進学したものの大学で学問を学ぶ意味を見出せない、コロナ禍で経験を積む機会が制限されてしまう…。そんな学生たちに成長の機会を提供したいという想いで、富士通が2019年からスタートさせた次世代リーダー育成プログラム「FUJITSU Academy」。高専生や大学1・2年生などの低学年層を中心に、最長で6ヶ月のプログラムを提供している。現在FUJITSU Academyを率いている高杉さんに、FUJITSU Academyが生まれた背景とその実施内容、コロナ禍で感じた学生の変化、新卒採用との関わりについてお話を伺った。
 
 

富士通株式会社/人材採用センター/高杉太郎

2019年に新卒で富士通へ入社。1年目から新卒採用担当者としてグローバル採用やイベントの企画を担う。2年目からFUJITSU Academyに参加し、3年目以降は主担当として企画・運営に携わっている。

採用に繋げることよりも、学生一人ひとりの成長機会となることを目指して

 
―FUJITSU Academyを開催するに至った背景と想いについて教えてください。
 
FUJITSU Academyを開始したのは2019年です。ちょうどその頃、各企業がインターンシップを開催し、学生の就業観を醸成したうえで採用選考に案内するという流れが広がりはじめていました。

その流れを受けて、大学1・2年生や高専生といった低学年層向けにも自分のキャリアを考えるための機会を提供できないかという想いから生まれたのがFUJITSU Academyです。

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学生の中には、進学したものの学問を学ぶ意味を見出せず、それ以外のことばかりに時間を使ってしまう…という人もいると思います。そこで、早期から就業体験を積むことによって、自分の学びが社会でどう活きるのかを知り、学生生活を有意義なものにしてほしいという発想から企画を練りはじめました。

もちろん副次的なものとして新卒採用への効果も予想はしていましたが、それよりも低学年層の成長を促したいという想いが強かったので、FUJITSU Academyから直接採用に結びつけることは考えていませんでした。
 
 

2日間のワークショップを経て、6カ月間の課題解決プロジェクトに挑む

 
―FUJITSU Academyの具体的な内容について教えてください。
 
FUJITSU Academyは大きく分けて2つのプログラムから成り立っています。一つは「2days Academy」という2日間のワークショップ、もう一つは「6months Challenge」という、6ヶ月間で学生が自分で設定した課題の解決にチャレンジするプログラムです。

今年で4回目の開催になりますが、2days Academy には毎年、約100名の学生が、参加してくれています。少しずつ、口コミでの認知も広がっており、応募いただく方も増加してきています。

2days Academyの構成としては、1日目に講義形式のインプットをおこない、2日目はそれを踏まえたワークショップを実施します。

例えば、今、世界では何が起こっているのか、VUCA時代の変化について学ぶと共に、これから求められるリーダーシップ像についてなどの講義をおこない、そのうえで、1つのテーマについて、これから先、5年後、10年後どのような変化が起こるのかを、チームごとに話し合い、その結果を発表し合います。

2days Academyを開催後、さらなるチャレンジを希望する人には6months Challengeを案内しています。

6months Challengeは自分でテーマを設定しなければいけませんし、6ヶ月間課題に取り組むという点でも2days Academyに比べて難易度が高い内容です。今年は50名近くの方が6months Challengeにエントリーし、30名が最終の成果発表までやり遂げてくれました。

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過去の開催においては、6months Challengeの参加人数が10名を下回る年もあり、参加率に課題が残ったのですが、個人だけでなくグループ参加をOKにしたことや、学生同士でフィードバックし合うシェアリングセッションを新たに設けたことで参加者を3倍以上に増やすことができました。

FUJITSU Academyを始めるまで、若年層の学生がどこまでアウトプットを創りきれるか、という不安がありましたが、参加学生のアウトプットの高さには驚きました。

確かに2days Academyにおいては視点の高さや論理的思考に向上の余地はあるものの、6months Challengeの最終成果発表の内容は、様々な人たちを巻き込み、少なからず社会にインパクトを与えているものも多く、富士通社員も驚くほどでした。

6months Challengeを通して成長してくれた結果だと感じると大変嬉しく、今後の励みにもなりました。
 
 

コロナ禍で活動が制限される中、成長意欲の高い学生たちのチャレンジの場をつくれた

 
―2019年から始められたFUJITSU Academyですが、コロナ禍前後で変化したことはありましたか。
 
コロナの影響を受けて2020年からはオンラインでの実施に変更したのですが、オンラインの初年度は私たちも学生側もオンラインに慣れていなかったということもあり、難しさを感じました。

その結果、参加者満足度が大きく下がってしまい、6months Challengeへの参加率も初年度に比べて3分の1になってしまいました。

その反省を活かし、翌年はチャットを活用したり、一方的ではなく対話型のコミュニケーションを心がけたりしたことによってオンラインでありながら“没入感”を感じられるような設計に変えました。

学生側も既にオンラインでのコミュニケーションが主流になっていたので、2021年以降はある程度満足度が戻ってきました。

また、コロナ禍以降は学生の応募動機にも変化が表れました。

初年度は選択肢として部活や学生団体、留学など多様な選択肢がある中でFUJITSU Academyに参加してくれる学生が多かったのですが、2020年以降はそれらの活動が制限されている中で、それでも成長したいと思っている学生からの応募が増えました。

そういう成長意欲の高い学生たちにチャレンジの場を提供できているというところにも、FUJITSU Academyの開催意義を感じています。
 
 

大学との連携を強化し、FUJITSU Academyのさらなる認知拡大を目指す

 
―冒頭で「直接採用に繋がらなくてもいい」というお話をされていましたが、結果として新卒採用に与えた影響はありましたか。
 
6months Challengeを経て弊社の選考に応募してくれる学生もおり、入社に繋がったケースもあります。

加えて、採用への直接的な効果ではないのですが、FUJITSU Academyを通じて私たち自身も成長を実感しています。

学生が設定した課題に取り組むために様々なアドバイスを求められますので、私たち自身が視座を高く持ち、少しでも身になるアドバイスができるように日々勉強しておく必要があります。

こういったことが、自身の知識を広げ、採用時に学生と話す際の説得力の向上などにも繋がっていると感じております。
 
―FUJITSU Academyを通じて得られた収穫と今後の意気込みについて教えてください。
 
成長したいけれども一歩が中々踏み出せず悩んでいた学生の背中を押してあげることで、目覚ましい成長をとげる学生がたくさんいることに改めて気づくことができたのが、何よりの収穫です。

企業は、事業活動を通じて培った知見を活用して若き人材を育てていくことができるということを、FUJITSU Academyを通じて実感することができました。

早い時期から教育機関と連携しながら、「就業に繋がる学び」と「実践」を繰り返すことができる環境を作っていけるとよいと考えています。

それによって、日々成長しながらキャリアに対する想いを明確にしていく大学生が増えていくということになれば、こんなに嬉しいことはありません。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵