「一流になりたくない人は出ていってください」。創業者の強烈なメッセージに惹かれ、新卒でエン・ジャパンに入社した村田浩二さん。新規プロジェクトの営業責任者などを務めたのち、英語もままならないまま単身ベトナムへ。そこでの「ある経験」から、現地採用の難しさを痛感したといいます。新卒、中途問わず幅広い領域でグローバルに活躍されてきた村田さんの歩みについてお伺いしました。
 
 

GOKIGEN株式会社 代表取締役 村田浩二

大学卒業後、2004年にエン・ジャパン株式会社へ入社。新卒・中途・アルバイト・組織改善コンサルティング・人材紹介など、幅広い領域において最大100名超の責任者として成長を牽引。2008年には新規プロジェクトの立ち上げに営業責任者として参画。2013年、ベトナムで最大手の求人メディアを買収後赴任し、戦略的な営業管理・事業改善を行ない、既存事業だけでなく新規事業開発・立ち上げを担う。ベトナム国内の新規事業・APACでの新規事業開発を日本側と連携しながら進めていたが、2017年1月からはインドに赴任し、PMIを実施。2019年にFuture Focus Infotechを買収後、会長職を兼務。2021年にLIGにCHRO・COOとして参画と同時にGOKIGEN株式会社を創業。

「一流になりたくない人は出ていけ」。創業者の言葉に衝撃を受けた

―最初に、村田さんのルーツについて教えてください。
 
小学校から高校までは野球一色の学生生活を送っていました。中学校ではクラブチームに入り、高校には野球の特待生として進学することが決まっていたのですが、情け無いことに自分のミスで選考に参加できず…。

急遽受験勉強をはじめたものの、志望校には結局落ちてしまいました。みんなが普通に高校生になっていく中、自分だけが取り残されたような気持ちになり、とても大きな挫折感を味わいました。

結局、地元を離れて全寮制の高校に進学したのですが、スポーツ強豪校ということもあり、ものすごく体育会系の校風で。あまりにもルールが厳しく、何回か逃げ出したこともあるほどです(苦笑)。

でも、それ以来どんなにつらいことがあっても「あの頃よりはマシ」と思えるようになりました。甘えったれたこれまでのツケを払うことになってしまった経験でしたが、他の人よりも早い段階で大きな挫折をしておいて良かったなと思います。
 
―大学を卒業後、エン・ジャパンにご入社された経緯について教えてください。
 
就職活動時にはさまざまな会社の説明会に足を運びましたが、その中でもっとも衝撃を受けたのがエン・ジャパンでした。

当時は就職氷河期を抜けて少し景気が上向きになっていたこともあり、どの企業もアピールするのは給与や待遇のことばかりで。でも、当時の私はとにかく早く成長して、3年後には経営者になるんだという目標を持っていたので、そういった話には全く興味が沸かず…。

そんなときにエン・ジャパンの創業者が登壇する説明会に参加したときに、いきなり「一流になりたくない人は今すぐ出ていってください」と言われたんです。

あまりにも率直な言葉に面食らいましたが、「うちの仕事は厳しい。でも、プロになるために厳しい環境は必要だ」という言葉に衝撃を受け、3年で成長するためにはこの環境がベストだと思い、入社を決めました。
 

英語すら話せないまま、単身ベトナムへ

―人材サービスの営業責任者や新規事業立ち上げをご経験された後、ベトナムに拠点を移された経緯について教えてください。
 
もともとは3年で独立するつもりだったのですが、あれよあれよという間に10年経っていまして。

そろそろ別のフィールドに移ろうと思っていたときに、社長から「ベトナムですごい会社を買ったから、グローバルにチャレンジしてみないか」と声をかけていただいたんです。

そのときには転職先もすでに決まっていたのですが、大学時代に留学していた経験からいつかはグローバルな環境で仕事をしてみたいという想いがあったので、2013年に単身ベトナムへ渡りました。

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私が在籍していたのはナビゴスグループという人材領域で最大手の会社で、2013年にエン・ジャパンのグループ会社になったところでした。

明確なポジションもないまま、とりあえずベトナムに渡ったのですが、ベトナム語はもちろん英語すら話せない状態だったので、最初はなにもできませんでした。カンペを持って自己紹介したくらいです(笑)。

それでも、ベトナムにいる日本人経営者の方にアプローチをし、盛り上がっていたオフショア周りの案件を獲得し続け、1年後には自分の組織を持たせてもらえるようになりました。

組織をより成長させていくためには専門性の高いメンバーを集める必要があったのですが、現地の人事は採用経験が浅かったので、採用要件およびターゲット像の言語化、待遇調整、オンボーディング設計などをすべて事業サイドでやっていました。

当時は人事という肩書きではありませんでしたが、それに近しい経験をたくさん積むことができたと思います。
 

ベトナム、インドで痛感した現地採用の難しさ

―ベトナムでの採用を経験される中で、日本との違いを感じられたことはありますか。
 
ベトナムでは有名大学の卒業資格証や運転免許証、TOEICの証明書などが不正に入手出来てしまうので、候補者の方を100%は信用しづらい環境ではありました。

前提としては人柄もよく、勉強熱心な方が多いのですが、彼らも生き抜いていくために必死で就職活動をしているので、できないことをできると言ってしまうこともあるんです。

最初はそういう事情を知らなかったので、日本と同じように書類選考と面接を経てご入社いただいたのですが、1週間も経つと面接でお話しされていたことがほとんどできないことが発覚し…。

その方に対してどうこうというよりも、世の中の広さを知らしめられた経験でしたね。

それ以来、面接ではできるだけ候補者の方のこれまでの「詳細な仕事内容」と「意思決定の背景」を聞くようにしたので、ほとんどの嘘は見抜けるようになりました(笑)。

その方のお話からリアルな情景が浮かんでくるか、意思決定の方向性に違和感がないか、その意思決定の背景にあるものはなにか、を時系列に沿ってお聞きするようになってからは、少しずつ採用のミスマッチは減っていきました。

ナビゴスグループで取締役を経験後、インドの人材紹介会社であるNew Era India社(エン・ジャパン子会社)に移り、代表を務めました。

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当時、インドでは候補者へのキックバックや人事への賄賂などが横行していたので、事業運営の傍らでそういった癒着が起こらない仕組みを作ることに奔走しましたね。

また、従業員に対しても日本の賞賛文化とミッション・ビジョン・バリューの浸透、エン・ジャパンが掲げている入社後活躍に対するこだわり、自分たちが世の中に対してどんな価値を発揮していくべきかを伝え続けました。

日本では当たり前の価値観も国が変わればまったく違うものになるので、事業だけでなくカルチャーを作り上げていくという点でも苦労は多かったですね。

2019年には4000名のエンジニアを抱えるFuture Focus Infotechの買収に成功し、会長職も兼務しました。

 

LIGのCHROとして、“カオス”な状況に飛び込んだ

―インドから帰国後、CHROとしてLIGにご入社された経緯について教えてください。
 
コロナの影響でマーケットが一気に冷え込んでしまったことを機にインドから帰国したものの、やはりグローバルで勝負し続けたいという気持ちが強く…。

そのため、16年間お世話になったエン・ジャパンを卒業し、グローバルリソースを活用したDX 支援をおこなっているLIGに入社しました。

エン・ジャパンとLIGの社風は真逆で、組織や事業がこうあるべきだという枠がないことに入社当初は驚きましたし、デザイナーやエンジニアなど、クリエティブ思考の方が多い組織だったので、彼らの当たり前に使う言葉の大部分は理解できなかったんです。

なので、入社後はデザインやプログラミングの用語やツールについて勉強するところからはじまりました。

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私がLIGに参画したときは、事業の軸足をデザインからDX支援へと移しつつあるフェーズで、変革期の段階を迎えていたんです。

それに伴って会社としての新たなルールが作られつつあったのですが、創業時から在籍していた社員からの反発もあり…。会社のカルチャーはカオスな状況になっていました。

まずはそれを改善するべく、経営陣の考えをもとに評価制度を刷新し、ほとんど採用しかしていなかった人事からHRBP制への移行、人事制度の整備、海外子会社への繋ぎ込み、事業部と伴走しながら組織運営をおこなっていく仕組みづくりを進めていきました。

急速な事業成長に伴い、採用も強化をしていかなければならなかったのですが、やはりエンジニアの採用にはかなり苦戦しましたね。

まずは採用する側の体制を強化しなければならないと思い、採用のプロフェッショナルを集めてチームを作り、そこからは毎月コンスタントに採用ができるようになりました。
 

国籍や働く場所に関わらず、みんなが“ご機嫌”で働ける世の中に

現在は、2021年に創業したGOKIGEN株式会社において、主に社会性の高い事業を展開している企業向けに、人事コンサルティング事業を展開させて頂いています。

人材業界や人事としての経験を活かして、シリーズA〜Bの急成長中の企業で、人事部門の立ち上げや評価制度の策定、採用戦略の策定などのアドバイザリーをおこない、事業成長に貢献できればと考えています。

テクノロジーがどれだけ発展したとしても、結局それらを使うのは人。だからこそ、国籍や働く場所に関わらず、みんなが“ご機嫌”で働ける世の中にしていきたいと思い、 世の中の全ての人をGOKIGENにすべく日々活動に取り組んでいます。
 
―最後に、これから採用に向き合う方へのメッセージをお願いします。
 
広い視野を持って採用をおこなう方がもっと増えれば嬉しいです。一歩海外に出てみると、日本の採用は国籍や性別、学歴などの情報にひっぱられやすいように思います。

これからはそれを凌駕した採用をおこなっていかなければいけない時代がやってきますし、それは国際競争力を高めるうえでもすごく大切なことです。

どういう志を持って、どういうことに取り組んできたのか。その観点から多様な人々が活躍できる環境を一緒に作っていきましょう。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵