採用、組織開発、教育…日々の仕事に向き合う上で、人事の皆さんはどんな本を手に取り、どんな気づきを得ているのか。本連載では、毎回活躍している人事の方に”人事としての自分”に大きな影響を与えた1冊を選んでいただきます。ビジネス、伝記、小説、哲学…など、ジャンルを問わずさまざまな本の中から、その本を選んだ背景と特に印象に残ったところ、他の人事の方に勧めたい理由について伺いました。
 
 

【おすすめした人】
株式会社ニューズピックス カルチャー&タレントチーム 統括・HRBP/
合同会社事業人 共同代表 宇尾野彰大

早稲田大学卒業後、株式会社リクルートに入社。営業、人事企画、事業開発、事業企画など、複数事業で複数職種を経験。その後、ソーシャルゲームの開発会社へ移籍し、開発部長としてWeb/アプリ開発に開発マネジメント・PMOを担当。2018年、株式ユーザベースへ移籍し人事部門の統括。2020年より現在に至る。並行して合同会社事業人を設立し、経営者向けのアドバイザリーサービスや戦略人事向けのトレーニング機会として「戦略人事実践塾」の主幹をするなど、人事向けに幅広く活動している。

おすすめした本

 

Q1.この本を読んだ時期、読もうと思ったきっかけは?

 
社会人4年目で企画職になった際に、あるプロジェクトでお世話になった元コンサルの方から「いいから読め」と勧められたことがきっかけでした。

当時の私としてはロジカルシンキングや構造的に説明することに対してそこまで苦手意識を感じていなかったのですが、「この本が土台になっていない資料は読まない」とまで言われたので、その方から見るとなってなかったんでしょうね。

この本はマッキンゼーに女性初のコンサルタントとして入社したバーバラ・ミントという方が書いたもので、簡単にいうと物事を構造的に捉え、論理的に文章を書くためのノウハウ本です。

「コンサルに入ったら読むべき本」の一冊として紹介されることも多く、コンサル業界で働く人たちにとっては必読書とされているようです。
 

Q2.この本を人事に勧めたい理由は?

 
理由としては大きく二つあり、一つは組織間の人の流動性が高まっていることにより、情報を適切に保存していくことの重要性が起点になっています。

人の出入りが多くなると過去の文脈を新しく入った人に伝える機会が増えますが、それが誰にでもわかる形でコンパクトにまとめられている組織は意外と少ないのではないでしょうか。

世間でよく言われる「組織における情報の透明化」はもちろん大事ですが、それ以前に誰が読んでも理解できる形にしておかないと、折角の情報の透明化の意味がなくなってしまいます。

人材や企業が成長していくために情報をコンパクトにまとめて次世代に伝えていく編集力はは必須スキルであり、人事という仕事においては特に重要な所作だと捉えています。

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もう一つの理由は、コロナ禍によるオフラインでのコミュニケーションの減少によって、人事が組織を見立てる際に使える武器が減っていることにあります。

先ほども述べたとおり人材の流動性が高まり、副業など働き方も多様になっていく中で、人事には少ない情報から「組織を見立てる力」がより一層求められます。しかしコロナ禍でオフィスに出社する機会が減り、メンバーの表情や様子から組織の状況を汲み取ることが難しくなっていることも多いのではないでしょうか。

このように「小さな所作を見逃さず観察し、雰囲気からなんとなく状況を察する」ことが難しい状況下において、チャットツールを通じたテキストや、目的が絞られた会議などコミュニケ―ション機会から適切に情報を収集し、論理的に思考し、組織を見立てていく力は今後人事にとってますます必要になっていくでしょう。

この本は定番書でありながら入門書でもあるので、ロジカルシンキングに苦手意識がある方でも実践しながら思考力を鍛えていくことができると思います。私もまだまだではありますが、1000本ノックのように理論と実践を行き来することで、物事の全体を構造化して捉える癖がついてきました。

私は個人的に「戦略人事実践塾」という人事向けの私塾を開いているのですが、その塾で皆さんが一番苦戦されているのが組織課題を見立てることで、これを「イシューレイジング」と呼んでいます。

例えば、「組織の課題解決に関する経営陣に向けた起案書を書いてみてください」といってもその場でできない方が多いです。情報を持っているがその整理ができていない、課題がわからないままいきなり施策作りに入ってしまう…というのはどの組織においてもよくある失敗ではないでしょうか。

人事に限らず、膨大な情報の中で何をどのように見立てるのかということはこれからの時代を生きる上で必須の教養だと思うので、ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。
 

Q3.宇尾野さんが大事にしている「読書ルール」は?

 
必要なときにいつでも情報にアクセスできる環境づくりを心がけています。私は「積読」をすることが多いのですが、それをダメなことだと捉えておらず、むしろ自室に図書館のような空間を作っていきたいと思っています。

年間で100〜150冊ほどの本を購入していますが、買ってすぐにすべての本を読むわけではありません。少しでも面白そうだなと思えばまずは購入し、ざっと目次にだけ目を通しておいて、ミーティング中などでも「あの本が参考になるかも」と思ったときに手に取れるようにしています。

以前は積読していることにストレスを感じていたのですが、読みたくならないということは自分が課題に感じていないのだと考えるようになってからは楽になりましたね。ミーティング中に立ち始めたら「この状況で必要な情報はどれだろう」と本棚から何かを探している時で、それはまるで図書館を歩き回っている感覚です。ちょっと変ですかね(笑)。
 

Q4.これから読みたい本、ジャンルは?

 
最近興味があるのは、社会学に関する本ですね。今世界で起こっていることと同じように、会社においても個人がそれぞれ前進しようとする中で協調や衝突が生まれます。それを組織学だけでなく社会学という観点から考えることで、得られる示唆があるのではないかと思っています。

組織も人の集合体なので、(社会学の観点で)仕組みを作ればその通りに動いてくれますし、逆に意図を持たずに作るとうまく機能しなくなります。

20代の頃は自分の能力を高めるための本を読むことが多かったですが、これからは会社という「小さな社会」を動かし、豊かにしていくような学びを得ていきたいです。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵