近年、多くの企業において副業をはじめとした社員の「課外活動」が推奨されるようになりました。それは社員の課外活動を支援する側の人事においても例外ではなく、本業以外の場所で「人・組織」を軸にした活動をおこなう方が増えています。本連載では、そんな課外活動に挑戦している人事の方にインタビューし、課外活動をはじめたきっかけやその内容、本業との課外活動の関わり方などについてお話を伺います。

第8回目はレノバの執行役員CHRO・永島寛之さんをゲストにお招きし、課外活動として外部発信と他社人事へのアドバイザリーをはじめたきっかけとその想い、そして今後チャレンジしていきたいことについてお伺いしました。
 
 

永島 寛之 株式会社レノバ 執行役員 CHRO

大学にてマーケティングを学んだのち、東レおよびソニーにて海外事業の新規市場開拓に従事。米国駐在を経て、ニトリホールディングスに入社し、組織・人事責任者として、タレントマネジメントの観点から、採用、育成、人事制度改革を指揮。レノバ参画後は、CHROとして中長期の事業戦略と連動した組織・人材戦略の立案と人事施策実行を担い、世界のエネルギー変革のリーダー(グリーン人材)の育成に注力している。

社内にいるだけでは、非連続な成長を描けないと気づいた

 
―課外活動をはじめた時期ときっかけについて教えてください。
 
私の場合、意図的に課外活動をはじめたというよりは徐々に活動の幅が社外にも広がっていったという感覚です。

2014年に人事の業務を担当することになったのが、課外活動を開始するきっかけになったと思います。人事担当者になるまでの私は、目の前の業務を100%以上遂行することだけを考えており、そのために必要な人たちと必要な分しか関わりを持っていませんでした。

その後人事になって10年後・20年後にニトリを『非連続な成長』へと導くことを求められるようになったときに、周囲の人々と今の景色を見ているだけではその答えは浮かばないと気づいたんです。

人事になる前はマーケティング領域に身を置いていたのですが、そこではスキルを磨き、深めていれば成果が出るという仕組みの中で仕事をしていました。しかし人事の場合は、自分や会社の中に答えがないということもザラにあります。

そのためには自社の他部署や社外の方々と関わりを持つ必要があると感じ、外に出ていろいろな人と交流を持ち、そこから自分たちの課題を発見したり、解決策を考えたりするようになっていきました。

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人事になる前はプロジェクトベースでの仕事が多かったので、それが終わるとつながりも途切れてしまいがちだったのですが、人事になってからは他社の方と交換した名刺が5000枚以上に増えました。

名刺の数がすべてではありませんが、この7年間でどのくらい世界が広がったのかがよくわかります。
 

“カリスマ感”を演出することは、結局誰のためにもならない

 
―現在おこなっている課外活動の内容について、具体的に教えてください。
 
先ほどもお話しした通り、最初は社外の方のお話を聞くところからスタートしたのですが、徐々に自分でも発信を行うようになり、今はセミナーなどへの登壇と、あとは人事の方からの個別でのご相談があればお受けするようにしています。

お金をいただいてコンサルをするわけではないので、お悩みに対して明確な答えは出せないのですが、そもそも課題感が健全かどうかぐらいはわかるので、「パシっという答えは出せないですよ」という前提でお話をしています。

例えば「HR Techってどう使いこなせばいいですか?」というご相談をいただいたときには、「そもそもそこじゃないですよね」というところからはじめて、本当に解決したい課題はどこにあるのかを一緒に考えます。

私もつい具体策から入ってしまってそれを他の人にご指摘いただくこともあるので、相手に向けて話をしながら「これは自分にも言えることだよな」と気づくことも多々あります。

また、セミナーなどに登壇するときには、毎回同じことを話すのではなく、自分が日々悩み、気づいたことを都度盛り込むようにしています。

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ステージに立つときは成功事例を求められがちですし、そこにフォーカスが当てられがちですが、実際は自分の仕事が100%うまくいっているということはほぼありません。なにかを解決すれば、また新たな課題が生まれていくのが普通ですからね。

しかし、セミナーなどでチャレンジから実現までの過程を整理してプレゼンをすると、あたかも『黄金のリレー』ができたかのように見えてしまう。でも、それは誰のためにもならないなと思って途中からやめました。

カッコイイ成功例をズバッと!話す方が一定のカリスマ講師感はでるのですが、自分自身もあたかも自分が成功者のように勘違いしてしまいますし、聞いている人も「それを真似すればいいのか」と思ってしまう。

また、自社のメンバーがそれを見て現状とのずれを感じてしまってもいけないので、今は自分の経験や気づきを等身大でお話しするように心がけています。
 

「他者がどんな問いと格闘しているのか」を知りたい

 
―課外活動を通じて得られた気づきや、難しいと感じることを教えてください。
 
「他者がどんな問いと格闘しているのか」を知ること自体に、課外活動の意義があるのだと感じています。また、その問いについて自分も一緒に考え、その過程で得た気づきや学びを本業へと還元することに価値を感じています。

今の私の目的はあくまでも「再生エネルギーを世界中で作り続けられる組織を作る」ことにあるので、課外活動による収穫はあっても課外活動に課題を感じることは特にありません。個人的な考えとしては、課外活動をしなくても本業の課題ができるのであれば、無理にやる必要はないと思っています。

ただ、課外活動で得られた学びや多視点が自分のキャリアに思わぬ影響をもたらすこともあります。私も人事をはじめたときは、ここまでHRの世界にどっぷり浸かるとは思ってもいませんでした。

外に出て自分の考えに共感してくれる方たちと出会うことで価値観も固まっていきますし、その中でおのずと自分のキャリアの方向性も見えてくるので、本業だけでなくキャリアに悩んでいる人にも、課外活動はいい影響を与えるのではないでしょうか。
 
―課外活動をおこなう前と後で変わったことはありますか。
 
本業やキャリアに与えた影響は先ほどお話しした通りですが、加えて私生活に対する考え方にも少しずつ変化が生まれています。

今まで仕事がプライベートを侵食することはあっても、仕事とプライベートを意図的につなげることはしていませんでした。しかし課外活動を通じて出会った人たちがライフワークミックスによって充実している様子を見るようになってからは、自分ももっと仕事とプライベートをつなげていきたいなと感じるようになりました。

それを踏まえて現在設計中の新居の一階は人が集まって「問い」を共有したり語り合うような空間にする予定なので、その場がライフワークミックスの後押ししてくれるのではないかと期待しています。

新居に建設予定のセミナールーム

 

「すごい!」ではなく「苦しい」が共有できる場づくりを

 
―最後に、課外活動を踏まえてこれから描いていきたいキャリアや展望について教えてください。
 
自分のキャリアは結果でしかないので、最終的に解決した社会課題を強く意識しつつも、基本的には目的を持たずに自然の流れに任せたいと考えています。

それを踏まえてこれからやっていきたいことは、HRパーソンが集まって本質的な「問い」についてディスカッションできる場づくりです。私も含む『悩めるHRパーソンの問いの場』を作れると理想ですね。

あえて「うちの会社はすごい!」という成功事例の話は控え目にして、本質的かつ実践的な「?」を各人が持って帰れるような場にしたいです。

最近の人事界隈は「ジョブ型」とか「人的資本経営」といったバズワードが増えていて、これ自体は悪いことではないのですが、本質的な「問い」に思いを巡らせる余裕を人事パーソンが持てていないなと感じることが多いです。

一旦、「人事バズワード」から離れ、もっと本質的な問いについてディスカッションできる場を提供し、人事、そして個人としてやらなければいけないことをみなさんと一緒に考えていきたいです。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵