パーパス経営、パーパス・ブランディング…ここ数年で「パーパス(社会的意義)」という言葉をよく耳にするという人も多いのではないでしょうか。
気候変動、新型コロナウィルスの感染拡大、ミレニアル世代やZ世代の台頭…このような社会の変化に伴い、企業も「短期的な利益」ではなく「社会における責任」を求められるようになっています。
採用におけるパーパス・ブランディングやESGという考えも広まりつつある今、企業にとってパーパスを掲げないまま事業運営を行うことは今後困難になるでしょう。

そこで本連載では、「パーパス」についてさまざまな取り組みを行なっている企業にインタビューを行い、パーパスを掲げるまでの経緯やその背景にあるもの、そしてパーパスを通じて実現したい姿についてお話を伺います。

第2回目は「あえてパーパスは定めていない」というガイアックスで総務人事部長を務める流拓巳氏をゲストに迎えて、パーパスを定めていない理由と個人と組織のパーパスの結びつきについてお話を伺いました。
 
 

株式会社ガイアックス 人事総務部長 流拓巳

2017年新卒入社。内定者時代は新規事業部でマーケティングや地方拠点立ち上げを経験。入社後は採用担当・経営会議事務局や管理本部採用マネージャーを経て、2020年1月からPeople Empowerment Office立ち上げ及びマネージャーに着任。2021年1月から現職。

パーパスは“定める”ことではなく、“問い続ける”ことに意義がある

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―現在多くの企業にとって“パーパス”は大きな関心事となっており、事業や採用においても大きな影響を与えると言われています。その中で、ガイアックスではあえてパーパスを定めていないと伺いました。その理由について教えてください。
 
 
ガイアックスにおいては、事業や組織が日々変わり続けていくことが「あるべき姿」だと考えています。そのため現在のメンバーでパーパスを決めてそれを額縁に飾ったとしても、極端な話、一か月後には現状にそぐわないものになっているかもしれません。

だからこそ、あえて私たちはパーパスを定めないことを決めていますし、今後も定めることはないと思います。
 
 
―変化の激しい組織においては、パーパスの存在自体が不要であるということなのでしょうか。
 
 
 
いえ、そうではありません。本質的な意味や意義を問い続けること、つまりパーパスについて考えることは事業を行う上ですごく重要なことですし、それはガイアックスにおいても同じです。だからこそ、私たちはパーパスを“定める”のではなく、“問い続ける”ことに意味があると考えています。

企業がパーパスを定めるのは、事業や組織の根っこに“変わらないこと”があるからです。しかしうちの場合は、“変わり続けること”自体がガイアックスらしさであり、それをひとつのことに定めてしまうとガイアックスらしさは失われてしまう。
つねに何のために?誰のために?ということを問い続けることこそが、ガイアックスのパーパスのあり方だと捉えています。

これはガイアックスの事業や組織に合わせた考え方なので、事業や組織の根っこに“変わらないこと”がある場合には、パーパスを定めてももちろんいいと思います。ただしそのパーパスが形骸化してしまわないためにも、“一度定めたら終わり”ではなく、定期的に見直し、その都度議論していく必要があるでしょう。
 

事業の“壁”となる「人・組織の課題」を壊すことが、人事としての使命

 
―ガイアックスとしてのパーパスはあえて定めていないということでしたが、人事組織としてのパーパスはありますか。
 
 
人事組織全体で統一したパーパスを掲げているわけではありません。しかし、事業を通じて社会課題の解決を最速・最大化するために、人・組織の課題という“壁”を壊していくことが私たち人事の使命であるという共通認識は持っています。

もともとガイアックスには人事部というものは存在せず、組織運営や採用に関しては各事業部で行っていました。その理由として、事業を成長させるためには社員を“育成”するよりも、本人が事業に集中できる“環境”を用意することが重要だと考えていたからです。リソース、情報、お金、つながりという環境は用意するけれど、それ以上の介入は本人にとって邪魔になる可能性がある。だから人・組織に対して横串でサポートを行う人事部は必要ない、という方針でした。

しかし事業が成長するにつれて、多くのチームが組織運営や採用に関して共通の課題を抱えるようになりました。しかもHR領域の課題というのは一朝一夕で解決できるものではないので、それを抱えたままでは事業の成長に支障をきたしてしまいます。
それは私たちが意図していることと違うよねという結論になり、今の人事組織が作られることになりました。

私たちが壊すべき“壁”は日々変化していくものですが、人・組織の課題という“壁”を壊していく”というのは私たち人事のゆるがない使命であると考えています。
 

働くことに前向きな人ほど、押し付けられることを嫌う

 
―あえて会社としてのパーパスを定めないことは、採用においても何かしらの効果があるのでしょうか。
 
 
パーパスを定めていないことは、候補者に対して“私たちらしさ”を伝える上でいい効果を発揮していると考えています。

また、意欲的で働くことに前向きな人ほど会社から何かを押し付けられることを嫌う傾向にあるので、パーパスを“定める”のではなく“問い続ける”というガイアックスの姿勢を好意的に捉えてくれることが多いです。

当社の場合、会社から与えられることを期待している人は途中で去っていきますが、それをごまかして入社するのはお互いにとってよくないので、フィルターとしての効果も発揮していると思います。
 

個人のパーパスを追求していくことが、組織人としてのパーパスにつながっていく

 
―ガイアックスという会社と人事組織としてのパーパスについてお話を伺いましたが、流さん個人としてのパーパスについて教えてください。
 
 
以前のインタビューでも触れさせていただきましたが、私個人としてのパーパスは社会から“他人事”という概念をなくすこと、もう一つは成功体験がないことで自分に自信を持てない人たちが、自信をつけることで輝ける社会を作ることです。

一方で、今年の初めに人事総務部長になったときにはガイアックスの組織人としてのパーパスを掲げました。一つは「スタートアップスタジオ」であるガイアックスを、「投資も行う事業会社」ではなく、本当の「スタートアップスタジオ」として成り立たせること。もう一つは、「Doing」だけでなく「Being」でも社会に貢献できるよう、これまで以上にガイアックスらしい「組織と人のあり方」を追求し、社会に対してオープンに情報を発信し続けることです。

流拓巳という個人としてのパーパスと組織人としてのパーパスは別々に存在するものではなく、長期的な時間軸の中でつながっているものです。個人としてのパーパスを追求していくことが、結果的に組織人としてのパーパスにつながっていくと考えています。

これは私だけに限った話ではなく、ガイアックスの社員全員が同じように考えていることです。組織人としてのパーパスと個人のパーパスがつながっているからこそ、ガイアックス自体にパーパスがなくても組織がバラバラにならずに走り続けられるのです。
 

たとえ「誰かが決めたこと」でも、目の前の仕事に意図を持つ

 
―最後に、パーパスについて考える人事のみなさんへメッセージをお願いします。
 
 
自分なりのパーパスを考えるためには、まずは目の前の仕事に意図を持つことが大切です。

人事の仕事は起こってしまったことの対応や、誰かに言われてやらなければいけないことがたくさんあります。中には自分の意思と反しながらも、“しょうがなく”やっている仕事もあるでしょう。

しかし、その中でも何故自分は“やる”という選択をしたのかということは明確にしておいた方がいいです。どうしても自分の意思に反するのであれば、上司と喧嘩する、あるいは会社を辞めるという選択肢もあるわけですから。

「誰かが決めたことだから」、「ずっと前から存在している慣習だから」ではなく、何のために、誰のためにという意図を持って人事という仕事に向き合う。そうすることで、自分なりのパーパスが見えてくるのではないでしょうか。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵