近年、多くの企業において副業をはじめとした社員の「課外活動」が推奨されるようになりました。それは社員の課外活動を支援する側の人事においても例外ではなく、本業以外の場所で「人・組織」を軸にした活動をおこなう方が増えています。本連載では、そんな課外活動に挑戦している人事の方にインタビューし、課外活動をはじめたきっかけやその内容、本業との課外活動の関わり方などについてお話を伺います。

第9回目はCMや舞台を中心にモデル・俳優としても活躍されているフリービットの人事部長・丹野裕文さんをゲストにお招きし、芸能活動をはじめたきっかけや、”芸能人事”として二足の草鞋を履くようになるまでの道のりについてお伺いしました。
 
 

丹野 裕文 フリービット株式会社 人事部長

大学卒業後、小売業から映画会社へ入社。店舗運営を務めたのち、芸能活動を目指して俳優育成スクールへ入学。卒業後は芸能活動を続けながら、ディップ株式会社にて人事マネージャーを務め、2022年9月より現職。

映画会社を退職し、一念発起で俳優養成スクールへ

 
―課外活動をはじめた時期ときっかけについて教えてください。
 
もともと映画やドラマを観ることが好きで、大学時代から芸能活動に憧れを抱いていました。

しかし、当時は競泳選手として国体や日本選手権、ワールドカップなどに出場していたので、なかなかチャレンジする機会がなく…。

それでもエンターテイメントの仕事に携わりたいという気持ちは変わらなかったので、大学卒業後は大きなテーマパークを持つ映画会社へ入社し、販売店のスタッフ採用や教育をおこない経験を積んでいきました。

最初は映画業界に入れば「芸能活動をやりたい」という気持ちも満たされるだろうと考えていたのですが、芸能を本職としている方々から刺激を受けることで、「自分はこのまま芸能活動を諦めてしまっていいのだろうか」と思うようになり…。

そこで一念発起して会社を辞め、芸能プロダクションが運営する俳優養成スクールへ入学したことが課外活動への第一歩になりました。
 

スクールを卒業後、“芸能人事”としての道を歩きはじめる

 
―現在おこなっている課外活動の内容について、具体的に教えてください。
 
現在はフリービットで人事責任者を務める傍ら、CMや舞台を中心にモデル業・俳優業をおこなっています。撮影がある日は朝早くに勤務を開始し、撮影が終わったらまたオフィスに戻って仕事をする…というスタイルで活動を続けています。

俳優養成スクールを卒業後、芸能活動を続けつつ映画会社での人事マネージャー経験を活かした仕事がしたいなと思っていたのですが、両立に理解を示してくださる企業がなかなかおらず…。

その中で「いいじゃん!どんどんやりなよ!」と言ってくれたのが、前職のディップと現職のフリービットでした。

ディップで人事を務めていた時代は芸能事務所に所属しながらオーディションを受けていたのですが、大抵の場合は突然スケジュールが入ることが多く…。また、舞台の仕事があるときには稽古の合間に出社するという働き方をしていたのですが、それでも私の活動に理解を示し、裁量権の大きい仕事を任せてもらえたのは本当にありがたかったですね。

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不規則な働き方を前提としていたので、当初は契約社員としてスタートしたのですが、最終的には人事マネージャーまで任せていただきました。

しかし、コロナ禍で芸能活動が制限されるようになったことをきっかけに、一度人事の仕事に軸足を置こうと思い、さらなるスキルアップを目指してフリービットへ転職しました。

フリービットには今年の9月に転職したばかりなので、現在は芸能活動を一部セーブしていますが、代表の石田も「芸能活動を通じて文化を自ら発信することは大切だし、人事が多様な働き方を体現することは企業にとっても価値がある。」と活動を応援してくれています。
 

芸能の世界は独特。だからこそ、“帰れる場所”が必要だった

 
―課外活動を通じて得られた収穫と課題について教えてください。
 
一番の収穫は、本業と課外活動は補い合う関係なのだと気づけたことですね。

やはり芸能の世界は独特なので、ビジネス的な意見交換や論理が通用しないことも多々あり、そういうときはストレスを抱えがちです。そんなときに人事の仕事に戻るとホッとしますし、「自分には帰る場所がある」という安心感が得られます。

逆に人事をしているとさまざまなタイプの方とお話しすることが多いので、「こういう価値観があるんだ」という気づきは役作りにも活きています。

課題については個人というよりも人事としての観点なのですが、私のような多様な働き方を誰もができる環境をもっと作っていかなければと感じます。

私はプライベートと仕事の線引きがあまりなく、休みの日も関係なく働いていることが多いのですが、もちろんそうではない人もいるので、誰もが本業と課外活動を両立できるような制度を整えていきたいですね。
 

表面的に演じても見抜かれてしまうのは、人事も俳優業も同じ

 
―課外活動をおこなう前と後で変わったことはなんですか。
 
本業への向き合い方には大きな変化があったと感じます。

本業では課題の発見から打ち手を見つけるまで数日の猶予はありますが、俳優として演技のダメ出しをされたときにはその場ですぐに考え、改善しなければいけません。本業においても「短期間でいかに成果を出すか」というところに目を向けられるようになったのは、大きな変化だと思います。

また、「心から思ったことだけが相手に伝わる」という点において、演技と面接は似ているように思います。表面的に演じようとしても結局は見抜かれてしまうので、まずは相手を知り、そのうえで自分が心から思ったことを伝えるようにしています。

“芸能人事”を名乗ると「面接でも演技をしているのでは?」と思われるかもしれませんが、演技を学べば学ぶほど、心から相手に興味を持ち、共感することの大切さを実感するようになりました。

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―最後に、課外活動を踏まえてこれから描いていきたいキャリアや展望について教えてください。
 
人事としては、採用だけでなく制度設計や労務などの経験を積み、5年以内には本部長として経営層と一緒に人事戦略を描けるようになっていきたいです。

以前は自身のキャリアについて漠然と考えていたのですが、芸能活動をはじめてからは「いつまでにこれを実現する」というセルフマネジメント力が身につきました。

俳優としても今後さらに経験を積み、人の心を動かし、豊かにするような作品に参加できれば嬉しいです。そして、ゆくゆくはこれらの経験を糧として、ITと芸能をうまくつなげるような事業作りをおこなっていきたいです。

ディップやフリービットのように、周りの人たちが課外活動を応援してくださったおかげで今の自分があるので、課外活動で得られた経験を企業や社会に還元していくことが長期的な目標です。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵