近年、多くの企業において副業をはじめとした社員の「課外活動」が推奨されるようになりました。それは社員の課外活動を支援する側の人事においても例外ではなく、本業以外の場所で「人・組織」を軸にした活動をおこなう方が増えています。本連載では、そんな課外活動に挑戦している人事の方にインタビューし、課外活動をはじめたきっかけやその内容、本業との課外活動の関わり方などについてお話を伺います。

第6回目はインタースペースの人事部長・小林剛士さんをゲストにお招きし、人事2,000人以上が参加する『人事ごった煮会』の二代目代表としての活動についてお伺いしました。
 
 

小林 剛士 株式会社インタースペース 人事部 部長

ブライダル業界にてウェディングプランナーを経験後、大手ECモール運営企業で新規出店コンサルに従事。その後、独立を経て株式会社インタースペースにて人事中途採用担当として入社。人事部部長としてマネジメント及び階層別研修、組織改善等を行う。本業と並行しながら、2,000人以上の人事が集う『人事ごった煮会』の二代目代表を務める。

“人事未経験”からのスタートが、課外活動のきっかけに

 
―課外活動をはじめた時期ときっかけについて教えてください。
 
そもそものきっかけは、2012年にインタースペースへ人事として中途入社したことです。当時の私は人事未経験で、なおかつ社内には領域の異なる人事が二人しかいなかったため、社外に出て他社の人事から学びを得ようと考えました。

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前職でも学びや交流を目的としたセミナーに参加したり自分で会を開いたりという経験はあったので、自然な流れで人事のコミュニティや勉強会に参加するようになり、他社の人事の方とだんだんつながりが増えてきたタイミングで人事と候補者を集めた小規模な交流会を定期的に開催するようになりました。

自身が中途採用をおこなう中で採用費を限りなく0円にする採用方法を模索していたことと、前職でイベントの集客経験があったことから、人事と候補者の方がもっとカジュアルに交流できる場があると双方にとっていいのではないかと思ったんです。

この会は人事と候補者のマッチングや異業種交流を目的としていたので、現在関わっている『人事ごった煮会』とは目的も内容も異なりますが、人事としてイベントを運営するようになったきっかけはここからでした。
 

「明日からなにができるか」を考える『人事ごった煮会』

 
―現在おこなっている課外活動の内容について、具体的に教えてください。
 
人事同士の学び合いを目的とした『人事ごった煮会』の二代目代表として、コミュニティの運営に携わっています。

『人事ごった煮会』はその名の通り、採用や労務、制度設計など、さまざまな領域の人事の方にご参加いただいており、コミュニティの参加者数は2,000人以上にのぼります。

最初にこのコミュニティを立ち上げたのはオイシックス・ラ・大地で当時人事をつとめられていた三浦孝文さんで、当初私はゲストとして参加しつつ運営のお手伝いをしていたのですが、その後運営組織を作るタイミングで正式な運営メンバーとして加わりました。

その後、三浦さんが経営企画に異動されるタイミングで一番の古株メンバーだった私が代表を引き継ぐことになり、現在に至ります。

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『人事ごった煮会』は一方的に成功事例やノウハウを聞く会ではなく、参加者がお互いにアウトプットしあい、「自社のために明日からなにができるか」ができるだけ明確になるような会を目指しています。

その場でアウトプットをしながら参加者同士のつながりを持つことで、実務的かつ継続的な学びになるのではないかと考えているため、『人事ごった煮会』では参加者同士がテーブルごとにディスカッションをする時間や交流の時間を必ず設けています。

会のテーマは私たち運営メンバーが興味のあることに沿って設定するので、それに伴って参加する方の専門領域や経験年数は都度異なります。

2016年にはじめたコミュニティということもあって参加者は常連さんばかりだと思われがちなのですが、はじめましての方と二回目以降の方はいつも半々ぐらいの割合ですね。今後さらに回数を重ねていっても、今と変わらず開かれたコミュニティづくりをしたいなと思っています。

コロナ前はほぼ毎月オフラインで集まり、たまに合宿もおこなっていましたが、コロナ禍になってからは2〜3ヶ月に一度ぐらいのペースでオンラインでの勉強会をおこなっています。
 

オンラインで「ごった煮会らしさ」を活かしきることの難しさ

 
―課外活動を通じて得られた気づきや、難しいと感じることを教えてください。
 
同じテーマに関心のある人と繋がれることは実務に直結するので、私自身が自社の採用や制度を考えるうえでとても役に立っています。

例えば制度設計について考える際には、そもそもなんのために制度があって、なにをもとに考えなければいけないかというところからスタートしなければいけませんが、それを一人でインプットしたり考えたりするのは大変ですよね。

『人事ごった煮会』ではそれを一人ではなく、専門家の方もゲストに迎えてみんなで議論できますし、世の中のトレンドもキャッチアップすることができるので、知識が増えることで社内の人からも頼られやすくなります。

また、運営をやっていると自身の興味外の情報も知ることができるので、その偶発性によって自分の知見や興味領域を拡げることにもつながっていると感じます。

一方で、私を含め運営メンバー全員が本業と両立しながらおこなっているので、定期的に開催し続けることの難しさは感じます。

常連の方からは「次いつやるの?」とご期待いただくことも多いのですが、あまりガチガチに予定を組みすぎると運営メンバーに負担がかかってしまい、長期的な運営が難しくなるので、そこは責任者の私がうまくバランスをとらなければと思っています。

加えて、コロナ禍になってからはオンラインでつながりをつくることの難しさに直面しました。

オンラインで集まってディスカッションをすることもできなくはないですが、対面に比べるとどうしても熱量は伝わりにくくなりますし、インプット中心になりがちで、「ごった煮会らしさ」を100%活かしきるための解はまだ見えていない状態です。

運営メンバー内では極力対面がいいよねとは話しているものの、社会情勢によってはできないこともあるというのが今回わかったので、オンラインであってもできるだけアウトプットできるようなスタイルを模索しながら、オンラインと対面のハイブリッドでやっていければと思います。
 

「人事担当者」から「HR界隈の最前線の情報を知っている人」になれた

 
―課外活動をおこなう前と後で変わったことはありますか。
 
本業に与えた影響でいうと、「人事担当者」ではなく「HR界隈の最前線の情報を知っている人」という認知が社内で広がったことで、周囲から相談を受ける機会が増えましたし、他社のリアルな状況を知ることが出来てネットで調べるより一歩踏み込んだ情報をもとに仮説を立てられるようになったため、より精度の高い提案ができるようになりました。

また、社外に出て他者とつながることの重要性を自らの経験に基づいて話せるようになったことは、社内にもプラスの影響を与えているのではないかと思います。

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加えて、人事としてのキャリアに対する考え方にも変化がありました。

人事未経験でインタースペースに入社したので、以前は「この会社だからうまくいったんじゃないか」「自分の人事としてのスキルは他社では通用しないんじゃないか」と不安になることもあったんです。

しかし『人事ごった煮会』で転職をした人事の方たちのお話を聞くと、結局本質的な課題に向き合うということは変わらないことに気づき、社外とつながることで自分のスキルの再現性やキャリアの方向性を確かめることができるのであれば、愛着のある今の会社から無理に転職する必要はないんだと考えられるようになりました。

あとは単純に、自分の悩みを言える人ができたことは大きな変化ですね。

社内の人からすると自信のなさそうな人事には相談したくないと思いますし、社内の機密情報を取り扱うことも多いので、悩みを共有できる相手がなかなか作りにくかったりするんですよね。

他社の人事の方であれば具体的なことは話せなくても、同じような課題感の中で話をすることができるので、その中で考えが整理されたり、気持ちが楽になったりするのはありがたいなと思います。
 

人事は自社に貢献してなんぼ。『人事ごった煮会』から生み出すプラスの循環

 
―最後に、課外活動を踏まえてこれから描いていきたいキャリアや展望について教えてください。
 
前提として、『人事ごった煮会』の運営は今後も続けていきたいです。

私を含め、人事は自社の発展に貢献してなんぼなので、『人事ごった煮会』で得たものを自社で実践し、それによって得られた成功体験を社外にアウトプットして…というプラスの循環が生まれ続ける状態を目指したいですね。

また、HR業界全体を盛り上げていくという観点から、今後はHRサービスを提供している方々とも何か一緒に活動出来たらいいなと思っています。

特定のサービスを応援するようになってしまわないように今までは一定の距離をおいてきたのですが、「企業を成長させていく」という目的は人事もHRサービス提供者側も同じなので、お互いにフィードバックしあうことでHR業界がよりよく発展していくことを期待しています。

先ほども触れたように、『人事ごった煮会』ははじめての方にも開かれている会なので、人事領域や経験年数に関わらず、さまざまな方が集う場にしていきたいですね。
 
 
 
取材:小笠原寛、文・編集:西村恵