「都市圏に比べると、地方は就活において不利である」。そんな声が地方学生からあがる一方で、優秀人材の競争激化や人手不足を理由に地方へ目を向ける企業も増えている。しかし、大分大学で採用と人材育成について研究をしている碇 邦生氏によると、「『都市圏で採用できないから』という理由の地方採用は失敗しやすい」と語る。“東京一極集中”から“地方を巻き込んだリソースの活用”へとトレンドが変化する中で、教員という立場から日々地方学生に向き合う碇氏に、地方採用の現状と課題、今後の未来についてお話を伺った。
 
 

大分大学 経済学部 教員/合同会社ATDI代表 碇 邦生

2006年立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部アジア太平洋マネジメント学科を卒業。民間企業を経て神戸大学大学院へ。その後、リクルートワークス研究所で主に採用を中心とした研究プロジェクトに従事、17年から大分大学経済学部経営システム学科の講師。

東京一極集中がもたらしたメリット・デメリット

 
―最初に、「東京一極集中」と呼ばれる現状について碇先生の見解を教えてください。
 
他の国でも都心への一極集中の傾向はありますが、日本の場合は極端に東京に集中しています。一極集中というのは意思決定を同じ場所でおこなえるということなので、新興国から先進国へと成長するうえでは大きな強みになります。

しかし、新たな何かを生み出すためには人やモノを「混ぜる」ことが必要なので、一極集中の社会では価値観が東京ありきになりやすく、イノベーションが生まれにくいというデメリットもあります。

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不満や不利益が生まれやすいのは地方なので、本来であればビジネスによる解決策が生まれやすいはずですし、本質的な解決策を考えるためには、当事者が課題の近くにいることが大切です。

「現場主義」はモノづくりが強い日本の美徳だったはずですが、東京一極集中によってその意識が薄まってしまっているように感じます。

今後は東京だけでなく、地方もひっくるめてどのようなイノベーションを生み出し、課題を解決していくのかということが重要になってくるでしょう。
 

地方と都市圏の間に広がる“キャリア意識の格差”

 
―就職においても地方と都心で格差はあるのでしょうか。
 
あるかないかでいうとあると思いますが、採用活動のオンライン化が広がったことでその傾向は小さくなっています。

昔は説明会に行くだけで交通費や宿泊費がかかっていましたが、今では最終面接以外はオンラインでいいという企業も増えています。

また、IT系や機械工学系の学生は取り合いになっているので、専門スキルを持っている学生に関しては地域による格差はほとんどなくなっているといえるでしょう。

その一方で、地方と都心における“キャリア意識の格差”は年々広がっているように思います。

学生本人の資質に差はなくても、地方では仕事やキャリアに対する価値観をアップデートする機会を得にくいため、人事からは「感度が低い」「意思決定が遅い」というふうに見られてしまいます。

大学生のモラトリアムが認められていた時代とは違い、今は就活の際にGPAや課外活動の経験も求められるようになっています。ですが、地方の学生は多様な活動をしている人との接点が少なく、感化されにくいことで“キャリア意識の格差”が広がっているのではないかと思います。
 

優秀な地方学生は“機会”に飢えている

 
―最近は地方学生に目を向ける企業が増えていますが、その背景には何があるのでしょうか。
 
もっとも多いのは、都市圏での採用難を理由に地方に目を向けるというパターンでしょう。

しかしそういった企業が地方学生から必ずしも選ばれるわけではないので、なぜ地方学生を採用したいのかという理由づけはしっかりとおこなう必要があります。

もう一つのパターンとしては、全体を見て優秀な人材を採用したいと思っている企業です。

先ほど地方と都市圏では学生のキャリア意識に差があると言いましたが、当然ながら地方にも主体性を持って課題解決に向き合っている学生はいるので、「まだ自分たちが会えていない優秀な学生がいるんじゃないか」と考えている企業は、他の企業の目に留まりにくい優秀な学生を発掘するために地方へ目を向けはじめているのではないでしょうか。
 
―そのような地方学生とはどのように出会えるのでしょうか。
 
一番おすすめなのはビジネスプランコンテストです。地方のビジネスプランコンテストでは同じ顔ぶれが入賞していることが多いので、都市圏に比べると目立つ学生を見つけやすいと思います。

また、地方学生は日頃から間近で課題に触れているぶん、地に足をつけて考える人が多いので、最近では都市圏のコンテストで地方学生が優勝することもめずらしくありません。

ただ、地方のコンテストの数は多いとはいえず、地方学生は機会に飢えています。お互いがもっともwin-winになるのは企業が主体となってイベントを開催することでしょう。

プログラミング大会、ビジネスプランコンテスト、マーケティングコンテストなど、自社が求めている人材のテーマに合わせたコンテストを開催すれば、優秀な学生との接点が自然と生まれます。

また、地方学生のネットワークは都市圏に比べて狭く深いので、最初にネットワークを持っている学生とつながることができれば、他にも面白いことをしている学生を紹介してもらえることもあるでしょう。
 

“偏差値至上主義”は、ユニークな学生を見落としてしまうことも

 
―人事が地方学生にアプローチするうえで心がけておくことはなんでしょうか。
 
先ほども少し触れましたが、「都市圏で採用できないから」という理由だけで地方学生を採用することは難しいので、彼らがどのように働き、活躍できるのかというイメージを明確に持たせられるかが大切です。

身近な学生から就活相談を受けていると感じるのですが、地方は働き方に関しても保守的な傾向があるので、労働環境などに対してすごく敏感です。

そのため、必要であれば社内改革をおこなうぐらいの心づもりで、地方学生が働きたいと思える環境やキャリアを作っていくことが求められるでしょう。

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あとは、オンラインの時代になったとはいえ、学生がいるところへ足を運ぶことはやはり大切です。

地方に行って実際に学生が取り組んでいることについて話を聞けば、彼らも目をかけてもらえていると実感できますが、オンラインで話しただけではなかなか印象には残らないでしょう。

どこにどんな学生がいるのかを広く情報収集するうえでオンラインは有効ですが、優秀な学生を本気で採用したいのであれば、現地へ地道に足を運ぶことをおすすめします。

今の日本は偏差値至上主義の傾向にありますが、地方大学にはそこでしか学べないユニークな学部がたくさんあります。そういったところには偏差値だけで測れない学びや経験をしている学生がたくさんいるので、ぜひそういったところにも足を運んでいただきたいです。
 

学生に伴走し続けるのは大変。だからこそ、刺激を与えてくれる人を巻き込む

 
―碇先生も大分大学の教員としてさまざまな学生の支援をされていますが、学生の活動を支援するうえで心がけていることを教えてください。
 
ゼミには起業志望の学生を集めたコワーキングスペースを運営している学生や、地元の課題を解決する学びを得るために海外に留学している学生もいます。

彼らは非常に優秀ですが、一般的に学生が起業をしていきなり黒字化して成功することはほとんどありません。

起業を目指す学生たちとのディスカッション

それでもビジネスに挑戦してその難しさを知ること自体に意味があると思い、できる限りの支援をしていますが、当然ながら学生の伴走をするのはすごく大変です。

放っておくとありえないようなトラブルを起こすこともありますし、商売の基本を知らないが故に地道にこつこつやることを軽く見ていることもあるので、根気強くアドバイスをしながら伴走していく必要があります。

機会という箱さえ作れば学生が自走し、成果が出る…というような甘いものではないと身をもって実感しています。

また、プロジェクトを進めているうちに学生のモチベーションが停滞してしまうこともあるので、彼らに刺激を与えてくれるような社会人を巻き込んでいくことも大事なポイントです。

社会人の方と接することで意識が変わり、私がお尻を叩いても進まなかったことが、他の方から刺激を受けたことで大きく前進することもあります。

前向きな学生は社会人の方とつながりたいという意識も強いので、地元の経営者の方やスポンサーとなってくださる企業の方など、さまざまな社会人の方と一緒に学生の成長を見守っていければ嬉しいです。
 

“東京でしかイノベーションが生まれない“社会の脱却を目指して

 
―地方と都市圏という観点から、今後日本の新卒採用はどうなっていくとお考えですか。
 
すでに導入している企業は多いですが、人材獲得の激化に伴い幹部候補生や専門スキルを持った学生をピンポイント採用していくという動きはより活発化していくでしょう。

それ以外の採用においても日本の人材不足が解消されることは恐らくないので、どちらの採用においても地方に目を向けた採用はますます増えていくと予想しています。

しかし先ほども触れた通り、地方にも課題解決に向けて積極的に活動している学生はいるものの、成長や意識のアップデートをおこなう機会は都市圏に比べるとどうしても少ないです。

そのため、大学や企業が今後いかにそういった機会を提供していけるかが重要になってきます。

そういった機会をきっかけに地方学生のポテンシャルを引き出すことができれば、「東京でしか成長できない/イノベーションが生まれない」という社会から、地域に関わらず社会で活躍する人材が育つ社会へと変わっていくでしょう。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵