HRBPとして人事のキャリアをスタートし、その仕事に大きな手応えを感じていた矢先に舞いこんだ新卒採用責任者へのオファー。創業者である南場さんと時には対立しながらも、「”コトに向き合う”ことを大切にしてきた」と語る風早さん。DeNAとの出会いから、人事に至るまでの歩み、そしてDeNAの新卒採用責任者として今後実現したいことを伺った。
 
 

株式会社ディー・エヌ・エー ヒューマンリソース本部 副本部長 兼 人材開発部 部長
風早亮

2008年にDeNAに入社。ゲーム・エンターテインメント事業の渉外やマネジメントを担当したのち、2019年4月より全社の採用及び人材育成を統括。2020年4月より現職。

新卒入社した会社が2年で解散、失意の中DeNAと出会う

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ー風早さんは2008年に中途採用でDeNAにご入社されたとのことですが、そこに至るまでの経緯について教えてください。
 
 
大学時代に広告業界に興味を持ち、これからはネット広告の時代が来るだろうと思っていたことから、新卒でネット広告の代理店に営業として入社しました。従業員20人ほどのベンチャー企業だったので、社長直下で広告営業について教えてもらうことができ、学ぶことも多く、自分の成長を実感していました。
 
しかし、入社して2年目の夏に、ある理由で会社が解散してしまいました。僕自身はやりがいを持って毎日働いていたので、その事実にショックを受けつつも、次の会社を探している中で出会ったのがDeNAでした。
 
面接時に会ったDeNAの人たちはとてもフラットだったことと、mobage(モバゲー)を中心にモバイルビジネスに注力していることに面白さを感じ、入社を決めました。
 
 

入社1年目は、ずっと球拾いをしている感覚だった

 
 
ーDeNAにご入社された後は、営業として順調に成果を出されていたのですか。
 
 
いえ、最初の1年はどん底でしたね(苦笑)。広告営業をある程度経験してきたということもあり、入社当初は多少の自負もあったのですが、DeNAで働く仲間のレベルは想像以上に高く、あっという間に自信を失ってしまいました。

高い目標に向かって試行錯誤してみるものの、なかなか結果も出ず、優秀な同僚の存在や、上司の期待に応えられていないことから自己嫌悪に陥って…。

「こうした方がいいのでは?」と思うことがあっても、自分に自信が持てなくなっていたので、結局何も言えない…ということも多々ありました。
 
そんな中でも何とか踏ん張れたのは、一緒に切磋琢磨できる仲間の存在があったから。愚痴を言い合うのではなく、目標に向かって前向きに励まし合える仲間がいたので、一歩一歩前に進むことができました。
 
その後2年目、3年目と経験を重ねるうちに、少しずつ周りの信頼を得られるようになり、新たなことにチャレンジさせてもらえる機会が徐々に増えていきました。もともと人の間に立って調整をしたり、丁寧にコミュニケーションをとったりすることは得意な方だったので、結果としてその強みが活きたのかなと思います。
 
1年目までは投げられたボールが高すぎてキャッチできずにずっと球拾いをしていたのが、2年目以降はなんとかボールに手が届くようになってきたかな、という感覚でした。
 
 

会社を自分ごと化し、変革する“手触り”を感じた

 
 
ーその後、人事へ異動されたのは何がきっかけだったのですか。
 
 
広告営業からゲームのアライアンス部門に異動して5年ほど経ち、部門全体のマネジメントも任せられていた頃、当時のHR本部長に内製ゲーム事業部門のHRBPをやってみないかと声をかけていただいたことがきっかけでした。
 
子どもが生まれて、家庭と仕事の両立について考え始めていたタイミングだったので、心機一転チャレンジしてみようと思い立ちオファーを受けさせていただきました。
 
HRBPへ役割を変更してからは、担当する部門の組織サーベイ結果から組織の課題を洗い出し、部門長と一緒に打ち手を考え、実行するということをひたすら行っていました。

自分のマネジメント経験を体系化して組織の課題を解決するという工程は、いざやってみると非常に面白かったです。

実際、半年後にサーベイのスコアが改善されたときには、「自分の経験を活かしてDeNAを変えていけるんじゃないか」と、とてもわくわくしました。ここまで会社を自分ごと化して“手触り感”を感じることができたのは、入社して初めての経験でした。
 
 

予想だにしなかった新卒採用責任者へのオファー

 
 
ーその後1年半HRBPをご経験されたあと、新卒採用責任者のオファーを受けたときはどのようなお気持ちでしたか。
 
 
HRBPの仕事はこれからもっと面白くなる可能性を感じていたので、突然オファーを受けたときにはかなり戸惑いました。

新卒採用の重要性は理解しているつもりでしたが、HRBPとしてDeNAを支えた方が自分のバリューを発揮できると強く思っていたので、執行役員と面談しても、南場さんと面談しても、その気持ちは変わりませんでした。
 
しかし、せっかくいただいたお話ということもあり、「新卒採用責任者という一つのポジションだけでなく、そこを入口として会社全体を強くするチャレンジができる」と自分で勝手にハードルを設定し直して、オファーを受けさせていただきました。
 
 
ーHRBPから新卒採用責任者になられて、大きく変わったことはありましたか。
 
 
南場さんとコミュニケーションをとる機会が多くなったのは、大きな変化だったと思います。経営者の意思をダイレクトに聞くことができるのは、貴重な機会でした。最初のうちは意見の食い違いも多かったですが…。
 
 

南場さんに激怒されても、「それは違う」と言えた日

 
 
ー南場さんとはどのようなことで議論されていたんですか。
 
 
僕としては、例えDeNAに入社しなかったとしても、DeNAのメンバーと出会ったことが学生の挑戦心に火をつけるきっかけになればいいなと思っていたんです。今すぐはご縁がなかったとしても、協業という形で一緒にビジネスをしたり、中途入社として仲間になったりする可能性もありますし。
 
そんな考えから、あるとき「入社する・しないに関わらず、学生には一人一人丁寧に向き合おうというメッセージを新卒採用メンバーに発信しています」と南場さんに報告したところ、烈火のごとく怒られました。

南場さんとしては、「事業部が頑張って生み出した利益を使って、DeNAに入社しない人にも同じだけ力を使うのはおかしいだろ」という考えを持っていたようで、僕の考えには到底賛同できないとお怒りでした。

ですが僕も南場さんの意見には納得できなかったので、「その考えには納得できません」と反論し、結局その場はケンカ別れになってしまいました。
 
するとその日の夕方、南場さんが会長室からバン!と出てきて、「風早、いるのか!」と呼ばれました。また怒られるのかな、と思っていたところ、南場さんから「さっきは私が間違っていた」と伝えられました。ケンカ別れした後、僕とのやりとりを改めて考えてくれたのでしょう。

その日をきっかけに、お互いに思っていることを言い合える関係性になれた気がします。
 
 
ー創業者である南場さんに反論をするのは、かなり勇気がいると思うのですが。
 
 
そうですよね。僕自身、もともと人とケンカするタイプではないですし、もちろん南場さんとケンカしたいわけではなかったのですが、違うと思ったことは相手が誰であっても目をつぶらずに「違う」と言うことが、愛であり、誠実さなのだと思っています。

それこそ、南場さんが大切にしている「人ではなくコトに向かう」ということなのではないかと。

1年目で自信を失っていた頃であれば言えなかったかもしれませんが、色々な経験を積んで自信をつけることができたからこそ、あのとき南場さんに「違う」と言えたのかもしれません。
 
 

相手の心に寄り添い、“聞き入れやすい表現”で伝える

 
 
ー「違う」と伝える際に心がけていることはありますか。
 
 
相手の話に耳を傾け、その立場に立って、相手が聞き入れやすい表現で伝えることは意識しています。たった一言でミスリードしないように、相手のセンサーや沸点がどこにあるのかというのはよく観察してから伝えるようにしています。
 
これも南場さんとの話になってしまうのですが、以前南場さんが答えていたインタビューの中に登場する「メールで南場さんにフィードバックした若手社員」というのは、僕のことです。

メールという手段を使ったことや、メールの文面は、自分なりに南場さんの人となりや状況を考え、一番聞き入れてもらいやすい表現を考えた結果でした。

もちろん南場さんだけでなく、一緒に仕事をしているメンバーや、学生に対しても同様に、相手のことを考えて、聞き入れやすい表現で伝えるように心がけています。
 
 
ー風早さんはTwitterでもフラットにご自身の考えを発信されていますが、これも伝える上で意識されていることはあるのでしょうか。
 
 
Twitterを通じて、風早は“普通の人”なんだと知ってもらえればいいなと思っています。

学生からすれば、「新卒採用責任者」という肩書きを見ると、なんだかすごい人なんじゃないかと思ってしまうかもしれませんが、僕はすごい人ではないし、普通の人です。

身近な存在に感じてもらえれば嬉しいし、「DeNAといえばロジカルモンスター集団」みたいなイメージを持たれがちですが、実際中に入ってみたら全くイメージが変わったという声もよく耳にします。

僕が普段見ているDeNAの実態を声に出して発信することで、社員の温かみや各チームが持つ連帯感を届けていければと思っています。
 
 

大切なのは、自分の気持ちにふたをせず、“コト”に向き合い続けること

 
 
ー風早さんが今後のキャリアで挑戦していきたいことはなんですか。
 
 
育成環境があっての採用だなということを日々実感しているので、チューターやメンター制度をもっと充実させていきたいと思っています。「人は仕事で育つ」ということを大切にしていますが、山の登り方を知ることはとても大切です。

社員一人一人が誰かに期待されている、気にかけられている、という実感を持つことができれば、やる気にもっと火がつくはずです。「育成がすごいDeNA」と言われるようになりたいですね。
 
 
ー最後に、これから採用に向き合う人へ伝えたいことは何でしょうか。
 
 
会社がどうあって欲しいのか、会社をどうしていきたいのか、それについて真正面から向き合い続けることが大切だと思います。

実際にそれを手触り感もって変えていけるのが人事という仕事であり、本気でぶつかることができれば革命を起こせる仕事だと思っています。

その中で、自分が違うと思うことがあれば、相手が誰であっても伝えるべきです。自分に嘘をついて、気持ちにふたをしてしまうのはもったいないし、何より楽しくないですからね。

 「これから会社をどうしていきたいか」という議論は、誰にとっても前向きな話であり、ネガティブな結果に終わることは決してないので、自分の気持ちにふたをせず、“コト”に向き合ってほしいです。