新卒でタイタス・コミュニケーションズ(現:ジュピターテレコム)に入社後、20年以上にわたり人事領域に携わり続けてきた杉本さん。楽天、リンクトイン、IBMなどまざまな企業において人事を経験した杉本さんは、「“採用=人事としてのキャリアの入り口”というイメージを変えていきたい」と語ります。人事のプロフェッショナルとして採用課題に向き合い続けてきた杉本さんの歩みと今目指しているものについてお話を伺いました。
 
 

アドビ株式会社 人事部 シニアマネージャー 杉本 隆一郎

上智大学卒業後、20年以上にわたり人事業務を経験。楽天で6年ほど中途採用マネージャーを経験後、リンクトイン日本法人立ち上げに参画。日本オフィス代表としてビジネス全般と人事を統括した。その後、人事・採用領域に軸を戻し、アクセンチュア、日本IBMでの採用責任者を歴任。2019年9月アドビに入社。新卒・キャリア採用全般の取りまとめを担う。

新しい領域に触れられる仕事がいいだろうという単純な発想で、タイタス・コミュニケーションズへ入社

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―杉本さんは大学卒業後、新卒でタイタス・コミュニケーションズ(現:ジュピターテレコム)にご入社されたと伺いました。そこから現在に至るまでの道のりについて教えてください。
 
私が新卒として入社した1998年当時はまだインターネットがそこまで普及していなかったのですが、友人から「これからはインターネットがインフラの一部になる」という話を聞き、それであれば新しい領域に触れられる仕事を選んだ方がいいだろうという単純な発想でタイタス・コミュニケーションズに入社しました。

入社当初は営業や広報など、インターネットをインフラとして広めていく仕事に携わりたいと思っていたのですが、蓋を開けてみると配属先は人事総務部でした。想定していた職種とは違ったものの、もともと「絶対にこれをやりたい!」という軸がないタイプだったので、与えられた職務をこなすということにストレスはなかったです。

最初は社内の備品管理やレクリエーションの企画運営、オフィスのレイアウト変更などの仕事からスタートし、途中からは給与計算を担当していました。

2000年にタイタス・コミュニケーションズとジュピターテレコムが合併した後も人事総務としての仕事を続けていたのですが、退職した元上司から「この先のキャリアを考えるのであれば、そろそろ採用の仕事も経験した方がいい」と声をかけられ、音楽専門チャンネル「MTV」を運営するエム・ティ・ヴィー・ジャパンに入社しました。

当時は社内で手が回っていない部分も多かったので、採用を含めたその他もろもろを私1人で切り盛りしている状態でした。大変ではあったものの、タイタス・コミュニケーションズ時代も基本的には企画から実行、振り返りまでを1人で任されることが多かったので特に違和感はありませんでした。逆にチームでプロジェクトを遂行するという経験をあまりしてこなかったので、「巻き込み下手」とも言えますね。
 

過去の延長線上ではなく、ゼロから解決策を考える。楽天での経験が、キャリアの土台になった

 
―その後、杉本さんは楽天やリンクトイン、アクセンチュア、日本IBMを経て現在アドビに所属されていますが、キャリアにおいてもっとも重要だったと感じるご経験を教えてください。
 
キャリアの土台になったと感じるのは、楽天での経験です。エム・ティ・ヴィー・ジャパンまでは採用も含めたバックオフィス系の仕事を全部請け負っていたのですが、楽天に入社してはじめて採用専任になったので、スペシャリストとしての考え方や経験を積ませてもらった6年間でした。

当時の楽天は六本木にオフィスを構えたばかりでまさに急成長フェーズを迎えており、事業部の責任者と連携しながら月50名の中途採用、それと並行して海外展開を見据えた国際人材や事業部長候補の採用…とどれも前例のない“お題”に対するチャレンジの連続でした。

それらのお題に対して過去を踏襲した提案をしても「そんなものはもう通用しない!」と三木谷さんに突き返されてしまいますし(苦笑)、まだ他社事例もなかったためゼロから自分たちで考えざるを得ませんでした。

でもその経験があったからこそ、課題に対して過去の延長線上ではなく、ゼロから解決策を考えるというポータブルスキルを身につけることができたんだと思います。
 

“採用は人事としてのキャリアの入り口”というイメージを変えていきたい

 
楽天での経験は本当に自分をストレッチすることができたのでこのまま働き続けたいという気持ちもあったのですが、ちょうどその頃にソーシャルリクルーティングのトレンドが来ており、その中で特にリンクトインに興味を持ちました。

TwitterやFacebookのように個人としてではなく、組織に属する一人一人がプロとして意見を発信し繋がりあうというところに新しい採用の可能性を感じ、話を聞きたい一心で自分から連絡しました。

最初に連絡をしたときはあっさりお断りされてしまったのですが(苦笑)、再度熱意を込めてレターを書いたところ、リクルーターの方とお話しする機会をいただき、入社する運びとなりました。

人事マネージャーというポジションで入社したものの、日本法人が立ち上がったばかりのフェーズだったので、途中からは日本法人の代表代行として営業や広報など幅広く経験させてもらいました。
 
 
―その後もアクセンチュアや日本IBM、アドビなどさまざまなグローバル企業で人事としてご経験を積まれていますが、杉本さんが軸にされている考え方について教えてください。
 
 
企業が抱えるさまざまな課題に対して、採用のプロとして職務をまっとうしたいと考えています。なので、依頼された課題が解決されれば次のフィールドに行き、そこで新たな課題と対峙する…そんな感覚でしょうか。

企業の規模や業種が変わっても、各企業のオーダーに応じて計画を立て、実行するというシンプルな型は変わりません。しかし型自体はシンプルであっても採用という仕事は決して簡単なものではありませんし、プロとしてお声をかけていただいている以上失敗もできません。

よく“採用は人事としてのキャリアの入り口”と捉えられていますが、私はそうではないと思っています。いい採用を行うためには他の役割と同様に専門的な知識や経験が必要ですし、数字や生産性という面もシビアに求められます。

だからこそ、私自身はプロとして採用課題の解決に向き合い、“採用=誰でもできる仕事”という立ち位置を変えていきたいと思っています。
 

「母集団を半分にするなら予算も半分でいい」。CVRよりも母集団重視の採用に疑問

 
―グローバル企業での経験を通じて苦労したこと、ギャップを感じたことなどを教えてください。
 
リンクトインに入社したときは、やはり語学力の面でかなり苦戦しました。楽天時代には社内公用英語化の方針が打ち出されてから英語の勉強をしていましたし、リンクトイン入社直前には追い込みで英語レッスンにも通ったのですが、入社後は予想以上に通じない・話せないという状況で…。

入社して1ヶ月はカルフォルニアの本社で研修があったのですが、他の人が何を言っているのかがわからないので、業務が終わった後は逃げるようにホテルに帰る…なんていう時期もありました(苦笑)。

採用の面で言うと、海外と日本では新卒採用の方法に大きな違いがあると感じます。

以前ある企業の日本法人で採用を行っているときに、母集団を必要以上に集め過ぎて応募者対応に工数がかかり過ぎているところに課題を感じたため、上司に「母集団を半分にしてCVR(応募率)を上げましょう」という提案をしたら「じゃあ予算も半分でいいね」と言われてしまったことがあり…。採用においてCVRよりも母集団を重視するというの本質的な考え方ではないですし、世界を見ても日本独自の風習だと感じます。

しかし今は日本においてもダイレクトリクルーティングやソーシャルリクルーティングが広まりつつあるので、自社とマッチする人にピンポイントで会うという採用がもっと主流になれば、企業も候補者もwin-winになっていくのではないでしょうか。
 

目の前のお題と真摯に向き合い続ければ、予想もしなかったキャリアが広がっていく

 
―杉本さんは今後どのようなキャリアを歩んでいきたいですか。
 
あまり先のことを考えてキャリアプランを立てるタイプではないので、まずは今任されているアドビでのミッションを遂行し、採用・組織の面から事業を前に進めていくことだけを考えています。

ただ、自分の立ち位置としてはグローバル企業における日本代表でありたいと思っていますし、グローバルで学んだことを日本の組織に還元していきたいです。

アドビでの仕事を「やりきった!」と思うことがあればまた自分ができることを探しに行きますが、ありがたいことに今は採用や組織開発の幅広いお題に関わらせてもらっているので、そう思えるのはまだ先になりそうです。
 
 
―最後に、これから採用に向き合う人へのメッセージをお願いします。
 
 
まずは目の前のお題と真摯に向き合うということを大切にしてほしいです。私もキャリアをスタートしたときには、まさかグローバル系の企業で働くことになるとは思っていませんでした。

ただ、どのようなフィールドであっても自分に課せられたお題と真摯に向き合い、採用のプロとして仕事をしているという自負があったからこそ「そのミッション私にやらせてください!」と恥ずかしがらずに手を挙げることができましたし、その結果自分のキャリアが広がりました。

先ほどもお話しした通り、採用は誰にでもできる仕事ではありません。私を含め、採用に関わる皆さんが「自分はプロとして最高の仕事をしている」という自負と実績を持つことで、一緒に採用という仕事の価値を高めていければと思っています。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵