「人のために働く仕事に就きたい」という想いから日立で人事としてのキャリアを歩み始めた中村亮一氏。辞める人がいる一方で、曖昧な基準で採用を行なっていることに疑問を感じ、”ピープルアナリティクス”という領域に活躍の場を広げていく。新卒時代から変わらず「仲間の幸せ」を考え続ける中村氏の、人事としての道のりとこれからについて話を伺った。
 
 

日本電気株式会社(NEC)中村亮一

2004年4月大学卒業後、日立製作所へ入社し、人事総務担当として従事。2017年4月に人事部門内にPeople Analytics専門の部署を立ち上げ、データ分析に携わり、本分野での事業立ち上げに従事。
2018年9月に日立を卒業後、ソフトバンクへ入社し、同社人事部門においてHRテック、People Analyticsの社内導入を担当。
2020年2月にHRテックスタートアップ株式会社BtoAの経営に参画した後に、2021年2月より現職。

就職活動では、「人事になれる会社」をひたすら探して回った

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―中村さんは新卒で日立に人事としてご入社されていますが、そこに至るまでの経緯について教えてください。
 
もともと正義感の強いタイプだったので、就職活動を始めるタイミングでは警察官になろうと思っていました。実際に試験も受けましたし、合格もいただきましたが、そのあとで自分がやりたいことが叶いそうにないということを知り、最終的には辞退しました。
 
そんな経緯があったので、他の人よりも少し出遅れた形で就職活動を始めました。しかも当時は就職活動のやり方すらわかっていなかったので、就職課にあった「職種一覧」を閲覧し、自分がどの職種に就きたいか考えたんです。

その中で文系の選択肢としてあげられていたのが営業、人事、財務、購買ぐらいだったので、その中であれば人のために働ける人事が自分に合っているのではないかと思い、人事を募集している会社を探しました。
 
 
―もともと目指されていた警察官と人事は、「人のために働く」という点で共通点があったのですね。
 
 
そうですね。昔から個別の物事に執着があまりない人間なのですが、よくないことをそのままにしておくとか、間違っていることを見て見ぬふりするのが嫌いな性格でした。

高校時代には、仕事体験として始めたスーパーでのアルバイトで貯めたお金をトラブルで困っている同級生に「返さなくていいから」と言って渡したことがあります。
こう言うと私がいい人のように聞こえるかもしれませんが、そこで助けないのが単に自分の信条として嫌だったんです。
なので、人事という仕事が自分の中で一番しっくりきました。

そのような経緯もあり、周りが企業の知名度や業界を軸に就職活動をしている中、私は「人事」という軸でひたすら会社を回りました。
おそらく100社ほどの会社を回ったと思いますが、今まで知らなかった業界や会社のことを教わるのは楽しかったので、就職活動は特段苦にはなりませんでした。

その結果、2004年に人事総務部のメンバーを新卒で募集していた日立に入社を決め、関西支社に配属されました。
 
 

社内の“不発弾”を拾っていた人事1年目

 
 
―入社当初はどのような業務をされていたのですか。
 
 
最初は労務を担当していたので、組合対応や賞与、退職金計算のチェック作業などを行なっていました。
当時からデータを扱うのが好きだったので、手計算をしなくてもいいように関数を使ったデータチェックツールを自分で作り、他の人事メンバーに配ったりしていました。
誰に頼まれたわけでもありませんでしたが、手計算のために遅くまで残業をしたくないという一心でした(笑)。

それ以外で印象に残っているのは、いわば社内の“不発弾”を拾う仕事ですね。
他の従業員から「あの人がルール違反をしているのではないか」という噂を聞けば調べに行きましたし、過去の担当者の大きなミスを発見して社員の自宅まで謝りに行ったこともあります。

社会人1〜2年目の自分にとっては衝撃的な出来事の連続でしたね。そう言う意味では、ヒキが強いのかもしれません(苦笑)。

これらの経験を通じて、やはり隠し事やミスというのはどこかで発覚してしまうものなのだなと痛感し、ミスを犯しても隠さずに謝らなければいけないと学びました。
 
 

「結果さえ出してくれればやり方は任せる」という環境がありがたかった

 
 
―2009年に本社の採用部門に異動されてからはどのような業務を行なっていたのですか。
 
 
私は理系採用を担当していたのですが、当時学校推薦経由の採用が大半だったことと、本社の採用は各事業部門で行なっていたこともあり、自分たちで採用しているという手触りはほとんどありませんでした。

その代わり、古くなっていた社内システムを新しくしたり、現状に見合ってない人事制度を変えたりすることに注力していました。
それまで使っていた適性テストを、「これじゃないといけない理由がない」と考え、思いきって別のものに変えたこともあります。

ありがたいことに私は上司に恵まれていたので、私の提案に対しては「お前がいいと思うならやってみろ」と言ってもらえることがほとんどでした。
日立では珍しく中途採用で入社した方が上司になることが多く、結果さえ出してくれればやり方は任せる、という環境で働けたのは本当にありがたかったですね。
 
 

曖昧な採用基準に疑問を感じ、ピープルアナリティクスを学び始めた

 
 
その後、2015年に事業部内のコーポレート部門に異動し、採用やダイバーシティ推進の主任になりました。
当時日立は痛みを伴った変革を遂げようとしている時期だったので、昼は採用活動、夕方は退職者対応という日々が続きました。

そんなことをしている中で、多くの人が辞めている一方で、採用するときには曖昧な基準で採用を行なっていることに疑問を抱きました。

そこで当時少しずつ注目され始めていた“ピープルアナリティクス”という分野に興味を持ち、「ピープルアナリティクスの教科書」という本を出された北崎さんをはじめ、色々な方にいきなりアポをとり、話を聞きに行きました。

その後、さまざまな人の力を借りながらピープルアナリティクスのチームを立ち上げ、個人の経験や勘に頼らない、データを活用した新たな採用制度を作り始めました。
 
 

個人の経験や勘に頼らないデータ活用を提案し、HRテクノロジー大賞を受賞

 
 
―新たな採用制度を作るにあたり、最初に着手したことはなんでしたか。
 
 
個人の経験や勘を頼りにした採用を脱却したかったので、面接やグループディスカッションなどで面接官が見るべき情報を減らしました。
見るべき情報が多すぎると、結局最後は印象から判断してしまうことになるからです。

総合的なジャッジではなく、明確に「この部分を見てほしい」というスクリプトを面接官に配り、選考を変えていきました。

結果として人材タイプが20%以上変化し、入社式で新卒と会話した経営幹部からも「候補者の質が変わった」という声をもらうようになり、少しずつ採用が変わってきていることを実感しました。
 
この取り組みと成果をもとに、当時創設されたばかりだった「HRテクノロジー大賞」に応募したところ、ありがたいことに賞をいただくことができました。この受賞をきっかけに私たちのチームの取り組みが社内でも徐々に注目され始め、それを事業化することになりました。

しかし、私は人事として社内の人たちを幸せにしたいという想いを持っていたので、ちょうどその頃に知り合いの方を通じてお声がけいただいたソフトバンクへの転職を決めました。
 
 

ソフトバンク、ベンチャーへの転職を経て、変革期のNECへ

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ソフトバンクでもピープルアナリティクスを活用したハイパフォーマ分析や、社員の充実度を測定するパルスサーベイの開発など様々な取り組みを色々と経験させてもらいました。パルスサーベイの詳細が知りたい方はソフトバンク、パルスサーベイでググって下さい(笑)

ソフトバンクでの仕事は本当に楽しく、メンバーにも恵まれ不満はなかったのですが、入社してから1年半ほどで仕事を通じて知り合ったBtoAというHRテック系ベンチャーに転職しました。

不安もありましたが、40歳という年齢を考えると、ベンチャーに挑戦できる最後のチャンスかもしれないと思い、決断しました。
その後、BtoAで事業開発の責任者としてサービス推進を経験させていただいたあと、「もう一度人事の仕事に戻りたい」という想いから、NECに入社しました。
 
実は私は会社の理念などを説明されてもあまり心が動かないタイプで、それよりも、何を・誰とするかで自分の行動を決めています。
NECは中期経営計画の中で、文化を変えていくということを明確に宣言しており、それをどのように実現していくのか自身で何ができるか考えています。
 
業務としては、中途採用におけるダイレクトリクルーティングの立ち上げを担っています。
毎年多くの人を採用しているNECにおいて、ピンポイントで採用を行うダイレクトリクルーティングを成立させるのは難しい部分もありますが、だからこそ挑戦する価値があると思っています。
 
 

人事に求められる役割は変化している。 「忙しい人事」から脱却し、「信頼される人事」へ

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―最後に、これから採用に向き合う人へ伝えたいことは何でしょうか.

 
まずは人事の役割が変わってきているということを認識することが大切です。
今まで人事はルールをつくったり、起こった事象への対応など、いわば職員室のようなイメージで、敷居が高く、そこで決めたことを社員が守る、というのが一般的なスタイルでした。
 
しかしこれからは、Employee Experience(EX:従業員体験)、Candidate Experience(CX:応募者体験)を向上させるための“サービス提供者”という役割が人事に求められています。 CXでは「採用してあげる」というスタンスから、「ぜひうちに来てください」というスタイルに変えないと、優秀な人は採れない時代になりました。

そして、“サービス提供者”になる上で僕が大切にしていることは、「忙しい人事にならない」ということです。
 
先ほど、若手の頃に社内の“不発弾”を拾っていたとお話ししましたが、社員との信頼・関係性が作れていないと、不発弾を見つけることもできません。

信頼される“サービス提供者”になるためにも、社員に対して「忙しいからあとにしてください」と言わない、メールやチャットにはすぐに反応する、という基本的な行動を大切にして「信頼される人事」になってほしいです。