企業を成長・変革していくための人材を採用したいというニーズが増えている一方で、いざ採用活動を始めると難しさを感じるのがイノベーター採用。そもそも組織におけるイノベーターとはどんな人で、どのように定義をし、どのように探せば良いのか。今回、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ、ダイドードリンコ、ニトリホールディングスから人事経験豊富な3名のゲストをお招きし、イノベーターの要素や条件、イノベーターが育つ組織風土についてディスカッションを行いました。

※本コンテンツは、2022年3月に開催されたiroots人事ミートアップの内容から構成されたものです。
 
 

ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社 西久保 博明

ファーストフード店のマネージャーとしてキャリアをスタートし、3年間店長として店舗の運営を行う。その後30名規模のITベンチャーにプログラマーとして入社。SE、事業部長、開発、営業などを幅広く務めた後、2008年にケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社にコンサルタントとして入社。6年間コンサルタントとして活躍、2014年から2021年まで人事を務める。

ダイドードリンコ株式会社 人事総務部 人財開発グループ シニアマネージャー 石原 健一朗

大学卒業後、京セラ株式会社に入社し、在職中は一貫して人材開発、組織開発に従事。 教育研修の全社統括部門において、階層別教育や役職別教育を新規で立ち上げ、教育体系の再構築を実施。 2015年にダイドードリンコ株式会社に入社後は、次世代リーダーの育成選抜プログラムを主軸に据えた教育体系の構築に従事しながら、採用、人材開発、組織開発、制度構築、人事企画まで幅広く従事。

株式会社ニトリホールディングス 組織開発室 室長 永島 寛之

東レ、ソニーでマーケティング領域を経験後、2013年ニトリに入社。2015年より人材採用部長、2018年より採用教育部長として採用、育成、人事異動を統括。2022年より社長室に所属し、特命で次世代の採用を担う。

 

そもそも、イノベーターは何故必要?

 
ーディスカッションに入る前に、まず前提として「自社におけるイノベーターの必要性」についてみなさんのお考えを教えてください。
 
 
ケンブリッジ 西久保:競争戦略ストーリーという言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、弊社では会社の戦略ストーリーをふせんに書き、それを壁に貼っていつでも見られる状態にしています。戦略ストーリーの詳細は省略しますが、この戦略ストーリーの中には「チャレンジ」「さらなる」「なんでもやる」という言葉が多く使われており、弊社の戦略ストーリーの中では新しいことへの挑戦が不可欠であると考えられています。また、経営方針書の中にも「常に変化を生み出す」という方針が掲げられていることから、それを実現する上でイノベーターの存在が不可欠であると捉えています。
 

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ダイドードリンコ 石原:私は新卒で京セラに入社したのですが、京セラでは組織を小集団にわけ、それぞれが中心となってアメーバの目標を達成していくというアメーバ経営を行なっていました。経済学者のシュンペーターは、「官僚機構や自動化」の創造的破壊のためにイノベーションが必要と言っていますが、アメーバ経営は、大企業になってもこの創造的破壊を実現する経営手法であるとも言えます。私は当時教育制度に関わっており、様々なアメーバの活性化に携わっていましたが、アメーバ経営を行なっていてもある程度官僚的になることは避けられないという実感がありました。それはダイドードリンコにおいても同じで、組織がある程度大きくなったときにこそ破壊的イノベーションを起こせるイノベーターの存在は必須だと考えています。
 
 
ニトリ 永島:ニトリの商品をご存知の方は、そもそもニトリにイノベーションって必要なのか?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし私たちは「住まいの豊かさを世界の人々に提供する」というロマン(=ミッション)を掲げているので、時代やテクノロジーが変われば、その時々に合った「住まいの豊かさ」を提供していかなくてはなりません。家具もIOTを活用してデジタル化していきますし、お客様の買い方も変わっていきます。そのためには日々新しい商品を開発していくイノベーターが必要になってきますし、さらに10年後には3兆円の売上高を達成するという高い目標を掲げているので、このような非連続成長のフェーズでは特にイノベーターの存在が求められるのではないかと思っています。
 
 

同じものを見ても、問いを立てられる人と見過ごす人がいる

 
ーでは、みなさんが考えるイノベーターの要素、条件とは何でしょうか?
 
 
ケンブリッジ 西久保:私が考えるイノベーターは、小さな発見ができる人です。かつそれに対して行動をおこし、さらには定着する仕組みを作る人。口だけ出す人は組織にたくさんいますが、その先までできる人はそうそういないと思います。発見自体は本当に小さなものでよくて、例えばみんなが使いやすいようにゴミ箱の位置を変えられるような人はイノベーターになり得る要素を持った人と言えますね。
 
 
ニトリ 永島:小さな発見というのはまさに共感します。同じものを見ても、問いを立てられる人と見過ごす人がいると思うので。周りを見ていると、些細なことにも問いを立てられる人が成果を出していると感じます。さらにはそれをきちんと拾ってあげられる環境があれば、小さな発見も大きな変革につながっていきますよね。観察力こそがイノベーターの最大の武器だと思います。
 

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ケンブリッジ 西久保:問いを拾ってあげられる環境ってどんな環境だと思いますか?
 
 
ニトリ 永島:単純に言うと、小さな発見に対して「そんなことどうでもいいから仕事しろ」と言わない環境ですよね。心理的安全性というテーマもよく話題に上がりますが、多くの組織において埋没してしまっている小さな発見があるのではないでしょうか。
 
 
ケンブリッジ 西久保:確かにそうですね。弊社では人事評価の中にクリエイティビティという項目が入っているので、小さな発見を馬鹿にせず、チャレンジを評価する仕組みづくりをおこなっています。人事評価に入っていないと、新しいことをやる意味あるのかという話になってしまうので、そこはきちんと評価しますということを明確にしています。
 
 
ダイドードリンコ 石原:弊社でもチャレンジという項目は人事評価に入っていて、非管理職は加点、管理職は必須項目になっています。これは2年前に人事評価制度を刷新したときに追加した評価項目ですが、弊社はダイナミックにチャレンジすると謳っている会社なので、チャレンジを評価するのは当たり前という感覚です。
 
 
ニトリ 永島:でもそれってすごく大事なことですよね。謳っていることと評価項目が違うと納得感がないですし、誰もそこに向かっていかないですよね。
 
 

大目的に真面目に向き合い取り組めば、既存のルールや慣習を壊すことも時には必要

 
 
ケンブリッジ 西久保:ちなみにお二人が考えるイノベーターとは、どんな要素を持っていると思いますか?
 
 
ダイドードリンコ 石原:素直、真面目、誠実が重要な要素だと思っています。素直さと従順さは混同されがちですが、みんなの意見に従うことが素直なわけではありません。周りの人の意見も受入れ、認めながらも、自分はこう思いますときちんと主張できる人が素直な人ですよね。真面目さについては、ルールに対して真面目な人だけを指すわけではなく、大目的に真面目であるが故に時には形骸化したルールや慣習を壊す人の方が真面目と捉えることができると考えます。そして誠実とは言行一致のことなので、これに関しては先ほど西久保さんの話にもあったとおり、おかしいと思いそのように発言したことに対して有言実行し、最後まで取り組める人だと考えています。
 
 
ニトリ 永島:組織がどんどん大きくなるとルールが複雑化してくるので、やっちゃいけないことが増えてチャレンジがしづらくなりますよね。石原さんが仰ったような素直に行動をおこそうとしている人がいれば、周りはそれを極力邪魔しない環境づくりを行うことが大事なのかもしれません。
 
 
ダイドードリンコ 石原:あとは先ほどお話しした3つの要素に加えて、組織人としては協調や呼びかけといったこともすごく大事ですよね。そのためにも、おかしいよねってみんなが思いつつ誰も手を出さない課題に率先して周囲に声をかけて取り組んでいくことも必要だと思います。そうすると次に新しいことをやりたいと思ったときに協力してくれる人も増えてきますから。
 
 
ニトリ 永島:先ほどの素直さという部分で言うと、会社のミッションやビジョンに本気でコミットしてくると言うのはイノベーターとしてすごく大事な要素ですよね。先ほどもお話しした通り、同じものを見ても問いを立てられる人とそうでない人がいる中で、社会に問いを立て、叶えたいビジョンに向かってまっすぐ取り組めるか。お二人のお話をお伺いして、イノベーターというのはすごく目新しいものを生み出す人ではなく、問いに対して愚直にアプローチしていく人のことではないかと感じました。
 
 

“ガクチカ”のように、人生の一部分だけを切り取っても本来の姿は見えてこない

 
ーでは、イノベーターとなり得る要素を持つ人をどのように見極め、魅力づけすればいいのでしょうか。
 
 
ニトリ 永島:社会経験がない学生に対して、この先イノベーターになり得るかどうかという見極めをするのは非常に難しいですよね。ただ、ミッションやビジョンに対する共感度と入社後の活躍は間違いなく紐づいていると思うので、私たちが掲げているミッションに対してどのように考えているのかというのは深く聞くようにしています。もちろん能力も大事な部分ですが、最低でも入社後5年ぐらいは経たないと結果はわからないと思うので、まずは共感度を重視しています。
 
 
ケンブリッジ 西久保:私はその人の価値観を見るようにしています。目の前に落ちてるゴミを拾うかどうかという行動にその人の価値観が現れるように、能力や経験もすべて価値観に紐づいていると考えています。勉強好きな人がいくつになっても勉強をやり続けるように、ミッションに対して共感している人はそれに対してアクションをとり続けますよね。だからこそ共感度に対する見極めは大事なのだと思います。
 
 
ニトリ 永島:おっしゃる通りですね。よくガクチカと言いますが、人生の一部分だけを切り取っても本来の姿は見えてこないと思います。本当に相手を知りたいのであれば、「子どもの頃はどんなことをしてたの?」という質問から始めないと本人の好奇心や価値観は理解できません。なので、(irootsの)宣伝になってしまいますが、幼少期からの経験を書くという機能にはとても納得感があります。あと、私は相手の価値観を知るために「それは何故?」という質問を重ねます。時には学生から怖がられてしまうこともあるのですが(苦笑)、言葉につまった先に本人の価値観や好奇心が見えてくると考えています。ただし、それを誰がどのタイミングでやるのかを見極めておかないと学生の納得感が得られず、不満につながってしまうので気をつけなければいけませんが。
 

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ダイドードリンコ 石原:私はその人の軸を見るにあたって重要だと思うのが、今までの挫折経験です。人間は全力を出して挫折すると、そこで人生の教訓になりうる軸を獲得しやすいので、その原体験をもとに相手の軸を知り、自社とのフィッティング度を見るようにしています。魅力づけの部分で言うと、イノベーターはイノベーターに惹き付けられる傾向にあるので、イノベーター要素を持つ社員と学生を引き合わせたり、志望度の有無に関わらずイノベーター要素を持つ学生を集めてインターンを行ったりしています。これらの取り組みを通じて、ダイドードリンコはイノベーターを本気で採用しようとしている会社なんだと信頼してもらえるように努めています。
 
 
ニトリ 永島:一見控えめでイノベーターっぽくない人が実はイノベーターだったというパターンもありますが、そういう人ってどうやって探していますか?
 
 
ダイドードリンコ 石原:確かにそういう人はなかなか見つけにくいので、適性検査も使うようにしています。その中で注目しているのが、周りからのネガティブ評価に対するストレス耐性の高さです。この数値が高い人はたとえ前に出なくても周りに流されずに提案できる可能性が高いので、イノベーターになり得る要素を持っていると考えています。
 
 
ニトリ 永島:なるほど。前に出る人だけがイノベーターではないので、そこは適性検査を使うと潜在的な要素を含めて見極めができそうですね。
 
 

採用時の見極め以上に、入社後にどう育てていくかが重要

 
ーイノベーターの要素を持つ人を採用した後に、その人たちが育つ上で必要な風土や環境とはどのようなものでしょうか?
 
 
ケンブリッジ 西久保:冒頭にもお話ししましたが、チャレンジを応援する文化は意識的に作る必要があります。応援するのがベストではありますが、最低限馬鹿にしないこと。頭の硬い人は変化を嫌がるので、それやる意味あるの?と言われることもあるかもしれませんが、それではいつまで経ってもイノベーターは育ちません。あとは、入社してから育てるということを念頭に置いておくこと。先ほど永島さんのお話にもありましたが、入社して数年経たないとその人の全体像は見えてきません。採用時の見極め以上に、入社後にどう育てていくかが重要ではないでしょうか。
 
 
ダイドードリンコ 石原:チャレンジングな組織風土作りが重要だと考えています。そのため、弊社では新規事業などのアイデアを社員が自由に提案できるプラットフォームを作っており、社員から多くの支持を集めたアイデアは実現に向けて動いていくことになっています。風土はすぐには醸成されないので、アイデアが評価されれば本当に実現するんだという経験をしてもらうことで少しずつ風土を作っていくしかないのかなと思っています。この仕組みのポイントは、経営層ではなく社員投票で選ぶこと。現場にいる社員が支持したアイデアを本気で実現しにいく風土づくりを大事にしています。
 
▼新規事業などのアイデアを社員が自由に提案できる「チャレンジアワード」

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ケンブリッジ 西久保:風土は簡単に変えられないからこそ、仕組みで変えていくというのはすごくいいですね。そういう仕組みから少しずつ風土やカルチャーが生まれていくと思いますし、経営層だけでなく現場社員から評価されるというのもモチベーションをあげる上で重要なポイントですね。
 
 
ニトリ 永島:組織が大きくなるとどうしてもがちっとした雰囲気になりがちですが、それはある程度壊していかないといけないなと思います。とはいえ組織は壊せないので、弊社の場合はさまざまな社内コンテストを通じて、あえて社員に本業以外の“揺らぎ”を与えるようにしています。1000人以上いるとどうしてもフラットな組織にはなりづらいですが、ピラミッド型を保ちながらフラットな組織風土を感じてもらえるようにしていく必要がある。お二人のお話にもありましたが、イノベーターを育てるためには社員のチャレンジを応援し、自発的な行動を促す風土づくりが大切です。そうすると、自発的な行動をどのように評価するのか?ということが重要になってくるので、そこが我々人事の腕の見せ所ではないでしょうか。
 

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組織におけるイノベーターとは

 
ー最後に、今回の「組織におけるイノベーターとは誰か?」という問いに対するみなさんの解を一言で教えてください。
 
 
(問い)私にとってのイノベーターとは…
 
 
ケンブリッジ 西久保:想いを持って最後まで取り組む人
 
 
ダイドードリンコ 石原:社会、組織、人の可能性を諦めない、素直で真面目で誠実な人
 
 
ニトリ 永島:問いを立てられる人
 

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ー本日はありがとうございました。