近年、多くの企業において副業をはじめとした社員の「課外活動」が推奨されるようになりました。それは社員の課外活動を支援する側の人事においても例外ではなく、本業以外の場所で「人・組織」を軸にした活動をおこなう方が増えています。本連載では、そんな課外活動に挑戦している人事の方にインタビューし、課外活動をはじめたきっかけやその内容、本業との課外活動の関わり方などについてお話を伺います。
第3回目はダイドードリンコの人事・石原 健一朗さんをゲストにお招きし、2018年ごろから精力的におこなわれている学生・人事向け支援やフードデリバリーの配達員など、幅広い課外活動についてお伺いしました。
石原 健一朗 ダイドードリンコ株式会社 人事総務部 人財開発グループ シニアマネージャー
大学卒業後、京セラ株式会社に入社し、在職中は一貫して人材開発、組織開発に従事。教育研修の全社統括部門において、階層別教育や役職別教育を新規で立ち上げ、教育体系 の再構築を実施。2015年にダイドードリンコ株式会社に入社後は、次世代リーダーの育成選抜プログラムを主軸に据えた教育体系の構築に従事し、人事企画、採用、人財開発、組織開発、タレントマネジメントまで幅広く携わりながら、人事戦略の策定から実践まで手掛ける。2020年には副業制度を構築し、人財・組織KAIHATSUオフィスの代表として、様々な会社のコンサルティングにも従事。
目次
人と組織の成長支援は、仕事でもありライフワークでもある
―課外活動をはじめた時期ときっかけについて教えてください。
現在課外活動としておこなっているのは、大学の部活支援、人事のコミュニティの支援、他社への人事戦略策定や採用・育成支援コンサル、あとはUber Eatsの配達員です。Uber Eatsの配達員については意外に思われるかもしれませんが、詳細についてはのちほどお話ししますね。
これらの活動をはじめたのは2018年頃からですが、ダイドードリンコは2019年に副業を解禁したので、解禁後は副業として実施しています。
「人に良い影響を与え、そこから広がりが生まれる仕事がしたい」という想いで、人材・組織開発や制度構築、採用などの業務に携わってきましたが、これらは私にとって仕事でありライフワークでもあったので、“ダイドードリンコの人事”という本業にとどまらず、もっとさまざまな観点から人と組織に関わりたいという想いで課外活動をはじめました。
学生・人事支援からフードデリバリーの配達員まで、多種多様な課外活動に力を注ぐ
―現在おこなっている課外活動の内容について、具体的に教えてください。
冒頭にもお話しした通り、現在は主に四つの課外活動をおこなっています。一つは大学の部活支援で、コンサルのような形で課題や目標をクリアするための支援をおこなっています。
認知を獲得して入部希望者を集め、個人のスキルを伸ばしながらチームワークを構築し、目標に向かって走る中でリーダー育成を図る…という流れは事業活動と似ているので、人事としての知見を活かしやすいです。
採用をおこなっていると、売り手市場の中で学生が十分に自己分析できないままなんとなく就職して、なんとなく転職をして…という光景を目にすることが多く、若者に対して働くことの本質をどのように理解してもらうかということは、当社というよりも日本全体の課題になっていると感じます。
その課題を解決するためにも、就活よりも前のタイミングで自分自身や組織について、働くということについて考える機会を学生に提供したいという想いでこの活動をはじめました。
人事経験で得られた知見を活かしているという点では、他の人事コミュニティの支援や他社へのコンサル支援に関しても同じです。対学生だけでなく、対人事とのつながりを持つことでより広がりが生まれていきますし、私自身他の人事の方のお話を聞いて学びを得られることも多いです。
あとは運動も兼ねてUber Eatsの配達員もおこなっています。
一見人事とはなんの関係性もないように思われるかもしれませんが、フードデリバリーの業界にDiDiなどの新サービスが次々と登場する中で、競合同士互いにどのような戦略で配達員という資源を獲得し続けるのかという戦略性やマーケティングという観点で学べることが多々あります。
また、配達員をしていると内部のシステムにも触れられるので、AIアプリを使った最先端のビジネスモデルを実地で学べますし、例えばUber EatsとDiDiのどちらにも登録することで、各社がAIアプリや報酬制度等において、どのような差別化を図っているかについても知ることができます。
学生の中にも配達員をしている人は多いので、面接の場などでその話をすると一気に距離が縮まり、心を開いてもらいやすくなりますね。
多様な課外活動を通じて、本質的な仕事の価値ややりがいに気づいた
―課外活動を通じて得られた気づきや、難しいと感じることを教えてください。
一番大きな収穫は自己成長です。Uber Eatsの配達員が最たる例ですが、課外活動を通じて本業以外で関わることのなかった人と関わることで気づきが得られ、そこから内省することによって自分の考えがより深まっていきます。
コンサルとして他社の方から感謝されることももちろん嬉しいのですが、配達員をやっているときにお客様から温かい対応をしてもらえると、また違った嬉しさがあります。多様な経験を通じて、本質的な仕事の価値ややりがい、ありがたさについて考えるようになったのも一つの収穫といえます。
一方で、難しいと感じるのはスケジュール管理ですね。やることが増えてくると、当然ながら付帯する業務管理が増えてくるので…。
最初はダイドードリンコのスケジュールに課外活動のスケジュールを反映させるのは気が引けていましたが、やはりそれでは管理が煩雑になるので、今ではすべてダイドードリンコのスケジュールに集約しています。
空白の予定だけを入れていると「何をしているんだろう?」と疑問に思われる可能性もあるので、周囲に配慮しながらも見える化し、関係者にもあらかじめ周知するようにしています。
なお、これは当たり前のことですが、周囲からの理解を得るためには本業の役割を日頃から期待以上のレベルでこなして成果を出すことは大切ですし、副業で得た知見を本業で活かすことを積極的に行うことで、周囲からの信頼を得ておくことも大変重要です。
「チャレンジを応援する企業です」と語るなら、まずは人事がそれを体現しよう
―課外活動をおこなう前と後で変わったことはありますか。
新たなことにチャレンジしたいと思っている社員の背中を、実体験に基づいて押してあげられるようになったのは大きな変化ですね。
学生に対しても同じで、「チャレンジを応援する企業です」と口で説明するだけでなく、人事である私がそれを体現していることで説得力が増し、他社との明確な差別化にもつながります。
課外活動の経験を採用や育成の現場で活用し、その事例を外部に発信することで新たなご縁が広がる…というふうに、本業と課外活動の間で好循環が生まれてきていると感じます。
また自分で課外活動をおこなうことで、自社の制度が今のままで十分なのかということにも目を向けられるようになりました。
副業解禁後、しばらくはコアタイムありのフレックス制度だったのですが、自分が課外活動を行ううえでそこにネックを感じたので、コアタイムなしのフルフレックス制度に変えました。
社員には推奨しているものの、当の人事は未経験…というのは意外とよくある話だと思うので、社員のチャレンジを応援する環境が整っているのかを知るうえでも課外活動を行う人事の方がもっと増えていくといいなと思います。
―最後に、課外活動を踏まえてこれから描いていきたいキャリアや展望について教えてください。
もともと色々なことに興味を持つ性格なので、ダイドードリンコの人事としては期待以上の成果を出すという前提で、五年を一つの区切りとして考えていました。
しかし、副業が解禁されたことでその考えは大きく変わりました。今はダイドードリンコを離れるということは考えておらず、ダイドードリンコに軸足を置きながら課外活動との好循環をより広げていきたいと思っています。
先の見通せない時代ではありますが、社会に人とコミュニティがある限り自分の役目がなくなることはないはずなので、さまざまな経験を通じて成長しながら、人と組織の成長に貢献していきたいです。
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵