ANA、リクルート、ベルフェイスを経て、現在土屋鞄製造所で人事を務める西島さん。一見華やかに見える経歴の裏側で、挫折や失敗も少なくなかったと言います。その中でリクルート時代に教わった“人の可能性を紡ぐ”というキーワードが、今でもご自身のテーマになっているそう。ANAから現在に至るまでの歩みを辿りながら、それぞれの場所での失敗や学び、そして現在土屋鞄製造所の人事として大切にしていることを伺いました。
 
 

株式会社土屋鞄製造所 人事本部 人材開発課 課長 西島悠蔵

大学卒業後、2010年に新卒で全日本空輸(ANA)にパイロットとして就職。その後リクルートキャリアに転職し、キャリアアドバイザーを経て、人事部に異動。中途採用を経験後、よりチャレンジングな環境を求めて当時10人規模だったベルフェイスに入社。ゼロから人事部門立ち上げ、100人規模になるまで会社の成長を支えた。2019年7月、土屋鞄製造所へ。現在は採用全般とオンボーディングを管掌している。

憧れのANAにパイロットとして入社したものの、人生最大の挫折を味わう

 
 
―西島さんは大学卒業後、ANA、リクルート、ベルフェイスを経て土屋鞄製造所にご入社されたと伺いました。現在に至るまでの道のりについて教えてください。
 
 
新卒でANAを選んだ理由はいろいろあるのですが、根底にあったのは両親や友人など、“周囲の人たちからの期待に応えたい”という気持ちが大きかったと思います。

というのも、大学選びのときにいわゆる推薦に近い形で私立の大学を選びました。周りの同級生がセンター試験などを経て国公立や旧帝大に行く姿を見て自分は勝負をしなかったなと引け目を感じていたんです。

だからこそ就活ではそれを挽回したいという思いがあり、ナビサイトに載っている人気企業ランキングに片っぱしからエントリーしていくような就活をしていました。

その結果ありがたいことに複数社から内定をいただき、その中でご縁のあったANAにパイロット職として入社することにしたんです。

パイロットという責任ある仕事に就けることももちろん嬉しかったですが、「これでやっと両親や友人の期待に応えられる」と思い、ほっとした気持ちになりました。母親がもともとANAのCAだったこともあり、そういった認められたいという欲求もあったと思います。

しかし、ANAに入社して3年後、大学選択以上に大きな挫折を味わうことになりました。

パイロット職は数年かけて訓練を行い、期間内にいくつかの試験に合格をしていかないといけないのですが、その中で失敗してしまい、ANAでパイロットとして勤務することが難しくなりました。

このときに生まれてはじめて自分の努力不足はあれど、20代で不向きということを突きつけられて、自分への不甲斐なさと努力を根っこから否定されたような気持ちになりました。

すっかり自信をなくしてしまって、一時期は飛行機に乗ることさえ怖くなってしまいました。せっかくANAという会社に入れたのに、両親と友人たちにどんな顔で会えばいいのか…ということばかりを考えていました。
 
 
―その結果を報告されたとき、ご両親はどのような反応でしたか。
 
 
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらパイロットになれないということを伝えると、「あなたが私達のために目指してくれていたことはわかっていたの。でももう私達のために頑張らなくていいから、自分のためにやりたいことをやりなさい」という温かい言葉をかけてくれました。

これで挫折感がすべて消えたわけではありませんでしたが、この言葉にはすごく救われましたし、一から転職活動を頑張ろうという気持ちになれました。
 
 

「あなたの目標とお客様の人生には何の関係もない」。リクルート時代、上司に本気で叱られた日

 
 
―次のフィールドとしてリクルートを選んだ理由について教えてください。
 
 
リクルートのエージェントに登録していたことをきっかけにリクルートの総合職の選考を受けたのですが、決め手になったのは最終面接官から言われた「人の可能性を紡ぐ」という言葉でした。

「ビジネスの経験はないけれど、西島くんからは何か可能性を感じる。リクルートの採用において大事にしているのは、“人の可能性を紡ぐ”こと。だから西島くんの可能性に賭けてみたい」とおっしゃってくれたことにすごく感銘を受け、すぐに入社を決めました。

リクルートを離れた今でも、“人の可能性を紡ぐ”というキーワードは私の中で大きなテーマになっています。
 
 
―リクルートで印象に残った出来事について教えてください。
 
 
自分のキャリアにおいてもうこれ以上はミスができないと思い、リクルートに入社後はCA(キャリアアドバイザー)としてHR領域について学びながら毎日必死に働きました。

自分は人よりもビジネス経験が少ないという引け目があったので目標数字に対するコミットメント意識はかなり強く持っており、ありたがいことに周りの上司や先輩方はそんな私をいつも叱咤激励しながら成長させてくれました。

当時の私は目標をどうにかこうにか達成したいという想いが強く、その強さが裏目に出てお客様よりも自分の目標を優先してしまったことがありました。

その時の上司から「あなたの目標にお客様の人生は何も関係ない。そんなことを考えて目標を意識するのは違う」とはっきり言われて、ものすごく叱られました。

今思えば当たり前なのですが、どうしても仕事をする上で数字は切っても切れないもの。ただ、そこではじめて、目標数字を達成することは大切だけど、そのためにお客様の人生が不幸になってしまっては何の意味もないということを学びました。

HR領域で仕事をする上ですごく大事なことを教えてもらいましたし、今では役員になられた当時の上司には本当に感謝しています。
 
 

すべてを費やさないとベンチャーは勝てない。当時10人規模だったベルフェイスで奮闘する日々

 
 
―その後リクルートを離れ、当時10人規模だったベルフェイスへ移られた背景について教えてください。
 
 
リクルートでは自身の希望もあり途中から人事に配属されたのですが、メンターとして5泊6日のインターンに参加したときに、間近で成長していく学生の姿を見て、「“人の可能性を紡ぐ”とはこういうことなんだ」と実感しました。それと同時に、入社時だけでなく入社後の成長や活躍も見守れる人事という仕事に一生を捧げようと思いました。

その上で自分のキャリアを考えたときに、リクルートは良くも悪くも完成に近い組織だったので、もっとチャレンジングな環境を求めて社会人7年目のときにベルフェイスへ飛び込みました。
 
 
―ベルフェイスでの日々はどのようなものでしたか。
 
 
大変でしたが、すごく楽しかったです。当時のベルフェイスは本当にスタートアップフェーズだったので課題が次から次へと見つかり、いろんな人に話を聞きにいきながら試行錯誤を重ねていく…ということの繰り返しでした。

当時は生活のすべてを仕事に費やしていましたが、それぐらいやらないとベンチャーは勝てないと思っていましたし、なによりやりがいがあったので苦にはなりませんでしたね。

ベルフェイスに入社する決め手となった(社長の)中島さんも人事のプロとして私に接してくれていたので、自分の責任の重みを感じながらも会社とともに成長できている実感がありました。

しかし2年半ほど経って社員が100人を超えたころ、会社の成長に自分の成長が追いついていないと感じるようになりました。

社員が100人を超えるまで私一人で人事を行っていたので、なんとか採用はできていたものの人事組織を作るところまでは手が回っていなかったんです。一方で10人規模から100人規模まで会社を成長させられたという自負もあったので、新たな環境で今度は人事組織を作るというチャレンジをしたいと思うようになりました。

ちょうどそのころにイベントで土屋鞄製造所の人事管掌執行役員を務める三木に出会い、“時を超えて愛されるものをつくる”という考え方に共感したことをきっかけに、入社を決めました。
 
 

光を当てれば輝きはじめるものがある。人事として、土屋鞄製造所の魅力を整理し、編集して世の中に届けたい

 
 
―土屋鞄製造所とベルフェイスではどのような違いを感じましたか。
 
 
土屋鞄製造所は50年以上の歴史がある会社なので、長年のファンをわくわくさせながら新しいものを作っていくことの難しさは、製品作りにおいても採用・人事制度作りにおいても共通していると感じます。

しかしその中で気づいたのは、まったく新しいものを作り出さなくても、光を当てれば輝きはじめるものがあるということです。この2年間で私がやってきたことは土屋鞄製造所が持つ魅力を整理し、編集して世の中に届けるというシンプルなものでした。

特に今の学生は仕事を通じた社会課題の解決や意義を求める傾向にあるので、土屋鞄製造所がどのような社会課題に挑戦しているのかということは特に意識して発信してきたつもりです。

そしてその結果、私が入社した2020年当時は50人ほどしかなかった新卒エントリーが今では3000人を超えるようになりました。

また、選考に参加してくれる学生が増えても変わらずに土屋鞄製造所の持つあたたかみを伝えられるような工夫も行っています。これらの取り組みを通じて、製品だけでなく採用においても土屋鞄製造所のファンを増やしていきたいです。
 
 

人事の仕事は、“人の可能性を紡ぐこと”。その楽しさとやりがいを十分に味わって

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―最後に、これから採用に向き合う人へのメッセージをお願いします。
 
 
人事はいろんな人の意思決定や生き方を味わえる、すごく恵まれた仕事だと思います。

私はずっとステータスや周りの期待にとらわれてきましたが、人事という仕事を通じて人の可能性を紡ぎ、成長していく姿を見守ることで自分自身の可能性も信じてみようという気持ちになりました。

そして時には人だけでなく会社の意思決定にも携わることができるのも人事という仕事の醍醐味でもあるので、その楽しさややりがいを十分に味わってほしいです。
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵