大学時代の悔しい経験をきっかけに、新卒でD2Cに入社、人事としてのキャリアを歩み始めた三浦孝文さん。採用活動のかたわら、「Venture’s Live」や「人事ごった煮会」など、他社人事との合同イベントや勉強会の立ち上げにも携わる。人事として豊富な経験を積んできた三浦さんだが、現在在籍するオイシックス・ラ・大地では「人事の目線で仕事をするな」という厳しい言葉をかけられたこともあるという。現在は経営企画部の部長として新たなキャリアを歩み始めた三浦さんの人事経験を振り返りながら、これから採用に向き合う人へ伝えたいメッセージについて伺った。
 
 

オイシックス・ラ・大地株式会社 経営企画本部 経営企画部 部長
三浦孝文

2010年に新卒で株式会社D2Cに入社。新卒で人事部に配属となり、中途採用、新卒採用を経験後、メディア事業部に異動。その後、クックパッド株式会社に転職し、採用全般、制度企画に携わる。2017年、オイシックスに採用責任者として入社。2019年10月より、人材企画室の室長として、採用全般や入社後のオンボーディング、社員の働きがいに向けた制度企画などに携わる。2021年4月から現職。

大学最後の全国大会でまさかのミス、組織運営の難しさを痛感

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―三浦さんは新卒でD2Cに人事としてご入社されたとのことですが、新卒から人事というキャリアを選んだ背景について教えてください。
 
 
キャリア選びのルーツになったのは、高校・大学時代のカヌー部での経験です。
私は高校から大学までずっとカヌーに打ち込んでいて、大学ではチームを運営する主務という役割を担っていました。全国大会優勝を目指すほどの強豪チームだったこともあり、いつも「どうすれば勝てるのか」ということだけを考え、チームを運営していました。

勝ちを目指す上で不要だと思うことや変化が必要なことがあれば、伝統的に続いていることでもすっぱりやめてしまうような方針をとっていたので、OB・OGから指摘をもらうこともありましたが…。でもそれぐらい勝ちにこだわっていました。
 
それだけ勝ちにこだわっていたにも関わらず、関西大会で創部初の男女でのチーム優勝を成し遂げた次の全国大会で、幹部学年だった自分たちの世代の気の緩みで起こったルール違反によって、得点が大幅になくなってしまうというハプニングが起こりました。

それまでずっとみんなで全国優勝を目指して練習をしてきたので、それが一個人のミスだとは思えませんでした。
この経験から、組織というのは競技の強さだけで勝てるものではないんだということを学び、組織運営の難しさを感じました。
 
そしてこの経験が組織運営を行う上で何かの役に立つのではないかと思い、D2C入社時に選択肢の一つであった人事部への配属を希望しました。
 
 

意識したのは、“学生のいいところ”と“会社が向かう先”の重なり

 
 
―D2C入社後、人事としてどのようなお仕事をされていたのですか。
 
 
最初の数ヶ月は中途採用の担当として、エージェントとのやり取りや面接に同席し、議事録をひたすらとっていました。

入社したばかりで会社や事業の理解がまだ十分でなかった私にとって、社長や事業責任者、自分より社会人経験のある求職者の話を聞けるというのはとても貴重な経験でした。会社や事業への理解が深まりましたし、候補者にアピールするポイントや方法なども学ばせてもらいました。

この経験のおかげで、その後に新卒採用担当として自分が学生と向き合う立場になった際にも、会社や事業のことをスムーズに話すことができました。
 
 
―学生と話す上で意識されていたことはありますか。
 
 
学生のいいところを引き出せるように、こちらも楽しんで話を聞くようにしていました。
私は就職活動をとにかく早く終わらせてカヌーに時間を割きたいと思っているような学生だったので、面接で出会う学生たちは自分よりもはるかにちゃんとしているなという印象でした。

そういう学生たちの話を聞いて、本人も気づいていなかったような魅力を引き出していくというのはとても面白かったです。
そしてその学生が持ついいところと、今後自社が向かっていく先が重なり、自社で活躍を生み出せるのかというところをよく考えるようにしていました。
 
同時期に、勉強会で知り合った他社の若手人事と有志で集まり、「Venture’s Live」という学生向けの合同イベントを企画運営したこともありました。
若手が各社での仕事が終わった後に集まって、イベント企画について夜遅くまで話していたこともよくありました。
大変なことも沢山ありましたが、濃い時間を共有できたメンバーとは今でも仲良くさせてもらっています。
 
 

「本当にいいサービスってなんだろう」という思いから、クックパッドへ

 
 
―その後、クックパッドへ人事として参画された経緯について教えていただけますか。
 
 
D2Cに入社して4年目のタイミングでメディア事業部に異動し、代理店に常駐しメディア広告の企画・出稿に携わるようになりました。
しかし、毎日膨大な数の広告に触れているうちに、「本当にいいサービスってなんだろう」と考えるようになりました。
 
ちょうどその頃にお世話になった人事の方からクックパッドに人事として来ないかと誘われ、話をする機会をもらいました。
クックパッドというサービス自体は当時から有名でしたが、話を聞き、改めて世の中にとって価値のあるサービスだと思ったので、クックパッドに参画することに決めました。
 
クックパッドでは新卒・中途採用ともに担当しましたが、正直に言うと、当時の自分がクックパッドに何かしら付加価値を提供できたとは思っていません。
むしろ周りの人から学ばせていただいたことばかりで、それを返しきれないまま、会社の経営体制が大きく変化する中で最終的には辞める決断をすることになってしまったなという思いが強いです。
 
 

過去の成功体験を引きずり、会社に目を向けていなかった

 
 
―ご自身の価値が提供できなかった理由はどこにあったとお考えですか。
 
 
過去の成功体験を引きずってしまったことが一番の原因だと思います。
D2Cとクックパッドは違う会社なのに、前職での採用のやり方をそのまま型にはめようとしていました。上手くいかなくて当然ですよね。
 
そんなとき、人事部の同僚から「三浦さんの考えていることがわかりません」と言われてしまったことがありました。
本当に私が考えていることがわからないというよりも、「いい加減考え方を変えてください」というその方なりのメッセージだったと思います。

それをきっかけに少しずつ周りとの関係性も変わっていき、入社時に比べると出来ることも増えました。
 
その後、経営体制の大きな変化に伴い、2年半ほどでクックパッドを去ることになりましたが、空回りしていた自分に対してきちんと厳しいことを言ってくれた周りの方々には感謝しかないです。
 
 

シャワーのようにノウハウや情報を浴びても、結局何も変わらない

 
 
―同時期の2016年に「人事ごった煮会」という人事コミュニティーを立ち上げられたことにはどのような狙いがあったのでしょうか。
 
 
社外で開催されている人事向け勉強会やセミナーに何度か参加したことがあったのですが、自分の悩みや課題を打ち明けないままシャワーのように一方的にノウハウや情報を浴びても、結局のところ何も変わりませんでした。それは個人の問題だけでなく、勉強会やセミナーそのものの構造に問題があると思ったことがきっかけでした。
 
成功している会社の人事から一方的に話を聞くのではなく、お互いのもっている課題やそこに対する取り組みを打ち明けて議論できるような場があれば、自社に持ち帰れるものがもっと増えるのではないかと思い、人事ごった煮会を立ち上げました。
 
そのため、この会では参加者全員に必ずアウトプットをしてもらうというルールを決め、みんなが議論に参加して、みんなが主体的に考えるということを大切にしていました。
 
 

自然相手で常に変化が求められるビジネスだからこそ、オイシックス・ラ・大地の達成意欲は高かった

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―クックパッドを退職後、次のフィールドとしてオイシックス・ラ・大地(入社時はオイシックス)を選ばれた理由について教えてください。
 
 
「いいサービスってなんだろう」と再び考えた時に、自分にとっては日々の食卓という生活を支えるインフラ領域で、お客さまにオイシックスなりの価値提案をサービスとして提供しようと試行錯誤している姿勢が魅力的でした。

また、それまで自分は無形商材しか扱ったことがなかったこともあり、在庫を抱えるというビジネスにも興味がわき、採用チームのマネージャーとして入社しました。
 
当社は扱っている生鮮食品へのこだわりはもちろん、生鮮ならではの長い間在庫に出来ないという観点からも、売りに対する達成意欲が高く、ピンチがあれば全社員でどうにかするという文化が当たり前に根付いていました。

実際にコロナ禍での需要が高まりによって人材が不足したときには、私含め社員が助っ人として即センターに行き、パートさんと一緒に野菜の袋詰めを行なったこともあります。こういったことはめずらしいことではなく、多くの社員が当たり前のように経験しています。
 
 

「人事の目線で仕事をするな」という厳しい言葉に込められた想い

 
 
―採用の場面でも他の会社と違いを感じることはありましたか。
 
 
今まで以上に「この施策は本来解くべき問題にとって、どれだけの価値があるのか」ということを考えるようになりました。
一部の機能として採用を行うのではなく、会社の全体感を見ながら本来解くべき問題を常に意識し、採用することを求められるようになったからです。

実際、私が採用のことだけを考えているような発言をすると、代表の高島はじめ、経営陣からは「人事の目線で仕事をするな」と喝を入れられます。
 
特に印象的だったのは、昨年コロナ禍の中で4月入社の新入社員を受け入れる際、代表含め各部門の責任者がいる会議の場で、新入社員をオンラインを軸に受け入れるオンボーディングプランついて説明を行った時のことです。

今でも鮮明に思い出せるのですが、会議が終わった後に代表の高島から入社して以来、記憶にないくらい厳しいフィードバックをもらいました。

あとで振り返ると、コロナによって世の中も社内の状況もこれだけ大きく変化している中で、一番に考えるべきは食のインフラ企業としてお客さまの食卓に変わらずサービスをお届けすべく奮闘する現場社員が、負担なく自業務に集中できる環境をつくる為に、どう事業を継続できる体制を支援するかで、どう新入社員を受け入れてもらうかではなかったと気づきました。
 
現場のことを何も考えていないプランの説明なんかするな、というのが高島のメッセージだったと思います。
まさに先ほどの「人事の目線で仕事をするな」ということですね。
 
過去、高島からは「採用においても大事なのは、新入社員が入社してどのように活躍し、どのように事業に貢献し、既存社員が新たにどのようなチャレンジが出来るようになったかだ」と、フィードバックをもらったことがあります。採用をやる上で、とても大切なことだと思います。
 
厳しいことを言われることもありますが、本質的なことに気づかせてもらえ、チャレンジできる環境がとてもありがたいです。
 
今年の4月からは経営企画に異動し、今まで以上のスピードで会社が成長し、お客さまへ価値提供をし続けられるよう、組織の実行力を上げることをミッションに従事しています。

入社当時は200人規模だった組織も現在では900人を超えます。
売上も200憶程度だったものが1000億を突破しましたが、きっとこれから2000億、3000億とその先の成長に向け、様々な壁にぶち当たるはずです。
それを乗り越えられるような組織を作っていきたいと思っています。
 
 

仕事は「How」の連続。でもそれにとらわれて採用の価値を見失ってはいけない

 
 
―最後に、これから採用に向き合う人へ伝えたいことは何でしょうか。
 
 
まずは経営や事業責任者から求められている採用による期待効果や採用した後の価値をクリアにすること。
採用を通じて、事業が変わることでお客さまにどういう価値を提供出来るのか。結果として、会社組織はどう変わるのかを考えた上で、やりきる挑戦をし続けることが大切だと思います。
 
私が考える採用において大切なことは、採用計画の達成だけでなく、それによって会社がどのように変わって、顧客にどのように喜んでもらえるかというところまでを含みます。

普段自分たちがしていることは「How」に向きやすく、その連続なので、どうしても目的を見失いやすいですが、今やっていることがどのような価値に紐づいているのか、どのような課題を解くものなのかを意識し続けることが大切だと思います。
 
いま所属する経営企画のチームでも、それを忘れてしまわないように1年後の達成時を見据えたプレスリリースを書きました。
そこに書いてあることを1年後必ず実現し、実際のプレスリリースとして公開できる成果に繋げられるよう、常に見えるところに保存しています。
 
色々な情報が目に入ってくる世の中なので、隣の芝生が青く見えることもあると思いますが、結局は自分がやりきれるかどうか。
自社において採用に求められる価値をクリアにし、見失わずにまい進していけたら良いですね。