欧米では昔から広く取り入れられてきたリファレンスチェック。日本ではあまり馴染みのないこの採用プロセスが、この2年間で急速に広がりを見せているといいます。今回は、リファレンスチェックサービス「ASHIATO」の事業責任者・小野山氏をお招きし、リファレンスチェックが広がっている理由と、それがこれからの採用に与える影響についてお話を伺いました。
エン・ジャパン株式会社 新規事業開発室 「ASHIATO」事業責任者
小野山 伸和
2014年に新卒でエン・ジャパン株式会社に入社。派遣会社向けのセールスを経て、拠点責任者、グループ会社連携、新規サービス開発、最大手企業群のマネージャーを経験。採用支援、募集支援のみならず、営業支援、教育研修、システム導入支援などの幅広い組織改革に携わる。2022年4月に新規事業開発室に異動し、リファレンスチェックサービス「ASHIATO」の事業責任者を担っている。
目次
リファレンスチェックが日本で急速に広がっている理由
―最初に、リファレンスチェックについて教えてください。
採用選考時に、候補者の前職(あるいは現職)の上司・同僚・部下などの第三者から候補者に関する情報を得る採用プロセスのことです。
欧米では以前から一般的な採用プロセスとして取り入れられており、候補者の犯罪歴や経歴詐称などのチェックに加えて、本人が今までどんな実績を残し、それを上司や同僚はどのように評価をしているのかという客観的事実に基づいて採用可否を判断するということが当たり前になっています。
一方、日本では基本的に候補者が話す内容のみで判断する傾向にあり、リファレンスチェックというものが一般的ではありませんでした。
探偵や興信所といった調査代行会社を使って反社チェックや犯罪歴、経歴詐称などのチェックをおこなっている会社もありますが、それは白か黒かをチェックするという要素が強く、いわゆる“働きぶり”を見るものではありません。
しかし、日本企業においてもここ2年ほどで急速にリファレンスチェックへの関心が高まってきています。
―なぜ今日本でも関心が高まっているのでしょうか。
コロナ禍によって採用がオンライン化した影響が大きいと考えています。実際、「リファレンスチェック」というキーワードの検索数が2020年4月以降でそれまでの3倍になっているというデータも出ています。
対面から得られていた情報に制約がかかったことにより、ミスマッチや早期退職という課題が生まれ、オンラインであっても精度の高い見極めを行いたいという会社側のニーズが高まった結果だといえるでしょう。
リファレンスチェックサービス自体もここ数年ほどで作られたものが多く、私たちが運営している「ASHIATO」も1年半前に生まれたサービスなので、日本におけるリファレンスチェック市場はまさにこれから盛り上がっていくフェーズだと見立てています。
見極めだけでなく、PRが苦手な候補者を“すくい上げる”目的もある
―リファレンスチェックの具体的な仕組みについて教えてください。
基本的な流れとしては、採用企業側が候補者から前職(あるいは現職)の上司や同僚、部下を推薦してもらい、その方々へアンケートを送信して回答してもらうというものです。以前は電話などで行う場合もありましたが、WEB上のリファレンスサービスの登場によりすべてオンラインで完結するようになりました。
候補者から推薦してもらう際には、採用企業側から「上司・同僚・部下の3名を推薦してください」というふうに関係性や役職を指定する場合が多いです。
リファレンスチェックを実施するタイミングとしては、一次面接後、最終面接前、内定出し前、入社前など目的によってさまざまですが、ASHIATOの場合は利用企業の8割が最終面接前に実施しています。
もちろんリファレンスチェックの結果だけで採用可否を判断するというわけではなく、最終面接でより深く相手を理解するための参考情報として用いられています。
―具体的にどのような目的で導入する企業が多いのでしょうか。
基本的には採用時の見極めとすくい上げです。リファレンスチェックと聞くと見極めのイメージが強いかもしれませんが、取りこぼしそうな候補者をすくい上げるという側面も持っています。
候補者の方が緊張していたり、自身をPRするのが苦手な方だったりした場合、人事として判断に迷う場面もあると思います。そんなときにリファレンスチェックを通して本人の良さや頑張りを可視化することができれば、自信を持って次の面接に案内できるようになるのではないでしょうか。
また、入社後の配属先やコミュニケーションの取り方、つまずきやすそうなポイントを知っておくためのオンボーディングツールとして活用する場合もあります。
「リファレンスチェックによって歩留まりは下がる?」→イエス。
―リファレンスチェックを検討する際にあげられる懸念点はどのようなものがあるのでしょうか。
「リファレンスチェックを挟むことで候補者の歩留まりが下がってしまうのではないか」というのがもっともよくあげられる懸念点で、実際にリファレンスチェックを挟むことで歩留まりは下がる場合が多いです。
ただ、候補者がリファレンスチェック前に離脱する要因としては、志望度が著しく低い、うしろめたいことがある、現職をいい形で辞めようとしていない、ということが考えられるので、入社後の活躍を見据えるのであればリファレンスチェックによって歩留まりが下がることはむしろ本質的だと捉えています。
また、アンケートを回収できるかわからないという不安をあげられる人事の方も多いのですが、実際のアンケート回収率は9割を超えています。ただ、候補者が推薦者をあげることに難色を示している場合には、その理由をしっかりとヒアリングすることが大切です。
現在の職場の人に転職活動をしていることを伝えにくいという場合には前職の方に依頼するのも一つの手ですし、それも難しい場合には無理に回収しようとせず、その理由も踏まえて候補者の方と対話することをおすすめしています。
あとは「リファレンスチェック」と聞くとどうしてもネガティブなイメージになりがちなので、候補者への伝え方にも工夫が必要です。リファレンスチェックの結果によって採用可否が決まるわけではないということをきちんと説明し、次回の面接日をFIXさせたうえで依頼するのがセオリーです。
ネガティブチェックではなく面接の中でPRしきれていない部分を知るためだということを候補者に伝えることによって、候補者も誰に依頼すればいいのかというイメージを持ちやすく、推薦者側もポジティブに応じてくれる場合がほとんどです。
新卒採用におけるリファレンスチェックは有効か?
―リファレンスチェックは一般的に中途採用で用いられる場合が多いと思いますが、新卒採用にも転用することはできるのでしょうか。
実際に新卒採用に導入している企業はまだまだ少ないですが、「新卒採用でも使いたい」という要望をいただくことはあります。ただ、難しい点としては学生が誰を推薦者とするかですね。
身近な人でいうとゼミの教授やバイト先の店長などをイメージするかもしれませんが、ゼミの教授が仕事という場面における学生の活躍度合いを評価することは難しいでしょうし、バイト先での評価はその業種に依存するところが大きく、参考にしづらいです。
ただし学生が中長期のインターンをしている場合であればそれらの課題をクリアできるので、新卒であってもリファレンスチェックを活用できると思います。新卒採用においても早期離職というのは大きな課題としてあげられているので、インターン先での働きぶりやコミュニケーションの特徴を知ることで、お互いに「こんなはずじゃなかった」というミスマッチを減らす効果が期待できます。
日本においても中長期のインターンをする学生が増えてきているので、インターン先での頑張りをきちんと評価するという選考プロセスは学生からも歓迎されるのではないでしょうか。
頑張りが報われる社会になることで、目の前の仕事に向き合う人が増えていく
―今後日本でもリファレンスチェックが浸透していくことによって、採用にどのような変化が生まれるのでしょうか。
面接で上手に立ち振る舞える人ではなく、日々誠実に仕事に取り組んできた人が評価される採用へとシフトしていくことによって、入社後のミスマッチは減っていくでしょう。いくら面接で上手にアピールできても、入社して「こんなはずじゃなかった」となってしまうのはお互いにとって不幸なことでしかないですからね。
また将来的には、より一層信頼が重要な世の中になり、目の前の仕事を頑張る人が増えていくと思います。「もし転職するとしたら自分は誰にどんな推薦文を書いてもらえるだろうか…」という意識が個人や企業の成長につながっていくのではないでしょうか。
このように、リファレンスチェックの浸透は、採用時だけでなく日頃の働き方まで変えていく可能性を秘めています。現在リファレンスチェックの対象者は上位役職者がボリュームゾーンになっていますが、どんな採用においても書類選考や一次面接と同じぐらいリファレンスチェックが当たり前のものになっていくことを期待しています。
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵