リクルートでの事業企画や事業開発、ベンチャーでのPMO経験を経て、ほぼ人事未経験ながらユーザベースの人事統括として人事のキャリアをスタートした宇尾野さん。急成長中のユーザベースグループにおいて、「責任者なのに実務が分からない時期は本当に情けなかった」と振り返る。その苦しい時期を経て見えてきた、人事としてのありたい姿、学生との向き合い方についてお話を伺った。
 
 

株式会社ニューズピックス カルチャー&タレントチーム 統括・HRBP
宇尾野彰大

早稲田大学卒業後、株式会社リクルートに入社。営業、人事企画、事業開発、事業企画など、複数事業で複数職種を経験。その後、ソーシャルゲームの開発会社へ移籍し、開発部長としてWeb/アプリ開発に開発マネジメント・PMOを担当。2018年、株式ユーザベースへ移籍し人事部門の統括。2020年より現在に至る。並行して、新規事業として「人事の知恵を解放する」サービス(TUNING)を企画・検証中。「戦略人事実践塾」の主幹をするなど、人事向けに幅広く活動している。

新卒入社したリクルートで、想像していたよりも「できない」自分に出会う

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―宇尾野さんは新卒でリクルートに入社されたとのことですが、最初のキャリアにリクルートを選んだ理由は何だったのでしょうか。
 
 
僕は昔から『尊敬できる特定の誰か』を目標に置くことで頑張れるタイプだったので、“人材輩出企業”と呼ばれるほどロールモデルとなる人がたくさんいて、なおかつビジネスの経験をたくさん積めるということで、ほぼリクルート一本で就職活動をし、入社をできました。学生時代から、元リクルートの経営者たちに憧れていましたね。
 
 
―リクルートにご入社された後は順調に成果を出されたのですか。
 
 
いえ、入社して最初の半年は全くダメでした。学生時代から何事もそれなりに結果を出していたので、厳しい環境に置かれても自分はできる人間だと思っていました。

でもビジネスは大違い、全くうまくいきませんでした。当時は大阪で不動産領域の広告営業を行っていたのですが、会社に申し訳ないぐらい成果を出せない日々が続いていました。今思えば病んでいましたね(笑)。
 
そんなときに、苦しんでいる僕を見かねた担当役員がわざわざ休日に僕のために時間を取ってくれたんです。その役員と一対一で仕事に対するスタンス、人との関わり方など、色んなことを話しているうちに、すごく気持ちが楽になったことを、今でも鮮明に覚えています。

その面談がきっかけとなり、1ヶ月後には東京で事業展開を行う新規プロジェクトチームに配属されました。

そこから徐々に成果を出せるようになり、MVPをいただいたり、周りからも信頼されるようになってきたことで、少しずつ自分に自信が持てるようになりました。
上司や先輩たちにも恵まれ、仕事が楽しくなっていきました。
 
 

“人材輩出企業”たる理由を知るために、人事への異動を志願

 
 
―順風満帆な中で、自ら人事への異動願いを出されたとのことでしたが、その理由はなんだったのでしょうか。
 
 
もともとの入社理由でもあった、リクルートが“人材輩出企業”たる理由を知りたかったからです。
その根源を現場において身体で理解した上で、今度は自分がその仕組みを作り、再現できる人間になりたいという想いから、人事を希望しました。

たまたま分社化というイベントも相まって、組織としてカオスになっていたので人事の論点も多くありました。
 
 
―その後、人事としてどのようなキャリアを歩まれたのですか。
 
 
人事では、ゼネラルに人事業務を幅広く担当させてもらいつつ、新卒採用のリードを1年担当していたのですが、実はその後すぐに当時の事業本部長に「新規事業開発の部署に来ないか」という声がかかり、結局すぐに異動してしまいました。

せっかく希望通り人事になれたにも関わらず、また異動してしまっていいのか悩みましたが、新規事業にチャレンジできるというのもめったにない機会なので、最終的には引き受けさせていただきました。

結局、新規事業は明確な形にならなかったのですが、事業の立ち上げに数多く携わったり、社内のビシネスコンテストの事務局を担当することで、ビジネスに関する訓練を、毎日修行のように行うことができた貴重な期間でした。
 
 

人事への想いが捨てきれず、ほぼ人事未経験でユーザベースへ

 
 
―その後、アプリ開発を行っているベンチャーへ転職されたとのことですが、その理由はなんだったのでしょうか。
 
 
自分のキャリアを俯瞰してみたときに、「人事」以外で「営業」や「事業開発」「事業企画」における個で動く経験はしてきているのですが、組織をたばねる「マネジメント」や、そもそものものづくりに必要な「テクノロジー」という文脈がないことがひとつのネックでした。

当時起業をするか、より一つのキャリアを深めていくか色々悩みましたが、自分自身が何かをなすときに足りないと思う経験をまずは埋める期間がまだ必要と判断しました。

せっかくチャレンジするのであれば、それを外でやってみようと思い、リクルートを退職し転職を選びました。

転職先の会社ではIPOをあと数年という段階で、未経験だったアプリ開発事業を担当しました。
アプリ開発のプロジェクトマネジメントをひたすら担当し当時は大変でしたが、これもいい経験になりました。数億円のPLを責任者としてみて、メンバーマネジメントや事業運営で失敗もしながら、何とか事業を前進させていきました。

当初の目的だった「マネジメント」と「テクノロジー」についても修行することができ、自分なりに一通りのことが見渡せるようになった感覚はありました。
それでも、人事として事業に携わりたいという想いだけは、ずっと変わらずに持っていました。
 
 
―その後、ユーザベースに人事としてご入社され、その“想い”を叶えられたと思うのですが、きっかけはなんだったのでしょうか。
 
 
リクルートで新卒採用を行なっていた際に出会った学生がユーザベースで働いており、「今ユーザベースで新卒採用責任者を募集しているのですが、宇尾野さんどうですか?」と声をかけてもらったんです。

ユーザベースという会社は知っていたものの、どんな人が働いているかは全く知らなかったので、まずはカジュアルにお会いするところからスタートし、最終的には10名ほどの社員に会わせてもらいました。

経営陣を含め、魅力的な人ばかりだったので、結果的にユーザベースの魅力にひかれ、事業ど真ん中を離れて人事でリーダシップを発揮することに決めました。
 
 

“厳選採用”と“採用計画”を両立させる難しさ

 
 
―採用責任者として、まずどのようなことからとりかかられたのですか。
 
 
入社当時の僕のミッションは、急成長中のユーザベースにおいて、採用の質を落とさずにストレッチした採用計画を達成するというものでした。
ユーザベースはバリューフィット、ミッション共感をかなり大切にしている会社なので、超厳選採用と採用計画の両立というのは大変なものでした。

そんな中、僕には実務経験が圧倒的に足りていなかったので、エージェントや他社の人事に会いに行く、メンバーにやり方を教えてもらいながらスカウトを打ってみる…地道にやれることをやっていました。

周りのメンバーも僕の実務経験が多くないことを知っているので、「もっとこういう知識を増やした方がいい」「ここは苦手でもやり切ってください」というフィードバックをたくさんくれました。

そのような環境にいい意味でプレッシャーを感じつつも、やった方がいいと言われたことはとにかくひたすらやりました。

責任者なのに実務が分からない時期は本当に情けなかったですが、そんな時期があったからこそ、人事の方々の苦しさや楽しさも共感できることも多いと感じます。

特に新卒採用は、僕が入社したタイミングで大々的にスタートしたタイミングでもありました。
他業務もありながらも、多くの学生とお会いしました。「本当に新卒なのか」と思えるほど魅力的な学生とたくさんお会いできたことは、僕にとっても財産でした。

ただ、面接だけではお互いにわからないことも多く、価値観も実を伴って見えづらいので、互いを見極めるためにも弊社では原則半年間インターンとして働き、お互いに理解を深めた上で入社してもらうことにしています。
 
 

学生と話すときは、“メタ認知ができているかどうか”に着目する

 
 
―ユーザベースさんはかなり厳選した採用を行なっているという印象があります。採用活動を行う上で、特に重要視しているポイントはありますか。
 
 
『自律した個人であり』『人として誠実であること』を最も重要視しているので、“メタ認知できているかどうか”というのはよく見るようにしています。
自分が何をやりたいのか、何が得意なのか・苦手なのか、その理由はどこからきているのか。これらの自己認識をより高くしていくためにちゃんと内省できている人は、ハマる仕事に出会ったときの爆発力が大きい。

逆に、自分のことをなんとなくしか知らないままだと、なんとなく仕事をして、それなりの成果しか出せないんじゃないかと思います。昔の自分がそうであったように。
 
 
―営業、事業開発、プロダクト開発を経て、念願の人事になられた宇尾野さんが描く今後キャリアイメージを教えてください。
 
 
世界を変える人にとっての“テコ”でありたいと考えています。そのためにも自分自身の影響の輪を大きくしていきたいですし、多くの人の目の色を変えられる自分でいたい。

自分自身、リクルートで苦しんでいるときに手を差し伸べてくれた上司と出会ったことで、見える世界が大きく変わりました。そして未来もより明るくなりました。
そういうきっかけをあらゆる人に提供できるテコでありたいし、究極的に自分がいなくても飛躍のきっかけを提供し続けられる、そんな仕組みを作っていきたいです。
 
 

人事が「学生の自己開示を聞く」ことには責任がある

 
 
―最後に、これから採用に向き合う人へ伝えたいことは何でしょうか。
 
 
まずはとことん学生と向き合ってほしいです。向き合った分だけ、目の前の学生の変化や成長にも寄り添えますし、仮に会社と縁がなくても、個人として一生の縁に繋がります。

向き合う上で気をつけないといけないのは、自分の尺度で学生の魅力に正解・不正解をつけないこと。
人間は本来多様であり、人は必ずどこかの場所で映える魅力を持っているので、まずはそれを見つけてあげれるかどうか。

その上で、「その人の魅力が映える場所は本当に自社なのか?」という観点で考えることが大切です。
面接ばかりやり続けられると、どうしても自社都合で相手を観察しがちですが、人対人のコミュニケーション、もっと互いにとって意味ある形にしたいものです。
 
学生はわれわれ人事に、通常であれば人に話さないような深い部分についても自己開示してくれます。
われわれ人事はそれを聞くことの責任を理解し、たとえそのときは採用につながらなかったとしても、一生続く関係が築けるぐらい学生に向き合ってほしいです。

初めて新卒採用に関わったのは7,8年前のことですが、その時出会えた方々とは今でも飲みに行ったりもしますし、仕事を一緒にしている人もいます。

そして今の会社に出会えたきっかけも、新卒採用で出会った学生との縁です。
それくらい長い付き合いになる起点として、採用活動というものを捉えてみても面白いんじゃないかなと思ってます。