「就活の時期がきたから将来について考える」のではなく、もっと早い段階から働くことについて考える機会を学生に提供したいーそんな想いから、中高生向けのキャリア教育に力を注ぐ企業が年々増えています。

そのうちの一社でもあるガイアックスは、自社のノウハウを活かした中高生向けの”起業ゼミ”を全国で開催し、入賞者には事業化に向けた出資もおこなうなど特色あるキャリア教育を実施しています。

そこで今回は、起業ゼミを牽引する人事マネージャー・清水氏と、起業ゼミでの出会いをきっかけに高卒でガイアックスに入社した黒田氏にインタビューをおこない、開催者と参加者というそれぞれの観点から起業ゼミをについてお話を伺いました。
 
 

株式会社ガイアックス 人事支援チーム マネージャー 清水浩司

大学1年生の時からスタートアップでウェブマーケを経験。その後Weblio株式会社に入社し学生ながら社員となり新規事業などを担当。2019年10月にガイアックスにインターンとして入り2020年4月に新卒入社。起業ゼミをはじめたとした教育・採用プロジェクトを牽引し、2022年4月より現職。

株式会社ガイアックス スタートアップスタジオ・イントレプレナー 黒田佳吏夫

高校魅力化の最先端と言われる隠岐島前高校に入学。生徒会長を務める。2021年にスタートアップスタジオ主催『起業ゼミ』でガイアックスと出会う。3歳から15年間続けてきたレスリングを辞め「高卒など関係なく社会にインパクトを与えられる場所」を探し、ガイアックスに入社。

起業ゼミ立ち上げのきっかけは、起業率の低さに対する危機感

 
―起業ゼミをはじめられた背景について教えてください。
 
 
清水:もともとは弊社の執行役員である佐々木が日本の“起業率の低さ”に危機感を感じていたことがきっかけです。このままでは世界を変えるような日本発の事業が生まれず、世界からどんどん遅れをとってしまうのではないか、と。

それに対する解決策として、起業をもっと身近な選択肢にするために教育という方向からアプローチしてみよう、という理由ではじまったのが起業ゼミです。

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第1回目の起業ゼミを行った中学校では、アントレプレナーシップやオーナーシップ教育に力を注いでいきたいものの、学内でそれらを教えられるリソースがないという課題を抱えており、それとガイアックスのニーズがちょうど一致した形で実現しました。

それを皮切りに今では全国のさまざまな中学校・高校で起業ゼミを実施しています。
 

事業アイデアは、相対的ではなく“絶対的”に評価する

 
―起業ゼミを運営する上で意識したことや工夫したことを教えてください。
 
 
清水:私たちの目的は将来の選択肢を広げることであり、決して起業を押しつける形にはしたくないと思っていました。そのため、先生方や生徒、保護者の方などがどのような課題感と必要性を感じているのかという部分は慎重にヒアリングしました。

加えて意識していたのは、参加者の事業アイデアを相対的ではなく“絶対的”に評価するということ。私たちが目指しているのは中・高校生向けのビジネスコンテストではなく、あくまでも起業ゼミなので、社会を変えるインパクトがあるかどうか?という観点から評価を行い、絶対的に良いと思ったものがあれば出資することにしていました。

実際、中学2年生の方が考えた飲食店向けの事業アイデアには200万円の出資を行い、法人設立のオファーも出しています。
 
 
―運営する上でどのような準備を行なわれましたか。
 
 
清水:参加者5〜6人に一人はガイアックスのメンターがつくことになっているので、メンターへの目的浸透や参加者との接し方に関するレクチャーは念入りに行いました。

あとは学校側とのスケジュール調整やオンライン・オフラインなどロジ周りの準備を行い、開催に至りました。準備期間は規模によって異なりますが、約1〜3ヶ月というところでしょうか。
 

“高校生ブランド”が通用しない世界を体験できたことが、もっとも大きな収穫

 
―黒田さんは起業ゼミをきっかけにガイアックスと出会い、その後高卒でガイアックスに入社されたと伺いました。起業ゼミを知ったきっかけを教えてください。

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黒田:もともと起業にはまったく興味がなく、大学への進学を希望していました。ただ、色んなことに興味があるぶん、進路に対する考えがごちゃごちゃになってしまっていて…。

そんなときに先生から「ガイアックスの起業ゼミに参加すれば、自分の考えを収束し、言語化する力が身につくかもしれないよ」と声をかけてもらったことがきっかけでした。

最初は一方的な講義形式なのかと思っていたのですが、参加してみると事業立案に必要な仮説立てや検証作業、ピッチまで実践的に教えていただけるという内容だったので、驚きました。さらに入賞すると出資まで受けられると聞き、起業ゼミに対する本気度を感じました。
 
 
―実際に参加してどのような感想を持ちましたか。
 
 
黒田:“高校生ブランド”が通用しない世界を体験できたことがもっとも大きな収穫でした。高校生活を送っているとどうしても自分と周りを比べてしまいがちですが、起業ゼミではひたすら社会と自分を比べ続けることが求められたので、世界が広がりました。

でも、最初は「高校生の自分たちに起業って言われても…」という戸惑いの方が大きかったですね。参加してみて合わないと思い来なくなる人もいましたが、ガイアックス側はそれも一つの価値観だと受け入れていたので、清水が言っていた通り“押しつけられ感”はありませんでした。

参加した人の中には高校の枠ではなく社会の枠で自分という存在を捉えられるようになったと言っている人もいて、すごく共感しましたね。
 

大卒至上主義の社会を変えたい。起業ゼミをきっかけに、高卒でガイアックスに入社

 
―黒田さんはどのような事業アイデアを発表されたのですか。
 
 
黒田:AIのアルゴリズムを活用し、人事の方が学歴やステータスにとらわれずその人自身のポテンシャルを見出せるようなサービスを提案しました。

もともと学歴やステータスだけで書類選考が行われる仕組みに疑問を感じていたのですが、一方で人事の方がすべての応募書類に目を通すことは現実的に難しいことも理解していました。それを解消するために、学歴やステータスではなく応募者のプロフィールからポテンシャルやマッチ度を測れるような仕組みを開発できればいいなと思い提案した結果、特別賞をいただきました。

ただ、それを事業化するためには技術面やセキュリティ面でさまざまな課題があったので、このアイデアからはシフトチェンジし、別のアイデアで事業化を目指すことにしました。
 

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――その後大学には進学せず、ガイアックスに入社するという選択肢を選んだ理由について教えてください。
 
 
黒田:先ほどもお話しした通り、もともと学歴やステータスだけで評価される“大卒至上主義”の風潮に疑問を持っており、本当にやりたいことがあれば大卒や高卒という肩書きにこだわる必要はないと思ったからです。親や友人たちからは反対を受けましたが、言われれば言われるほど反骨心を持つようになって…(苦笑)。

そのときに私が一番やりたかったのは少しでも早く社会にとって意義のある事業を生み出すことだったので、大学には行かず、ガイアックスの中で事業を立ち上げるという道を選びました。

この選択肢に疑問を持つ人もいると思いますが、自分が社会で活躍することで前例を作っていきたいと思っています。
 

高卒採用の課題を承知の上で、彼と一緒に働きたいと感じた

 
―黒田さんを採用する際、清水さんはどのような所感を持たれていましたか。
 
 
清水:正直に言うと、彼からのエントリーを受け取ったときは彼の採用に対してかなり後ろ向きでした。彼自身がどうこうということではなく、法律的な観点からさまざまなハードルを越える必要があったからです。

そのためには自分だけでなく社内の他の人も巻き込まないといけなかったので、そこまでのリソースを割いてまで採用する必要性がある人材なのか判断できる自信がなく…。でも実際に会って話をしてみると、採用する上での工数やリスクも承知の上で彼と一緒に働きたいとすぐに思いました。

それぐらい彼から本気で社会を変えたいという熱意が伝わってきましたし、学歴に関わらず社会で活躍できることを自ら証明したいという想いにも共感しました。いろんな課題を承知の上で、最終的には自分が責任を持つので彼を採用させてくださいと上司を説得し、入社する運びとなりました。
 

進学、就職、起業という選択肢をもっとフラットに

 
―現在黒田さんはインターン生として働き、今年春からはEIR(客員起業家制度)を利用してガイアックスに入社されるとのことですが、現時点で清水さんから見て高卒採用と大卒採用にはどのような違いやメリットがあると思いますか。
 
 
清水:大学生はアルバイトなどを通じて入社前から社会経験を積んでいることが多いですが、高校生の場合はなかなかそのような機会がないですよね。なので、黒田はまさに今社会の現実や厳しさに直面していると思います。

そんな彼に最初はどう接すればいいのか戸惑うこともありましたが、すべてを手取り足取り教えてしまうのではなく、辛抱強く待つというスタンスで接するようにしています。でもそれを上回るメリットとして、若いパワーを持つ彼からたくさんの刺激を受けますし、人生でもっとも成長するフェーズの彼と一緒に働くことは私たち自身の成長にもつながると考えています。

高校卒業後の貴重な時間を事業に費やしてくれる人がジョインしてくれて、本当に良かったと思います。
 

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―黒田さんはこれからガイアックスでどのようなことを実現していきたいですか。
 
 
黒田:社会課題に対して、学歴に関わらずチャレンジできるという前例を作っていきたいです。日本は前例主義の考えが強いので、成功事例さえ作ることができれば多くの企業が動きはじめるのではないかと思っています。

逆に私が活躍できないと「やっぱりだめだったね」と言われてしまうと思うので、それをいい意味でプレッシャーにしつつ、まずはガイアックスで事業を立ち上げることに注力していきたいです。
 
 
―最後に、起業ゼミを含めた中高生向けのキャリア教育において目指す方向性やゴールを教えてください。
 
 
清水:私たちは大学教育を否定したいわけでも、起業を過剰に勧めたいわけでもありません。進学、就職、起業という選択肢がもっとフラットになり、すべての人が多様な選択肢の中で自分のキャリアを描けるように引き続きこの活動を続けていきたいです。

将来、親が子どもに対して「そんなにやりたいことがあるなら起業すれば?」と当たり前に言えるようになることが理想ですね。そのためにも、起業ゼミという取り組みをもっとこれからもっと多くの教育現場に広げていきたいです。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵