「自分の未来を想像してもワクワクしない」。そう思ったことをきっかけに新卒で入社した会社を退職し、2009年に人事としてソニーグループに中途入社した浅井 孝和さん。グループ会社や本社で経験を積んだのち、国際人事として念願だった海外赴任を経験。しかし最初の頃は「気概が空回りして、失敗の連続だった」と当時を振り返る。
帰国後の2019年からは、新卒採用担当および新規事業系組織のHRBPを務める。「学生には真のソニーの姿を知ってもらいたい」と語る浅井さんに、採用におけるカルチャーフィットの重要性についてお話を伺った。
 
 

ソニーグループ株式会社 採用部2課 (新卒採用担当) 統括課長 浅井孝和

2002年に新卒で大手電機メーカーグループの商社に入社し、人事部門へ配属。新人事制度導入、国際人事、米国(シカゴ)駐在などを経験後、2009年1月にソニー株式会社(当時、現ソニーグループ株式会社)に入社。国内販売会社でHRBP、本社で国際人事を担当後、2015年8月より米国(サンディエゴ)に駐在。2019年4月より現職(新卒採用担当および新規事業系組織のHRBP)。

海外で働きたい。新卒で商社に入社したものの、配属はまさかの人事

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―浅井さんは中途でソニーにご入社されたとのことですが、そこに至るまでの経緯について教えてください。
 
 
私は日本生まれですが、両親が台湾出身で、親戚が日本にいないこともあって、幼いころから頻繁に台湾に帰省していました。日本で育ちながらも日本以外の世界がごく身近にある環境で育ちました。

その影響から「自分も将来は海外で働くのかな」と自然に思うようになり、就職活動では主に商社を志望していました。

しかし残念ながら、本命だった総合商社2社には最終面接で落ちてしまい、その後大手日系電機メーカーのグループ会社である商社に内定をもらいました。この会社は商社機能を持ちながらも、半導体製造装置のメーカーの顔も持ち、海外に行ける可能性が高い企業ということで、内定が決まったときは嬉しかったです。

そのような経緯で入社を決めたので、私としては当然、海外に携わる部門への配属を希望していたのですが、実際に配属されたのは人事部門でした。

自分の希望とは異なる配属でしたが、当時の人事部長が非常に魅力的な方で、きっと学生の自分では理解出来ていない自身の適性を見出してくれているのだろうと考え、受け入れました。
 
 

「何故この人は会議中に眠ってるんだ?」。日本人特有のローカルサインが思わぬハレーションを生むことも

 
 
―入社後は人事としてどのような業務に携わられていたのですか。
 
 
HRBPと人事企画としての役割を任されていましたが、入社直後は少々とまどいもありました。今は違うと思いますが、当時は昔ながらの文化・働き方が残っている部分があり、会議書類にハンコを押すだけで深夜まで残業をしたこともありました…(苦笑)。

その後、新人事制度設計に携わり、3年目からは海外業務研修制度で米国・シカゴへ赴任しました。

シカゴ赴任中に取り組んだことの1つは“Cross Cultural Training”というもので、日本人社員と現地社員の間にコミュニケーション上の齟齬が起きないよう、現地社員には日本文化を学ぶ研修を、日本人社員には米国文化を学ぶ研修を企画しました。

例えば日本人の中には、考えごとをするときに腕を組んで目を瞑る人がいますよね。現地社員からすると、「何故この人は会議中に眠ってるんだ?」と誤解してしまうことがあります。冗談のように聞こえるかも知れませんが、本当にこういう反応、あります(笑)。

でも実はこの仕草は「あなたが言ったことに対して、真剣に考えてくれているgood sign」。といったことを研修内で共有すると「なるほど!」となるんです。

文化的バックグラウンド、母国言語が異なる人同士が円滑なコミュニケーションをする上では、このようにお互いを理解し合い、歩み寄ることが凄く大事だと実感しました。
 
 

PLANが60点でもDOしてみよう!という米国のカルチャーに驚いた

 
 
―海外で人事として働く中で、日本との違いを感じたことなどはありますか。
 
 
もっとも印象的だったのは、PLANとDOに費やす期間の違いです。

当時、日本での業務経験から、私はじっくりと時間をかけて、誰からも突っ込まれないような100点に近いPLANを練り上げ、短い期間でDOを行うというのが一般的な仕事の進め方だと思っていました。

しかし米国で働いてみるとその逆で、PLANが60点でもまずはDO してみて、適宜、軌道修正しながら前に進めるというものでした。今では日本企業においてもagileにスピード感を持って進めるというのは、至極当たり前の考え方ですが、当時の私にとっては、仕事の進め方がこうも異なるかと驚いたものでした。

この他にも様々な違いを感じることはありましたが、私は世の中をフラットに見るような傾向があって、物事に正解は必ずしも1つではないと思っているところがあり、あまり先入観なく現地のやり方に馴染むことができたように思います。
 
 

自分の未来を想像してもワクワクしない。スピード感とフラットな組織に惹かれ、ソニーへ転職

 
 
―帰国後はどのような業務に携わられたのですか。
 
 
海外での経験を生かし、海外赴任者の人事制度設計に携わっていました。しかし、グループ全体の規模が大きすぎて、変えたいと思う制度があってもそれを変えられないもどかしさを感じていました。

そのまま経験を積んでいけば、もしかするとそれなりのポジションに就くこともできたのかもしれませんが、その未来を想像してもワクワクしていない自分に気づき、転職を決意しました。
 
 
―次の活躍の場としてソニーを選ばれた理由について教えてください。
 
 
決め手となったのは、選考時に感じた意思決定の速さとフラットな人間関係でした。他の企業も受けていたのですが、物事をどんどん前に進めたい自分に合っている=カルチャーフィットするのはソニーだと感じました。

ソニーに入社して最初の3年は、ソニーマーケティングという国内の販売会社で人事としてリーマンショック後の構造改革に携わりました。

当時のソニーは業績的になかなか厳しい局面にあって、人事担当として経営陣と共に痛みを伴うような改革を進める必要があり、精神的にハードな局面もありました。

また同時に、そのような仕事を進める中でも、さまざまな社員との面談などを通じて、ソニーがいかに社員から愛されているのかを知り、身の引き締まる思いでした。
 
 

国際人事として念願の海外赴任。気概が空回りし、最初は失敗の連続だった

 
 
―その後、本社の国際人事部を経て米国に赴任されたとのことですが、それは浅井さんのご希望だったのですか。
 
 
そうです。ソニーでは「自分のキャリアは自分で作る」という言葉があって、社員のキャリアの自主性を大切にしています。私も日ごろから上司には海外で働きたいという希望を伝えていました。

本社の国際人事部で3年間勤務後、米国・サンディエゴに4年ほど赴任しました。
ソニーは日本よりも海外での売り上げ比率が高く、グローバルに様々な事業を展開しています。社員が国・地域を超えて異動することは日常的に行われており、社員とそのご家族にとって、働きやすい仕事環境・暮らしやすい生活環境をいかに作れるかというのは会社としてとても重要な事です。
 
 

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私はInternational Human Resources (IHR)の責任者として、主に米国に赴任する社員・米国から別の国・地域へ赴任する社員のサポート(処遇・異動・税金・ビザ・住宅・教育など)を担当していました。

前職ではtrainee(研修生)という立場での赴任でしたので、今回は自分のvalueをもっと発揮するぞ!と赴任当初から息巻いていましたが、それが裏目に出てしまい、最初は失敗続きでした。

米国ではポジション毎にjob descriptionが明確に定められており、1枚のピザを切り分けるようにそれぞれの役割りがきっちりと分かれています。当時も頭ではそれを理解していたつもりでしたが、私は成果を上げようと鼻息が荒い状態でして…他の社員のピザ(=仕事)を食べてしまったんです。

すると、すぐにその社員の上司に呼び出され、「あなたがいなければ、私の部下はもっとエキサイティングな仕事をできている」と口調そのものは緩やかではあったのですが、何度も何度も明確に、大変厳しい指摘をされ、肝を冷やしました。
 
 

新卒採用人事になってはじめて、真のソニーを知らない人の多さに気づいた

 
 
その後4年間米国で国際人事としての経験を積んだ後、日本へ帰国し、新卒採用担当の責任者として仕事をすることになりました。
 
 
―初めて新卒採用をご経験され、どのような所感を持たれましたか。
 
 
大変ありがたいことにソニーという社名を知ってくださっている方は多くいらっしゃるのですが、ソニーの社風、社員の雰囲気などといったカルチャーなどの面についてはまだまだ知らない方が多いことを実感しています。典型的な日系大企業という堅いイメージを持っている方も多いようです。

私は、ソニーはむしろその対極にポジショニングしていると感じていましたので、学生の皆さんからそういったフィードバックをもらうたびに驚いたものでした。ただ、結局のところ我々が伝え切れていないだけなんだと気づきました。

従来のやり方に縛られず、今後も飾らないありのままのソニーをしっかりと発信していきたいと思っています。
 
 

学生と企業がお互いにカルチャーフィットする採用を行うことがすべて

 
 
―新卒採用のチーム運営を行う上で意識されている点はありますか。
 
 
メンバーが自由に自分のやりたいように仕事をしてもらうことを一番意識しています。「やらされ仕事」が一番つまらないですからね。もちろん、軌道修正をすることはありますが、メンバーがパッションを注げるように仕事を任せ、その障害となるものを取り除くことが私の役割だと思っています。

また、現在は新卒採用責任者と新規事業系の組織のHRBP(Human Resources Business Partner)を兼任しているので、現場の人事を経験したことがないメンバーに現場感を共有し、新卒採用と現場を兼任しているが故の相乗効果をうまく出していきたいと思っています。
 
 
―最後に、これから採用に向き合う人へのメッセージをお願いします。
 
 
学生と企業がお互いにカルチャーフィットする採用を行うことが大事だと思っています。短期的にお見合いが成立したとしても、根っこでカルチャーフィットしていなければ、長期的に見ると、お互いハッピーエンディングにはならないのではないかなと。

学生にとってのカルチャーフィットは、会社説明会、OB/OG訪問、インターン、面接、会社のウェブサイトなど企業との様々な接点で感じ取るイメージが今まで生きてきた自分の価値観と照らし合わせフィットするかどうか。就職活動を始めた当初は、もしかすると、かなりモヤっとした感触かも知れません。そのモヤっとしたものを徐々にはっきりとした形として捉えられるようにすることが就職活動そのものの意義だと思っています。

企業としては、オンライン化が進んでいる現在であっても、企業の生の情報、ありのままの姿を様々なチャネルを通じて、しっかりと学生に伝え続けることが大切です。

学生、企業にとってイレギュラーな中で就職活動を進める状況が長く続いていますが、私を含めすべての人事が就職活動の“あるべき姿”を追求し、日本の就職活動をもっと良い方向に変えていければと思います。