採用、組織開発、教育…日々の仕事に向き合う上で、人事の皆さんはどんな本を手に取り、どんな気づきを得ているのか。本連載では、毎回活躍している人事の方に”人事としての自分”に大きな影響を与えた1冊を選んでいただきます。ビジネス、伝記、小説、哲学…など、ジャンルを問わずさまざまな本の中から、その本を選んだ背景と特に印象に残ったところ、他の人事の方に勧めたい理由について伺いました。
【おすすめした人】
株式会社ネットプロテクションズ 人事総務グループ 赤木俊介
2013年株式会社ネットプロテクションズ入社。NP後払いの顧客対応部門のマネージャーに最年少で就任し、顧客体験改善に従事。スマホ決済「atone」の立ち上げに参画し、与信審査システム・顧客対応チームの初期設計を行う。並行して、新卒採用・オフィス移転の責任者として幅広い領域に関与している。
Q1.この本を読んだ時期、読もうと思ったきっかけは?
この本を読んだのは2019年で、私が事業運営の傍らで新卒採用にも関わり始めた時期でした。
その前年にネットプロテクションズでは「Natura」という人事制度がリリースされ、その中では社員間の「競争」ではなく、「共創」を目指すという指針が掲げられました。
もともと組織論に興味があったということもありますが、自分自身ももっと共創についての理解度を上げたいと考えていたので、この本の「お互いのナラティブ(物語)を理解し、対話をする」というテーマに興味を持ちました。
Q2.この本を人事に勧めたい理由は?
人事は候補者の方や経営陣、他部署のメンバーなど、立場が異なるさまざまな人と対話し、自分と相手の間に“橋”をかけなければいけない仕事だからです。
“橋”をかけるときに相手の立場から見える景色を理解しないとうまく意思疎通がとれません。なぜ自分と違う景色が見えているのか、相手の背後にあるナラティブから捉えにいけば共感はできなくても理解は可能になると思います。
採用においてよくある失敗で言うと、自分と似た共通点を持つ候補者の方に会ったとき、「この人はいい人だ」と好感を持ち、すぐに入社後活躍のイメージを描いてしまうことってありますよね。
しかし自分との共通点に照らし合わせて話を聞いている時点で、相手のナラティブを理解しようとせずに自分が拾いたい情報を拾っている可能性が高いです。
「相手を正しくジャッジしなくてはいけない」というバイアスがかかりすぎているとこのようなことが起こってしまうので、まずは自分の立場から離れて、相手のナラティブに素直に耳を傾けることが大切です。
もう一つ社内で見られる失敗が、他部門が採用に協力的ではないとき、相手が置かれている状況や立場を考えずに、“誰でもできる面談ノウハウ”のようなマニュアルを作れば使い始めると思ってしまうこと。
いくらマニュアルを作ったところで、「何故協力的でないのか」が解き明かされていないと誰も読んでくれません。
もしかしたら営業のメンバーは顧客対応が多くて余裕がないのかもしれませんし、組織内で何かしらの別課題を抱えているのかもしれません。
まずはそれに寄り添い、対話を重ねてお互いの意見を取り入れた“第3案”を見つけることが解決の第一歩です。
この場面でも、先ほどの「ジャッジしよう」というバイアスと同じように、「説得しよう」というバイアスがかかっていないか注意する必要があります。そのバイアスがかかっている限り、どこまで行っても平行線になって第3案が生まれることはないでしょうから。
社内外問わず、相手と対話するときにはまず新卒採用担当者という自分の肩書きを一旦外し、一個人として相手のナラティブを理解することに集中する。
この本を読んでからは、相手との対話において必ずこれらのことを意識するようにしています。
「なんとなく相手とコミュニケーションがとれない」「自分の提案がなかなか通らない」という課題を抱えている人は、ロジカルシンキングやノウハウ本を読む前に、この本を手に取ってもらいたいです。
Q3.赤木さんが大事にしている「読書ルール」は?
一つは「真面目に読まない」ことです。読んでみて興味がないなと思えば、すぐ積読にしてしまっていいと思います。興味がなければすぐ次に行って、学びを止めない。
あともう一つ大事にしているのは、「自分が共感できない本も読む」こと。自分が共感できるテーマの本ばかりを読むと自分の考えも偏ってしまうので、あえてそうしています。
なので、ECサイトのレコメンドは全然参考にしていません(苦笑)。
機械的なロジックでおすすめされるがまま同じテーマの本ばかりを読むのではなく、さまざまなテーマに触れて自分の物差しを長くしていくことが大事なのではないでしょうか。
そうすることでナラティブの許容度があがっていくと感じます。
Q4.これから読みたい本、ジャンルは?
若い世代が何を考えているかが気になりますね。
資本主義からの脱却やサスティナブル、パーパスといったキーワードが注目されていますが、若い世代は何を幸せだと感じ、どのような哲学を持っているのかを知りたいです。
それを知らないまま採用をやっていると、ズレたコミュニケーションになってしまいそうです。
これから先の幸福論について考えられる本があれば、ぜひ読んでみたいです。
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵