもらうことを目的としているのですが、本当に現場を見てもらおうとすると、夜遅くまで業務を行う日があるなどのマイナス面も見ることになってしまいます。いずれは見ることになるわけですし、入社前後でのギャップをなくすという観点からは効果的なのかもしれませんが、学生を惹き付けるという観点からは厳しい部分もあります。
 
 
参加者:そのインターンで選考から離脱してしまう学生は外務省的には採用したいと思える人なんですか?
 
 
外務省 川口:厳しい業務や職場環境であるのは事実なので、学生がどんなに覚悟を持っていたとしてもそれを見ると圧倒されてしまう場合もあるかと思います。参加学生の学年を絞っていない分、初めてインターンに参加する1,2年生などは特に厳しいと思います。
 
 
法政大学 田中:確かに「どの学生に、どのタイミングで、どのくらいのレベルのインターンに行かせるか」はかなり考えますね。まだ就活を始めておらず、企業に対する知識が足りていない学生にマイナス面を見せるのはリスクがあります。カルチャーショックを受け、そこからいい影響を受ける分にはいいんですが、折れて選考からいなくなってしまうのは人事からするとダメージですよね。
 
 
三井化学 小野:カルチャーショックによる折り方や気づきも大事ですね。ある程度折らないとインターンでの学びの意味がないですから、フィードバックを的確に与えられるよう意識しています。また、折る場合はその後のフォローも加えるなど、参加者一人一人に合わせて、上手く対応するように心掛けています。インターンではある程度ストレスがかかる瞬間がありますが、それに対するフィードバックとフォローのプロセスを踏んでもらい、最後に学生さんに「あっ!」という気づきを得てもらえればと考えています。
 
 
参加者:最近の弊社のインターンの話なんですが、「自社サービスを変革する」というテーマで学生にディスカッションをしてもらいました。学生がプロダクトを本気で良くしようと望んだ結果、「実際に製品に活かせるかどうか」というレベルのフィードバックをすることができ、さらに「これは実際に採用できる」というアイディアも出ました。お互いがインターンの中で真剣勝負することが大事だと確信しました。
 
 
参加者:弊社では、選考を通過した学生だけでなく、落ちた学生にもフィードバックをしています。そうすると落ちることに対しての納得度が高いので学生が学生を呼んでくれるんです。
 
 
法政大学 田中:インターンを上手くやっている企業は、フィードバックを上手くやっている企業です。「何をして、それに対して何を言われたか」が学生の財産になるということを、採用側が理解した上でフィードバックをしているんですよね。さらには「とりあえず今」というものではなく、実際にビジネスシーンで使えるフィードバックをすることが大事です。
 
本日みなさんのお話をお伺いし、採用活動がより多様化していく中で、企業も学生もミスマッチのない採用を新たに模索していく必要があると感じました。本日はありがとうございました。